<オオサンショウウオの進化史>謎を解明? 化石からDNAを抽出・分析&多様なアプローチ【愛媛県大洲市】
現生する最大の爬虫類であるオオサンショウウオ属。本属は日本固有種の Andrias japonicus と中国に生息する4種、ヨーロッパから発見されいる化石種からなるグループです。
現在、アジアに複数のオオサンショウウオ属が生息しているものの、この地域の化石記録は乏しく、このグループの進化史については謎が多く残されています。
そのような中、京都大学などからなる研究グループは、愛媛県で発見されたオオサンショウウオの化石から古代DNAを抽出し、解析。得られたミトコンドリアDNAの部分配列が日本固有種と一致することを確認しました。
この研究成果は『Scientific Reports』に掲載されています(論文タイトル:Ancient DNA integrates fossil and modern giant salamander taxonomy)。
謎が多いオオサンショウウオ
オオサンショウウオ属(Andrias)は現生する最大の爬虫類です。
このグループは日本の Andrias japonicus に加え、中国に生息するオオサンショウウオ属4種、ヨーロッパから発見されている化石種の Andrias scheuchzeri から構成。現在、アジアには複数種のオオサンショウウオ属が生息しているものの、この地域における化石記録は乏しく、進化史について謎が多く残されています。
日本のオオサンショウウオ化石は1958年頃、愛媛県喜多郡肱川村(後に大洲市に合併)の敷水層からヤベオオツノジカやタイリクオオカミなどと一緒に発見され、鹿間時夫・長谷川善和(1962)により報告されました。
当時、現生種と化石種を含めたオオサンショウウオの標本や骨学的研究が乏しかったことに加え、種間で骨格の形態学的特徴に差異がほとんどないことから、種レベルの正確な同定や系統学的位置を特定するのが難しい状況だったといいます。
DNAを用いて化石を調査
そのような中、京都大学などからなる研究グループは、愛媛県大洲市で発見されたオオサンショウウオの化石を調査。形態学的特徴や近年注目されている化石DNAを利用して、これまでの謎を解き明かしました。
まず、愛媛県大洲市の敷水層から得られたオオサンショウウオ化石の形態学的特徴を現生種・他の化石種と比較。その結果、化石はオオサンショウウオ属の1種と同定されます。
次に化石から抽出したミトコンドリアDNAの部分配列情報を用いて分子系統解析を実施。敷水層のオオサンショウウオの化石が日本固有種 Andrias japonicus の西日本個体群に属することを明らかにしました。
現在、四国には Andrias japonicus が僅かに生息していますが、これらの個体群は遺伝的特徴から人為的に移入された可能性が指摘されていることに加え、生息域は今回分析した化石が発見された地域と大きく離れています。
地域絶滅していたオオサンショウウオ
今回の研究では放射性炭素年代測定により、敷水層のオオサンショウウオ化石が約4100~3500年前のものであることも判明しています。かつて、一緒に産出した哺乳類化石に基づき、約12万~1万年前のものと推定されていましたが、より新しい化石であることが判ったのです。
これらの研究結果は、四国西部に野生の Andrias japonicus が最近まで生息していたことと、その後絶滅したことを示唆するものとなりました。
愛媛県の個体群が絶滅した要因は定かでないものの、近い年代で広島県の洞窟遺跡から哺乳類、魚類の骨と一緒にオオサンショウウオの骨が発見されていることから、当時の人類がオオサンショウウオを食料にしていたと考えられています。
分析に用いられた化石からはカットマークや焼痕などが発見されていませんが、当時の人類の活動がオオサンショウウオの地域絶滅に影響を及ぼした可能性があるとのことです。
今後の研究に期待
今回、形態比較、放射性炭素年代測定、古代DNA分析を用いた研究により敷水層のオオサンショウウオの化石が、従来推定されていた年代より新しいことが明らかになりました。
また、同研究で一部地域のオオサンショウウオ絶滅が判明したことによって、現生する個体群保全の重要性および必要性の再認識が望まれています。
(サカナト編集部)