倉敷民藝館 ~ 暮らしの中で使われる、丈夫で美しい古今東西の民藝品
倉敷は「民藝(みんげい)」にゆかりが深い街であることを知っていますか?
日本で2番目の民藝館である「倉敷民藝館」を取材しました。
世界各地の民藝品を観るだけでなく、売店で民藝品を買うこともできます。
また、窓から見る景色は詩人が絶賛したほど素敵なんですよ。
倉敷民藝館について、民藝の歴史と魅力も合わせて紹介します。
倉敷民藝館内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。
展示品は2019年5月の初回取材時のものです。
倉敷民藝館とは
倉敷民藝館は、日本で2番目にできた民藝館です。
江戸時代後期に建てられた米倉を活用して、1948年(昭和23年)に開館しました。
暮らしの中で使われる丈夫で美しい品である民藝品を、多数展示しています。
売店は入場無料で、展示室に入館しない人も自由に見て購入することができますよ。
民藝とは
民藝品とは、どんなものでしょうか。
「民藝品=お土産品」というイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。
民藝は「民衆的工芸」という意味です。
殿様に献上されるような鑑賞のための美術工芸品ではなく、職人が作った湯呑・茶碗・ざる・ほうき・風呂敷・椅子など、暮らしの中で使われる丈夫で美しい品々を指します。
大正末期、哲学者の柳宗悦(やなぎ むねよし)は「民藝」という言葉を生み出し、日常生活の中で使うものには、用途に直接結びついた美しさ「用の美」があると考えました。
民藝の価値と「用の美」という考え方を広めるための活動が、民藝運動です。柳宗悦・富本憲吉(とみもと けんきち)・河井寛次郎(かわい かんじろう)・濱田庄司(はまだ しょうじ)らによって提唱されました。
なお、民藝運動を推進した人のうち5人の作品を、大原美術館の工芸館で観ることができます。
倉敷と民藝
大原美術館の創立者としても知られる倉敷出身の実業家・大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)は、地域の工芸品の良さを多くの人に広めようと活動していました。活動の中で柳宗悦に出会い、民藝運動に賛同し支援します。
孫三郎は、日本初の民藝館である日本民藝館(東京・駒場)の建設費の多くを寄付しました。民藝運動の発展に大原家は重要な役割を果たしています。
孫三郎の息子の總一郎(そういちろう)も父の意志を継ぎ、民藝運動を支援しました。
總一郎は戦後まもない時代に、「正しく強く美しい平和日本の生活基調を再建する」ため、岡山県民藝協会を設立。そして倉敷の地にも民藝館を建てたいと考え、外村吉之介(とのむら きちのすけ)を館長に招きました。
大原家の活動と実績については、「語らい座 大原本邸」で詳しく知ることができます。
初代館長の外村は、民藝の普及に尽力しただけでなく、倉敷美観地区の景観保護にも貢献しました。
いま倉敷美観地区で古い町並みを眺められるのは、外村初代館長のおかげでもあるんですね。
倉敷の民藝を支え育てた、倉敷民藝館のおすすめポイントを紹介しましょう。
民藝である建物を満喫しよう
倉敷民藝館の建物は、江戸時代後期に建てられた米倉を改装しています。倉敷美観地区の中で、古い建物を再生して公開した第1号が、倉敷民藝館なんです。
倉敷民藝館ができたのは、倉敷川一帯が伝統的建造物群保存地区に指定される前のこと。
米倉は、火事や風雨・盗難・湿気などから貯蔵物を守るために、大工など多くの職人が作った一大民藝品といえます。
まだ「町並みを守る」という意識が一般的ではなかった時代に、外村初代館長は米倉に用の美を見出しました。
倉敷の典型的な蔵白壁と瓦の外観が美しい建物を、外から中から堪能しましょう。
詩人が絶賛した景色を見よう
イギリスの詩人エドモンド・ブランデンは、1950年に倉敷民藝館を訪れて、窓から見る中庭の光景を絶賛して歌に残しました。
実際に覗いてみると、歌にしたくなるのが納得の美しさ!
取材当日はとてもよい天気で、鮮やかな新緑と爽やかな風がとても気持ち良く、いつまでも眺めていたくなりました。
多様な民藝品を観よう
倉敷民藝館は、中世~現代の世界各地の陶磁器・ガラス・漆器・染織品・木工品・紙工品などを約15000点所蔵し、そのうち約600点を展示しています。
館内の3分の1は常設展示、3分の2は企画展示で、年に2~3回展示替えが行われているため、再訪でも新しい民藝品との出会いがあるのではないでしょうか。
所蔵品で最も有名なのは、「民画 四瞳猛虎鵲図(みんが しどうもうこかささぎず)」。「民画」とは名を知られていない絵描きさんが庶民の家に飾るために描いたもの。「四瞳猛虎鵲図」では、瞳が4つある虎が描かれています。
椅子や腰掛けは、一部を除いて実際に座ることができます。使ってみて、「日常の暮らしの道具」としての魅力を体感してみましょう。
さて、展示品の一部をご紹介します。
「いろりの間」にあるイギリスのテーブルは、「ゲートレッグテーブル」と呼ばれるもの。スペースに応じて、天板を折りたたんで収納できます。
硯(すずり)に水を一滴ずつ注ぐための「水滴」。
沖縄の風呂敷と着物。青色がさわやかですね。
隠岐のイカ釣り船の上で、漁師が手焙りに使っていた火鉢です。
イランの器は、描かれた魚がゆるくて愛らしい!
