介護士が病院で働くメリット・デメリットとは?キャリアアップの可能性も解説
病院で働く介護士の役割と業務内容
病院における介護士の主な業務
病院で働く介護士は、正式には「看護補助者」と呼ばれ、患者の生活支援と診療補助を担う重要な役割を果たしています。看護師の業務を側面からサポートし、医療現場の質の向上に貢献しているのです。
病院での介護士の主な業務は、患者の日常生活にかかわる支援から医療行為の補助まで多岐にわたります。病室環境の整備やリネン交換、検体・薬剤の搬送といった基本的な業務から始まり、食事・排泄・入浴の介助、車椅子やストレッチャーでの移送なども行います。
手術後の患者には体位変換を実施し、回復を促進する支援も重要な業務の一つです。さらに、手術室や検査室への搬送準備、医療用品の補充、電子カルテへの入力代行など、間接的な医療支援も担当しています。
病院は24時間体制で稼働しているため、介護士も夜勤や早朝勤務のシフトに組み込まれることが一般的です。特に急性期病棟では、転倒や誤嚥(ごえん)を防ぐための見守りが不可欠であり、迅速な事故予防措置が患者の回復に直結する責任ある業務となります。
感染管理においても介護士の役割は重要で、標準予防策の徹底やリネン・器材の適正な廃棄などを通じて、院内感染を防止する重要な役割があります。これらの業務を介護士が担うことで、看護師はより専門的な医療行為に集中できるようになるため、医療現場全体の効率化に繋がります。
現在の介護士の就業状況を見ると、医療施設で働く介護士は全体の7.4%と少数にとどまっています。最も多いのは入所・入居・生活施設での勤務で59.5%を占め、居宅・訪問系事業所が28.1%と続いています。このデータからも、介護士の多くが介護施設で働いている現状が分かります。
厚生労働省は2024年度から処遇改善補助を拡充し、介護士の収入向上と専門研修制度の整備を進めており、今後も職域の拡大が期待されています。
介護士が病院で働くために必要な要件
病院で看護補助者として働くためには、法的に必要な国家資格はありません。未経験者や無資格者でも応募可能な病院が多く、働きながら知識や技術を身につけることができます。
実際の病院で働く看護助手の資格保有状況を見ると、「特になし」が440人(32.9%)という結果になっています。
これらのデータから、全体の約3分の1が資格なしで勤務しており、無資格からのスタートが決して珍しいことではないことがわかります。
もちろん、介護職員初任者研修や介護福祉士資格を取得していれば、採用や処遇面で優遇される傾向がありますが、これらは入職後に取得を目指すことも十分可能です。
その他の病院勤務の介護士に求められる一般的な条件として、以下のものが挙げられます。
夜勤を含むシフト勤務 病院は24時間体制で患者のケアを行うため、不規則な勤務時間に適応できることが重要です。 感染防止や医療安全に関する研修への参加 医療現場では常に感染リスクや医療事故の可能性があるため、最新の知識と技術を習得し続ける姿勢が求められるでしょう。 日本語能力(外国人介護士の場合) 在留資格「介護」または技能実習での就労が可能ですが、日本語能力試験N2以上を条件とする病院もあります。
病院選びの際は、院内教育体制の充実度、資格取得支援制度の有無、ラダー認定制度の導入状況を確認することで、長期的なキャリア形成がしやすい環境を見つけることができるでしょう。
介護施設との業務の違い
病院と介護施設では、以下のように介護士の業務内容に大きな違いがあります。
主な業務内容 病院では医師・看護師の指示の下で診療補助が主軸となり、特に入退院が頻繁な急性期病棟では、観察・搬送・検査準備など医療処置に直結する支援業務が中心となっています。介護施設では、長期的なケアの提供が基本です。レクリエーションの企画や機能訓練、家族との面談など、利用者の自立支援に重点を置いた業務が多くなります。 勤務体制 急性期病院では三交代制が多いものの、療養型や回復期リハ病棟など二交代制を採用する施設も増えており、夜勤回数は病院機能により異なります。 給与面 医療機関での勤務では、夜勤手当を含めた総支給額が高くなる場合が比較的多く見られます(地域や診療科・病床機能によって大きく差があります)。介護施設では処遇改善加算により賞与が安定している施設も見られます。 医療行為ではない行為の実施可能範囲
