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【帯文に注目!文庫本フェア】読むと作品を手に取りたくなる⁉小説家や詩人ら22人が寄せた推薦文の中身とは?静岡市の「ひばりブックス」で開催中。

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「帯文に注目!静岡の文庫本フェア」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年5月29日放送)

(山田)今日は静岡市内で行われた本のイベントの話題ということですが。

(橋爪)静岡市の鷹匠・駿府町地区で5月25日に開かれた「しずおか一箱古本市」という催しを覗いてきました。山田さんは番組の「商店街さんぽ」という企画でこのエリアにある北街道を巡っていましたけど、「一箱古本市」はご存知でしたか?

(山田)いや、知らなかったですね。先日、北街道を通ったら、カフェの前に木箱が置いてあって、その中に本が入っていて「なんだろう」と思っていたんですが。

(橋爪)しずおか一箱古本市は、静岡市の中心街から北東に延びる「北街道」商店街が舞台です。古書店の「水曜文庫」と、新刊書店の「ひばりブックス」などを中心に、お店の前にいろいろな人が一箱に古本を並べて売るというイベントで、毎年5月と11月に開催しています。

(山田)イベントだったんですか。

(橋爪)今回も約30箱の出店があってにぎわっていました。このエリア全体で面として「本」を流通させようというのが狙いで、素敵な企画だと思います。本を売る人と買う人が本を通じて何らかの繋がりができることになるので、本について語り合う機会を提供しているとも言えるんです。

(山田)なるほど。

(橋爪)本について語り合うのって楽しくないですか?

(山田)楽しいですね。

(橋爪)この番組で山田さんと一緒にそういう話をすることが私は楽しいんですよね。本は何十万部も売れているベストセラーだから読んでみるということがあっていいと思いますが、一方で◯◯さんが薦めてくれたから読むというケースも多くないですか?

(山田)多いですね。橋爪さんが話してたから読むということもあります。

(橋爪)音楽や映画にしてもそういうところがありますが、本や小説ってそういう事象が多いと思うんですよ。

「青春の一冊」を独自のキャッチとともに紹介

(橋爪)今回、この一箱古本市の関連企画として「ひばりブックス」さんがまさに、そうした側面を打ち出した「文庫フェア」を企画しました。何らかの形で本に関わる仕事をしている22人に文庫本を1冊ずつ推薦してもらい、統一の帯を作成して店頭で展開するという内容です。

(山田)へえー。

(橋爪)こちらは現在開催中です。推薦者は小説家、編集者、詩人、評論家、漫画家、本屋の店主、ZINEの発行人など。それぞれが薦めた本のキャッチコピーや帯文を執筆していて、なかなか面白いです。さっそく買ってきましたので、今日は22冊から4冊を紹介したいと思います。

(山田)うわー、楽しみ。

(橋爪)「文庫フェア」は初めての企画なんですが統一テーマがありまして、それが「青春の一冊」。10代、20代の青春真っ只中の若者に薦めたい、自分自身がその年代の頃に読んで衝撃を受けたり感動したりした、また青春のど真ん中を生きる主人公を描いているなど、いろいろな切り口の本が並んでいます。

まずは、静岡市の詩人ゆずりはすみれさんが推薦する文月悠光さんの「適切な世界の適切ならざる私」(ちくま文庫)。

(山田)これは詩集ですか?

(橋爪)詩集です。帯文には各作品とも200文字ぐらいの文章が寄せられています。ゆずりはさんが「適切な世界の適切ならざる私」に寄せた帯文を読みますね。

大人たちは君の年齢を聞いてこう言うかもしれない。「若いっていいね」「きらきらしてるね」。でも本当に、若いっていいこと?きらきらしてる? 10代の頃、私は大人たちのそんな「戒め」みたいな言葉が大嫌いだった。君が、勉強が苦手でも友達がいなくても学校に行けていなくても君は君に変わりない。君が君であることを全力で生きればいい。それは時々つらいことだけれど。この詩集には自らの生を全力で書き留めんとする言葉がある。

(山田)やはり帯を書くのも上手ですね。

(橋爪)私はこの詩集の単行本を持っていますが、まさにこんな内容です。補足すると、文月さんは18歳のときにこの作品で中原中也賞を取っています。文庫化に当たって、単行本未収録作品も入っています。中には14歳のときの作品もあって、才能の片鱗をうかがわせる素晴らしいものでした。

帯文だけでも一見の価値あり!

(山田)帯だけでも楽しめますね。

(橋爪)そうなんですよ。帯と内容を対照させるとすごく面白いです。

次は静岡市の作家実石沙枝子さんが選んだ米澤穂信さんの「さよなら妖精」(創元推理文庫)。米澤さんは、記憶に新しいところでは「黒牢城」で2022年の第166回直木賞に選ばれていますね。では、推薦文を読みますね。

4人の高校生が出会ったのは、ユーゴスラヴィアから来た少女・マーヤ。マーヤが見つけ、投げかけるのは、ともすれば見落としてしまうような日常の謎。知的なきらめきに満ちた友情を育むボーイ・ミーツ・ガール......だけでは終わらない、終わらせてくれない。20年前の作品ですが、まさに今、読まれてほしい。紫陽花と雨の季節にもぴったりな一冊です。

