「書くこと」で、自分の世界が広がった。なでしこリーガー・松井里央、ライター2年目の現在地
「アスリート社員として、新しい人物像をつくりたい」
1年前、Sports for Socialのインタビューでそう語っていた松井里央さん。競技と仕事を両立しながら、日総グループの広報ホームページ『NISSO-CONNECT』でライター活動に挑戦してきました。
取材相手の言葉に耳を傾け、その想いを読者へ届ける。その経験は、文章を書く技術だけでなく、競技への向き合い方や自身の在り方にも少しずつ影響を与えていたといいます。
人と出会い、話を聞き、言葉を紡いできた1年。新しい業務を通して広がった世界と、アスリート社員として描くこれからについて聞きました。
「知らない世界」を書く難しさと、相手の立場に立つということ
ーー日総グループの広報ホームページ『NISSO-CONNECT』でライター活動を始めて、1年が経ちました。当時を振り返って、率直にどんな気持ちでしたか?
松井)1年前、広報担当として活動することになり、それまで担当していたバックオフィス業務から、仕事の内容が一気に変わりました。
ライターとしての経験や知識はなく、「本当にできるのかな」という不安もありました。もともと読書が好きだったので言葉に対する抵抗はありませんでしたが、それでも手探りでのスタートだったことは覚えています。
ーーここまでたくさんの取材や執筆活動を重ねてきましたが、そのなかで印象に残っている取材はありますか?
松井)私と同じ、日総グループの社員である塚田さんの取材が印象に残っています。
塚田さんは、山道や未舗装路など、さまざまな地形を走るトレイルランニングというスポーツに取り組んでいます。それまではサッカーなど、自分が経験したことのある競技や、みんなが知っているスポーツを取材することがほとんどでした。でもトレイルランニングは私自身がその競技を知らなかったので、自分は取材者ではなく、読者と同じ「何も知らない側」の人間なんだと強く感じました。
だからこそ、記事を書くことが本当に難しかったです。正直、「自分にはまだわからない世界だな」と思っていましたし、修正やフィードバックをいただくたびに、自分の理解の浅さを痛感していました。今でもあの記事を見返すと、本当にこれで伝わっているのかと不安に思うことがあります。
■社員の個性を尊重する会社| 株式会社アイズで目指すゴール ~トレイルランニングと生きる~
ーー経験したことのないことを書くのは難しいですよね。松井さんはそのとき、その記事とどのように向き合っていたのでしょうか?
松井)まずは、自分がトレイルランニングの選手だったら、と想像することから始めました。競技について調べながら、「塚田さんはどんな大会に出ているんだろう」「どんな気持ちで走っているんだろう」と、とにかく相手の立場になってみようと思いながら書き進めました。
ーー最初は読者の目線だったけれど、想像することで塚田さんの想いに近づこうとしていたのですね。
松井)トレイルランニングは本当に過酷なスポーツなので、完全にイメージをつかめたかというとそうではなかったと思います。
それでも、塚田さんが伝えたいことを少しでも読者に届けたいという気持ちは強くありました。競技への向き合い方や挑戦する姿勢、その一端でも伝わる記事になっていたらいいなと思っています。
“自分らしさ”の残る記事を書いていきたい
ーー取材や執筆を重ねるなかで、自分なりに大事にしていることも見えてきましたか?
松井)取材で聞いた言葉を“読むもの”として成立させることは、最初の頃と比べても意識するようになっています。
当初、私はその人らしさを出すためには”取材のときに話していた言葉をできるだけそのまま使うべき”だと思っていました。ただ、その場で話を聞いている私にはニュアンスが伝わった話が、読者にとってわかりやすい言葉になるとは限らず、かえって混乱してしまうことがあります。
だから今は、話した言葉をそのまま使うだけではなく、「その人が本当に伝えたかったことを、どうすればわかりやすく届けられるのか」を考えるようになりました。
最初の頃は文章がほとんど全部直されていることもありました。返ってきた原稿を見ると「たしかにその通りだな」と思うんですけどね。本当に難しかったです。
ーーそうした経験を経て、今はどんな文章を目指しているのでしょうか?
松井)最近はAIなどで文章を綺麗に整えることもできますし、それはもちろん必要だと思っています。
でも、その中にも私自身の言葉をきちんと残していきたい気持ちもあります。読みやすく整えながらも、“自分らしさ”が伝わる工夫をどこかに入れたいです。
ーー松井さんにとって、文章における「自分らしさ」とは何ですか?
松井)たとえばアスリートの取材だったら、競技は違っても自分が現役でプレーしているからこそ共感できる部分がたくさんあります。そうした視点は大事にしながら、「選手が書いた記事だな」と感じてもらえたらと思っています。
あとは、私はかっこいい文章や言葉を使うのが好きなんです(笑)。語感が良く、読者の頭にすっと入ってくるような言葉をキーワードとして文章の中に入れることを意識しています。
自分らしさを残しながら相手の想いを伝えることは本当に大変ですし、取材をして記事を書いているライターの皆さんのことを尊敬します。
人との出会いで得られた“客観的な視点”
ーー書くことを通して、日常や競技に変化はありましたか?