病院では医師の指示の下で吸引や経管栄養の準備(実施は有資格者のみ)など、より医療に近い業務の補助ができます。介護施設でこれらを実施するには喀痰吸引等研修(第1・2号研修)の修了が必要で、実施の機会も限られています。
このように、対象者の病期や生活環境、関連する法制度の違いが、介護士の業務内容と求められる専門性を大きく左右しています。病院か介護施設かを選択する際は、これらの特徴を理解したうえで、自身のキャリア目標に合った環境を選ぶことが重要でしょう。
病院で介護士として働くメリット
安定した雇用環境と福利厚生
病院で働く介護士の大きなメリットの一つは、安定した雇用環境と充実した福利厚生制度です。病院の多くは法人経営であり、景気変動による人員整理のリスクが低く、長期的な雇用の安定性が期待できます。
厚生労働省によると、病院の業務をサポートするスタッフとしての経験年数ごとの分布は、15年以上が31.3%と一番多く、その次が5年以上10年未満で28.6%という結果が出ています。
このことからも、長期的に働きやすい環境が整っていることが読み取れます。
社会保険も整備されており、企業年金制度、医療費の還付制度、職員寮の提供、最長3年間の育児休業制度など、働く人のライフステージに応じた福利厚生が整備されています。これらの制度により、 長期的に勤務しやすい環境が整っていると言えるでしょう。
さらに、厚生労働省の処遇改善事業により、ベースアップ等支援加算が実施され、急性期病院・療養型病院ともにその恩恵を受けることができます。具体的な月額相当額は事業所ごとに異なります。
住宅支援も充実している場合も多く、都市部では月3万円、地方では月1万円の住宅補助を設ける病院もあります。単身赴任手当や保育料助成制度を導入している病院も存在し、働く人の生活を多角的にサポートしています。
医療機関ならではのメリットとして、職員の受診時の自己負担軽減やインフルエンザ予防接種の無料化を実施している機関もあります。団体保険や福利厚生によるレジャー割引なども利用できる場合もあり、生活全般にわたってサポートを受けられることもあります。
医療に関する知識を身につけられる
病院で働く介護士は、日常業務を通じて医療に関する幅広い知識を身に付けることができます。これは病院でしか得られない貴重な経験といえるでしょう。
患者のバイタルサインの変動と疾患の経過を関連づけた観察を行うため、自然と医学的な知識が身についていきます。
BLS(一次救命処置)講習や急変対応訓練などの機会もあり、緊急時の対応能力を向上させることもできる環境です。
医師の回診や薬剤師の服薬指導に同席することもあり、病態生理や薬理作用について実践的に学ぶことができます。感染対策についての研修では、最新のエビデンス(科学的根拠)に基づいた知識を習得できます。
現代の医療現場では電子カルテやAI問診ツールの操作も業務の一部となっており、医療DXに関するスキルも自然と身につきます。
多職種カンファレンス(症例検討会)や院外講演会への参加費補助がある病院も多く、継続的な学習機会が整備されていることも多いです。
これらの知識や経験は、将来的に在宅医療や訪問介護の分野に転職する際にも強みとなり、キャリアの選択肢を広げる重要な財産となるでしょう。医療の基礎知識を持った介護士は、どの職場でも重宝される存在になれるはずです。
高齢者以外のケアの経験も積むことができる
病院で働く介護士の大きな特徴は、高齢者だけでなく、あらゆる年代の患者とかかわる機会があることです。
病院の診療科は小児科、産科、外科、精神科など多岐にわたっており、それぞれ異なる専門的なケアが求められます。
例えば、整形外科では術後の歩行訓練補助を行ったり、産科では産後の生活支援や新生児搬送の付添い補助を担当したりすることもあります。
小児病棟では、発達支援の補助を担当することもあり、子どもの成長段階に応じたコミュニケーション技術を身につけることができるでしょう。
