ベーカリー トングウ 〜 総社市民に愛されている商品を守るため、新たな挑戦をする老舗パン屋
総社市は「パンの街」として、岡山県内だけでなく県外からも注目されているのをご存じですか?
人口7万人弱の市に、街の小さなパン屋さんから大規模なパン工場までたくさんあって、パン文化が根付いているんです。
そんなパン好きな総社市民が、まっさきに名前を挙げるパン屋があります。
それが「ベーカリー トングウ」。
ベーカリー トングウは、子供から年配者まで性別問わず幅広い世代から人気があります。その愛され度は、訪れたお客さんの多くが、一度にたくさんの商品を買い占めるほど。
それほど地元で愛されているパン屋は、なかなかないのではないでしょうか。
ベーカリー トングウは、創業90年以上の老舗。
市民からは「トングウ」「トングウのパン」「トングウ製パン」などと呼ばれて親しまれていて、長年にわたる人気商品がいっぱいです。
そして、総社出身の私にとって、トングウは学校給食のパンでもあり、懐かしの味。
そんな総社で一番古いパン屋で、市民のソウルフードといえるベーカリー トングウを紹介します。
ベーカリー トングウは総社市民に愛されている昭和3年創業の老舗パン屋
ベーカリー トングウ(以下、「トングウ」と記載)は、総社駅前にあります。
創業は昭和3年(1928年)で、90年以上の歴史がある老舗です。
私のおじの話では、戦前・戦後の時代には、自宅で取れた小麦粉や小豆を持ってくると、パンと交換してくれたり換金してくれたりしていたそう。
またトングウは、長年にわたり総社地域の小中学校の給食向けパン・ごはんを作っています。総社生まれの私も、ずっと給食でトングウのパンやごはんを食べて育ちました。
総社市民にとって、トングウはまさにソウルフードといえるでしょう。
ちなみに店名の「トングウ」は、創業者の姓が由来です。
頓宮(とんぐう)姓は、総社でよく見かけます。
さらにトングウは、創業からずっと同じ場所で運営しています。
以前はお店の南側にもう1店舗ありましたが、現在の直営店は駅前の1店のみです。
昭和60年(1985年)頃には、お店の北およそ50メートルのところへ、袋入りパンや給食向けのパン・ごはんをつくる工場ができています。
くわえて現在、岡山県下および関東地方のイベントに出店することもあります。
現在、トングウの代表である吉田 宣弘(よしだ のぶひろ)さんは三代目。
昔から長く愛されている商品を守りながら、新たな商品づくりにも積極的に取り組んでいます。
▼吉田さん自ら発信するFacebookやInstagramでは、新商品やイベントの情報などがわかりますので、チェックしてみてください。
・公式Facebook
・公式Instagram
なお、トングウのお客さんは総社市周辺の住民はもちろん、現在は市外からも多く訪れています。
今、総社市は「パンの街」として売り出し中で、「パンわーるど総社」という企画を展開。そのため総社を代表する老舗のトングウは、市外のお客さんからも注目されているのです。
ベーカリー トングウの人気商品・おすすめ商品
トングウでは、たくさんの種類のパンを売っています。
昔から長年愛されている定番のロングセラーから、新たに生み出された商品まで多彩なトングウのパン。
その中から、人気の商品やおすすめの商品を紹介します。
ちなみにこの記事では紹介できませんでしたが、トングウには食パンも販売していました。
袋入りパン
まずは、袋に入った状態で売られている菓子パン、通称「袋パン」を紹介します。
いずれも長年にわたり愛されているロングセラーばかり。
トングウの人気商品上位5位は、袋パンが占めています。
袋パンのデザインは、どれもレトロな印象。
実は、袋の素材の変更はありますが、デザインは昔のままなんです。
▼また、袋パンは番重(ばんじゅう)という出荷用の容器のまま陳列されています。
袋パンはよく売れるため、空の番重を入れ換えるだけで商品補充ができる、昔ながらのスタイルです。
以下は、袋パンの一部。ほかにも種類があります。
・上あん
・バターロール
・三角ジャムパン
・松かさ
・カルピス×松かさ
・フルーツロール
・クリームパン
・あんパン
・うぐいすあんぱん
・バナナロール
・ジャムロール
・チョコレートロール
・コーヒーロール
上あん(油パン)
「上あん」はトングウの一番人気の商品です。
別名「油パン」と呼ばれていて、創業時からのロングセラー。
子供からお年寄りまで、幅広い世代に愛されています。
油パンの別名のとおり、油で揚げたあんパンですが、食べてみるとそんなにしつこくありません。
中には自家製のこし餡がたっぷり。絶妙の甘さ加減なんです。
パンの中のなめらかで舌触りのよいこし餡、モチッとした食感の生地、そしてほのかに香るシナモンの、三位一体となった独特の風味がクセになります。
上あんの人気はトングウの商品の中でも圧倒的で、トングウ代表の吉田 宣弘さんの話では、1日平均で1600個以上も売れるそうです。
