娘を亡くしたデリヘル嬢への“奇妙な撮影依頼”とは?フェティッシュでダークなボディホラー『NEW RELIGION』
『NEW RELIGION』から染み出す狂気
都市の片隅で悲しみを抱えながら生きる一人の女性を通して、じわじわと不穏が滲み出していく――。
2021年制作の映画『NEW RELIGION』はジャンルや形式にとらわれず、観る者の感覚に静かに訴えかけるインディペンデント・ホラー。日本に先んじて海外の映画祭で注目を集めてきた本作が今年、ついに7月18日(金)より凱旋公開中だ。
喪失を抱えたデリヘル嬢への奇妙な依頼とは…?
主人公は、不慮の事故で幼い娘を亡くした母、雅(演:瀬戸かほ)。彼女は深い喪失感を抱えたまま、現在はデリヘル嬢として働いている。ある日、雅は怪しい客から奇妙な依頼を受けることに。それは「身体の一部を順番に撮影させてほしい」というものだった。最初は戸惑いながらも応じる雅だが、撮影を重ねるうちに、なぜか亡き娘の“存在”を感じはじめ……。
印象的なのは、映像と音の静かな迫力。どこか遠くから微かに響くように鳴り続ける音は、無意識下で不安を煽る。映像は淡々と霞のように美しいが、都市の無機質さが孤独を際立たせている。いわゆる“Jホラー”的なものではなく、まるで喪失そのものをじんわりと描いているような、不思議な余韻が漂っている。
静かな演技から滲み出る不安、刺激される映画的記憶
雅を演じる瀬戸かほの、直接的な表現を超えた静かな佇まいの説得力に驚かされる。セリフは少なく、しかし沈黙のなかに滲む感情。その空気感に、喪失の痛みを疑似体験させられる観客もいるだろう。また、依頼主となる男の存在は謎めいていて、物語全体を不安定に揺さぶってくる。
おそらく多くの観客が、デヴィッド・クローネンバーグ的なボディホラー作品を想起するだろう。身体を通じて記憶や別の存在に触れるというアイデアは、『ヴィデオドローム』(1983年)などに通じるものだ。一方で、説明できない現象が日常に静かに入り込んでくるような展開は、黒沢清に代表される日本の心理スリラーの空気も漂わせている。
儀式としての映画体験、体内に残り続ける余韻
本作は便宜上“Jホラー”の系譜に位置づけられるかもしれないが、もちろんその枠にとどまらない。アートハウスホラーか、抽象的なSF、あるいは実存的スリラーなどの要素がミックスされていて、それは観客をジャンルという縛りから解放する。
写真のもつ暴力性や死者との接触への渇望――それらが繰り返されていくなかで、映画そのものが静かな儀式のようになっていく。それは観客自身の内面へと反射し、鑑賞後もしばらく体内にジリリとした残留物を感じさせ、奇妙な余韻を引きずることになる。
『NEW RELIGION』は7月18日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開中