【自閉症・ADHD】「診断書が必要」幼稚園からの心折れる宣告が転機に?早期療育への葛藤と母の決断【読者体験談】
監修:藤井明子
小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長
初めての育児、「珍しいな」と思っていた息子の行動が不安に
子どもの「珍しい」行動(つま先歩き、こだわり、睡眠の課題など)が、発達障害の特性かもしれないと気づいた時集団生活の中で生じる子どもの特性による困難や、園からの厳しい言葉に直面した際の親の孤立感や葛藤、そしてその乗り越え方早期に適切な診断と支援(早期療育・ペアレント・トレーニング)へ繋がった具体的な体験談保護者の気持ちに寄り添い、適切な情報提供や助言をしてくれる保健所の心理士や医師など、理解ある専門家の存在
わが家の息子は現在9歳、3歳の時にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)と診断されています。
息子には、2歳になる頃から「珍しいな」と感じる行動がいくつか見られました。つま先歩きや、床でゴロゴロ転がる行動がよくあったことを覚えています。特に印象的だったのは、積み木を高く積むのではなく、ひたすら横一列に並べて遊ぶ様子でした。
「楽しそうだな、上手だな」と思う一方で、ほかの子はあまりしない遊び方を見て、「珍しいな」と感じていました。息子の行動を見たママ友から「自閉症かも?」と指摘され、「もしかしたらそうかもしれない」と不安を抱き始めたのもこの頃です。
また、睡眠の悩みも深刻でした。日中思いっきり遊ばせていても、小さな物音ですぐに目を覚ましてしまい、暗い部屋の中で遊び始めてしまうのです。夜間に数時間おきに起こされる生活は、心身に大きな負担でした。夫は仕事でほとんど家にいないため、週6日はワンオペで、早朝から夜遅くまで必死に家事と育児をこなしていた私は、常に睡眠不足と疲労困憊の状態でした。
プレ幼稚園で「おかしい」と言われ、孤独な毎日を送る
プレ幼稚園の2歳児クラスに通い始めると、私の不安はさらに大きくなりました。ほとんどの園児がオムツを卒業している中、息子だけはトイレトレーニングがなかなか進みません。集団行動の場面でも、一人だけ違う行動をしていることが多く、園の先生方からは「『男の子、集まってー』と言っても反応しない」と指摘を受けました。
言葉についても、二語文までは順調だったのが、三語文から約1年間、発語が進まなくなっていました。「青は『あ』、ぶどうは『ぶ』」のように、頭文字しか出ないことが多かったのです。先生方からは「2歳児でこんなにことばが遅いのはおかしいと思う」と言われたことで、私の子育てを責められているようにも感じ、孤独な毎日を過ごしていました。唯一、私の気持ちに共感し、寄り添ってくれたのは、定期的に相談していた保健所の心理士さんでした。
「息子さんは、こちらが言っていることは理解していると思います。言葉が遅い子もいます。まだ様子を見てもいいと思うし、気になるなら療育先を紹介できますよ」
この言葉は、私の感覚が間違っていなかったと、救われた気持ちにさせてくれました。しかし、事態は、入園を控えた秋に、突然急展開を迎えます。
「診断書がないと通うことは難しいです」幼稚園からの宣告
入園の願書を出す時期、私は主任の先生に職員室前の廊下に呼び出されました。
「息子さんの今の様子をお母さんはどう思っていますか?明らかにほかのお子さんたちと違うと思いませんか?」「診断書をもらってください。そうでないと、うちの園に通うことは難しいです」と告げられました。
さらには、「投薬なども検討したほうがいいかもしれません」とも言われました。
何でここまで言われないといけないんだろう。きっと入園させたくないんだろうな。先生の言葉に、私は深く傷つきました。春から頑張って通わせていたのに、こんなふうに言われるなんて……さまざまな思いや疑問がありましたが、私はグッと堪え、こう伝えるのが精一杯でした。
「確かに、ほかの子たちと行動が違う部分があります。言葉や反応も遅れているので発達支援センターへ連れて行く予定です」