バターロール(枕パン)
「バタロール」は、上あんに次ぐ人気商品。
長年、上あんとともにトングウの二枚看板となっているロングセラーです。
バターロールは、長細いコッペパンの形をしていて、生地にバターが入っています。
食べるとバターの甘い香りがして、懐かしい味がしました。
ところどころバターの甘みと風味が強くなる箇所があって、これが食べるときの楽しみなんです。
バターロールはサイズが大きめで、食べ応えがあります。
以前は直方体の形をしていて、形が昔の枕のように見えたから通称「枕パン」とも呼ばれていました。
吉田さんの話では、バターロールは1日平均600個以上売れるそうです。
三角ジャムパン
トングウの人気第3位のパンが、「三角ジャムパン」です。
三角ジャムパンも創業時からのロングセラー。正方形のパンをななめに切り、三角形のパンが2つセットで入っています。
表面はソボロになっていて、独特の味わいに。中には甘いイチゴジャムが入っています。
厚みがあるうえに、2つ入りでボリュームがある、コストパフォーマンスのよい商品です。
松かさ
トングウの人気第4位が、「松かさ」です。
一般的にメロンパンと呼ばれるパンですが、トングウでは独自のネーミングで販売されています。商品名の由来は、パンの見た目が松かさ(松ぼっくり)に似ているからです。
私は大きくなるまで、メロンパンという呼び名が同種のパンの一般的な名称と知りませんでした。
また、総社市内にはカルピスの工場があります。
カルピスとトングウがコラボした「カルピス×松笠」という商品もありました。
松笠の中に、カルピスを練り込んだクリームが入っています。
クリームの甘酸っぱいさわやかな風味と、松笠の表面のサクッとした食感と甘さのコラボレーションがおもしろいです。
フルーツロール
「フルーツロール」は、トングウで人気第5位のパンです。
細長いコッペパンの中に、フルーツ入りのクリームが挟んであります。
クリームの中にはレーズンやオレンジなどの数種類のドライフルーツの細切れが入っているのが特徴。
また、サクランボやフキなども入っていました。さらにクリームの甘さや舌触りも独特な印象です。
甘いクリームの中に、ドライフルーツの甘酸っぱさや食感がアクセントになっています。
トングウ以外のパン屋では、なかなか味わえない商品ではないでしょうか。
クリームパン
パン屋の定番商品のひとつといっていい「クリームパン」。
パンの中にはカスタードクリームがたっぷりと入っています。きれいな艶のある黄色いクリームが印象的。
カスタードらしいコクのある甘さが好きです。
うぐいすあんぱん
緑色のつぶ餡が入った「うぐいすあんぱん」も昔からあります。
アラスカ豆を使った餡は、素朴な甘さで食べやすいんです。
私は、あっという間にペロリと平らげてしまいました。
バナナロール
バナナロールは、岡山県ではキムラヤのものが有名です。
トングウでもバナナロールが販売されていて、人気商品のひとつになっています。トングウのバナナロールも、コッペパンの中にバナナ風味のクリームが挟んであるもの。
バナナクリームからただよう甘い香りを嗅ぐと、食欲が増してきます。
あげぱん
トングウでは、2種類のあげぱんが販売されていて、人気です。
・給食あげぱん
・きなこあげぱん
あげぱんは、給食で出されているものとまったく同じ。
「給食あげぱん」は、コッペパンを揚げて砂糖をまぶしたもの。「きなこあげぱん」は、きなこをまぶし、さらにシナモンの風味もするのが特徴です。
吉田さんの話では、10年ほど前に総社商店街でおこなわれたイベント「れとろーど」に出店するときに、「レトロ」のキーワードに合わせて給食の人気パンだったあげぱんを販売したそう。
すると、予想以上の大人気に。
お客さんから、イベントのときだけでなく、お店の通常商品として売って欲しいという声が多数寄せられて、商品化に至りました。
給食メニューだったあげぱんは、学校を卒業すると食べる機会がなくなります。
そのため、かつての人気給食メニューが食べられることがうれしいというお客さんが多いようです。
岡山コッペシリーズ
新しい商品にも関わらず、トングウの看板のひとつになったのが、「岡山コッペ」シリーズです。
岡山コッペは、コッペパンにさまざまな具材を挟んだ商品で、種類はひじょうにたくさんあります。
もともとは、イベント出店したときに販売していましたが、好評だったため、店頭で販売することになったそうです。
吉田さんの話では、岡山コッペの原点は、学校給食のメニュー「セルフサンド」にあるとのこと。
私も給食で食べていましたので、懐かしいです。
セルフサンドは、切り込みの入ったコッペパンに、給食の具材を自分で挟んで食べるもの。
吉田さんは、セルフサンドのようにコッペパンに好きな具材を挟んで食べたら、お客さんも喜ぶのではないかと考えていたそう。
そこで、イベントで試しに提供してみたところ、人気になりました。
