【松田聖子と大瀧詠一メロディ】アルバム「風立ちぬ」はあの “ロンバケ” と対になる構成!
「Seiko Matsuda Composer Series」4タイトルが10月15日にリリース
今年(2025年)デビュー45周年を迎えた松田聖子の企画アルバム『Seiko Matsuda Composer Series』4タイトルがソニーミュージックから10月15日にリリースされた。6月にユニバーサルから出されたオールタイムベストに続くアニバーサリー企画となる。昨年秋にも作詞家・三浦徳子の作品がまとめられたが、作曲家別の今回は、財津和夫、大瀧詠一、細野晴臣、呉田軽穂(松任谷由実)というラインナップ。
作家別のアルバムがリリースされるということは、国民的アイドルの松田聖子もいよいよフランク・シナトラの域に入ってきたのだ。どの盤も興味深いところだが、やはり “ナイアガラー” の端くれとしては大瀧盤の『Seiko feelings -Eiichi Ohtaki Works-』が気になってしまう。全曲解説などは既に識者の方々が書いておられるので、ここではリアルタイムで松田聖子と大瀧詠一の作品に接した1980年代初頭を顧みながら、収録曲を追ってみたい。
大瀧詠一が登板するきっかけとなった松本隆
セカンドシングル「青い珊瑚礁」でブレイクした松田聖子は、サードシングルの「風は秋色」から新曲を出す度にチャート1位を記録。デビューからここまでの3曲を《作詞:三浦徳子 × 作曲:小田裕一郎》が手掛け、続く3曲はチューリップの財津和夫が作曲を担当。その3曲目、つまり6枚目のシングル「白いパラソル」で初めて作詞に松本隆が起用されたことが、次のシングルで大瀧詠一が登板するきっかけとなったのだった。
そう、アイドルシーンのトップを走っていた松田聖子の7枚目となるシングル「風立ちぬ」は1981年10月7日にリリースされた。同じ年の3月にリリースされた大滝詠一のアルバム『A LONG VACATION』がまだヒットしていた頃。アルバムと同発の「君は天然色 / cw カナリア諸島にて」に続いて、6月には「君は天然色 / cw カナリア諸島にて」がシングルカットされている。そこへ来て松田聖子の新曲を大瀧詠一が手がけるというニュースに驚き、かつ歓喜して発売日を待ちわびたのです。
シングルリリースから2週間後の10月21日にはアルバム『風立ちぬ』がリリース。さらには同日に “NIAGARA TRIANGLE Vol.2” のシングル「A面で恋をして」が「さらばシベリア鉄道」をカップリングにして両A面扱いでリリースされるという、ナイアガラーにとって、わが世の春ならぬ、わが世の秋でありました。
ⓒ THE NIAGARA ENTERPRISES INC.
大瀧詠一作品が5曲収録されたアルバム「風立ちぬ」
当時の松田聖子はあまりの多忙のせいか声帯を荒らしてしまい、「青い珊瑚礁」の時のような伸びやかで澄んだ声が出しづらくなっていたことは確か。その辺りも考慮されたであろう「風立ちぬ」は、ハスキーっぽい歌声にも映えるメロディーになっているのはさすがだ。前年の秋ソング「風は秋色」の明るさに比べると、憂いを帯びて感傷的な気分にさせられるが、グリコ・ポッキーのCMソングに使われた、サビの箇所はしっかりと際立っている。
1981年10月21日にリリースされた松田聖子のアルバム『風立ちぬ』には大瀧作品が5曲収録。「冬の妖精」「ガラスの入江」 「一千一秒物語」「いちご畑でつかまえて」、そして「風立ちぬ」と、LPの “Side A” はすべて大瀧詠一の作曲・編曲である。初めて聴いた時は判らなかったが、その後、大瀧自身が作品集のライナーノーツで、アルバム『A LONG VACATION』の収録曲と対になるように構成したと記しており、慌てて聴き直したことを憶えている。
「冬の妖精」は「君は天然色」
「ガラスの入江」は「雨のウェンズデイ」
「一千一秒物語」は「恋するカレン」
「いちご畑でつかまえて」は「FUN × 4」
「風立ちぬ」は「カナリア諸島にて」
ーー とのこと。中でもノベルティ色の濃い「いちご畑でつかまえて」は、松田聖子の可愛らしい歌唱と相まってすぐにお気に入りとなった。たしかに大滝の「FUN × 4」も大好きな曲なので納得することしきり。間奏で「むすんでひらいて」のメロディーが導入される遊び心が愉しい。
コニー・フランシスをテーマにした「Rock'n'roll Good-bye」
翌1982年3月には、新生 “NIAGARA TRIANGLE” のアルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』と大滝詠一のシングル「ハートじかけのオレンジ / cw ROCK'N'ROLL退屈男」がリリース。さらに6月の『NIAGARA SONG BOOK』 、10月の『NIAGARA CM SPECIAL Vol.2』と活発にリリースが続く中、大瀧が松田聖子に再び楽曲提供したアルバム『Candy』は11月10日にリリースされた。
そのアルバムに収録されたのは「四月のラブレター」と「Rock'n'roll Good-bye」の2曲。後者について大瀧は “松田聖子は80年代のコニー・フランシスか、というのがテーマ” と語っている。松田聖子に大瀧のノベルティタイプの曲がフィットするのは、あの類い稀なる豊かな表現力あってのこと。20歳の松田聖子は実にはつらつとしている。
今回の企画アルバムでは2023年のスペシャルアルバム『Bible-pink & blue- special edition』に収められていた松田聖子 × 大滝詠一による「いちご畑でFUN × 4」と「風立ちぬ(duet version)」も収録。さらにボーナストラックとして「冬の妖精」と「四月のラブレター」のオリジナルカラオケが今回の初出音源となる。ジャケット写真はシングル「風立ちぬ」のアザーカット。奇しくもナイアガラレコード50周年の今年に本盤が実現したことはとても喜ばしい。もちろんほかの3枚も楽しみに聴かせていただきます。