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「学校は来るだけで100点!」【学びの多様化学校】鎌倉市立由比ガ浜中学校 「不登校」だった生徒の8割が毎日登校する驚きの理由

コクリコ

「学校は来るだけで100点!」【学びの多様化学校】鎌倉市立由比ガ浜中学校 「不登校」だった生徒の8割が毎日登校する驚きの理由

不登校の児童・生徒の新たな学びの場「学びの多様化学校」について。2025年4月に鎌倉市に開校した「鎌倉市立由比ガ浜中学校」を取材。(学びの多様化学校連載5回目)

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不登校の児童・生徒のための「不登校特例校」として誕生した「学びの多様化学校」。2025年4月には全国で58校が設置。2026年も鹿児島県志布志市で新設が予定されており、東京都世田谷区でも準備が進められています。その「学びの多様化学校」が、今、不登校の子どもたちの止まっていた時間を動かし始めています。

今回紹介する神奈川県「鎌倉市立由比ガ浜中学校」は、不登校を経験した生徒の約8割が自ら笑顔で登校しているといいます。

「学校は、来ているだけで十分に学びがある場所」と語る岩田明分校長の言葉には、子育てに悩むすべてのママパパの心を軽くするヒントが詰まっていました。

自分の居場所や学ぶ場所を考えることに意味がある

──「鎌倉市立由比ガ浜中学校」は2025年度に開校したばかりの学校ですが、どのような経緯で設立されたのでしょうか。

分校長・岩田明先生(以下、岩田先生):もともと私は市内の中学校で教員をしていたのですが、2021年から教育委員会の教育センター相談室に配属されました。コロナ禍というのもあって、このころから不登校の相談がすごく増えていました。

市内の不登校の状況について調べていくと、学校、行政、カウンセラー、民間のフリースクールなどのどこともつながっていない子が一定数いることがわかってきました。そういう子どもたちを一刻も早く支援につなげようという動きもあり、当時の教育長の下、学びの多様化学校の設立準備が始まりました。

現在(2026年3月時点)、本校に在籍している生徒は31人。もちろん、この学校だけで市内の不登校の問題を解決できるわけではありません。しかし大切なのは、いろいろな居場所の選択肢があることを知って、自分がどこなら安心して過ごせるのか、学ぶことができるのか、子ども自身が考えることだと思っています。

設立から携わっている由比ガ浜中学校分校長・岩田明先生。  写真提供:由比ガ浜中学校

岩田先生:鎌倉市では不登校支援として、校内フリースペースや、教育支援を行う教育支援教室を設置している他、2021年からは「かまくらULTLAプログラム」という体験型の探究プログラムにも取り組んでいます。

総合的な学習の時間に相当する新教科「ULTLA」での一コマ。地域特性を生かした体験的な学びの機会を設けている。  写真提供:由比ガ浜中学校

自分らしい学びを発見する体験型探究プログラム「ULTLA」

岩田先生: 「ULTLA」は、「Uniqueness Liberation Through Learning optimization and Assessment(学びの最適化と評価による個性の解放)」の略称で、自分に合った学び方を通じて個性を発見していくことを目指したプログラムです。

子どもたちは皆一人ひとり違った思考スタイルや認知特性、得意不得意、関心領域を持っています。たとえば認知特性で言えば、視覚的な情報が頭に入りやすい子もいれば、耳からの情報が入りやすい子もいますし、体を使って学ぶのが合っている子もいます。また、アウトプットの方法も話すことが得意な子、書くことが得意な子、絵で表現することが得意な子などさまざまです。

「かまくらULTLAプログラム」では、まずそういった“学び方のクセ”をアセスメント(分析や課題の特定)により把握し、それを実践してみる形で探究活動に取り組みます。学校での勉強が合わないと感じている子でも、ここでは目を輝かせて学び、力を発揮するんですよ。

新教科「ULTLA」では、最初に一人ひとりの「学びのポートフォリオ」を作成。

岩田先生:この「かまくらULTLAプログラム」の要素を、由比ガ浜中学校では総合的な学習の時間の位置づけで新教科「ULTLA」として取り入れています。

年間授業時数770時間(通常の中学校は1015時間)のうち、140時間を割り当てています。囲碁、梅シロップ作り、ゲーム作り、スポーツ、動画編集など、各自の好きなことや得意なことに取り組む「MY探究」のほか、テーマに沿って地域特性を活用しながら体験的に学びを深める探究活動も行っています。こちらも活動の大枠は教員が決めますが、生徒の裁量に任せる部分を残しています。

──地域特性の活用とは、具体的にどんな活動をしているのですか?

岩田先生:2025年度は、「EARTH(愛す)プロジェクト」と称して、「海のプログラム」と「森のプログラム」を実施しました。

「海のプログラム」では地元の漁師さんを講師に招き、前日に由比ガ浜海岸で採った海水を煮詰めて、できた塩の粒の大きさなどの違いを考察したり、魚をさばいて料理を作りました。また「森のプログラム」では、近くの峯山にハイキングに行き、竹箸作りにも挑戦しました。

「EARTHプロジェクト」の締めくくりとして食と環境をテーマに開催した「EARTH(愛す)祭」。由比ガ浜海岸で回収した海藻を使って飼育されている「鎌倉海藻ポーク」の発案者を招き、鎌倉海藻ポークについて学んだ後、料理を作った。

不登校生徒に不足しがちな「体験」を埋める人とのつながり

──地域とのつながりも大切にされているということでしょうか。

岩田先生:不登校を経験した子はどうしても「体験」が不足しがちです。できるだけ社会やいろいろな人とつながる機会を設けたいと考えています。

──アセスメントの結果はどのように生かされているのでしょうか?

