Yahoo! JAPAN

彼女のダンステリア 不吉霊二/漫画家 夢に見た「父」との記憶を忘れないために。

GIRL

“ガールとカルチャーがドッキング⁉︎” これは私たちのアンセム、シンディ・ローパーの日本盤LPレコードの帯にあったキャッチコピーから。 一見むちゃくちゃに読み取れるけど、でもだんだん愛着が湧いてきました。 男子に負けず刺激的なクリエイションを提示する人たち。 編集部員が心からファンになったアーティストと向き合い、 彼女たちが何を思い、何のためにクリエイティブでいるのかについてしっかりと聞いてきました。

不吉霊二、漫画家。広島県出身、うお座のB型。早稲田大学在籍中に自費出版『ぜ〜んぶ!不吉霊二』でデビュー。漫画とエッセイのWEBサイト「トーチ」にて連載を開始し、2020年に『あばよ〜ベイビーイッツユー〜』(リイド社)をリリース。そのほかに、幼馴染の今田安希奈が提案するブランド〈MIZUGASHI〉とのコラボZINE『HELLO! MY FRIEND』や高橋桐矢氏の著書『副業占いブギ』のイラスト&ルポ漫画で作品をチェックできます。
Twitter @vida02loca
Instagram @da.i.su.ki

ーはじめまして。個人的に不吉さんの作品にすごい心を動かされてきたので、お目にかかれて感激です。

ありがとうございます! 最初に取材のお話をいただいたときに、そんなに読んでいただいていると思っていなかったのでこちらも嬉しかったです。

ー不吉さんの漫画は同じく広島出身のプタミからおすすめされて知りました。広島でいちばん頭のいい女子校の出身だと聞いています。作品の中でもところどころで学校の校則の厳しさにも触れられていましたね。幼少期はどんな子だったのでしょうか。

そうですね、小学生のときは割と意地悪だったと思います(笑)。一人っ子なので割と引きこもりタイプだったし、「男子! 待ちなさい!」って追いかけまわすような典型的な学級委員タイプでした。

ーそこから中高一貫の女子校に行って。

はい、帰り道にたいやきを買ってるのを先生に見つかっただけで罰として一週間掃除をさせられるような学校でした。

ーオールドスクールですね〜。中高時代から漫画を描き始めたんですか?

いえ、中高時代は正直そんなに好きじゃなかったですね。カルチャー的なもので言えば、広島ローカルで深夜1時からやっていた『はっちゃけナイト♥シネマ』っていう映画番組に夢中でした。いま検索しても全然出てこないんですけど。ありがちな喜怒哀楽というテーマからはみ出たような作品を扱っていて、中学生のときに『ラースと、その彼女』を観たときは衝撃でした。まずラブドールっていう存在自体を知らないから「え〜〜〜〜〜〜!?」って。さらに観進めていくと「ラブドールは話のとっかかりにすぎなくて、人と人の話なんだ。思ってたのと違うんや…」、と二度驚くという。その番組で扱う映画をいろいろ観るうちに、「どうやら私が知らない世界があるような気がするぞ」と、いろんな映画に興味を持ち始めたんです。

ーなるほどなるほど。

学校がすごく抑圧的だったら、ここじゃない場所に何かがあるはずっていう予感しかなくて…。でも自分が何をしていいかわからないから地元の小さなレンタルショップに行って「いいCDを聴かせてください!」って言ったり、すごく写実的な人魚の絵を一生懸命描いたり。とにかく広島という閉鎖的な土地から出てやる! という炎をメラメラ燃やしていました。

ー中高時代から創作欲が強かったんですね。

でもそういう自分がすごく恥ずかしかったんです。イケイケでいたかったから! 本当は絵を描いたりするのが好きだけど、絶対彼氏には言わない、みたいな感じでした。

ー奥ゆかしい…! 平日は校則を守りつつ、土日にはっちゃけるようなタイプだったんですか?

いや、平日でも駅のトイレでコートの下を全部私服に着替えてラウンドワンに遊びに行ったりしてましたよ。当時はいかに先生の目を盗んで遊ぶかがみんなの関心事でしたね。

ー不吉さんだけじゃなくてお友達もだったんですね。親友の〈MIZUGASHI〉安希奈さんと遊びに行ったり?

