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AIカメラが見抜いた、百貨店の“思い込み” そごう・西武×Idein

TECHBLITZ

百貨店を運営するそごう・西武がAIカメラで来店客の属性を分析したところ、それまでの「思い込み」を覆す意外な発見があった。「若者の百貨店離れ」といわれるが、調査した店舗の来店客数の一番のボリュームゾーンは30、40代の若者世代だったのだ。AIカメラだからこそ気付くことができたデータを活用し、潜在ニーズの掘り起こしに取り組む、そごう・西武のプロジェクト担当の檀 直樹氏に話を聞いた。

<font size=5>目次
「買っていない客」のデータをどう捉えるか
AIカメラで発覚した「思い込み」
Idein社のAIカメラ導入を決めた理由
若い世代のファン獲得をデータで示す

「買っていない客」のデータをどう捉えるか

―百貨店の来店客の分析のためにAIカメラを導入した経緯を教えてください。

 AIカメラ導入の目的は「潜在ニーズを掘り起こす」ことです。新型コロナウイルスの流行の影響で百貨店の来店者数は大きく落ち込んだのですが、西武池袋本店についても2019年度の入店客数は約7000万人と国内トップクラスの水準だったのに対し、2020年度は約6割程度まで落ち込みました。

 たとえコロナが終息しても、人々のライフスタイルは大きく変化しましたし、コロナ前の水準に入店客数を戻すのは時間がかかると予測しました。これからは店舗に来ていただいたお客様にしっかりと商品を購入していただくこと、つまり購買率を高めていくことこそが重要だと考えたのです。

―購買率を高める取り組みは順調に進んだのでしょうか。

 購買率を高めていく上で、商品を「買ったお客様」のデータだけでは見えないことも多く、課題となったのが「買っていないお客様」のデータをどのようにして捉えるかということでした。

 商品を購入していただいた場合は会員カードの情報やPOSデータで購買行動を分析できますが、いわゆる「通過客」のデータはほとんどなかったのです。どういったお客様が来店しているのか現状を把握するため、AIカメラを導入しました。

 百貨店内の大量の人流を人間の目で仕分けるのは現実的ではなく、AIカメラが非常に有効でした。最初に対象店舗のフロアにAIカメラを複数台設置し、年代や性別などのデモグラフィック情報を取得しました。その後、お客様の動線や滞在時間などの行動を追跡する実証実験へと取り組みを広げました。

西武池袋本店の催事会場の天井に設置されたAIカメラ(そごう・西武提供)

AIカメラで発覚した「思い込み」

―AIカメラを設置してどんなことが分かりましたか。

 最も大きな気付きは、来店客の世代についてです。これまでは高齢層を中心に「お客様の固定化」が進んでいると考えていましたが、それはある意味で「思い込み」だったことが分かりました。

 ある店舗での売上は50代以上のお客様が中心となっていて、実際のカード会員の購買記録データでも、1番が50代、2番目が60代でした。

 しかし、AIカメラ導入後のデータを見てみると、来店客で最も多かったのは40代で、次が20~30代でした。つまり、若い世代のお客様も店舗に足を運んで下さっていたのですが、購買に結び付いていないため、「若い世代のお客様の来店が少ない」と思い込んでしまっていたんですね。AIカメラだからこそ発見できた事実です。

―少なくとも調査店舗では若者は「百貨店離れ」していなかった、ということですね。そうした思い込みに気付いた後、どのようなアクションを起こしたのでしょう。

 品ぞろえを見直したり、改装時には若い世代を意識した施策にも取り組みました。

 例えば、そごう大宮店の改装では地下1階の食品売り場のフロア内にあった厨房をバックヤードに移して通路を広くしましたが、これは単に回遊性を上げる狙いだけでなく、子育て中のお客様がベビーカーを押していても歩きやすいよう考慮した結果でもあります。

 また、30代、40代のお客様も足を運んでくださる京都物産展ではイートインを増やしたり、抹茶スイーツのような「映え商品」を積極的に取り入れたりしました。

 改装前と改装後の比較ができるのも、AIカメラの良い点です。そごう大宮店の改装では近隣の競合店を意識して食品部門にかなり力を入れたのですが、改装後は30代、40代の来店が増えたことが分かりました。お菓子や惣菜も工夫したのですが、その近くの入口から若いお客様の流入がかなり増えたことも数字で見えています。

