【2025年最新】介護職が行える「医療行為ではない行為」とは?最新ガイドラインでの変更点も合わせて解説
医療行為の定義と範囲とは?
介護職と医療職の業務範囲の違い
介護職と医療職は、それぞれ違った専門性を持ち、法律や制度によって業務の範囲がおおまかに決められています。
介護職の主な役割は、高齢者や障害者の日常生活を支援することです。具体的には、食事介助、入浴介助、排泄介助といった身体介護に加え、掃除や洗濯などの生活援助を行います。また、レクリエーション活動の支援や見守りなど、利用者の生活の質向上を目指した幅広いサポートも担当します。
一方、医療職は医師や看護師などの医療従事者を指し、医学的判断に基づいた治療行為を行う専門職です。病気や怪我の診断、治療方針の決定、薬の処方、注射や点滴などの医療処置が主な業務となります。
これらの行為は、専門的な医学知識と技術が必要であり、法律によって資格を持つ者のみに許可されています。
両者の違いとして医学的な診断や治療の判断が必要かどうか、という点があげられます。介護職は原則として医学的判断そのものは行わず、日常の生活支援や状態観察、報告などを通じて支援を行います。
ただし、現在では介護職も一定の医療的ケアを行えるよう、法改正が進んでいるのが現状です。
原則として医行為ではない行為の定義
厚生労働省は、介護現場で行われる行為のうち「原則として医行為ではない行為」について明確な定義を示しています。これは、介護職が医師や看護師の指示なしに安全に実施できる行為を指すものです。
この定義の背景には、介護現場での業務の明確化と、利用者への適切なケア提供があります。従来、医療行為か否かの判断が曖昧だった行為について、厚生労働省が統一的な見解を示すことで、介護職員が安心して業務に取り組めるようになりました。
「原則として医行為ではない行為」に該当する主な例として、以下のようなものがあります。
体温測定、血圧測定、脈拍測定 軽微な切り傷や擦り傷の処置 湿布の貼付 点眼薬の点眼 一包化された薬の内服介助
これらの行為は、特別な医学的な判断がなくても、決められた手順に従えば安全に行うことができます。ただし、利用者の状態によっては医療職の判断が必要となる場合もあるため、常に観察と報告が重要になります。
最新ガイドラインでの変更点
2025年に厚生労働省から発表された最新のガイドラインでは、介護職が行える「原則として医行為ではない行為」の範囲がさらに明確化されました。この変更は、規制改革実施計画に基づく取り組みの一環として実施されたものです。
今回のガイドライン改訂では、従来グレーゾーンとされていた行為について、具体的な判断基準が示されました。特に注目すべきは、ストーマ装具の交換や経管栄養チューブの固定補助などの行為が新たに追加されたことです。これらの行為は、適切な研修を受けた介護職員であれば安全に実施できると判断されています。
また、ガイドラインでは介護職員が行うべき行為と医療職が行うべき行為の境界線がより明確に示されました。これにより、介護現場での業務の標準化が図られ、利用者の安全確保と介護職員の負担軽減の両立が期待されています。
さらに今回の改訂では、介護職員が医療的ケアを行う際の記録の仕方や報告の流れについても、より詳しくルールが定められました。こうした変更によって、介護と医療の連携がこれまで以上にスムーズに進むことが期待できます。
介護職が実施できる「原則として医行為ではない行為」の具体例
日常生活の援助に関連する行為
介護職が日常生活の援助の範疇で実施できる「原則として医行為ではない行為」を解説します。下記の行為は、医学的判断が必要ない範囲であれば、安全な手順に従って行うことができます。
