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ルイ•ヴィトンに身を包んだ村上隆と市川團十郎、京都に出現した屋外作品「お花の親子」に「諦めない強さを感じる」

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左から村上隆、市川團十郎

村上隆 もののけ 京都 2024.3.12(TUE) 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ

2月3日(土)より京都市京セラ美術館 新館 東山キューブでスタートし、3月15日(金)には早くも来場者10万人を突破した京都市美術館開館90周年記念展『村上隆 もののけ 京都』に、新たな作品「お花の親子」(2020)がお目見えした。2020年にコロナ禍の東京で公開され、「復活の祈りの象徴」として話題になった巨大な立体作品が、ルイ•ヴィトンのトランクとコラボして新登場。屋外展示として昼夜関係なく誰でも鑑賞することができ、9月1日(日)まで公開される。3月12日(火)に行われた完成お披露目会には、アーティストの村上隆とルイ•ヴィトンアンバサダーの十三代目市川團十郎白猿が登壇した。

現代美術作家・村上隆と市川團十郎がルイ•ヴィトンの衣装で登壇

村上隆「お花の親子」2020年 (c)2020 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co. Ltd. All Rights Reserved. 「ルイ・ヴィトン モノグラム・マルチカラーのトランク」 (c)LOUIS VUITTON

東山キューブのガラス張りの通路から日本庭園を望むと、高さ13mにもおよぶ「お花の親子」が池の中に堂々と鎮座し、にっこりと笑みをたたえて黄金の輝きを放っていた。2020年に作品が発表された時は親子だけだったが、今回ルイ•ヴィトンとのコラボレーションによって巨大なトランクが加わった。このトランクは、村上とルイ•ヴィトンとのコラボで2003年に発表されたモノグラム・マルチカラーのトランクから着想を得て作られたもの。古都・京都の風景に馴染んだ同作品は、村上が京都で個展を行う意味の大きさを物語っているようだった。

完成お披露目会場には、それぞれ個性の光るスタイリングでルイ•ヴィトンの衣装をバッチリ着こなした村上隆と市川團十郎が現れた。

村上隆

村上は同館の日本庭園に展示された作品を見て、「2020年に六本木で展示された時は背景が高層ビルだったので、そんなに大きく感じませんでしたが、京都は大変見通しがよく、巨大感が表現されて、満足しています」と回答。

同作は、日本社会と西洋社会における美の受け取り方の違いを表している。「日本は花鳥風月、雪月花といった自然が主人公ですが、西洋社会はまず人間がいて、人間を取り巻く現象として自然がある。ニューヨークの現代美術の人間中心主義的な世界観の中に日本の自然現象を伝えるとしたら、人間にあたるものに記号が必要かなということで、雪月花の花に顔をつけました。人型にした方がもっと彼らの認識に近いかなと思って体をつけ始めたところ評判が良く、やはり西洋社会は人間をまず考える世界観が大変重要だと思いました。それを具現化したものがこの作品です」と解説した。

十三代目市川團十郎白猿

続いては團十郎に質問が飛ぶ。「当初「お花の親子」は、復活の祈りを込めてお作りになったようですが、今日改めてこの作品を見た時、別の印象も受けました。作品というものは、何かの役目とお作りになった方の気持ちが合わさって誕生するのでしょうけど、それから月日が流れることで、今現在我々が置かれている立場で見た時のメッセージ性の変化を感じられます。ど派手な作品ではありますが、普遍的なものが備わった作品に変化しているのではないでしょうか」と話す。

十三代襲名披露巡業の際には、当代の團十郎をモデルに、歌舞伎十八番をデザインした祝幕を手がけた村上。團十郎は「先生は、日本にあるものを日本以外の方々に伝えることに力を注いでおられる。成田屋、團十郎、荒事にフォーカスし、我が家から生まれた十八番という言葉を先生に咀嚼していただいて、先生の世界観で歌舞伎を表現し、世界の方々に伝えられるようにしていただいたことは大変ありがたい」と感謝を述べ、祝幕は「私も好きな作品で、いつも、先生のモノを作る根源は何かを感じながら拝見しているんです」と目を輝かせた。