岩田先生:実は本校では、「ULTLA」以外にも、生徒自身が選択する機会を多く設けています。例えば、音楽、美術、技術・家庭を融合した「CTime」という独自教科があります。Create(創造する)、Collaborate(協働する)、Choose(選択する)の頭文字をとったもので、基礎を学んだら、それ以降は毎回、自分が学びたいテーマ(教科)を選択できるようにしています。

「CTime」の時間に3Dプリンターを使って校舎の模型を作製。設計図からの図面起こし、プログラミングも生徒が行った。

岩田先生:各教科の学習時間も何年生のどの単元をどういうツールを使って学習するかは生徒自身が決められるようにしています。

アセスメントを通じて自分自身を客観的に理解しているので、そういった選択や判断がしやすくなっているのではないでしょうか。私たち教員も、活動内容を考えたりひとり一人に合わせたきめ細かい対応をするうえでアセスメントが手がかりになっています。

学校に来られたら100点 授業に出られたらそれにプラス

岩田先生:以前、生徒の1人が新聞の取材に対して「私に行ける教室があることがすごく嬉しい」と話してくれました。朝9時半登校なのに8時台に笑顔で登校してくる子もいますし、全体を見ても約8割の子が毎日登校できています。

それまで全く通えなかった子に、通う場所があることの尊さを日々感じています。

家に帰って家族に話すことがある。次の日の楽しみがある。それは自分が生きていることを実感できる場所があるということです。

学校ですから、もちろん勉強は大切です。しかし受験のための勉強をずっと続けて、大人になっても結局自分がやりたいことがわからないというのでは意味がありません。「自分を知ること」。それが大切だと考えています。

教科「ULTLA」の「MY探究」の時間に水墨画で竜を描く生徒。「MY探究」の報告会「マイフェス」では、訪れた保護者らの前で描く即興パフォーマンスを見せていた。  写真提供:由比ガ浜中学校

岩田先生:もちろん自分のことだけ見ていても、すべては理解できません。周りの人や社会との関わりを通して自分らしさを発見していきます。

価値観や息遣いやリズムの違う子たちが対面で集い、コミュニケーションをとる中で影響し合い、お互いを投影し合う。そうやって自分のことがわかってくると、自ずと学びたいことも見つかっていきます。

私たちがよく言うのは、「学校に来られたら100点。授業に出られたらそれにプラス!」。

学校は、来ているだけで十分に学びがある場所なのです。だからこそ、子どもたちが「明日も行きたい」と思える環境を用意していくことが私たちの使命だと思っています。

朝や帰りにホームグループ(学級に相当する異学年集団)で話をしたり、さまざまな場面で自由に利用できる「つどいスペース」。本や机、いす、おもちゃなど備品の多くが企業や個人から寄付されたもの。

「やる」だけでなく「やらない」選択も尊重する

──そのために大切にしていることはありますか?

岩田先生:一つには、子どもたちの“学びの文脈”を尊重するということです。

例えば、数学の時間なのに違うことをしている子がいるとします。「今は数学の時間だから、数学をやらないとダメだよ」と強引にやらせることはできますが、そうではなく、私たちは「やらない理由」に目を向けるようにしています。

午後の探究活動のためにエネルギーを温存しているのかもしれませんし、何ヵ月も友だちと打ち解けずにきた子にとっては、数学より友だちと過ごすことのほうが今は大切なのかもしれません。

「やる」だけでなく、「やらない」ということもその子の選択であり、判断なのです。それを肯定的に受け止めるようにしています。

学ぶって本来、決められた時間内にやるものではないんですよね。学びたいと思ったときにいつでも学べばいいものなんです。

目に見える成長や変化ばかりを求めない

──子どもの意思を尊重することが、「わがままになる」「甘やかしている」と言われることもありますよね。

岩田先生:「甘えている」「甘やかしている」という言葉はネガティブな使われ方をしますが、「甘えられる」のは、そこに信頼関係がある証拠。だから決して悪いことではないんです。

それに、学校は我慢をする場所でも、我慢を覚える場所でもありません。周囲のことを少しでも意識できていれば、それはわがままではないと私たちは考えています。

また、「こういう子に育ってほしい」という目標にもこだわりすぎないようにしています。中学校生活での3年間、何も変わらなくてもいいとさえ思っています。

由比ガ浜の海も、同じように見えて毎日少しずつ違います。成長や変化は目に見えるものだけとは限らないし、まして自分ではなかなか気づけません。焦らなくていい。学校に来ている。まずはそれだけで十分なんですよ。

───◆───◆───

岩田先生のお話を伺い、学校は子どもが自ら「育つ場」なのだと感じました。子どもにどんなことを教え、何を学ばせるかに意識が向きがちですが、他者と共にいるだけで、子どもはちゃんと自分らしさを発見して、学び、育っていくのですね。

「学校は来るだけで多くの学びがある場所だ」。

岩田先生の言葉には、由比ガ浜中学校だけでなく、すべての学校がそうであってほしいという願いも込められているように思いました。

取材・文/北京子

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