そうですね。でも彼女はすでに高校時代、外の世界を広げていたので。私は人島の里芋女子高生みたいののど真ん中にいたので、近所の男の子と遊ぶくらいしか外のつながりがなくて。そこに命をかけていました。

ーラウンドワンに行くときも気合を入れる感じですね。

そうそう、やんちゃな男の子にすごく憧れがあって…。中高時代はほんとに「男が好き! 男っていい!」みたいな感じでした(笑)。女子校だから現実の男性を全然見ないで、「男っていうものがおるんか〜それってイカすな〜」って偶像を求めていましたね。

ーちゃんと掃除しなさいって追いかけていた小学校時代とはかなり違いますね。

小学校のころも心のどこかで「男の子ってなんかいいわ〜」って思っていたんだと思うんですよね。自分にないものを持っているようで憧れていて。なのでいまも男の子のキャラクターを描くのはすごく楽しいです。

ー不吉さんの描く男の子はヤンキー系が多いですが、広島には同世代でもこういうタイプの子が多かったんですか?

そうですね。私はほんとお嬢みたいな学校に通っていたからぜんぜん関わりがなかったのですが、街で見かけるたびにイカす! って見つめていました。地元のローカル電車でよく姿を見た子はリーゼントで、すごく背が高くていつもガラケーを触ってるんですよ。狭い街だから後日その人の彼女も知るんですけど、2人がすごく似合っていて。彼に恋したわけじゃないけど、イカしたカップルを目の当たりにして「なんかすごくいい…!」って。もちろん男女の恋愛だけじゃなくて性別は関係なく、人が恋する様子を見るのが好き。街でカップルがいるとジーッと見てしまいます。

ーイケてる人たちに混ざりたい、みたいな欲はなかったんですか?

もうビビリで勇気がないので…。中二のときにバスに乗ってたら、地元でいちばん悪い中高の男の子のグループが話しかけてきたんですよ。「友達になろうや〜」ってすごくしつこく言われたんですけど、私は最後まで「知りません…」みたいな感じで通してしまって。彼らが降りた瞬間に「うわ、やばい! 絶対友達になっておけばよかったのに」ってすごい後悔しましたね。次の日から毎日同じ時間のバスに乗り続けたんですけど、とうとう一回も会えなくて。

ーますます憧れる気持ちが募りますね…! 6年間の女子校時代を経て、大学で上京したときはどんな感じでしたか?

ドラマみたいにそのときの彼氏と駅のホームで涙の別れ、彼の姿が遠ざかっていく…、っていうのをやって上京して。最初はさみしい、広島に帰りたいって気持ちは強かったけど、桜がブワーッって咲くなか、初めて買った服で下北を歩いたりしてたら「なんかこっち、いいやん〜」って東京が好きになりました。ただ最初の1年くらいは自分が何したいのかわからずボーッと遊んだりしてましたね。

ー漫画を描き始めたきっかけは?

それがけっこうドラマチックで。私、お父さんが生まれる前に亡くなっているんですけど、大学2年のゴールデンウィークに京都に行って、友達の横で寝てたらお父さんとドライブする夢を見たんです。写真で見たお父さんの姿じゃなくてめちゃゲスい人で「お母さんが待ってるけ、行こ!」って言っても「あ〜離婚したんよ」とか言ってきてすごくやだったんですけど。でもドライブするうちにだんだん彼を好きになってきて「いっしょに住もうや〜」って提案をしてハッと目が覚めたんです。それがすごくうれしくて。私はあの人に会えたけど、夢だからほっといたら忘れてしまうじゃないですか。お父さんじゃないかもしれないけど、あのゲス野郎に会ったことをずっと覚えていたいし、あわよくば誰かに伝えたいって思って初めて描いたのが「今朝見た夢」っていう8Pくらいの漫画です。そこからずっと描いています。

ーそのときなんで漫画という形で残そうと思ったんですか?

