『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』連載インタビュー第23回:監督・池添隆博さん×音響監督・山口貴之さん×音響効果・小山恭正さん中編|滑稽な人を格好良く見せる!? “リアル”を起点に生まれるアニメならではの演出
2025年10月より連続2クール放送中の『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』。
「仮面ライダーになりたかったから」 40歳になっても本気で「仮面ライダー」になろうとしていた男・東島丹三郎。その夢を諦めかけた時、世間を騒がす「偽ショッカー」強盗事件に巻き込まれてしまい……。『エアマスター』『ハチワンダイバー』の柴田ヨクサル先生の漫画を原作とする「仮面ライダー」を愛しすぎるオトナたちによる“本気の仮面ライダーごっこ”がここに開幕します!
アニメイトタイムズでは、各話放送後にインタビューをお届け! 第23回は、監督・池添隆博さん、音響監督・山口貴之さん、音響効果・小山恭正さんにアニメならではの演出について、お話を伺いました。
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【写真】『東島ライダー』池添隆博×山口貴之×小山恭正インタビュー中編【連載第23回】
演出の肝は「リアルからズレていく面白さ」
ーー本作のギャグとシリアス、柴田ヨクサル先生ならではの“熱さ”を描くうえで、全体を通して演出として意識されたことを教えてください。
監督・池添隆博さん(以下、池添):前提として、「そのままやるとギャグのみになる可能性がある」と感じました。だからこそ話し合って、まずはキャラクターをリアルなテイストに落とし込む。なるべくリアルに生きている人間として設定することで、そこからズレていく面白さ、狂気性や異物が入ってくるストーリーのねじれも含めて、表現していくべきだと思ったんです。
池添:ねじれたり、逸れたりするところは思いきり“柴田先生の世界”に振るべきだし、本物の怖さを出す時も「リアルだからこそ殺されるかも」みたいなところを演出しやすい設計にしたかった。それが現場全体に「やって欲しい」とお願いしていたことかもしれません。
ーー特に第1話では、お話いただいたアニメの方向性を強く感じました。改めて第1話の構成についても伺いたいです。
池添:「いかに東島が狂気な人間か」を見せたかったんですよ。第1話から長めの回想シーンを入れるはすごく恐かったですけど、 とにかく彼の狂気性と憎めない人間性を出すべきだったし、それがラストの「解放」(=変身)というカタルシスに繋がるように、なるべく溜めたかった。第1話で「ここから彼のストーリーは始まるんだ」ということを見せなきゃと思いました。挑戦でしたけど、うまく乗っててくれたんじゃないかなと。
柴田先生も本編を見て、「滑走路から飛び立つような話だった」と言ってくれて。「ああ、間違ってなかった……!」って。そこからは「自分を信じていいんだ」という気持ちでやれた気がします。
ーー「Let's Go Rider Kick TeddyLoid Edit」が流れるなど、音楽面の力も大きかったのではないでしょうか。
池添:もちろんです。僕が伝えていたのは「冒頭で初代ライダーのテーマが流れ、最後は『東島ライダー』としてのテーマが本編にかかる。曲としてのカタルシスも欲しい」ということでした。 仕上がりも最高でしたね。溜めに溜めてから、山口さんのセンスが爆発していて「すげー!」と思って。(山口さんへ)ありがとうございます、本当に。
音響監督・山口貴之さん(以下、山口):とんでもないです(笑)。
ーー第1話を見ると「東島丹三郎って格好良いんだ!」と思わされました。
池添:「滑稽な人を格好良く見せる」というのは、絶対にやるべきだと思っていました。絵のタッチも含めて、デフォルメに特化してしまうとブレてしまう気がしたんですよ。もちろん現場でも不安の声は上がっていました。「頭身は守るべきじゃないか」「顔の表情を拾った方がいいのでは」とか。でも、「表情が変わらないようなキャラだからこそ、最後の涙を流す顔も映えるんじゃない?」という提案をして。柴田先生にも確認するんですけど、「それいいよ!」と言ってくれたので、絵に関しても狙いは伝えたつもりです。
ーー彼らがやっていること自体は茶化さないというか。徹底して格好良く描くというこだわりも感じられます。
池添:まさにそうですね。 そこを「面白いでしょ」「変でしょ」という神目線でやってしまうと、演出としては失敗すると思っていました。それが“当たり前”な人間を描くべきだなと。 「熊より強い」「ヤンキーをワンパン」とか、それはそれで面白いですけど、それすらも真面目にやる。だからこそ、マジックで描いた変身ベルトが笑えるのだと思います。
ーーセルフで効果音を言ったりとか。
池添:そうですね。最初はSEの予定でしたが、小西(克幸)さんが口で変身ベルトの効果音やってくれたんですよ。
山口:「ああ、なるほど!」って(笑)。
池添:即採用しました。そういう「こう来るならこう行くぜ」みたいな。面白いプロの人が集まった現場だったからこそ、ああいう第1話になったんだなと。本当に感動しています。
「何かをしてやろう」というプロが集まる現場
ーーアクションシーンの泥臭さも本作の大きな魅力だと感じました。本作のアクションについて、制作の際に意識されていたことはありますか?
