田代万里生&小野田龍之介&音くり寿&ドー・ファン・ザ・ハンが温かな愛を描き出す ミュージカル『アニオー姫』ゲネプロレポート
日本の商人とベトナムの王女の国や身分を越えた愛と絆を描く、ミュージカル『アニオー姫』~Hẹn gặp lại 再び~。2026年9月12日(土)からの上演を前に行われたゲネプロの様子をレポートする。
本作は、約400年前に実在したベトナムの王女と日本の商人の、海を越えた愛を描いた物語。主人公二人の愛と生き様を通して、文化や習慣、国籍、身分といったさまざまな違いを認め合い、理解することの尊さを描く。2023年の日越外交関係樹立50周年を記念してオペラとして上演されたこの物語だが、今回は、新たにミュージカルとして生まれ変わる。荒木宗太郎役を田代万里生と小野田龍之介、アニオー姫(ゴックホア姫)を音くり寿とドー・ファン・ザ・ハンがそれぞれダブルキャストで演じる。
この日のゲネプロは、田代と音くり寿、小野田とドー・ファン・ザ・ハンの組み合わせで行われた。
物語の舞台は、17世紀初頭の大航海時代。交易で賑わう港町ホイアンで、日本の長崎からやってきた商人・荒木宗太郎と、人々に愛される王女ゴックホア姫が運命的な出会いを果たした。好奇心旺盛なお転婆姫と、海を越えて夢を追う宗太郎は、国も身分も超えて心を通わせていく。
そして、お互いに惹かれ合った二人は、ゴックホア姫の父であり、クアンナム国(現在のベトナム中部)の王でもあるグエン王の導きもあり、結婚し、長崎の町で暮らし始める。姫は長崎では「アニオーさん」と呼ばれ親しまれながら暮らしていた。その矢先、鎖国という時代の荒波が襲い掛かり……。
総監督・演出・台本・作詞(日本語)を大山大輔、作曲をチャン・マィン・フン、台本・作詞(ベトナム語)をハー・クアン・ミン、振付を本間憲一が務めるなど、キャストのみならず、クリエイター陣も日本、ベトナム両国から精鋭が集まって作られた本作。両国の交流や絆を大切に創作されてきたことが分かる、丁寧で、繊細な作品に仕上がっていた。劇中では、日本刀での峰打ちについてや、ベトナムで愛されているお菓子・月餅の作り方などのエピソードも登場し、両国の文化や生活を知る手掛かりとなって興味深い。
また、国の在り方も政策も大きく変化し続けていた17世紀を舞台にしているが、文化の異なる人たちと交流することで生まれる新たな気づきや楽しさ、異国で暮らすことの大変さや寂しさといった現代にも共通する心情も描かれているため、非常に身近で、共感できる物語だ。
一方で、宗太郎とアニオー姫の恋物語は、ロマンチックで温かく、ハッピーな、おとぎ話のようでもある。さまざまな状況からそうせざるを得ない人物はいても、悪人が出てこないというのも、この作品の魅力の一つだろう。キャッチーで耳に残るビッグナンバーが多いことに加えて、それぞれの国の“楽器対決”やピタッとそろった群舞など、エンタメ的な要素も数多く散りばめられており、子どもから大人まで飽きずに楽しめる構成となっていた。
演出面では、スクリーンに映し出される映像の美しさが際立っていた。特に物語冒頭の星空や海は、物語の世界観を感じさせ、印象深い。衣裳も華やか。ベトナムを代表する民族衣装のアオザイは色鮮やかで美しい。アニオー姫のアオザイは動くたびに布が揺れ、目を引いた。
メインキャストの田代、小野田、音くり寿、ドー・ファン・ザ・ハンの4人の伸びやかで美しい歌声もこの作品の大きな見どころの一つだ。田代が演じる宗太郎は、どこか品があり、穏やかな“ヒーロー”を感じさせる。その優しい人柄で周りの人をまとめ上げて、大きな信頼を得ていることがうかがえる。囲み取材で田代は、「ミュージカルで日本人役は初めて」と話していたが、確かにこれまでとは違う田代の姿かもしれない。
小野田が演じる宗太郎は、田代と同じ人物を演じながらも、そのイメージは少し違い、陽気で誠実な“人気者”。周りの人を惹きつける魅力にあふれ、彼がいるだけでみんなが笑顔になっていく。そんな宗太郎の姿が浮かび上がった。
アニオー姫もやはりキャストによって印象が違う。音くり寿が演じるアニオー姫は、好奇心旺盛で自分の心に素直な女性。宗太郎を心の底から愛し、一途に深い思いを寄せる。そうしたアニオー姫が、長崎という異国で暮らし、時を経て成長、変化していく姿を音くり寿は丁寧に、繊細に演じてみせた。
一方、ドー・ファン・ザ・ハンの演じるアニオー姫は、力強さと明るさが際立って見えた。ドー・ファン・ザ・ハンが楽しいことは楽しい、悲しいことは悲しいと真っすぐに表現していたため、彼女の気持ちがストレートに伝わってくる。作品の設定上、彼女がベトナム人であるということ、日本で本作を制作するために長期滞在しているということも物語と重なって見え、リアルに感じられた。組み合わせが変われば、演じ方やキャラクターの印象も変わってくるので、ぜひ、さまざまな組み合わせで観て、楽しんでほしい。
劇中では「ありがとう」という言葉が何度も登場し、一種のキーワードとなっている。この「ありがとう」という素敵な日本語を改めて大切にしたいと思わせてくれる、心が温かくなる物語をぜひ劇場で味わってもらいたい。
取材・文・撮影=嶋田真己