ワインが導く更生のかたち。シエナ刑務所でスタートしたソムリエ養成コース Italy [Siena]
イタリアの刑務所における「食」を通じた受刑者更生プロジェクトは、今や全国で多様化しながら展開しており、決して珍しいものではなくなった。それでもなお、その希少さで注目を集めている取り組みが、トスカーナ州シエナ刑務所でスタートした。イタリアソムリエ協会(AIS)トスカーナ支部による、受刑者のためのソムリエコースである。
現在、およそ70名の受刑者が収容されているシエナ刑務所は、市の中心部に位置する14世紀に建てられた元修道院の中にある。ここで2026年1月から始まったのが、「VITE LIBERA(自由な人生・新たな出発)」と名づけられたプロジェクトだ。内容は一般のソムリエコースと同様に3レベルで構成され、週1回2時間の授業が行われている。受講者は6月に筆記試験と実技試験に臨み、合格すればソムリエ資格が授与される。
本来、刑務所ではアルコールの摂取はもちろん、ガラス製のワイングラスの使用も禁止されている。しかしこの授業では、実際にワインをテイスティングしながら、料理との相性やサービスについても学ぶことができる。内容はほとんど正規のコースと変わらない。
コースは無料で提供されており、仮出所中の者に限らず、希望すれば受講可能だ。現在は6名が参加しており、その中にはムスリム教徒の受刑者、また元アルコール依存症の受刑者も含まれている。
フランスワインの授業でテイスティングした4種類のワイン。刑務所でもきちんと事前に温度調整をして試飲する。
授業で使用されるイタリアソムリエコースAISの教科書。正規のコースと同様のものが配布される。
イタリアで初となる刑務所内ソムリエコースを実現したグラツィアーノ・プーイヤ所長は「出所後により安定した収入を得ることで、被害者への賠償を継続できる可能性もある」と語る。刑務所で過ごす時間を“止まった時間”にするのではなく、社会復帰につながる時間に変えていくことが目的だという。
シエナはワイナリーやレストランが多い地域であり、こうした取り組みとの相性も良い。また飲食業界では人手不足も深刻で、専門資格を持つ人材への需要は高い。
(左から)処遇部門責任者マリア・ホセ・ルチア・マッサフラ氏、グラツィアーノ・プーイヤ刑務所長、シエナ刑務所主任、マルコ・イノチェンティ氏。イタリアソムリエア協会と連携しながらプロジェクトを進める。
受講者がこのコースに参加した理由は、「出所後の就職に役立てたい」という現実的な動機の他、「ワインを単なるアルコールではなく、自国の文化として理解できるようになった」「自分が文化に触れ、学べるとは思っていなかった」といった意見も聞かれた。この前例のない更生活動は、イタリアにおける「食」が持つ社会的影響力と、飲食業界に関わる人々の役割の大きさ、その潜在的な力を改めて認識させられる挑戦である。
イタリアソムリエ協会トスカーナ支部の講師。「回を重ねるごとに、受講者の確かな成長が感じられます。ワインを通じて社会貢献を行うことも、私たちの大切な使命のひとつです」と語るのは、イタリアソムリエ協会トスカーナ支部代表のマルチェッロ・ヴァギーニ氏(中央)。
◎Vite Libera a Siena: AIS Toscana e il carcere Santo Spirito lanciano il primo corso per sommelier
https://vitae.aisitalia.it/vite-libera-siena-ais-toscana-carcere-santo-spirito-corso/