再開発で生まれる“隙間”をどう生かすか。「可動産」が変えるまちづくりの常識
再開発が進む街には必ず、「空白の時間」が生まれる。高架化された線路の下、取り壊し待ちの空き地、用途が決まっていない暫定的な土地。こうした隙間を、固定的な建築物ではなく、動かせる構造物で埋めようという動きが全国で広がっている。そのキーワードが「可動産」だ。
「不動産」ならぬ「可動産」とは本来、動かせる財産全般を指す言葉だが、近年まちづくりの文脈では特に、トレーラーハウスやコンテナなど移設・撤去が可能な構造物の活用を指すことが多い。初期投資を抑えながら、まずやってみる。うまくいけば続ける、ダメなら動かす。そんな軽やかな発想が、都市の余白に新しい価値を生み出し始めている。
今回は東京都足立区と佐賀県佐賀市の取組みを通じて、可動産がまちづくりにもたらす可能性を探る。
まちの余白に、新しい可能性が宿る
再開発や都市整備が進む一方で、日本の多くの都市では人口減少や空洞化が同時に進行している。整備を待つ間に生まれる空き地や暫定地、そして再開発後に残る「使い道が決まらない空間」は、今後もむしろ増えていく見通しだ。
恒久的な建物を建てるには、計画・審査・整備に数年単位の時間とコストがかかる。一方で空白を放置すれば、街の印象は悪化し、エリアの価値も下がっていく。
この「待てないが、建てるほどでもない」という現場のジレンマに対して、可動産はひとつの現実的な答えとして浮上している。
再開発に使われる可動産の主な例
ただ、可動産と一口に言っても、その種類は幅広い。ここでは再開発やまちづくりの現場で実際に活用されている代表的なものを紹介する。なお、トレーラーハウスをはじめとする可動産の一部は、一定の条件を満たすことで建築基準法の適用外となり、建築確認申請や固定資産税が不要になるケースもある。初期コストを抑えやすいことが、まちづくりの文脈で注目される背景のひとつだ。
・トレーラーハウス:車輪付きのシャーシ(土台)に載った構造物。随時かつ任意に移動できるなどの条件を満たすことで「車両」として扱われ、一定の条件を満たすことで建築確認申請や固定資産税が不要になることもある。インフラを接続すれば通常の建物と同等の快適性を確保できるため、仮設の店舗やインフォメーションセンターとして重宝される。
・コンテナハウス:輸送用コンテナを転用した、移設可能な建築物。建築基準法をクリアした建築用コンテナを使えば、複数の箱を組み合わせた複合施設も短工期で構築できる。そのデザイン性の高さから、開発エリアの早期ブランディングにも活用されている。
・キッチンカー:調理設備を搭載した移動販売車。本格的な商業施設が開業する前のテストマーケティングの場として機能し、にぎわい創出にも直結する。曜日や時間帯に応じた柔軟な出店ができる点も強み。
・プレハブハウス(移設型):工場で完成させた箱型の構造物を現地に設置する簡易建築物。工期が短く、移設や再販も容易なため、初期投資リスクを抑えやすい。工事関係者の詰所から仮設テナントまで、用途は幅広い。
・ステージトレーラー:荷台を展開することで音響・照明設備を備えたイベントステージになる特殊車両。インフラが未整備な開発予定地でも即座にイベントを開催でき、地域住民との関係づくりに貢献する。
まちづくり視点で見る可動産
こうした可動産の活用は、欧米で広がる「タクティカル・アーバニズム(戦術的まちづくり)」という考え方と重なる部分が多い。低コスト・短期間の実験を長期的な都市計画の道標にするこのアプローチの合言葉は「Short-term Action for Long-term Change(短期のアクションで長期の変化を生む)」だ。意識していたかどうかに関わらず、可動産を使ったまちづくりは、まさにその発想を体現している。
まちづくりという視点でのメリットは大きく3点ある。まず導入コストの低さ。固定建築物に比べて初期投資を抑えられるため、行政や民間を問わず試行的な取組みがしやすい。次に柔軟な運用。配置の変更や台数の増減が可能で、用途や規模を状況に応じて調整できる。そしてスピード。建築確認申請が不要なケースもあり、固定建築物に比べて短期間での設置が可能だ。