爪切り 健康な爪の切り揃えや、やすりがけは問題ありませんが、巻き爪や陥入爪など医学的処置が必要な場合は医療職の対応が必要となります。 耳掃除 外耳道の入り口付近の清拭や、見える範囲での耳垢の除去は介護職が行えますが、奥深くの耳垢除去や、耳の炎症が疑われる場合は医療職の判断が必要です。 体温測定、血圧測定、脈拍測定などのバイタルサイン測定 これらの測定値は、利用者の健康状態を把握する重要な指標となるため、正確な測定と適切な記録が欠かせません。異常値を発見した場合は、直ちに医療職に共有しましょう。
医療機器の操作や管理に関する行為
介護職が扱える医療機器の範囲も、ガイドラインの改訂により拡大されています。これらの機器を適切に使用することで、利用者に質の高いケアを提供することが可能になりました。
パルスオキシメーターや血圧計などの基本的な測定機器 介護職が日常的に使用できる代表的な医療機器です。これらの機器を使用することで、利用者の健康状態をリアルタイムで把握し、異常の早期発見につなげることができます。ただし、機器の正しい使用方法を理解し、定期的なメンテナンスを行うことが重要です。 ストーマ装具の交換 今回のガイドライン改訂で新たに追加された行為の一つです。適切な研修を受けた介護職員であれば、定期的な装具交換を安全に行うことができます。実施時には、ストーマ周囲の皮膚状態を観察し、発赤やびらんなどの異常を発見した場合は医療職に報告することが必要です。 経管栄養チューブの固定補助 チューブの位置確認や固定テープの交換など、日常的な管理業務を適切に行うことで、利用者の安全と快適性を確保できます。
ただし、これらの医療機器を使用する際は、必ず事前に十分な研修を受け、正しい手順を身につけることが前提となります。また、機器の故障や利用者の状態変化を発見した場合は、速やかに医療職に報告し、指示を仰ぐことが重要です。
緊急時の対応
介護現場では、利用者の急変や事故など、予期せぬ緊急事態が発生する可能性があります。このような状況で介護職が適切に対応することは、利用者の生命を守る上で重要です。
高齢者施設からの救急搬送件数は年々増加傾向にあり、総務省消防庁の「救急・救助の現況」によると、施設での緊急事態への適切な初期対応の重要性が高まっています。介護職は緊急時の第一発見者となることが多いため、冷静かつ迅速な判断が求められます。
緊急時の基本的な対応手順として、まず利用者の意識状態と呼吸状態を確認することから始まります。意識がなく呼吸が止まっている場合は、直ちに119番通報し、心肺蘇生法(胸骨圧迫など)をすぐに始めます。
このような場合、医師や看護師の指示を待つ時間的余裕はないため、介護職員も基本的な救命処置を行う必要があります。
また、利用者の既往歴や服用薬の情報を整理し、医療従事者に引き継ぐことも介護職の重要な役割です。日頃から利用者の健康状態や薬剤情報を把握しておくことで、緊急時により適切な対応が可能となるでしょう。
緊急時の対応は、介護職にとって責任の重い業務のひとつです。日頃から救急処置の知識と技術を身につけ、冷静な判断力を養うことで、利用者の生命を守ることができます。定期的な研修や訓練を通じて、緊急時対応能力の向上に努めることが求められます。
最新ガイドラインにおける変更点と現状の課題
最新ガイドラインでの変更点
2025年に発表された最新ガイドラインは、介護現場における医療行為の範囲を見直し、より実用的で明確な指針を示しています。この改訂は、現場の実情と法的要件のバランスを取りながら、利用者により良いケアを提供するための重要な一歩といえます。
今回の改訂で特に注目すべきは、従来グレーゾーンとされていた行為の明確化です。ストーマ装具の交換補助、経管栄養チューブの固定、褥瘡予防のためのポジショニングなど、医療行為か否かの判断が分かれていた行為について具体的な実施基準が示されました。これらの行為は、適切な研修を受け、所定の条件を満たした介護職員が実施可能と位置づけられています。
また、医療機器の使用範囲も拡大されています。自動血圧計やパルスオキシメーターなどの非侵襲的な測定機器の使用が正式に認められ、介護職員が日常的にバイタルサインを測定しやすくなりました。これにより、利用者の健康状態を日常的に把握しやすくなり、異常の早期発見が促進されることが期待されます。