初めての育児で「正解」が分からなかったこと、そして、ここで反論すれば園での息子への対応に影響があるかもしれないと感じて、自分の思いを全て伝えることはできませんでした。心身ともに疲弊していた私にとって、発達支援センターへ息子を連れて行くことは、大きなハードルでした。この園に通わせたいわけではない。でも、ほかの園に変えるにしても、息子の特性に向き合うことは後々必ず必要になると、私は意を決して、一歩踏み出すことを決意しました。
憤る医師の一言に救われ、「早期療育」の道へ
その後、発達支援センターで発達検査を受け、紹介された児童精神科の医師の言葉は、私にとって大きな転機となりました。私の話を聞いた医師は、まず「園の先生からそのようなことまで言われたんですね。でも、診断するのは医師ですから」と、園の対応に憤りをあらわにしてくれたのです。私の気持ちに寄り添ってくれた医師の存在に、心から救われた瞬間でした。
そして医師からは、「現時点で診断名をつけるとしたら、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)です。でも、成長と共に特性の表れ方が変わったり、困りが軽減したりすることはあるかもしれません。診断書を出すからには、園には適切な対応を取ってもらいたいと思います」と言いました。
私は薬の服用は希望せず、「まずは療育から始めたい」と伝えました。結果的に、園からの厳しい言葉がきっかけとなり、私たちは早期に適切な支援を受ける道へと繋がることができました。療育では、素晴らしい先生方に出会い、息子は楽しく通いました。私もペアレント・トレーニング(ペアトレ)を受け、「困った行動への見方」が変わりました。園では相変わらず理解が乏しい状況が続きましたが、療育で毎回フィードバックをもらい、肯定してもらうことで、そんな状況も乗り切れました。療育での学びを家庭で実践し、息子との関わり方が劇的に改善していきました。
「周りと比べず、寄り添う支援の大切さ」
今、9歳になった息子はすっかり「多弁」になり、言葉でいろいろなことを伝えられるようになりました。発語が進まなかったあの時期を乗り越え、活発に話す息子を見て、当時の保健所の心理士さんの「今はいろんなことを吸収してる時じゃないかな?」という言葉は本当だったのだと実感しています。息子は、今でも一斉行動は苦手で、運動は好きだけど得意ではありません。でも、工作やボードゲームが好きで好奇心旺盛、聞く力と記憶力は抜群で、いいところもたくさんあります。
幼稚園での出来事は、「世の中、まだまだ理解が乏しい」という現実を知る機会ともなりました。そして、息子にどう成長してほしいか、という本質に焦点を絞るきっかけになりました。つらい経験も学びととらえて、理解ある方たちの支えに勇気をもらいながら、ここまで息子に伴走してきてよかった、と心から思います。
これからも適切な支援を受けながら、息子の「楽しい」や「好き」という気持ちを大切に、親子で前に進んでいきたいと思っています。そして、支援が必要な全ての子どもたちが、適切な支援を受けられる社会になることを願っています。
イラスト/マミヤ
エピソード参考/七転八起
(監修:藤井先生より)
お母さまが息子さんの発達に丁寧に寄り添いながら、たくさんの試行錯誤を重ねてこられた姿が浮かびました。幼稚園からの指摘はきっとお母さまにとってつらい瞬間もあったと思いますが、その経験を通じて早期に療育へとつながったことは、息子さんにとって大きな支えになったのではないでしょうか。発達の特性はお子さん一人ひとり異なり、幼い時期には診断がはっきりしないこともあります。少しでも気になることがあれば、発達支援センターや地域の相談窓口などに早めに相談してみることが大切です。息子さんに合った支援を模索し続けてこられた積み重ねが、今の息子さんの成長につながっていることを感じました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。