イベントでは、お客さんが好きな具材を指定し、その場で店員が具を挟んで売っていましたが、店頭では難しいので、あらかじめいろいろな具材を挟んだ状態で売ることに。
結果、短期間でトングウの代表的な商品の一つになりました。
岡山コッペシリーズは、長年にわたり学校給食にコッペパンを提供していたトングウならではの強みを生かした商品です。
現在も、イベントで岡山コッペの対面販売をおこなうことがありますので、公式Facebookの情報をチェックしてみてください。
ちなみに、岡山コッペには、冷やして食べるタイプもあります。
たくさんある岡山コッペの中でも、特に人気があるのが以下の3種類。
・地鶏とシャキキャベ
・ピーナッツバター
・白身魚フライ
地鶏とシャキキャベ
「地鶏とシャキキャベ」は、コッペパンに地鶏のスライスとキャベツの千切りを挟んだ商品。
吉田さんの話では、岡山県民は鶏肉が好きな人が多いとのこと。
そこで、ラインナップに入れたところ、一番の人気の商品になったそうです。
取材は午前中におこなったにも関わらず、すでに売り切れになっていました。
地鶏とシャキキャベの人気の度合いがわかります。
ピーナッツバター
地鶏とシャキキャベとならぶ岡山コッペの人気商品が、「ピーナッツバター」です。
お客さんにコッペパンに何を挟んで食べたいかを聞いたところ、ピーナッツバターといちごマーガリンという声が多かったそうです。
そこで、ピーナッツバターの岡山コッペをつくったとのこと。
トングウのピーナッツバターは、大粒のピーナッツのかけらが入っているのが最大の特徴です。
そのため、ピーナッツの味や風味・食感などが、他社のピーナッツバターよりも強く楽しめます。
トングウでは、ピーナッツバターを手作業で入れているので、大粒のピーナッツを入れることができるそうです。
白身魚タルタル
「白身魚タルタル」は、コッペパンに白身魚を挟み、スイートチリソースとタルタルソースで味付けしています。
岡山コッペの多くは、社員のまかないがヒントになっているそうです。
また、スーパーの惣菜コーナーで買って食べた商品も参考になっているとのこと。
この白身魚タルタルも、吉田さんが実際に食べておいしかったので、岡山コッペに取り入れてみたものです。
その結果、白身魚タルタルは人気商品のひとつになりました。
惣菜パン
トングウでは、袋入りのパンのほかにも、惣菜パンも多数あります。
特に注目の商品が、岡山市にある「日本料理きく井」とのコラボ「日本料理きく井×トングウ 情熱のコラボカレーパン」です。
日本料理きく井×トングウ 情熱のコラボカレーパン
岡山市の日本料理店「きく井」の菊井 光紀さんとトングウの吉田さんが、かつて同じ職場で働いていた縁で生まれたのが、「日本料理きく井×トングウ 情熱のコラボカレーパン」です。
しばらく会っていなかった菊井さんと吉田さんが久しぶりに対面したとき、いっしょにコラボレーションした商品をつくろうというアイディアが生まれました。
約3ヶ月の試行錯誤の末に誕生したのが、このカレーパンです。
包装からもこだわりと情熱を感じます。
中のルーには、ゴロッとした肉が入っていてインパクト抜群で、食べ応えがありました。
デザート類
トングウでは、冷蔵デザートも扱っています。
おもな商品は「パイシュー」と「プリン」です。
パイシューもプリンも、自社で製造しています。
プリンは、安富牧場(岡山市足守)産の牛乳・国産きび砂糖・総社産の鶏卵を使用。
このほかにも、時季限定のデザートも販売されています。
毎月10日は「トングウの日」
トングウでは、毎月10日を「トングウの日」としてます。
トングウの日でおこなわれるのは、以下のようなサービスです。
・全商品 10円引き
・トングウの日限定商品の販売
・夏などには子供向けのガチャガチャを設置
上記以外にも、トングウの日には月ごとにいろいろな企画がおこなわれたりします。
トングウの日は、イオンモール倉敷の増床やによる客足の減少や、総社に相次いで大手企業が進出して働く人が増加したことによる客足の減少の対策として企画されました。
トングウの「ト」と10日(とおか)の「と」を掛けたものです。
トングウの日によって、ふたたび多くのお客さんが来るようになり、今ではすっかりお客さんの間に定着した企画となっています。
たくさんの人気メニューがあるトングウ。
そんなトングウの代表取締役・吉田 宣弘(よしだ のぶひろ)さんにインタビューをおこないました。
ベーカリー トングウ 代表の吉田 宣弘さんにインタビュー
ベーカリー トングウを運営する、株式会社 トングウの吉田 宣弘(よしだ のぶひろ) 代表取締役にお話を聞きました。
インタビューは2019年5月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
地域に根付くトングウをなくさないため後継を決意
──吉田さんはトングウの三代目の代表ですが、どのような経緯で代表取締役となったのですか?