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1.もののけ洛中洛外図

続いては展示内容を紹介しよう。村上隆の国内での大規模な個展は2001年、2015年に続いて8年ぶりで、東京以外での開催は今回が初、公立の美術館で行われるのは実に23年ぶりとなる。村上が信頼する同館事業企画推進室の高橋信也ゼネラルマネージャーからの「村上隆の過去、現在、未来を京都の文脈に絡めた展覧会を」との提案から実現した。

同展では、東京藝術大学で日本画を学び、博士号まで取得した村上が、江戸時代に京都で活躍した絵師の代表作を独自に解釈、引用して再構築した作品を中心に、最新の描き下ろし作品や国内初公開作品を含む約170点の作品が並ぶ。そのうち約160点が新作だ。

村上隆「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」2023-2024年(部分)

展示室に足を踏み入れるとまず視界に飛び込んでくるのは、全長13mにもおよぶ「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」(2023-2024)。京都市街(=洛中)と郊外(=洛外)の景観や風俗を描いたもので、17世紀に岩佐又兵衛が描いた「洛中洛外図屏風(舟木本)」を引用し、新たに村上が描き下ろした大作。かなり細かく描き込まれた図の中には、村上キャラクターのほか、じっと目を凝らすと雲の中に髑髏が見える。

村上隆「「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。」2023-2024年

会場にはところどころに「言い訳ペインティング」なるものが綴られている。お金と時間の事情で完成しきらぬまま展示されている作品が数点あり、その事情がユーモアたっぷり&赤裸々に語られている。「「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。」(2023-2024)なる作品もあり、日本のアート業界を取り巻く事情が垣間見える。会期終了まで随時展示の様子が進化したり、リアルな「今」を語ることは、村上が愛聴するヒップホップからの影響を受けているそう。一見ネガティブに思える未完成作品すらコンテンツにしてしまうのが、面白いところだ。

2.四神と六角螺旋堂

村上隆「白虎 京都」2023-2024年

京都は東西南北が山や川で囲まれている。部屋自体が八角形になった2つ目の展示室では、それを象徴する四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)をモチーフとした新作が登場。照明が落とされた暗い室内には、部屋の中央にそびえる鐘楼「六角螺旋堂」(2023-2024)と四神が四方を囲んだ村上版の「平安京」で、華やかな古都・京都に隣り合わせに存在する「死・闇・もののけ」が表現されていた。

3.DOB往還記

村上隆「レインボー」 2023-2024年

1993年に初登場した村上の代表的キャラクター「DOB」の変遷を辿ることができる。村上が提唱した「スーパーフラット」は、日本の伝統絵画から現代のアニメ、マンガへと連なる「平面性」と、戦後日本の階級の無い社会とを文脈的に関連させた現代美術の概念だ。

ドローイングをはじめ、立体的、ファンタジック、もののけ的なものや、最新作の「ズザザザザザ レインボー」(2023-2024)など、様々なDOBが一堂に会する。また、村上率いるアートの総合商社、カイカイキキのマスコットキャラクター「カイカイ」と「キキ」の作品も。ここではキャラ誕生の秘密も明かされている。

村上隆「四季 FUJIYAMA」2023-2024年

「言い訳ペインティング」とともに展示された巨大な「四季 FUJIYAMA」(2023-2024)はクライアントから受注した作品だが、まだ完成しておらず、割り切れないメンタルを表現するために割り切れない数字こと「素数」を上から敷き詰めたという。9月が納期ということなので、会期中に完成していくのだろう。

4.風神雷神ワンダーランド

村上隆「風神図」、「雷神図」2023-2024年

ここでは俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を村上流にアレンジした「風神図」(2023-2024)と「雷神図」(同)が展示されている。琳派を代表する宗達の風神雷神は、尾形光琳、酒井抱一ら琳派の絵師が模写したものをはじめ、琳派が衰退した後も葛飾北斎や前田青邨など、多くの画家がモチーフとして作品を描いてきた。時代の変遷とともに画面に作家の個性が表れてきたが、村上流の風神雷神はずいぶんコミカルでゆるキャラ風。思わずクスッと笑ってしまうゆるさが良い。