 これまでは社員の経験や勘を頼りに定性的に捉えることも多かったのですが、客観的なデータで定量的に施策の効果を測定できるようになり始めています。

西武池袋本店で開催された「京都名匠会」(同)

―他にもAIカメラを導入して新たに分かったことはありますか。

 これまでは測定の術がなかった入口別のお客様の流入数を把握できるようになりました。ある店舗では、帽子やスカーフ、マフラーなどの頻度品と呼ばれるアイテムが多く配置されているエリアにつながる中央エスカレーターが一番流入数が多いと思っていましたが、調べてみると北側の入口からの入店客数が実はすごく多いことが分かりました。

 こうしたデータは、今後のテナントとの交渉の際にも活用できますし、例えば、「夕方から入店客数が増える」といったデータを提示しながら新しい交渉の仕方もできるのではないかと考えています。

Idein社のAIカメラ導入を決めた理由

―今回導入したAIカメラは、エッジAIプラットフォームを展開する国内スタートアップのIdein(本社:東京都)のものですね。同社とパートナーを組んだ理由を教えてください。

 パートナー選びに関してはスタートアップだけでなく、大手が提供しているサービスも含めて比較検討を重ねました。Idein社との協業を決めた最大の理由はセキュリティ面での強みです。サイバー攻撃をはじめとしたセキュリティに関しては、社内もそうですし、顧客からの目も非常に厳しくなっています。

 Idein社はエッジAI技術に強みを持っていて、現場に設置したAIカメラの内部でデータ処理が行われ、データ分析に必要な情報だけがクラウドに送られる仕組みとなっています。AIカメラが来店客を撮影すると、例えば「男性」「20代」といった具合に、個人が特定できないテキストデータの形式へと即座に画像が処理されます。

 顔の特徴を示すデータは、人間には判別できない符号に変換され、当日の移動履歴を分析した後、24時間後に復元不可能な方法で消去されるので、セキュリティ面で非常に優れているわけです。費用対効果も他社のサービスと比較して一番納得のいくものでした。

 社内説得の際には、AIカメラの設置に関しても「データを取得して何に使うのか」「具体的な定量効果は」「安全性は担保されているのか」など当然さまざまな確認がありました。Idein社はこちらからの要望に対して、非常にタイムリーにスピード感を持って対応してくださいましたし、何より諦めずに一緒に伴走していただけたということが大きな助けとなりました。

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―AIカメラ自体にはどのような経緯で着目したのですか。

 欧米の商業施設では防犯カメラを兼ねたりする形でこうしたカメラが数多く設置されています。

 ただ、私が重要だと思うことはデータを取って終わりとせず、データを活用し、施策に反映させ、成果に結び付けることです。「データを取得しました」「こんなことが分かりました」で終わってしまうケースは意外と多いですから。

 あと、AIカメラだけでなく、顧客の店外での動きを追うため、スマートフォンの位置情報を利用して商圏の人流を捉える取り組みも行っています。補足率は10%程度ですが、こちらは位置情報をオンにしている顧客の店外の動きも追うことが可能です。店内の動きはAIカメラで、店外の動きはスマホの位置情報でと、お客様の動きを把握するための網羅的な取り組みの一環がAIカメラになります。

若い世代のファン獲得をデータで示す

―今後の展望はどのようにお考えですか。

 AIカメラを導入したことで、来店客の年代の認識やお客様の行動追跡も可能になってきています。例えば、そごう大宮店のバレンタインイベント「チョコレートパラダイス」で言えば、通常は若い女性をメインターゲットと考えていましたが、AIカメラのデータなどから、30代、40代のファミリー層をファンにしていくこともできるのでないかとターゲット顧客の設定の参考にしたり、といった具合ですね。

 若い世代のお客様は将来顧客でもあるので、イベントや催事を実施した期間だけ来てもらうのではなく、当店のファンになってもらうことが重要です。それをデータで定量的に示したいので、企画をした後には30代、40代やその子供世代の来店がしっかり増えているのかを検証していくプロセスをまずは続けていきたいと考えています。

※記事は2024年1月の取材時点の情報に基づいています。

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