吉田────
もともと私は岡山のホテルで、洋菓子やパンをつくる仕事をしていました。
ホテルを退職することにしたとき、ホテルのお客さんだったトングウの先代から、トングウで働かないかと声をかけていただきました。それがきっかけで、トングウに社員として入社したんです。
その後、先代が引退することになったのですが、後継者がおらず、トングウが廃業の危機になりました。
私は岡山市の出身のため、トングウになじみがありませんでした。
しかし、トングウで働き始めて、トングウが総社市民に想像以上に定着していて、愛されていることを知ったんですよ。
たとえば、私がパンの配送の仕事をしていたとき、道端のおじさんに突然に呼び止められて、「パンが欲しいけど売ってくれないか」とお願いされたり…。
こんなことは、今までなかったので驚きました。
これほどまで地域に愛され、定着している店や商品はなかなかないと思います。
だから、こんなに市民に親しまれているお店や商品を絶対になくしてはいけないと思い、私が後継者になる決意をしたんです。
市民に愛されている商品を守るには、変えなければならないことも
──吉田さんが代表になってから、どんな取り組みをしてきましたか?
吉田────
トングウには、「上あん」「バターロール」を筆頭に、長年親しまれてきたロングセラー商品がたくさんあります。
それらをこれからも残していくには、変えないといけないこともたくさんありました。今、日本は全体的に人手不足ですが、それは弊社も同じ状況です。そのため、卸しの仕事を絞りました。
以前は、市内の高校や保育所・企業などでも売っていただいていたのですが、現在は直営店のほかの販売箇所は県内で2ヶ所ほどになっています。
そのぶん、直営店での販売に力を入れることにしました
イベント出店や、新しい商品も積極的に考えるようにしています。今まで親しまれてきた商品のほかにも、柱となる商品が必要だからです。
そんな中、新しい柱となったのが、「岡山コッペ」シリーズです。
トングウの強み「給食のコッペパン」を生かした「岡山コッペ」シリーズ
──岡山コッペシリーズはどのような経緯で誕生したのですか?