一方でデメリットもある。夏の暑さ・冬の寒さへの対応、地域への愛着形成や長期的な投資回収という観点での永続性のなさ、給排水設備の制約など、設置環境によってできることに限界が生じる場面もある。
次に、実際にまちづくりの現場で可動産を活用している、東京都足立区と佐賀県佐賀市の事例を担当者へのインタビュー取材とともにその有効性について見ていく。それぞれ、トレーラーハウスとコンテナという異なる種類の可動産を活用した事例となっている。
東京都足立区 高架下での可動産活用:トレーラーハウス
竹ノ塚駅の高架下、線路沿いに黒いトレーラーハウスが数台並ぶ「たけのつカー&パーク」。2026年4月に開園してまだ日が浅いが、土日には100人以上が訪れる日もある。可動産のひとつはキッチンとして機能し、利用者が自分でイベントを企画・開催することもできる。「役所がつくった施設」という雰囲気をあえて消した、使う側が主役の空間だ。
トレーラーハウスを活用したこの場所の誕生について、足立区役所SDGs・協創推進課長の小宮 舞子さんに話を伺った。
ー可動産を活用することになった経緯について教えてください。
小宮さん:竹ノ塚駅の高架化に伴い、高架下に公共利用用地が創出されました。区としても活用方法をさまざまに検討していたのですが、思った以上に支柱が多く、難航していました。
同時期に、SDGs・協創推進課が進めていた新しいコミュニティやにぎわい創出の取組みを竹の塚エリアにも展開するタイミングだったため、活用方法が決まるまでの暫定活用として、地域の交流スペースとして使うことにしました。
常設のものを建てるのは避けたい、建築基準法に基づく建築物では審査期間が長い、かといってプレハブでは殺風景で交流が生まれにくい、そう考えていく中で消去法的に辿り着いたのが、トレーラーハウスでした。
固定的な建築物には、初期投資が大きい・用途変更が難しい・撤去コストが高いという課題があります。一方でトレーラーハウスのような可動産であれば、比較的低コストで導入でき、必要に応じて移設でき、試行的に始められる。当課が大切にしている「まずやってみる」という姿勢と非常に相性が良かったんです。
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―実際に可動産を活用してみて、どのような効果を感じていますか。
小宮さん:固定建築物を建てると用途が限定されがちですが、可動産であれば配置の変更・台数の増減・空きスペースの活用が柔軟に行えます。結果として、イベント、マルシェ、キッチンカー、屋外の交流など、多様な使い方が可能になっています。
また、トレーラーハウスは通常の公共施設とは見た目が異なり、「なんだか面白そう」「自分も関われそう」という心理的なハードルの低さにつながっているとも感じています。「役所の施設」という堅さではなく、何か新しいことが始まりそうな空気感が生まれているのだと思います。
高架下という変化に対応しやすい環境において、可動産を活用することで、初期投資を抑えつつ柔軟な運営を可能にし、利用者の主体性を引き出す実験的な場づくりが実現できています。
佐賀県佐賀市 芝生の空き地での可動産活用:コンテナハウス
佐賀市の中心市街地、歩行者専用道路に面した芝生の空き地にあるのが、「わいわい!!コンテナ2」。並んでいるのは、雑誌・絵本・漫画など約300種類を自由に読める読書コンテナ、サークル活動等に使える交流コンテナ、チャレンジショップの出店を支援するチャレンジコンテナ、誰でも自由に使えるトイレコンテナ。それぞれの箱が異なる役割を持ちながら、ひとつの「街のリビング」を形成している。
ここでの可動産の活用について、運営団体「NPO法人 まちづくり機構ユマニテさが」のタウンマネージャー庄野 雄輔さんに話を伺った。
―コンテナハウスを活用することになった経緯について教えてください。
庄野さん:まず前提として、「わいわい!!コンテナ(2011年度のみ)」と「わいわい!!コンテナ2」は社会実験として実施された事業です(わいわい!!コンテナ2は現在も継続中)。