松井)以前、編集者の方から「書いたものを一度自分で客観的に振り返ってみてね」と言われたことがありました。私自身、勢いで突っ走ってしまうタイプなので、その工程をないがしろにしてはいけないなと、身に染みて感じました。
そういう経験を重ねるなかで、以前よりも自分を客観的に見る力がついてきたように思います。
ーーそれはどんな場面で感じますか?
松井)一番は競技面で感じます。プレーそのものというより、自分が今チームの中でどういう立場にいて、何を求められているのか。また、他の選手やサポーター、クラブの方々からどう見られているのかを考えるようになりました。
もともと私はすごく頑固な性格で、自分の考えや気持ちを強く持っているタイプでした。学生時代から、良い意味でも悪い意味でも、意志を曲げない部分があったんです。
でも社会人になってからは、自分を貫くことも必要なことだけれど、それだけではなく、他の人の意見を取り入れながら自分を成長させていくことも大事なんだと思うようになりました。そうした積み重ねもあって、少しずつ物事を俯瞰して見られるようになったかなと思います。
ーー本気で取り組んでいると、つい自分のことに精一杯になりがちですよね。
松井)そうですね。今はチームに4人のゴールキーパーがいますが、継続的に試合に出られるのは基本的に一人です。試合に出られていないときは、正直ふてくされたくなるし、自分のことだけ考えたくなることもあります。
でも、どんな立場でもチームのために何ができるかを考えなければいけません。試合に出る選手が良い状態でプレーできるようにサポートすることも、自分の役割だと思っています。
そうした視点を持てるようになったのは、大きな変化ですね。
ーー人の話を聞く仕事だからこそ、身についた視点もありそうですね。
松井)このライター活動はすごく大きな経験だと思います。
それまでは自分の世界の中だけで完結していましたが、たくさんの人と出会い、話を聞くことで、知らなかった考え方や価値観に触れられるようになりました。
そうした出会いを重ねるなかで視野が広がり、新しい気づきや、これまで見えていなかった景色に出会えたように思います。
ーーそうした出会いや言葉の中で、今も心に残っているものはありますか?
松井)同じチームのゴールキーパーの先輩である田中翠選手に取材したときの言葉ですね。
アスリートと社会人を両立するのは大変です。それでも、田中選手は「プロセスは誰も見ていないから、結果を出すしかない」と言っていました。
たしかに、自分がどれだけ頑張っているかは他の人にはわからない。そう考えたときに、頑張ることは当たり前、その先にある成果を追い求めることも大事なんだと思いました。私自身も、良い文章を書き、本当に良い記事を作らなければと気が引き締まりました。
■【INSIDE SEAGULLS by NISSO】 Vol.1 田中翠 |ピッチの外で見つけた“自分の価値”
アスリート社員として、誰かの世界を広げたい
ーー前回のインタビューでは、アスリート社員としての新しい可能性について話していました。その考え方は、どのように形づくられていったのでしょうか?
松井)広報としての活動を始めるとき「サッカー選手としての価値も、NISSOスポーツのライター活動で高められる」と言っていただきました。
試合に出る、勝つといった競技の結果だけではなく、仕事を通してアスリートとしての存在意義を広げられる。それまでの私は、サッカーで結果を出すことでしかアスリート社員としての価値を高められないと焦っていたので、別の形で会社やチームに貢献できることがあるんだと気づかされました。
ーーこの1年で、アスリート社員としての手応えは感じていますか?
松井)感じていますね。現在は社内で私のことを知ってくれる人が増えましたし、普段接点のないグループ会社の方々から声をかけていただくことも増えました。実際に社員の方がご家族と試合を観に来てくださることもあります。
また、サポーターの方が日総グループに興味を持ってくださることもあり、少しずつ私をきっかけに新しい交流が生まれていると感じています。そうした場面を通して、人と人をつなぐ役割を担えているのかなと思います。
ーーこれからの目標についても教えてください。
松井)今後は、自分が知らないことでも、その人の想いや背景まで含めて伝えられるようになりたいと思っています。私自身が取材を通して感じた気づきや、その人の魅力を記事を通して届けることで、読んだ人の世界を少しでも広げられる存在になれたらうれしいです。
今年2月には加田菜選手も日総グループに入社し、アスリート社員の仲間が増えました。これまで一人ではできなかった新しい取り組みや発信にも挑戦できると思いますし、それが今から楽しみです。
ーー最後に、読者やファンの皆さんへメッセージをお願いします。
松井)いつも気にかけてくださり、本当にありがとうございます。毎回記事を読んでくださる方、感想を送ってくださる方、皆さんからいただく反応1つ1つが嬉しく、また次への力になっています。
私は決して完璧な文章を書けるわけではありません。でも、アスリート社員だからこそ伝えられることや、ありのままの視点があると思っています。
これからもそんな記事を届けていきたいと思いますので、引き続き応援していただけたらうれしいです。
ーーありがとうございました!