トンボの幼虫<ヤゴ>が集団羽化する瞬間に立ち会えた話 意外と身近に生息している?
川や田んぼでよく見かける身近な昆虫「トンボ」。
その幼虫「ヤゴ」は、水中に暮らす小さなハンターです。
ヤゴの生態や身近な場所での探し方について、筆者が羽化の瞬間に立ち会った際のエピソードと合わせて紹介します。
ヤゴの生態や暮らしについて
「ヤゴ」とはトンボの幼虫のことで、川や池、田んぼの水たまりなどに生息している水生昆虫です。
トンボは蛹の時期をもたない「不完全変態」という変態の仕方をする昆虫。卵から孵化したあとは幼虫(ヤゴ)としてほとんどの種が水中生活を送り、十分に成長したのち水中から出て、羽化をして成虫(トンボ)になります。
水中で生まれたのに、羽化を経て陸上の暮らしに変化するなんてちょっと神秘的ではありませんか?
ヤゴである期間はトンボの種類によってさまざまで、数ヶ月から数年かかることもあります。種類によっては、ヤゴのまま越冬もするということですね。
ヤゴは肉食性で、他の小さな昆虫やオタマジャクシなどを捕まえて食べています。下唇を伸ばし獲物を捕らえる様子はまるで“小さなハンター”です。
私たちのすぐ近くに生息しているヤゴ
水生昆虫というと山奥の清流や自然豊かな池にしかいないイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実はヤゴはとても身近な存在です。筆者の家の近くの川でも、子どもたちと一緒に網ですくって何度も観察しています。
秋になると、トンボが空を飛び交う光景をよく目にしますが、それ以外の季節にも、身近な水辺でその幼虫たちが静かに暮らしているのです。
ヤゴは田んぼのあぜ道や公園の池、用水路などにも生息しており、人の生活圏とかなり近いところにいる生き物です。
筆者が通っていた小学校では、学校のプールを掃除した際に発見されたヤゴを生徒が自宅で飼育し、羽化を見守るというのが恒例でした。
羽化の瞬間に出会った時のエピソード
この夏、子どもたちと川遊びをしていたとき、偶然にもヤゴが羽化する瞬間に立ち会うことができました。
夏の間に何度も通った場所でしたが、その日だけはまるで何かの合図があったかのように、川辺にある石の上や草の茎にたくさんのヤゴが上がってきて、いっせいに羽化していました。
おそらくサナエトンボの一種です(提供:halハルカ)
あたりには羽化後の抜け殻もたくさんあり、まさに「今日がその日だった」という感じ。タイミングが合わなければ絶対に見られなかった瞬間で、本当に貴重な体験でした。
夏の羽化といえばセミですが、個人的にはセミに比べるとヤゴの羽化は比較的スピーディーに進む印象があります。見つけた時にはすでに羽を半分ほど広げていて、お昼ご飯を食べているうちに飛んで行くところまで見られました。
羽化したてのトンボは自然の神秘を感じます(提供:halハルカ)
子どもたちも真剣な表情で観察していて、最後にそのトンボが空へ飛び立った瞬間には「がんばれー!」と手を振って見送ってくれました。
自然の中で、命が形を変えるその瞬間に立ち会えたことは、親子にとって忘れられない夏の思い出です。
個性豊かなヤゴをぜひ観察してみよう
観察していて感じるのは、トンボの種類によってヤゴの見た目が異なるということです。
細長い体にまるで尾のような突起(尾鰓)があるイトトンボの仲間、がっしりとした体に大きな複眼が印象的なオニヤンマの仲間、さらに小さく全体的に丸っこい印象のシオカラトンボの仲間──などさまざまです。
今回羽化に立ち会えたのは、おそらくサナエトンボの仲間です。
図鑑やネットで調べながら、出会ったヤゴがどんなトンボになるのかを親子で推理するのも楽しい時間になります。
のんびりタイプ?筆者の頭に止まってくれたカワトンボの仲間(提供:halハルカ)
ヤゴは、トンボという身近な昆虫の“もうひとつの姿”。水辺にひっそりと暮らしながら、ある日突然、空へと羽ばたいていく生命の営み。そんなドラマが、実は私たちのすぐ近くで日々繰り広げられているのです。
子どもと一緒にヤゴを観察したり、羽化の瞬間に立ち会ったりすることで、自然の神秘や命の尊さを身をもって感じることができます。水辺を訪れた際には、ぜひ小さな命たちに目を向けてみてくださいね。
(サカナトライター:halハルカ)