吉田────
トングウは、長く総社地区の学校給食のパンやごはんを提供しています。
なかでも、コッペパンはどこのパン屋にも負けない弊社の強み・特徴です。
トングウならではの強みを生かした商品づくりとして、学校給食の「セルフサンド」をヒントに作ったのが岡山コッペなんですよ。
イベント出店でためしに販売してみたら、大好評でした。その後、店頭販売用にアレンジして売ってみたところ、1年も経たずに人気商品に育ちました。
あげぱんも、総社の「れとろーど」というイベント向けに、「レトロ」というキーワードから昔懐かしの給食メニューということで「あげぱん」を売ったのがきっかけ。
予想外の人気で、イベント販売だけでなく通常販売もしてほしいという声を多くいただき、店頭販売に至りました。
給食で出しているあげぱんとまったく同じものを販売したのですが、それが懐かしくて良かったのだと思います。
学校を卒業すると、コッペパンやあげぱんは、なかなか食べられません。
岡山コッペもあげぱんも、長く学校給食に携わる弊社ならではの商品なんですよ。
より広くトングウの商品を知ってもらうため、関東での販売も開始
吉田────
また、関東地区でのイベント販売や、岡山県と鳥取県の合同アンテナショップでの販売も開始しました。
これからもトングウのパンを維持していくため、いままで総社で愛されてきた商品を、より多くの人に知っていただく必要もあると思うからです。
アンテナショップでは、上あん・バターロール・松笠・フルーツロール・バナナロールなどの袋入りのパンをメインに扱っています。
噂を聞きつけた東京在住の人のほか、現在東京に住む総社出身のかたにも好評です。
「連休で帰省していても、トングウが休みで買えないことがあるので、東京で食べられるのはとてもうれしい」という声をたくさんいただいています。
「パンわーるど総社」の企画は総社に大きな経済効果
──トングウは、「パンわーるど総社」という企画に参加していますね。
吉田────
「パンわーるど総社」は、もともと総社商工会議所から始まった企画です。
総社市は、都市規模のわりに小さなパン屋が多く、山崎パンの工場もある影響で、小麦粉の消費量が全国で3本の指に入るほど。また、パンの出荷量も岡山県下でトップなんですよ。
そこで、商工会議所で「パンで町おこしをしてみてはどうか」という話が生まれ、総社で老舗のパン屋である弊社に協力の話がありました。
「パンわーるど総社」は、市内よりも市外から総社に来てもらって、スタンプラリーなどで市内のたくさんのパン屋に来てもらおうというものです。
結果として、「パンわーるど総社」は総社商工会議所はじまって以来のヒット企画となって、総社に大きな経済効果をもたらしました。
パンでの町おこしは珍しく、全国的にも注目されたんですよ。
「平成30年7月豪雨」の影響について
──「平成30年7月豪雨」では総社でも大きな被害が出ています。トングウでも影響がありましたか?
吉田────
弊社の従業員に市内の被災地に住んでいる者がいて、被災してしまいました。
もちろん復旧作業が優先ですから、被災した従業員はしばらく仕事は休みにしました。しかし、被災した従業員のうち1人は、被災の影響で退職せざるをえなかったのが残念です。
また、真備町は隣の地区なので、真備にもトングウのお客さんが多いのですが、真備の被災の影響でお客さんは減りました。
しばらくして、真備の被災したお客さんが弊社に来店されたとき、昔から食べているトングウのいつものパンを見て「安心した」「ホッとした」という声をたくさんいただきました。昔からの商品を今も販売していて良かったと思いましたね。
あとは、復興ボランティアのかた向けに、弊社のパンを提供させていただきました。被災者向けの物資の提供はたくさんあったのですが、ボランティア向けの物資が不足気味だったんです。
そこで、地元のためにがんばってくれているボランティアのかたに、感謝の意味もこめて協力しました。
新しい柱をつくり、次の世代へバトンタッチしたい
──トングウを今後どのようにしていきたいか、思いはありますか?
吉田────
袋パンなど、昔から長く親しまれている商品は、これからも細く長く売っていきたいと思います。
袋パンなどのロングセラー商品は、先代ががんばって作ってきたもの。
今度は、私たちの世代が、先代ががんばってきた商品を広く発信していく役目があると思っています。関東で販売を始めたのもそのためです。
もうひとつは、新しい柱をつくること。
そのひとつの試みが岡山コッペです。
ほかにも柱が必要だと思うので、ほかの柱を作るべくがんばっています。
昔から引き継がれたものを維持するだけでは成長しているとはいえません。
新しい柱をつくりあげ、その上で次の世代へバトンタッチしたいと思っています。
昔から地域住民に愛されているトングウのパン
トングウは、総社生まれの私自身も小さなころから食べていて、小中学校の給食や高校の売店、工場の残業で出されるおやつなどで、よく食べていました。
総社以外では食べられないため、総社を離れてからたまにトングウへ寄ると、大量購入をしてしまいます。
取材時も、トングウのパンを大量に購入してしまいました。
それほど総社市民にとってトングウは心の味なんです。
取材のため、はじめて店内に長時間滞在させてもらいましたが、午前中でも常にお客さんが出入りしていて、トングウがどれほど人気があるのかを改めて感じました。
お客さんの年齢層や性別も幅広かったのも印象的です。
しかも、多くのお客さんが袋パンを中心にたくさん買っていたことに驚き。
そして、トングウ代表 吉田さんの「昔から愛されている商品を守るため、どんどん挑戦をして新しい柱もつくり、次の世代へバトンを渡す」という強い思いに、地元出身者として心打たれました。
学校給食にたずさわったことで生まれたコッペパンというトングウの強みを生かした「岡山コッペ」というアイデアからも、その思いが伝わります。
昔から長く総社で愛されている袋パンの数々、トングウの強みを生かした懐かしい給食の味のあげぱん・岡山コッペを、ぜひ楽しんでみてください。