たくさんのかごを比べてみよう
かごだけで1つの常設展示室が作られているのも、倉敷民藝館の特徴です。
外村は、かごの収集にも力を入れていました。
鳥かご・果物かご・豆腐かご・天秤棒にぶらさげるかごなど、国も用途もさまざま。何を入れてどうやって持つものなのかで、形や編み方が異なるのがわかります。
食器を洗ったあとに伏せる目籠(めかご)は、外村が「用の美」を説明する際によく使っていました。
隙間の多い底の編み目は水を切るため、上げ底になっているのは水がたまらないようにするため。
便利に使うための構造が、美しい造形になっています。
倉敷ガラスを観よう
「倉敷ガラス」とは、小谷眞三(こだに しんぞう)さんと息子の栄次(えいじ)さんが作る、吹きガラスを指します。
眞三さんは元々クリスマスツリーのガラス玉を吹いていました。
コップを制作するにあたり、外村初代館長の指導を受け、倉敷民藝館の所蔵品の形状を参考にしながら、食器を作ります。
当時、吹きガラスは、複数の職人の共同作業により制作されていました。
道具や工程を工夫し、自身の工房にてすべてをひとりで仕上げるという形式を倉敷で確立したのが、眞三さん。
日本のスタジオ・グラスの流れにおいて先駆け的な存在なのです。
ガラスなのにどこかぬくもりを感じる作風、「生活のための道具」の持つ美しさが感じられます。
栄次さんの作品は売店で販売しているので、チェックしてくださいね。
民藝品を持ち帰ろう
売店では、全国各地の民藝品を販売しています。
倉敷・岡山の民藝も取り扱っているので、お土産にもおすすめです。
地元のものには、以下のような商品があります。
・倉敷ガラスのコップ
・備中和紙のはがき
・倉敷てまりの針さしやオリジナルアクセサリー
・倉敷堤窯のマグカップ
・倉敷遊楽窯のカップ&ソーサー
・酒津榎窯のお皿
・倉敷本染手織のテーブルセンター
・倉敷手織緞通(だんつう)のマット
・倉敷はりこ
個人的には、手軽に買えるものも多いと感じました。
続いて、倉敷民藝館の学芸員のかたにお話を伺いました。
インタビュー
倉敷民藝館の学芸員のかたにお話を伺いました。
インタビューは2019年5月の初回取材時におこなった内容を掲載しています。
──民藝の「用の美」とはどんなものでしょうか?
普段づかいの食器を例に取ると、ゴテゴテした装飾がついていたら、洗いにくくて汚れが溜まりやすいですよね。
その反対で、シンプルで無駄のない形で使いやすくて、料理を盛ったら美味しそうに見える。そんなものの美しさを指します。
たとえば、かご。
取っ手の付け根部分は強くするため工夫しているんですが、編み目が模様になっていて、美しいんです。
細かいところに気が配られていて、きれいなんですよ。
上の写真のかごは、底がふたつに割れているのがわかりますか?
もし底がひとつの丸だったら、中に入れたものが真ん中に偏ってしまいます。力を分散させるため、この形になっているんです。
「用の美」の考えには、毎日無理なく使えるので愛着も湧いて、形の美しさはもちろんのこと、それを使うことによって暮らしに美が生まれてくるという意味も含まれていると思います。
──展示方法でこだわっていることはありますか?
物自体を良く見てほしいという思いから、説明書きをあえて減らしています。文字が多いと、つい文字を目で追ってしまうので。
倉敷ガラスは、ガラスの美しさがわかりやすいよう、自然光が入る場所に展示しています。
また、時代別・地域別・用途別で分けるのではなくて、空間が調和するように展示しています。
──たしかに、国や時代が違う道具が並んでいても、しっくりくると感じました
──倉敷民藝館の、個人的なおすすめポイントを教えてください。
晴れの日は窓から風が入ってきて気持ちいいですし、雨の日も良いです。
雨に濡れると黒い貼り瓦がより黒くなって、白壁と瓦のコントラストがはっきりして、しっとりした感じがきれいなんですよ。
倉敷民藝館では収蔵品である椅子や腰掛けに座っていただけますし、お気に入りの場所を見つけてゆっくりした時間をすごすのもいいのではないでしょうか。
──民藝を楽しむには、どうすればいいですか?
使っていただくのが、いちばん民藝の魅力がわかりやすいと思います。
食器などは、洗って使っていくうちにツヤが増して、愛着がわいてくるのではないでしょうか。
売店で民藝品を販売しているので、気に入ったものを買って帰って、使っていただけたらいいなと思います。
──倉敷民藝館の想いを教えてください
初代館長の外村は、掛け軸に下記のように記しています。
民藝館の役目は、誰でも何時でもできる「美しい生活」をひろめることである。
外村は、ガラス・和紙・織物・花むしろなどの製作を指導したり、デザインしたりして、さまざまな民藝の作り手を支援しました。
わたしたちは外村の考えを守り引き継いでいて、展示即売会を開催するなど作り手の応援活動も行っています。
現在でも倉敷は、民藝品を展示している場所・作り手・配り手(販売店)が集まり、活発に活動しています。
倉敷民藝館はお客さまにとって、懐かしいと思うだけじゃなく、手仕事の美を感じる場になればと思っています。
おわりに
日常の暮らしの中にある、民藝。
筆者は、自宅で民藝品の食器や花瓶を使っています。正直料理は苦手なのですが、好きな民藝の食器を買ってから、日々のキッチン仕事が少し楽しくなっているのを実感しているんです。
手仕事ならではのぬくもりがあって、使っていて心地が良い。そんな頼れる道具があると日常が潤うように感じます。
また、学芸員のかたの「民藝の良さを伝えたい」という想いと、作り手を支えてきた倉敷民藝館の情熱も感じました。
ぜひ倉敷民藝館を訪れて民藝の魅力を感じ、暮らしに取り入れてみてください。