書評『Tシャツの日本史』高畑鍬名 著 ほか4冊【サンポマスター本】
『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。というわけで、今回は2025年11月号に書評を掲載した“サンポマスター本”4冊を紹介する。
高畑鍬名『Tシャツの日本史』(中央公論新社)
街行く人から見えてくる、それぞれの時代の「無意識」
お洋服を、どのようにして身にまとうのか。この問題と最初に向き合ったのが学生服のワイシャツ、それも夏服。高校時代、「半袖を外側に1回折る」という着こなしが“イケている”という暗黙のルールがあり、折らないヤツはダサい、という扱いを受けた。じゃあ袖を折っておけばよいのかというと、そう単純ではない。イケている着こなしをしてよいのは、主に運動部所属の、クラスでも身分の高い方々に限られ、そうではない自分のような者がひとたび袖を折れば、「調子に乗っている」と袋叩きにあう。では一体どうすれば……違うんです、こんな暗い話をするつもりはなかったんです……。
本書は、Tシャツのタックイン・アウトにのみ焦点を当て、研究を続けてきた著者による、日本人とTシャツの着こなしについての考察である。Tシャツの伝来からはじまり、我々が何から影響を受け、どんな着こなしを選択してきたのか、その変遷が語られる。どの時代にも共通して言えるのは、影響力を持ったメディア、もっと言えば「ことば」の呪力により、着こなしのダサい・ダサくないが、暗黙のルールとして決められていったということ。ファッションは個性を主張するものではなく、「太陽族」や「オタク系」など、その時々につくられたことば=暗黙のルールに対しどのように距離をとるのか、という選択の結果なのだ。2025年現在、街行く人々の中には、堂々とTシャツの裾をインしている人もいる。そんな姿を目に焼き付けて、自分はインすべきか、アウトすべきか、いつも鏡の前で立ち尽くしている。(守利)
川添愛『パンチラインの言語学』(朝日新聞出版)
おなじみの映画、漫画、ドラマの名台詞=パンチラインを言語学的に読み解いた一冊。そうだったのか! 仕組みが分かれば意図的に作れるか? ……いや難しい、だからこそ名作なのだと納得してしまうところまでセットで面白い。のび太のおばあちゃんの愛の深さに涙して、ひとまず『ドラえもん』の再読を誓った。(渡邉)
ひらいめぐみ著『おいしいが聞こえる』(ハルキ文庫)
読み進めるうちに、こんなの初めて読む、と気持ちが高まる食エッセイ。ラーメンの具の再提案や、食に関する慣用句の自作など、自然とにんまりさせられる一方、最後まで読むと、タイトルの意味が胸にじんわり広がる。それにしても、たまごシールを集めていると知ったときは“走るピーマン”だと思いました。(阿部)
山内聖子『酒どころを旅する 日本酒の味わいと物語を楽しむ』(イカロス出版)
呑む文筆家・山内氏による全国の酒蔵案内。今回は見学または蔵で酒を購入できる酒蔵に限っているので、普段の旅行でも役立つし、日本酒本として実は画期的だ。首都圏で見かける銘柄でも、その酒蔵の様子は案外知らないもので、瓦屋根の日本建築から工場風のところまでさまざま。この多様性がまた、酒蔵巡りの楽しさだ。(高橋)
『散歩の達人』2025年11月号より
散歩の達人/さんたつ編集部
編集部
大人のための首都圏散策マガジン『散歩の達人』とWeb『さんたつ』の編集部。雑誌は1996年大塚生まれ。Webは2019年駿河台生まれ。年齢分布は20代~50代と幅広い。