なんでだろう? コピー用紙とボールペンがあればできるから、コンビニですべての素材がそろうのがよかったんだと思います。

ー『副業占い師ブギ』に収録されている「キューバでの占いルポ」でもお父さんにまつわる不思議なエピソードが読めます。不吉さんを見守っているんでしょうね。

そうなんです。ほんとお父さんのおかげだって思っています。

ーいいお話ですね。さて、誰もが気になるポイントだと思うのですが、ペンネームはどうやって決めたんですか?

本当に適当で(笑)。漫画『ドカベン』に不吉霊三郎っていうすごい魔球を投げるキャラがいるんですけど、その妹という設定です。

ー『ドカベン』がお好きなんですか?

そういうわけではないんですけどね。友達に不吉って名前なんて稲川淳二みたいに暗いイメージがつきまとうって言われたんですけど、その子が考えてくれたのが本名の岡村かほを文字って「岡村カホマンガイ」とか「ほかマン」とか全然よくなくて(笑)。だったら不吉霊二のままでいいやって。

ー(笑)。Twitterを拝見すると『ハイスクール!奇面組』なんかも挙げられていますが、昭和の漫画が好きだったり?

そうですね。漫画を描き始めてから読んだのですが、すごい衝撃を受けました。みんながおすすめを教えてくれてありがたかったですね。

ーなかでも心に残った作品はありますか?

渡辺和博さんの作品ですね。80年代に活躍されたイラストレーターで、第一回の流行語大賞を受賞されたような人なんですけど。3冊だけ出している漫画は「誰が読むんだ?」みたいな内容なんです。山をオートバイで走っていたら、怪我をして。どうしようと思ってたらおっさんが縫合してくれて、家に泊まらせてもらって。朝起きたらおっさんがいなくなっていて、後日家にそのときの傷の写真が送られてくる、みたいな。ほんまにふざけた終わり方をするんです。絵がおもしろすぎて、ずっと見ていられるんですよ。

ー(wikiを見ながら)これですね、『タラコクリーム』。

それめっちゃ好きです。『月刊漫画ガロ』の編集者でもあって、「面白主義」というジャンルを確立するんですけど、それがすごくツボで。あんまり難しい漫画よりも「え!?」っていうような展開になる作品が好きですね。アートよりファニーと言いますか。

ーなるほど。個人的に不吉さんのシュールなおもしろさはもちろんですが、これだけピュアに片思いをしている気持ちとか胸を締め付けられるような恋する思いを漫画で表現できるのって本当にすごいと思っていて。逆にいろいろな漫画からの影響がないから純粋な気持ちを描けているってことなんでしょうか。

あー、それには確実な理由がひとつあって、一回ものすごく強烈な片思いを1年ほどしたことがあるんです。そのとき書いたメモをちょうど昨日読んでたんですけど、「好き。好き。好き。どうしたらいいん」とか「こんなにあなたのことを思っているのに、私はここにおるのに、なんなん」みたいな。溢れ出す気持ちをどこかに出しておかないと大変なことになるという感じで、バランスを保つために吐き出していたんでしょうね。

ー『HELLO! MY FRIEND』で描かれているメキシコでの恋も強烈ですよね。どこまでがフィクションなのかは知りたくないので聞きませんが(笑)、このときのもメモしながら?

いえ! なにも残していなかったんですけど、目を閉じればまぶたの裏にいまもギーチーさんの姿があります。

ーうわー、すごい!

いまはFacebookとかでたいてい繋がれるけど、それもないので。どこにいて何をしているかもわからない、でも一回すごく愛した人が人生に1人でもいるってすごくロマンチックだなって思います。

ーそもそもメキシコに行く前には休学してキューバに留学しているんですよね。どうして地球の裏側に行こうと思ったんですか?

昔『ティファニーで朝食を』を読んだときに話の中に、ハバナってキューバの首都が出てきて。なんか素敵な名前だなって思っていたんです。

ーその国のカルチャーが好き! とかじゃなくて地名なんですね。

そうですね。カリブ海とか素敵〜って。向こうで絵の勉強をしていたのですが、ほんとにキューバを選んでよかったです。まず物が全然ない。コンビニもないから、夜中にお腹が空いたらどうしようもなくなって、そのときステイしていた家の冷蔵庫からこっそりチーズをすくって食べたり…。社会主義の苦しさがあるぶん、街の雰囲気も統一されていなくてバラバラで。それがすごくよかったですね。私の人生にひとつ違うステージがポコンって生まれたようでした。マリオでいうところのボーナスステージ用の土管が一個できた、みたいな。

ーなるほど、わかりやすいです。絵柄にも変化がありましたか?