平成20年代前半、佐賀市の中心市街地では空き地や駐車場、空き店舗が増え、エリア全体の価値やにぎわいの低下が大きな課題となっていました。もちろん、当時から出店補助など空き店舗対策事業は行われていましたが、街なかの魅力が弱まる中では新たな出店も多くはなく、「どうすれば街なかに人の流れを生み出せるか」が大きなテーマとなっていました。
そこで、まず人が街に足を運ぶきっかけをつくろうという考え方にシフトしました。買い物だけでなく、ワークショップへの参加や散歩など、何らかの目的で街なかに来るきっかけをつくる。
それを社会実験として検証するために始まったのが、2011年にスタートした「わいわい!!コンテナ」です。この事業では、空き地にコンテナを設置して読書スペースをつくり、広場には芝生とウッドデッキを敷設。こうした空間づくりによって、人の動きや滞在の仕方がどのように変化するのかの検証が、社会実験として1年間実施されました。
また、わいわい!!コンテナ以外でも、当時は数多くあった「空き地」をプラスに転換するという戦略の上で、空き地の緑地化を進め、誰でも訪れやすくなる空間づくりが進められていきました(「Re-原っぱ」計画)。
わいわい!!コンテナプロジェクトにおいては、前回の取組みで見えてきた課題や成果を踏まえ、翌2012年には場所を近くの空き地に移転し、コンテナ数も増やした「わいわい!!コンテナ2」として再スタートしました。こちらも基本的には単年度の社会実験事業という位置づけで進められ、現在に至りますが、ここをきっかけに人の流れが活発になり、10数年以上かけてこのエリアに多くの店舗(特に若い商店主)が出店してきました。エリアの価値が高まった証拠です。
このプロジェクトは、当初より建築物を整備するという発想ではなく、あくまでも社会実験としての拠点、街に人の流れを生み出す装置的な役割であったため、不動産ではなく可動産を活用するのは必然だったと言えます。
また、スタート時より企画面でフォローしていただいた株式会社ワークヴィジョンズさんの存在なしには語れません。
―実際に可動産を活用してみて、どのような効果を感じていますか。
庄野さん:大きなデメリットは特にありません。細かい点では冬は寒く夏は暑いといった点はありますが、運営オペレーションの改善で対応できる範囲です。
メリットは移動のしやすさに尽きると思います。2011年の単年度で終了したコンテナも、現在は別の場所で活用されているという話を聞いていますし、2018年に佐賀市内で開催された「肥前さが幕末維新博覧会」においては、わいわい!!コンテナ2の一部をパビリオンとして利用するためにコンテナの向きが少し変更されました。
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可動産でまちの余白を「問題」から「可能性」に変える
足立区と佐賀市、規模も背景も異なる二つの事例に共通するのは、「完成形を待たずに動き出す」という姿勢だ。タクティカル・アーバニズムが掲げる「Short-term Action for Long-term Change(短期のアクションで長期の変化を生む)」、その言葉をそのまま体現するような取組みが、可動産という道具を得て実現していた。
佐賀では空き地にコンテナを置いた社会実験が、10年以上かけてエリアの活性化につながった。竹ノ塚では高架下という扱いにくい空間が、人が主体的に関わりたくなる交流の場へと変わりつつある。いずれも、はじめから完成された計画があったわけではない。小さく試し、反応を見て、次へ進む。その積み重ねが、まちを動かしていた。
耐久性や断熱性といったデメリットは、運用の工夫で対応できる範囲だという声が現場からは聞こえてくる。むしろ「動かせること」「試せること」こそが、まちづくりの文脈では何よりの強みになる。
再開発が進む街には必ず隙間が生まれる。その隙間を、リスクを抑えながら実験の場に変えられる可動産は、これからのまちづくりにおける現実的かつ有効な選択肢だ。まちの余白は、問題ではなく可能性だ。可動産はその発想の転換を、形にする有力な手段だといえる。
馬橋 翔
フリーランス
「遊びは、暮らしを映す鏡。」 都市のライフスタイルやまちづくり、住まいの価値観をテーマに、生活文化を編集・発信。 ブログ『チェア活!』では、“休むことからはじまる都市の豊かさ”を探求している。