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「簡易的な評価ではなく、長期的な評価を目指せ」人材育成のプロに学ぶキャリア不安との向き合い方【坂井風太】

求人ボックスジャーナル

「簡易的な評価ではなく、長期的な評価を目指せ」人材育成のプロに学ぶキャリア不安との向き合い方【坂井風太】【求人ボックスジャーナル】はたらき方やキャリアを考える機会を創出するメディア

人材育成のプログラムを提供する株式会社Momentor代表の坂井風太さん(取材当時33歳)。大学卒業後の2015年にDeNAに入社し、旅行事業・ゲーム事業を経験。2017年に小説投稿サイトを運営する子会社に異動し、2020年からは代表取締役社長に。2022年に起業するまで、ハイスピードでキャリアをステップアップさせてきました。激動の20代を過ごした坂井さんは、困難や不安とどう向き合い乗り越えてきたのでしょうか。

不器用でも徐々にできるようになればいい 自分に呪いをかける言葉は気にしない

Q.坂井さんは20代のうちにたくさんのご経験を積まれていますが、キャリアの中で最も辛かった・大変だった時期はいつでしたか?

入社1年目の旅行事業部にいた時が一番辛かったですね。「最初から完璧にできなきゃだめだ。俺の背中を見ろ」というスタンスの先輩がいて、その人と合わなかったんです。毎日怒られるんですよ。「今日も怒られるな」と思って朝起きるし、夜も「明日も怒られるのかな」と思いながら眠りについていました。当時は自分が100%悪いと思っていましたし、私にも落ち度はありましたが「坂井はデキが悪い」と周りに吹聴され、完全に萎縮していました。業務中はほぼ頭が回っていなかったと思います。

新卒入社して間もない頃は、自分の先輩をはじめ半径5mくらいの近くにいる人が絶対的な存在だと思ってしまいますよね。でも、 自分に呪いをかけてくる人は無視していいんです 。新卒入社当時は「お前は本当にだめだな」と言われていたなか、別の先輩が「坂井は不器用だけど5年後に伸びる」と言ってくれていました。 最初は不器用でも、徐々にできるようになればいいと教えてくれたんですよね 。自分を信じてくれる人の言葉を大切にしようと思いました。

もちろん、呪いをかけてくるような相手でも、言っていることは一理あるかもって思考自体は大事だと思います。でも、本当に自分のためを思って指摘してくれるのと、マウントを取ろうとするのは違いますよね。合わない先輩の言っていたことは自分の才能を誇示するためのフィードバックだなと途中で気付き始めて、この人の言うことは聞かなくていいと思いました。ただ、その先輩に最近謝られましたが、完全に悪気があったわけでもないですし、理論や手法もなく会社で評価されてしまうと「俺の背中を見ろ!」となるのは、自然なのかもしれないと思います。

また、「なぜあの手法は良くなかったのだろう?」「どうして人はこういう振る舞いをしてしまうのだろう?」という問いが生まれ今の事業にも繋がっているので、無駄ではない経験だとも思っています。ただ、そういった「負の遺産」を後世に残したいとは一切考えていないので、復讐心を「使命感」に変えて仕事をしているという感覚です。

Q. そこに気付くまでの間に、仕事を辞めたいとは思わなかったんですか?

辞めたらお金がもらえなくなりますから。実家がそんなに裕福ではなかったので、奨学金もフルで借りていました。奨学金は1年で返したんですけど、働きすぎて体調崩しながらでしたね。

でも、お金に困る人生の苦労を知っていたので、いっぱいお金を稼がなければと思っていました。また、僕は24歳で結婚して妻とは新卒1年目からずっと一緒だったので、その責任感もあって辞める選択肢はなかったですね。今思い返すと、精神的にも潰れる寸前だったので、ギリギリのところで踏みとどまっていたという感じです。

煽られず踊らされず、長期的に評価される人材を目指せ

Q. 人間関係以外で、20代のキャリアに関して悩みや不安はありましたか?

「何者にもなれないのではないか」という不安は漠然とあったと思います 。例えば、データサイエンティストが流行り始めたってことは、そういう勉強をしなければいけないのかなっていうような焦りですね。でも、正直「20代ってそんなもん」だとも思ったんです。不安はあったけれど、自分が今果たすべきことをやっていれば、何も怖くないと思っていました。

当時、自分の中で「仕事に対するこの姿勢を失ったら終わり」と思ったことを書いた「最強ノート」というものを残していたんです。その3行目に「 短期的な評価よりも長期的に評価されること 」と書いていました。「短期的にこれができました」とか「このスキルを身に着けました」ではまずい、陳腐化していくと思っていたんですよね。