記録と報告体制についても詳細な規定が設けられました。介護職員が医療的ケアを実施した際の記録方法、医療職への報告タイミング、緊急時の連絡体制などが具体的に示されています。これらの規定により、介護と医療の連携がより円滑になり、利用者の安全性向上が図られます。
さらに、研修体制の充実についても言及されています。介護職員が追加された業務を安全に行うためには、体系的な教育プログラムの確立が不可欠です。
介護職員の医療知識向上の必要性
介護現場における医療的ケアの拡大に伴い、介護職員の医療知識向上は避けて通れない課題です。利用者の高齢化と医療技術の進歩により、介護職員に求められる知識とスキルは年々高度化しています。
厚生労働省の「介護職員による喀痰吸引等の実施状況」によると、2023年度における特定行為研修の受講者は約15,000人に達しました。これにより医療的ケアに対する介護職員の関心と必要性が高まっていることがわかります。
医療知識の向上が重要な理由として、まず利用者の安全確保が挙げられます。基本的な解剖生理学や疾患に関する知識を持つことで、利用者の状態変化を早期に発見し、適切な対応を取ることが可能となります。
例えば、糖尿病や心疾患の基礎知識があれば、血糖値の変動や不整脈の兆候を見逃すリスクを減らせます。
また、医療職との効果的なコミュニケーションにも医療知識は欠かせません。共通の専門用語を理解し、利用者の状態を正確に報告できることで、医師や看護師との連携がスムーズになり、より適切な医療判断につながります。
多くの介護施設や事業所では、外部講師による専門研修やeラーニングを活用した継続学習が実施されています。これらの取り組みにより、介護職員の医療知識レベルは着実に向上しています。
介護と医療の連携強化
超高齢社会を迎えた日本では、介護と医療の連携が社会全体の重要課題です。地域包括ケアシステムの構築が進む中、介護職と医療職の協働は利用者の生活の質向上に直結する重要な要素となります。
2023年度末時点で全国に約5,000か所設置されている地域包括支援センターは、厚生労働省の「地域包括ケアシステムの推進状況」によると、介護と医療を結ぶ重要な拠点として機能しています。
これらのセンターを中心に多職種連携の仕組みが構築され、利用者一人ひとりに最適なケアプランの作成と実施が行われています。
連携強化の具体的な取り組みとして、定期的な多職種カンファレンスの開催があります。介護職員、看護師、医師、薬剤師、理学療法士などが一堂に会し、利用者の状態や課題について情報共有を行います。このような場を通じて、それぞれの専門性を活かした総合的なケア方針が決定されます。
電子カルテやケア記録システムの導入により、リアルタイムでの情報共有が可能となり、利用者の状態変化に迅速に対応できます。緊急時の連絡体制も整備され、24時間365日の医療サポート体制が構築されている地域も増えています。
研修や勉強会の共同開催も有効な手段のひとつです。介護職員が医療知識を学ぶと同時に、医療職が介護の現状や課題を理解することで相互理解が深まり、より効果的な連携につながります。
また今後は、ICT技術の活用やAIの導入など新たな技術を活用した連携の在り方も模索されており、介護と医療の垣根を越えた統合的なケア提供システムの構築が今後さらに求められます。
介護現場における医療行為の範囲は、2025年のガイドライン改訂により大幅に明確化されました。介護職が安全に実施できる「原則として医行為ではない行為」の拡大により、利用者により質の高いケアを提供できる環境が整いつつあります。
しかし、業務範囲の拡大に伴い、介護職員には医療知識の向上と適切な研修受講が不可欠となっています。特定行為研修の受講者数が年々増加していることからも、現場のニーズの高まりが伺えるでしょう。