タッチは変わらないけど、色使いはすごく影響を受けていますね。

当日おもむろに出したバッグからは大量のペンが!

ーそこから東京に帰ってきて、自費出版で『ぜ〜んぶ!不吉霊二』を出されます。

東京とキューバで描いた作品が溜まっていたし、ハタチすぎるっていうのもあって、ここらでいままでの人生のまとめをしておこうと思ったんです。

ーいまじゃ手に入らないレア本ですよね。キラキラのホログラムがきれいな表紙で。写真でしか見たことないですが。

持ってきました!

ーわーん、感激です! 見たことない話がたくさん載っている…(涙)。この厚みで、この表紙で。ここまでしっかりしたものを出すのは本当に大変だったと思うのですが。

ほんとに恥ずかしいんですけど、親に借金しました。ホログラムがお金かかっちゃうんです。でも絶対キラキラさせたくて!

ーこれは手売りしたんですか?

高円寺の夜市で、路上で売ったり。あとは全国の書店に営業に行って、断られたりしながらも置いてもらいました。350部くらいしか刷らなかったので結構すぐ完売して。

ー本当にレアですね…。読みたい…。

正直、最高傑作だと思っていて、一生越えられない気がしています。『あばよ〜ベイビーイッツユー〜』は読んでもらいたいって気持ちが強くて、『ぜ〜んぶ!不吉霊二』はもう爆発している感じ。もしかすると再販できるかもしれないので楽しみにしててください。

ーはい! ちなみに自費出版を見た「トーチ」から声がかかったんですか?

いや、何度も持ち込みをしました。もともと「トーチ」が好きで、ここで売りたいって思っていたので満を持しての連載でしたね。私は枠線もセリフも手描きなのがよくて、それを自由にやらせれくれるのは「トーチ」だけだと思いますし。

ーじゃあ両思いで『あばよ〜ベイビーイッツユー〜』が出せたんですね。

ならうれしいですね。でもみなさんにすごく迷惑をかけました。リイド社のロビーにスーツを着たおじさんたちがいて、「どなたですか?」って編集さんに聞いたら「不吉さんの表紙をキラキラにするために値段交渉をしに来た業者の人だよ」って。私の本をキラキラにするために、あんな背広を着た方が…! やばいことしてる…! って思いました。

はがきサイズの原画の販売もあります。

ー次に挑戦したいことを教えてください。

なんといっても長編連載です。いままで短編の連載しかしたことがないので…。一冊の本にひとつのお話、という構成は、潔いいので好きなんです。そんな夢もなんとか叶いそうなんです! ちょうど担当編集さんとそのような構成の長編連載について相談中でして。いまのところ、高校生が主人公のお話になりそうです! 物語を必死に考える日々を過ごしております。そんな長編連載の練習として、最近67Pの漫画を描きました。インスタにも載せている「恋の四月馬鹿」という作品です。これが、描いていてすっごく楽しくて。当然っちゃ当然なんですが、ページが多い=てんこ盛りのストーリーにできる! という気づきがありました。長編連載、楽しみにして下さると嬉しいです。

ー不吉さんの感性は、ちょっと上ももちろんですが、同世代の子にめちゃくちゃ響くと思っています。同世代も多いガールフイナムの読者になにかありますか?

ひとことで言うと、愛してます。『かいけつゾロリ』『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』『ケシカスくん』世代の感性、不吉霊二におまかせあれ!(不吉さん、その場で一回転してスカートを持ち上げ首を垂れる)

ーふふふ。Twitterに書いていた個展も楽しみにしています。

あ、それがコロナなので中止にしました(涙)。せっかく東京で個展をやるんだったら、だれでも参加できるパーティも開催したかったので…。またコロナが減った時期にやりたいです!

ー絶対行きます!

自分のことは自分で紹介! 不吉霊二についてのライナーノーツ。

【関連記事】

おすすめの記事