池添:絵コンテに魂を込めた意図として、やっぱり絵で違いを見せたかったんです。止め絵にするからこそ「パンチした時の筋張った筋肉」「本当にこの世のものならざるパンチ力」などの表現を頑張りたかった。加えて、昭和の『仮面ライダー』のアニメ映像を流してるわけだから、それにシンクロするように「ライダーの所作を頑張りましょう」と。絵に関して、こだわるべきところは絶対にそこだと思っていました。
山口:実を言うと、音も「本当は監督はこうしたいんだろうな」という音の付け方なんです。
池添:本当にそうですね(笑)。良いところをちゃんと突いてくれるんですよ。
山口:「音で盛った方がやりたいことに近づくのかな」「ここは絵を見せたいから、引いてあげた方がいいんだろうな」とか。僕らは完成品を見ないで音をつけているので、予想の塊なんですけど。
音響効果・小山恭正さん(以下、小山):先ほど池添さんが言ったように、「何かをしてやろう」というプロが集まっているから、その中で一人だけ何もやらないと取り残されていくんですよ。 毎週テストで笑ってもらったり、「おっ」と思われなきゃという気持ちで音を持っていきました。
池添:小山さんは毎回“らしさ”をくれるんですよね。
小山:お笑い芸人が「スベらないように、新ネタを毎回作らなきゃ!」みたいな感じです。
山口:こちら側から無言の圧力もかかるから(笑)。
小山:(笑)。「なんでここには音楽がないんだろう? これだけ埋まってるのに」みたいな。
池添:山口さんからのプレッシャーもあるんですね。
山口:音楽がないのは、「ここはSEでなんとかしてほしい」というメッセージを込めているつもりなんです。
池添:この関係性もすごくいいですね。ダビングは本当に楽しかったです。音に注目していただけることって、なかなか珍しいじゃないですか。
東島たちさえ恐れ慄く「異質な怖さ」を出したかった
ーー戦闘員や怪人など、ショッカー周りの演出はどのように考えていきましたか?
池添:もともとの『仮面ライダー』にも怪奇ホラー的な演出があるからこそ、アニメでもやってみたいなと。空気がガラッと変わる瞬間は、照明や色味も含め変えようと思っていました。
ーー第5話で雲田が蜘蛛男に変身するシーンも異質な雰囲気が出ていましたね。
池添:シリコンのお面が取れて、ちょっと頭でっかちになっているのが可愛くも見えるけど、実際に考えると怖いですよね。東島たちでさえ、恐れ慄くみたいな。そういう人たちがパワフルに頑張る話だけじゃない、異質な怖さを出したかったんです。
ーー 音の面では、ショッカー関連のシーンで流れる、淀むような効果音も印象的でした。
池添:そうなんです。僕もすごく気に入りました。「小山さん、ありがとう!」って思います。
小山:ああいう音はもともと好きなんですけど、今回は池添さんから「ライダーっぽい音」というオーダーもいただいたので。それらは相反する音なのですが、自分の中でも「混ぜてみる」という試みは面白かったですね。
小山:正直に言うと、「昭和っぽい音」というのは自分の引き出しにあまりないところでした。どちらかと言えば、ディストーションなどの「歪む音」が好きなタイプなんです。逆に『スター・ウォーズ』的な昔の音は、あまりやったことがないんですよ。 なので、そこと混ぜるのが面白くもあり、難しかった点でもありました。
ーー来週はいよいよ最終話が放送されます。視聴者に向けて、注目してほしいポイントを教えてください。
池添:テーマとしては、「好きを持って生きるって楽しいよね」「別に思い込みが強く、わがままに生きてもいい時があるんじゃない?」とか。そういう方を応援する番組として作ってきました。
原作はまだまだ続きますし、先生が言いたいテーマとは違った視点かもしれません。ただ、「自分もそういう気持ちを持っていていいんだな」と思っていただければいいなと。ぜひ温かい目で観ていただきたいと思います。
[インタビュー/小川いなり]