(山田)これも何か面白そうですね。

(橋爪)「ボーイ・ミーツ・ガール」って魔法の言葉ですよね。これだけで面白そうに思えます。

(山田)「だけでは終わらない、終わらせてくれない」というのも何かありそうですね。

(橋爪)私はまだ読み始めて3分の1ぐらいなんですけど、彼らが出会う場面で雨が降っていて、本当に実石さんが書いてる通りこの季節にぴったりな感じがします。

(山田)これは、もう舞台が青春という感じですよね。

(橋爪)そうですね。地方都市の高校が舞台で、主人公が弓道をしています。私も高校時代に弓道をやっていたので少し重なるところがあり、興味深く読んでいます。

続きまして、県外の方ですが、東京・吉祥寺の一人出版社「夏葉社」代表の島田潤一郎さん。小説家吉村昭さんの「星への旅」( 新潮文庫)を薦めています。推薦文を読みますね。

最高の青春小説とはなんだろう、と考えることがあるのですが、パッと思いつくのは「ラ
イ麦畑でつかまえて」「風の歌を聴け」「三四郎」あたりで、けれどいつも最後に、いや
いや「星への旅」を忘れちゃいけないと思い、振り出しに戻ります。吉村昭がまだ吉村昭
になる前の鮮烈な青春小説。読み終わったあとに、あんぐり口が開きました。

これもまだ読んでいる途中。六つの短編から成り立っていて、そのうち二つまで読みました。ミステリー的な要素があったり、死んでしまった自分が語り部になるという視点の小説が入っていたりして、結構トリッキーな印象です。ただ、島田さんがこの文庫本を「青春の一冊」と関連付けて紹介しているのには何か意味があるに違いないと思います。まだ2編しか読んでいないのでその辺りが明らかになっていませんが、それを知るための道のりもまた読書の醍醐味かもしれません。

(山田)島田さんからすると、それこそ「風の歌を聴け」や「三四郎」といった名作に並ぶということですよね。

(橋爪)「忘れちゃいけない」存在と思うぐらいですから、「ライ麦畑でつかまえて」などと並ぶぐらいの存在だということになりそうですね。

(山田)楽しみ。

静岡新聞教育文化部長も推薦人の一人に!

(橋爪)実は私も推薦人として依頼を受けたので、1冊お薦めしています。

(山田)橋爪さんも帯を書いてるんですか⁉。すごいですね。

(橋爪)私が選んだのはこちらです。KADOKAWAから出ている増田俊也さんの「VTJ前夜の中井祐樹 七帝柔道記外伝」。

(山田)なんか難しそうですね。

(橋爪)格闘技の話です。推薦文を読んでもいいですか。

日本の総合格闘技(MMA)の礎を築いた格闘家中井祐樹の北海道大柔道部時代を描いた表題作は、「七帝柔道」に打ち込む若者たちの青春のたぎりに胸打たれる。後にジェラルド・ゴルドーとのMMAに挑んだ中井は、右目失明と引き換えに「真剣勝負での強さ」を満天下に示す。多くの人にとって番狂わせだっただろうこの結果は、中井が存在証明のために積み重ねてきた膨大な努力の結晶に他ならない。「無知な世間を引っ繰り返す」という野望の大きさもまた、青春の特権である。

このように仰々しく書いてみたんですけど。

(山田)かっこいい帯文ですね。

(橋爪)中井祐樹さんは格闘技好きの方なら知っている人も多いと思います。帯文にも書いたように、総合格闘技の試合で喧嘩屋と称されたオランダ人のジェラルド・ゴルドーと対戦し、反則攻撃を受けて右目を失明してしまいました。それでも、その試合で一本勝ちするんですね。

その辺りを北海道大柔道部の先輩に当たる増田さんがノンフィクションとして書いています。中井祐樹さんの反骨心が横溢していて、「青春ってこれだよな」と思わせてくれます。

(山田)この作品は格闘技ファンじゃなくても楽しめますか?

(橋爪)楽しめます。文庫にはノンフィクション3編と作者の増田さんを交えた対談2編が収められていますが、表題作がいまお伝えした話なんです。この作品からは、一つの物事にとにかく打ち込むという「一意専心」ということを教わりました。自分が格闘技をやっていたかどうか、好きかどうかということは関係ないと思います。

これを読んだときにはもう既にアラフォーだったんですけど、今でも大きな影響を受けてます。

(山田)へえー。今までの紹介文と比べると少しとっつきにくそうな気がしましたが、読んでみようかな。

(橋爪)ぜひ。「無知な世間を引っ繰り返せ!」です。

(山田)そんなにページ数も多くないからすっと読めるかもしれませんね。

山田門努パーソナリティーも推薦人に名乗り⁉

(橋爪)ということで、青春の1冊で梅雨を乗り切りましょうということです。

(山田)こういう方々が紹介してくれている本だったら、ハズレはないですよね。

(橋爪)ないと思います。

(山田)これだけわかりやすく帯文を書いてくれているのはいいですね。ひばりブックスさんにいけば、皆さんの推薦文を読むことができるんですか?

(橋爪)はい。今はその作品も平積みで売っているはずです。

(山田)僕もいつか選んでみたいな。

(橋爪)名乗りを上げましたね!

(山田)でも、文章に貢献した方たちが担っているんですよね。

(橋爪)そうです。でも、山田さんももうコラムニストですよ。

(山田)そうだ。また、来月、静岡新聞のコラムの執筆がありますから。

(橋爪)十分に資格はあると思います。

(山田)肩書「コラムニスト」として推薦人になればいいんだ!

(橋爪)いいじゃないですか。

(山田)良いコラムニストがいると言っておいてください(笑)。

(橋爪)多分、主催者も知っていると思いますよ。

(山田)ありがとうございました。今日の勉強はこれでおしまい!

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