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「ペガサスから人喰い馬まで」世界の“神獣化した馬”たちの伝承

草の実堂

画像 : ペガサスを駆る英雄ベレロフォン public domain
画像 : 野生の馬 pixabay cc0

「馬」は、人類と一蓮托生のパートナーといっても過言ではない生き物である。

太古の時代において、馬は現代でいうところの自動車のようなものであり、貴重な移動手段として丁重に扱われていた。

神話や幻想の世界においても馬はポピュラーな存在であり、数多くの伝承が世界各地に残されている。

今回は、そんな馬にまつわる伝説について、いくつか紹介していきたい。

古代ギリシャの馬伝説「ペガサス」

画像 : ペガサスを駆る英雄ベレロフォン public domain

ギリシャといえば、オリンピック発祥の地として名高い。

古代オリンピックには馬を駆って行う「騎馬競走」や「戦車競走」なる競技があり、人気を博していた。
そんな馬とかかわりの深いギリシャには、馬にまつわる様々な伝説が存在する。

ギリシャ神話でもっとも有名な馬の一つとして、ペガサス(Pegasus)が挙げられるだろう。

日本語で「天馬」と呼ばれるこの馬は、鳥のような翼を持ち、空を自由自在に飛ぶことができたという。

神話によるとペガサスは、英雄ペルセウスがメドゥーサという怪物を殺した際、その死体から生まれた存在だとされている。
その後ペガサスは、英雄ベレロフォンの愛馬となり、様々な戦いに参加したと伝えられている。

ペガサスのような聖なる馬の伝承がある一方で、邪悪な馬の伝承も存在する。

画像 : ギュスターヴ・モロー『自らの馬に喰い殺されるディオメデス』 public domain

トラキア(バルカン半島南東部)のディオメデスという人物は、四頭の凶悪な人喰い馬を飼っていたという。

馬は草食動物なので、本来ならば肉を食べることはないのだが、この馬たちは人肉を好んで食べていたというから恐ろしい。

ディオメデスは、トラキアを訪れた旅人などを捕まえては、馬のエサとしてあてがっていた。

かの英雄ヘラクレスは、十二の試練をクリアしたことで有名だが、その内の一つに、この人喰い馬を捕らえるというものがあった。
ヘラクレスは人知を越えた怪力を有しており、獰猛な人喰い馬たちも難なく生け捕りにすることができた。

そして、ヘラクレスはこの馬の管理を、アブデロスという少年に任せることにした。
だが、非力なアブデロスでは馬たちを制御できず、哀れにも彼は食い殺されてしまったという。

激怒したヘラクレスはディオメデスを惨殺し、馬たちのエサにしてしまった。
すると不思議なことに、馬たちはスッカリ大人しくなり、二度と人を食べることはなかったそうだ。

水辺に現れる馬の怪異「ケルピー、アハ・イシュケ」

画像 : ケルピー public domain

ヨーロッパにおいて、不思議な怪物や精霊は「妖精」と呼ばれ、恐れられてきた。

スコットランドにはケルピー(Kelpie)という、馬の姿をした妖精の伝承が残されている。

この妖精は川辺や湖のほとりに出現し、一見すると大人しそうな印象を受けるという。
馬を見ると、背中に乗ってみたくなるのが人間の性質(さが)である。
特に子供などは、嬉々としてケルピーの背中に跨るであろう。

だがそれこそが、この妖精の策略なのである。
うっかり背中に乗ってしまったが最後、ケルピーは猛スピードで水の中に突進し、あっという間に水深の深いところまで到達してしまう。
騎乗していた者は即座に溺れ死に、この妖精のエサとなってしまうのだ。

犠牲者の遺体が見つかることはないが、川辺には食べ残された肝臓だけが打ちあがるので、ケルピーに襲われたことが分かるという。

また、アイルランドにはアハ・イシュケ(each uisce)という、類似する妖精の伝承が伝わっている。

この妖精もケルピーと同じく、背中の人間を溺死させ、肝臓以外を食べ尽くすとされる。

アハ・イシュケは川や湖だけでなく海にも出現し、さらにその背中は伸縮自在で、何人でも騎乗させることができるという。

ゾロアスター教の「聖なるロバ」

画像 : 三本足のロバ 草の実堂作成(AI)

馬の近縁である「ロバ」もまた、人間にとって有益な生物である。

その性格は馬と比べてドライで気難しいとされるが、体が非常に頑丈であり、粗末な食事でも健康的に生きられるゆえ、管理が楽という長所がある。

そんなロバも時に、神秘的な生物として扱われることがあった。

ペルシャ(現在のイラン)の古代宗教「ゾロアスター教」の書物『ブンダヒシュン』では、三本脚のロバ(xar ī se pāy)という奇妙なロバの話がある。

このロバは、原初の海「ヴォウルカシャ」の中心に佇んでいるとされる。
その姿はこの上ない異形であり、三本の脚・六つの目・一本の角・九対の睾丸を有するという。
計十八個の睾丸があるというのは驚きだが、その睾丸一つ一つが家ほども大きいというから、さらに驚きである。

しかもこの睾丸、本来あるべき股間ではなく、頭・背中・脇腹にそれぞれ三対ずつ生えているという。

また、その目から発せられる驚異的な眼力は、あらゆる病や害虫を破壊するとされている。
一本角からは千本の枝が生えており、腐敗や穢れを滅する効能があるそうだ。

三本脚のロバが鳴き声を上げると、善なる雌たちは皆妊娠し、悪しき雌たちは皆流産する。
他にも、海に放尿することで、この世の全ての水がキレイに浄化され、糞を垂れることで、龍涎香が生み出されるという。

※龍涎香――マッコウクジラの腸内で形成される結石。主に香料として用いられる。

ゾロアスター教は、善と悪の対立を説いた宗教である。
このロバはそんなゾロアスター教の「善」なる部分を象徴した存在として、今なお語り継がれている。

参考 :『神統記』『ビブリオテーケー』他
文 / 草の実堂編集部

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