ヤギの搾乳に挑戦。ヤギミルクでチーズをつくる
千葉県南房総エリアを指す、安房(あわ)での暮らし。ここでの家族第一号は、ヤギの“ひじき”だった。あるとき、ひじきの乳房がみるみる大きくなり、重くてつらそうだったので獣医さんに診てもらうことに。その結果、毎日搾乳をするように言われたが、嫌がるひじきの搾乳に四苦八苦したため搾乳台をつくった。それでも苦労の連続だったが、その対価としてヤギミルクという貴重な資源を毎日手に入れることができた。私にとってもひじきにとっても、人生初の搾乳生活がはじまった。
ヤギの病気「乳腺炎」
ひじきの乳房が出産以外で初めて大きくなったとき、乳腺炎と診断されて薬を投入し、毎日搾乳するよう獣医さんに言われた。乳腺炎は菌が入り込んで増殖して炎症が起こるので、菌を出すために搾乳をするとのこと。
と言っても、見た目はふつうのミルク。特に臭いもない。試しに犬たちにあげてみると、喜んで飲んでいる。
毎日1リットルほどのミルクを捨てるのはもったいないので、私も飲んでみることにした。さすがにそのまま飲むのは怖いので、加熱して紅茶とスパイスを入れたヤギミルクチャイをつくってみると、ふつうにおいしいではないか。※あくまでも自己責任です
「ヤギミルクは臭い」と聞いたことがあるが、全くそんなことはない。ヤギミルクは臭いを吸収しやすいので、臭いのきつい雄ヤギが近くにいると、すぐに臭いを吸収してしまうらしいのだ。
自分で飲めるとなると、がぜん搾乳にも力が入る。
端材を使って、搾乳台をDIY
搾乳することに慣れていない私と、搾乳されることに慣れていないひじき。獣医さんが来て搾乳してくれたときも、私が必死にひじきを抑えている間に獣医さんが搾乳をした。それを毎日一人でやるなんて、とうてい無理だ。
ロープで、首を柵に固定しても暴れる。搾乳している手を、後ろ足で何度も蹴られる。蹴られたついでに、地面の泥が搾ったミルクのなかに入ってしまう。こんな状況では私もひじきもストレスで参ってしまうので、搾乳台をつくることにした。
古民家改修中のわが家にある端材を使い、ネットで検索した搾乳台の写真を見よう見まねで作製。ミルクに泥が入らないように、床付きの台にした。DIYのボスが搾乳台を見て、「これじゃ強度が足りない」と言って補強してくれて、無事完成。
餌で搾乳台へと誘導し、入ったら搾乳台の後ろに木の棒を渡して出られないようにする。首にも同様に木の棒を渡して暴れられないようにしたけれど、意外と器用に動いて隙間から頭を抜いてしまうので、ロープでひじきの首輪と搾乳台を結ぶことにした。
当初は後ろ足で蹴られないように、ロープで足を搾乳台にくくり付けたが、勢いよく動かすので脱臼や新たなケガを生みそうであきらめた。そのため、毎回ひじきの蹴りと格闘しながら搾乳することになった。
搾乳の前に、お湯を湿らせたタオルでやさしく乳房を拭いてあげる。これは本人も気持ちよさそうだ。そのあと、片方ずつ順番に手で搾乳。私の場合は片手だけで搾乳するよりも、片手で乳房上方を締め付けておいて、もう片手で締め付けたところから下に向かって搾り出すやり方がやりやすかった。
乳房回りの菌が混ざってしまうかもしれないので、最初の数回分は破棄してから本格的に搾ってミルクを活用させてもらう。
犬も猫も人間も、みんなヤギのミルクが大好き
猫の“ワラワラ”は、「早くミルクを搾らせろ」と言わんばかりにひじきを搾乳台へと誘導する。
搾りたてのミルクが待ちきれずに、ミルクを持った私のあとを鳴きながら追いかけてくる。それを待っているのは犬たちだ。こちらも、「待ってました!」と言ったようすでミルクに注目。出産した犬の“あわ”は、授乳中でどんどん痩せていくのでひじきのミルクに助けられたし、子犬たちもひじきのミルクでふやかしたドッグフードにお世話になった。
そして私は、気軽にチャイなどをつくって楽しむこともあれば、チーズをつくってサラダやパスタに入れたり、生ハムと一緒に食べたりして楽しんだ。
超かんたん!ヤギミルクでチーズをつくってみよう
以前、市販の牛乳でもできる“チッコカタメターノ”のつくり方を紹介したが、ヤギミルクでも同じようにチッコカタメターノをつくることができる。
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水気を切ったチッコカタメターノを丸い入れ物に詰めておくと、何となく丸い形のチーズができあがる。もう少し固めのチーズもつくってみようと、100円均一で入れ子になるサイズの木箱を2つ購入し、底に穴をたくさん開けて水分が逃げるようにしてみた。
チッコカタメターノをつくってザルで水気を切ったあと、大きい方の木箱にキッチンペーパーや布巾などを入れ、その上にチッコカタメターノを均等に入れて包み込んでから小さい木箱を上に置き、重しを乗せる。
半日から一日ほど放置して水気を切ったら、完成。そのままでもおいしいが、カットしたものをオリーブオイルに漬け込んでもおいしい。好みで、スパイスやハーブを入れて楽しむことも。ハード系のチーズが好みなら、乾燥させることでより固いチーズができあがる。
聖なるヤギ、ひじきさま
私の記憶では、搾乳は1年くらい続いて収束した。毎日欠かせない搾乳で手の筋を痛めて腱鞘炎(けんしょうえん)になりかかるし、疲れてもいたので落ち着いて安心したけれど、しばらくしたら再び乳房が大きくなってしまった。そのとき獣医さんは、「女の子はいろいろあるからね」と言って薬を処方するでもなく、毎日の搾乳を勧めた。
一般的に、人間でも動物でも、子どもを産んだときにミルクを出すようになるものだが、ひじきは違った。そんなひじきを、私は「聖なるヤギ」と呼んでありがたく搾乳し、犬や猫たちとともに更にもう1年ほどミルクを堪能させてもらった。
犬のように毎日朝夕の散歩が必要なわけでもなく、餌を買う必要もなく、雑草を食べて庭をきれいにしてくれる上にミルクまで提供してくれるなんて、ヤギは田舎暮らしに適した最高の家族だと思う。カゴを背負わせれば、荷物だって運んでくれるのだから。
写真・文:鍋田ゆかり