これはまた別の先輩に言われた言葉で、すごく記憶に残っているのが「 何者かになろうと思っていると何者かになれなくて、ものすごく一生懸命やっていたら結局何者かになっていた。因果関係を逆に捉えないほうがいい 」という言葉。確かにそうかもなって思ったんです。それから、目の前のことを一生懸命やったほうがいいと考えて取り組んでいました。

Q. 「長期的に評価されること」を目指すのが、不安払拭の指針になりそうですが、そのために大切なことは何でしょうか?

「煽られるな 踊らされるな」ということだと思います。キャリア教育において、主体化と社会化という言葉があります。主体化は自分の好きなことを突き詰めること、社会化は順応することです。このうち、社会化(順応)のほうに振り切ってしまうとこの先のキャリアが厳しいのではないかと気付いたんです。

社内で評価されるとか、SNSのフォロワーに評価されることばかり言ったりやったりしていると、 自分が本当に磨くべき武器が弱くなってくる 。要は局所的・部分的に最適化されたうえでの社会化(順応)なので、主体化とのバランスが崩れて消費されてしまうんです。周りの人が評価しているから、周りが盛り上がってくれるからと主体性が欠けてくると、本来自分がやりたいこととはかけ離れたところに着地してしまうんです。だから、周りの反応や評価に「煽られるな 踊らされるな」が大事だと思います。 簡易的に評価されるよりも、本質的に必要なものを蓄え続けるほうが長い目で見たら有利 だと思うんですよね。

顧客の喜びや価値を生む感覚を、最軽量で味わい続けたい

Q. 各部署で全く違う仕事を経験する中、なぜ人材育成の分野の振り切ろうと思ったんですか?

2年目から配属されたゲーム事業部で仕事をしていた時、マネジメントの力に気付いたんです。いろいろな仕事をコツコツやっていくなかで、僕はゲーム開発者ではないのに「坂井って何でもできるんじゃない?」という雰囲気になり、後半は新規機能の開発担当になりました。正直僕は開発のことはわからなかったんですが、なんでも自分が一番詳しくて優秀である必要はないと思いました。いろんな専門家を束ねたほうが成果が出るなと思ったんです。

それと、僕は伸びている先輩と伸びていない先輩の差をずっと考えていました。僕は分析が趣味なので伸びていない先輩を観察したところ、承認欲求が強かった。 功名心で仕事をするのがばれているから周囲の信用を失い、さらにキャリアを失っていくんです 。これは非常にまずいと思いました。もっと言えば、伸びていない先輩だけが悪い訳ではありません。だめだと思い込ませるような言葉を浴びせる周囲の人も、人を無能化させる原因だと思いました。そういった分析と学術理論との紐づけが蓄積され、人材育成のノウハウができたことで、事業化を意識するようになりました。

Q. 会社員として上を目指すのではなく、起業を選んだのはどうしてですか?

僕は子会社の代表取締役まで務めましたが、ある先輩に「坂井さんの望むところはもう上にはない。これ以上昇格すると、ここからの仕事はほぼ調整。坂井さんの本当の良さが消えると思います」と言われました。確かに、事業をつくる筋肉と、大企業を運営する筋肉は全く違います。大企業で出世することも一つの幸せの形ですが、僕は顧客の喜びや価値を生む感覚を一番純度高く感じられ、それを最軽量で味わえるほうが幸福だと思ったんです。

また、企業の課題を解決するためのノウハウをつくる能力は備わったから、ここからは自分で顧客を見つけて事業化する能力を伸ばしたほうがいいとも思いました。そのための筋肉は、これ以上この会社にいても身につかないなと。

あとは、「 後悔最小化戦略 」ですね。人材領域で体系化している人が社内にいなかったので、まず社内で作って副業で試したら手応えがありました。自分の得意領域と時代の波が重なることは、なかなかない。後悔しないためにはここがタイミングだと思い起業しました。

人材領域はやたらと「これが大事!」と言い切っている一方で、何を持って正しいと考えているのかが謎のサービスであふれているんですよね。だからこそ知的誠実さをもって、普遍性・実践性のあるものを届けなければいけない。事業を通して、本質的かつ骨太な価値を追求することを大切にしています。

プロフィール

坂井風太

早稲田大学法学部卒業後、2015年DeNAに新卒入社。旅行事業部(現エアトリ)に配属後、ゲーム事業部、小説投稿サービス「エブリスタ」に異動。2020年にエブリスタ代表取締役社長に就任。M&Aや経営改革などを行うと同時に、DeNAの人材育成責任者として人材育成プログラムを開発。2022年にDeNAとデライト・ベンチャーズ(Delight Ventures)から出資を受け、株式会社Momentorを設立。組織効力感や心理学をもとにした人材育成と組織基盤構築の支援を行っている。

企業サイト 株式会社Momentor X(旧Twitter) 坂井風太

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