村上隆「雲竜赤変図 《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》」2010年

最もインパクトを感じるのは、横幅が18mもある「雲竜赤変図 《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》」(2010)だ。村上のルーツには、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳ら「奇想の絵師」を取り上げた美術史家・辻惟雄の名著『奇想の系譜』がある。曾我蕭白の「雲龍図」(18世紀)を参考にしたという同作品は大迫力。これまでの展示室で見てきた、細部まで作り込まれた精巧な表現とは違い、ぎょろっとした竜の大きな目やダイナミックな筆使い、したたる絵の具といった身体性を感じさせる表現に圧倒される。

5.もののけ遊戯譚

村上隆「Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023」2023-2024年

同展で村上が資金調達と文化振興の手段として導入したのが、日本のふるさと納税制度だ。プランを選ぶと、返礼品としてトレーディングカードがもらえる仕組み。かねてから「Murakami.Flowers」というNFTプロジェクトを運営してきた村上だが、今回はそれに関連した「もののけバージョン」のトレーディングカードを108枚新たに作成、「Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023」(2023-2024)として正方形の絵を壁一面に展示した。このふるさと納税によって寄付金約3億円が集まり、京都市内に通う大学生、高校生、専門学生は学生証の提示で入場の無料化が実現した。

他にもNFTコレクション「CLONE X」とタッグを組んだアバターや、村上が監督をつとめるアニメ『6HP』などのデジタルデータが絵画として展示されている。

作品画像は全て『村上隆 もののけ 京都』展示風景、京都市京セラ美術館 2024年 (c)Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co. Ltd. All Rights Reserved.

6.五山くんと古都歳時記

村上隆「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」2020年

展覧会の最後を飾るのは、全面金箔貼りの豪華絢爛な部屋。京都にゆかりのある「京都の舞妓さん アニメ風」(2023-2024)や「五山の送り火」(2023-2024)、そして「2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番」(2020)などが展示されている。

限定オリジナルグッズが多数

(c)Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co. Ltd. All Rights Reserved.

ミュージアムショップでは、Tシャツやクリアファイルなどの定番商品から、アクリルブロックやぬいぐるみなど、様々なオリジナルグッズを販売。中でもお菓子コーナーは平日でも混雑を極めていた。

展覧会のメインビジュアル「金色の空の夏のお花畑」があしらわれたストロベリーピスタチオ缶は、完売必至の人気アイテム。

八ッ橋を300年以上にわたり製造販売している聖護院八ツ橋総本店の「聖」とのコラボ商品は、オリジナルステッカー入りで、ニッキ/抹茶味と3月から新しくさくら/抹茶味の2種類が登場。

新作「風神図」「雷神図」のパッケージに、花の焼き印を施したラングドシャは、京都土産の定番となりつつある京都北山マールブランシュの「茶の菓」とのコラボ商品など、目移りしてしまうほどの豊富さ。ぜひショップも堪能してほしい。

東日本大震災直後に京都に移り住んだ村上が、真っ向から「京都」と対峙した今回の展覧会。まさに62歳の成熟した作家として、村上の過去、現在、未来を表すものであり、完成お披露目会で團十郎が語ったように、自身のルーツである日本画という伝統をリスペクトしながら、新しいことにも挑戦する熱量の高さを見せてくれた。さらに私たちに日本と海外のアート業界の違いについても教えてくれる、非常に意義深い展覧会となっていた。

未完成の作品も展示されているため、進化する展示を見に何度も足を運んでほしい。そして村上曰く「日本での展覧会は今回で最後にする」とも言われていることから、9月までに鑑賞されることを強くおすすめする。

取材・文=久保田瑛理 撮影=SPICE編集(川井美波)

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