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ノスタルジックで色鮮やかな世界を堪能 初出し作品含む集大成の展覧会『中村佑介展 BEST of YUSUKE NAKAMURA』レポート

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『中村佑介展 BEST of YUSUKE NAKAMURA』会場風景 エントランス

2020年10月31日(土)から12月13日(日)まで、東京ドームシティ・Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)にて『中村佑介展 BEST of YUSUKE NAKAMURA』が開催されている。中村佑介といえば、ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)のCDジャケットや、東川篤哉による『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーなどを飾る、ノスタルジックで色鮮やかな少女のイラストを思い浮かべる人も多いだろう。以下、展覧会の様子と、魅力的な作品の数々を紹介しよう。

ASIAN KUNG-FU GENERATION『マジックディスク』ジャケット(部分)

左:『ソルファ』(2004ver.)ジャケット、中:『ソルファ』(2016ver.)ジャケット、右:『ソルファ』フィギュア 原型師:渡辺敬二(CRAFT WAT!) (いずれもASIAN KUNG-FU GENERATION)


439点もの作品が会場にずらり
オリジナル作品も含む数十年の集大成

439点もの展示数を誇る本展は、中村佑介がイラストレーターとして活躍するより以前の絵、イラストを手掛けるようになった初期の作品、最新の仕事など、キャリアのほぼすべてを網羅する内容になっている。学生時代の作品も含まれ、タッチや色彩、距離感などは変化が見られるが、建築物への興味やユーモラスな雰囲気、複数の要素をコラージュする制作スタイルや構図など、変わっていない部分も見えて面白い。

会場風景 セクション「中村佑介ができるまで 学生時代」

画集『Blue』に納められたオリジナル作品は、商業作品に使われているイラストとは一味違う雰囲気だ。色数を抑えた絵は独特のインパクトがある。そのほか、ちぎった紙を貼って質感を変えたり、バッタと少女をとりあわせたりするなど、たゆみない探求心と実験性を見ることができる。

左上:オリジナル作品《夜猫》、右上:オリジナル作品《冬》、下:オリジナル作品《スカーフ》

オリジナル作品《寒椿》


音楽と文学、似顔絵イラスト、両さんや柏木由紀……
さまざまな領域に広がる仕事ぶり

中村佑介の作品を初めて見たのは、CDジャケットや本のカバーだという人も多いのではないだろうか。中村は、アジカン作品や東川篤哉の著作のほか、つじあやののCDジャケットや、森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』の書籍カバーも手掛けている。特に森見作品は映像にもなっているため、読者や視聴者が頭の中で想像する登場人物たちは、中村のイラストによるキャラクターそのままを思い浮かべる人もいるだろう。

左:『編集会議』2008年11月号 “特集:森見登美彦”表紙、右:『夜は短し歩けよ乙女』(ハードカバー版)表紙

中村の画風は特に新しいカルチャーと親和性が高く、また音楽の教科書の表紙にも採用されているので、若い世代に広く浸透している。一方で、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、与謝野晶子など近代文学の書籍カバーのイラストも手掛けており、斬新で色彩豊かで、それでいて原作の空気をきっちり踏まえたイラストは、若い世代だけでなく著作に親しんだ上の世代の目も惹きつける魅力を持っている。

谷崎潤一郎『マゾヒズム小説集』(集英社文庫)

本展では似顔絵やコラボイラストも見ることができる。『季刊エス』に掲載されていた連載 “シゴトバ探訪”の色紙や、オールナイトニッポンの『タイムテーブル』では、和田誠や会田誠、星野源や岡村隆史らの顔が描かれている。

上段左より:和田誠、あきまん(安田朗/共作)、会田誠 下段左より:ビックリマン(グリーンハウス・米澤稔&兵藤聡司/共作)、桂正和(いずれもイラスト誌『季刊エス』連載 “シゴトバ探訪”色紙)

上段左より:菅田将暉、星野源、横山由依(AKB48) 下段左より:岡村隆史、山下健二郎(三代目 J SOUL BROTHERS)、オードリー(若林正恭・春日俊彰)(いずれも『オールナイトニッポン』タイムテーブル 2019年2月号)

ビックリマンシールのキャラクターであるヘッドロココやドラえもん、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(こち亀)の両津勘吉、AKB48の柏木由紀なども登場する。ビックリマンやこち亀のキャラは、元のテイストはそのままに、中村作品の世界の住人になった姿を見せてくれる。柏木由紀はファンタジックな背景の中でクールな眼差しを見せ、普段の顔とはまた一味違う魅力を示す。

ビックリマン30周年記念『ビックリマン原画展』寄稿イラスト(ヘッドロココ)

左:文芸誌『きらら』2014年4月号、真ん中:『VS.こち亀』収録~東川篤哉『謎解きは葛飾区亀有公園の前で』扉絵、右:柏木由紀×中村佑介 グラビアート『ビッグコミックスピリッツ』1

CDや書籍のイラストであれコラボ作品であれ、中村のイラストは、描くべき対象の性質を正確に捉えた上で、中村作品の世界へと見事に落としこむ。表情の少ない人物像と、時にファンタジック、時にSF的な背景は、見る側の想像力を刺激する。そして描かれている対象をもっと知りたい、もっと踏み込みたいと思わせるのだ。

貴重な下書きや設定資料を拝見
制作過程が確認できる展示内容

会場をある程度進むと、イラストの一定の傾向に気づく。例えば人物の多くが左の横顔で、つむじが跳ねている少女が多いこと。これらにはちゃんと理由があり、『謎解きはディナーのあとで』のイラストがあるセクションで解説されているので、見逃さずにチェックしよう。

会場風景 セクション「中村佑介と文学 謎解きは○○○○のあとで」

選び抜かれた色味のイラストは、「制作過程」によれば、イメージが固まったらケント紙に鉛筆で下書きし、上からミリペンでペン入れを行った後、線画をスキャナーでパソコンに取り込み、そこからフォトショップで着色しているのだという。

左:ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」ジャケット

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブラッドサーキュレーター」ジャケット 完成版のイラスト

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブラッドサーキュレーター」ジャケット 下書きやペン入れ等、完成に至るまでのプロセスが分かる

『夜は短し歩けよ乙女』のポスターができるまでの過程は、たくさんのアイデアや試行錯誤、没になったバージョンが存在することを示す。最初のラフスケッチから最後の完成形を見ると、作業工程の細かさと豊富なアイデアに感動を覚える。本展ではアイデアスケッチや着色する前の原画など、制作過程を示す絵がたくさんあるので、イラストレーターを目指す人にとっても参考になるはずだ。

左:映画『夜は短し歩けよ乙女』ポスター

『夜は短し歩けよ乙女』関連資料

作品に共通する明るい色彩とひそやかな影、健康的な色気とユーモア、流行とノスタルジー、ミステリアスな空気は、熱意と無数のアイデアによって生み出されたものだ。クールな横顔の少女たちの像には膨大な情熱と努力が潜んでいるのだと、改めて実感させられる。

左:中村佑介 2021 カレンダー表紙(描き下ろし)、右:VOGUE JAPAN 2020年9月号(CONDÉ NAST JAPAN)

本展は中村のキャリアの集大成であることに加え、完成過程の原画や2021年の原画カレンダーなどの初出し作品も紹介されており、とにかく作品点数が膨大だ。入場料は一般1100円(当日)と比較的安価なうえに、描き下ろしイラストを使用したオリジナルマスクケースもついている。展示期間は12月13日(日)までとなっているので、是非見逃さずに足を運んでいただきたい。

文・撮影=中野昭子

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