「自己責任」と「思いやり」ゴルフから学べる価値を子どもたちに|福島のゴルフを支える2人のプロにインタビュー
ダンロップブランドのタイヤやゴルフ用品メーカーとしても有名な住友ゴム工業。2014年から東日本大震災復興の意味も込めてゴルフで福島を盛り上げようと「ダンロップ・スリクソン福島オープン」をスタートさせました。2022年からは「ダンロップフェニックストーナメントチャレンジinふくしま」にその形を変え、それまで以上に “地域のため”の活動・枠組みづくりに注力しています。
「復興支援」「ゴルフを通した地域活性」「生涯スポーツゴルフの振興」「ジュニア育成」を4本の柱とした住友ゴムが行う福島県でのゴルフ活性化の取り組みを、Sports for Socialでは、さまざまな視点からひも解き、ゴルフの持つ価値や地域にとっての意義を発信します。
銀行員から転職し、福島県のゴルフ界に20年以上携わり、現在は福島県プロゴルフ会のメンバーである伊東弘昭プロ(以下、伊東)は、福島県におけるゴルフの歴史を長く見てきた一人です。さらに、西の郷スポーツクラブで指導者として関わる栗西鈴香プロ(以下、栗西)も長年福島のゴルフ界を支えてきた一人。
そんな伊東プロ・栗西プロが考える子どもたちにとっての“ゴルフ”の価値、そして福島県のゴルフ界の未来とは?
伊東弘昭プロ
1965年神奈川県出身。銀行員から転身し、ティーチングプロとして福島県において長年ジュニア指導に携わる。日本プロゴルフ協会理事を務め、福島県プロゴルフ会メンバーでもある。
栗西鈴香プロ
1965年兵庫県出身。2006年福島県が掲げた「世界を舞台に活躍できる人材育成」の取り組みに賛同したJLPGAから福島県に派遣される。以後、福島県のジュニア育成に尽力。教え子から2名のプロゴルファーが誕生した功績から2015年には「JLPGA アワード2015 ティーチャーオブザイヤー」を受賞した。
ゴルフの教育的価値をプロ目線で定義する
ーー「ゴルフにはどのような教育的価値があるのか?」は、これまでもさまざまな角度で話されてきたと思います。その良さや価値は多くありますが、“子どものころ”に行うゴルフの教育的価値はあまり考えたことがないように思います。ティーチング経験の長い伊東プロのお考えを伺えますか。
伊東)どのスポーツや物事でも共通ですが、学生のときに一生懸命に取り組む、努力することを学ぶことはすごく大切なことだと思っています。その点、ゴルフはマナーや礼儀作法があり、相手を思いやることが重要です。
加えて、自分との戦いであり、結果はすべて「自己責任」となるスポーツです。うまくいかないと物に当たる、態度に出てしまうような子ではなく、自分がレベルアップするためにさらに努力を重ねられる子がもちろん伸びていきます。
ーー自分で自分をコントロールする、ということは大人でも難しいものです。ゴルフは“ミスのスポーツ”と呼ばれるほどミスも多いものですが、子どものうちからそうしたメンタルのコントロールはできるものなのでしょうか?
栗西)素直に泣くし、スネますよ(笑)。ただそうしたタイミングは、そこで物に当たったりしたらダメだということも教えるいいチャンスにもなります。「ゴルフはいくら練習しても、プロでもミスするんだよ」「今までやってきたことや、練習場のショットがコースでできないよね」など、さまざまなことを子どもたちとよく話しています。「うまくいかないときにどうするかが次に繋がるんじゃない?」といったコミュニケーションの繰り返しですね。
大人でも受けきれないときもあるのに、子どもにそうしたことを求め続けるのは酷なのではないかと思うこともあります。それでも諦めずにこちらも働きかけますし、ベソかきながらでも努力することが大事なんだろうなと思います。
子どもなりに覚える「一緒にラウンドする人」の大事さ
ーー精神面での成長というところで、ゴルフから学ぶことは大きそうですね。
伊東)ゴルフは個人競技ですが、3人や4人でラウンドしていくので、ある種団体競技のようなみんなでの協力も大事です。自分さえよければいいというプレーはまわりに迷惑をかけることに繋がります。仲間との関わり方も子どもたちを成長させる要素の1つです。
ーー同じ組でラウンドする仲間への挨拶や礼儀なども大切にし、団体競技に必要とされる協調性も求められるということですね。
栗西)ゴルフでは、良いショットをしたときに「ナイスショット!」とみんなが褒めてくれる競技です。難しいことに対して「できた!」がわかりやすく、達成感に繋がります。仲間から言ってもらえることがより嬉しさを感じさせてくれるものですし、成功体験も作りやすいでしょう。お互いにそうした関わり方ができることが、子どもたちの成長にも大きく繋がります。
伊東)子どもが少ない影響もあって、兄弟や親戚の数も少なく、「他人と付き合うのに難しさを感じていそうな子も多くいるのではないか」と子どもたちを見ていて思うときがあります。怒られることにも慣れず、人とうまく付き合えない子が昔に比べると多くなったのかもしれません。
でもゴルフだとそんなわけにはいかず、自分だけがよければいいわけでもないスポーツです。こうした背景からも、現代の子どもたちがさまざまなことを学ぶ上で本当にいいスポーツなのではないかと思いますね。
子どもたちを“教える喜び”
ーー伊東プロは、ゴルフのティーチングの魅力をどのようなところに感じていますか?
伊東)「頑張って成果を出した!」という皆さんの喜んでいる顔に出会えるのは嬉しいですね。私は頑張る人に道しるべを少しだけ与えているだけなのに、「先生のおかげです!」なんて言われると、嬉しさを感じてしまいます。
こんないいスポーツに携わることができて、感謝もしていただける仕事。辞められなくなっちゃいますよね(笑)。
栗西)私は20歳からプロを目指したのですが、自分が小さいときにまったくもってゴルフに触れる機会がありませんでした。「子どものときにゴルフに触れる機会があったらよかったな」と思ったことが大きな理由です。そこから出会いがあり、福島県のプロジェクトでゴルフの普及育成に携わっています。
これからに繋ぐ、“教える”体制
――こうした子どもたちへの指導には、西郷村の西の郷スポーツクラブのような体制も必要になってきます。
栗西)今後子どもも少なくなっていきますし、地域と協力してゴルフに興味がある子どもたちを巻き込んでいく体制が必要になります。それぞれの競技がジュニアを囲ってしまうのではなく、子どもたちにさまざまなきっかけを与えた結果「ゴルフがよかった」という環境になっていってほしいです。中学校の部活動に関しても、この地域では必ず何かの部に入ることになっています。好きなことややってみたいことが1つとは限りませんので、複数選べるような体制があるといいですよね。そうした意味で、西の郷スポーツクラブさんのような総合型地域スポーツクラブがゴルフという選択肢を持っていただけることは非常にありがたいことです。
また、この地域には『ゴルフ場』があります。この環境を活用して育ち、大人になって「小さなころにやったことがある」と言えるような子を増やしたいですね。
伊東)“ジュニア育成”はすごく大切なことなのですが、なかなかビジネスには繋がりにくいのが現状です。こうした状況に対して、ダンロップさんのような企業が支援してくれているのはすごくありがたいです。道具や場所など、かかるものも多いゴルフにおいて、大人のボランティアだけで進めるのは限界もある中、企業さんの存在は非常にありがたいですね。
ーー子どもたちにとって与える影響の多いゴルフが、こうした環境によって触れる機会が増えるのは嬉しいことですね。本日はありがとうございました!