がん専門病院のホスピス病棟で勤務する場合は、疼痛緩和ケアや精神的・心理的・宗教的ニーズへの支援について学べる可能性もあります。救命救急センターでは搬送補助・資器材準備に関わることができる場合もあります。
このように多様な疾患とライフステージの患者と接することで、知識だけでなく、観察力やコミュニケーション能力などさまざまなスキルを伸ばすことができます。これは地域包括ケアシステムで求められる世代横断的支援能力の基礎となる重要なスキルでもあります。
理学療法士や臨床心理士の業務補助を通じて多職種の視点も学べるため、将来的なキャリアの選択肢が大幅に広がることも期待できます。
病院で介護士として働く大変さ
医師・看護師との上下関係
病院で働く介護士が直面する課題の一つが、医師・看護師との明確な上下関係です。病院は階層的な組織構造となっている場合が多く、介護士は看護師の指示に従い業務を行うのが一般的です。
特に急性期病棟では時間的な余裕がなく、十分な情報共有が行われないままに業務が進行することも予想されます。これがミスを誘発する要因となる場合もあり、新人の介護士は専門用語に不慣れなため負担となってしまうケースも少なくありません。
相互尊重型のコミュニケーション研修の導入が進んではいますが、現場への浸透にはまだ時間を要しているのが現状です。
職場選びの際は、多職種間の連携体制や、どういったポジションの補助を行うのかを事前に確認しておくことが重要です。
ルーティン業務と雑務の多さ
病院で働く介護士の業務には、搬送、リネン交換、配膳などのルーティン業務が含まれます。これらの業務は医療現場を支える重要な基盤業務であり、患者の安全と快適性を保つために欠かせない役割を担っています。
とはいえ、雑務のなかには専門的知識を必要としない業務も多く、常に専門的な経験を積むことができるポジションとは言いがたいのが現状です。
ただ、こうしたルーティン業務が多い環境でも、自身の時間管理スキルを向上させたり、医療現場の基礎を学ぶことで、将来的なキャリアアップの土台とすることもできます。
職場選びの際は、研修やスキルアップに積極的に取り組んでいる病院を選ぶことで、より充実した働き方を実現できるでしょう。
スキルアップの機会が少ない可能性
病院での介護士のキャリアアップの機会は、病院ごとに大きな差があります。
看護師にはクリニカルラダー(段階的な能力開発制度)などのキャリアアップ制度が整備されている一方で、看護補助者向けの研修制度はまだ整備が進んでいない場合が多いです。
しかし、こうした現状に対し、厚生労働省はキャリア支援ガイドラインで実務者研修費の補助を拡充するなど、看護補助者のスキルアップを支援する取り組みを強化しています。
また、内部資格制度を充実させたり、外部研修への参加支援を行ったりする病院も増加傾向にあります。
日常業務においても、医療現場での経験を通じて自然と身につく知識や技術は多く、患者との関わりや多職種との連携を通じて、コミュニケーション能力や観察力を向上させることができます。
スキルアップの機会を最大限に活用するために、研修への参加、資格取得への挑戦など、自らの成長につながる機会へ積極的に参加することも大事になってきます。
キャリアアップを目的にしている場合は、教育制度の充実度、資格取得支援の有無、キャリアパスの明確さなどを事前に確認することが大切です。キャリアアップに積極的に取り組んでいる病院を選ぶことで、目標を実現しやすくなります。
また、病院での経験で得られる医療知識は、将来的に在宅医療や訪問介護、介護施設などへ転職する際にも大きな強みとなります。
現在の職場でスキルアップの機会が限られていても、病院での基礎的な経験を積むことで、将来的にキャリアの選択肢を広げることができるのです。
病院で働く介護士は、医療現場での貴重な経験を積むことができる一方で、職場環境や制度面では介護施設で働く介護士との違いも存在します。
これらの特徴を十分に理解したうえで、自身のキャリア目標に最適な職場を選ぶことが大切です。病院での勤務を検討する際は、実際の働き方や教育制度について事前に詳しく確認することをおすすめします。