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未来へ紡ぐ物語 ― 「正倉院 THE SHOW -感じる。いま、ここにある奇跡-」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

奈良・東大寺の北に佇む正倉院は、9,000件におよぶ宝物が、1,300年近く受け継がれてきた“奇跡の宝庫”。宝物は偶然に残ったのではなく、守り残されてきたものです。

その正倉院をテーマに、宮内庁正倉院事務所が全面監修する大規模展が実現。最新のデジタル技術と再現模造のコラボレーションによって、正倉院宝物を新しい視点で体験できる展覧会です。


「正倉院 THE SHOW-感じる。いま、ここにある奇跡-」上野の森美術館


展覧会ではまず、正倉院宝物の起源に関わる聖武天皇と光明皇后が紹介されています。聖武天皇(701〜756年)は東大寺大仏の造立で知られ、奈良時代の最盛期をもたらした君主として評価されています。 生前の遺愛品を大仏に奉献したことが宝物の中核となりました。

光明皇后(701〜760年)は藤原不比等の娘で、皇族以外で初めて皇后となった人物です。聖武天皇をたすけて仏教政策や貧民救済事業を進め、聖武天皇の遺愛品を献じたことが正倉院宝物の始まりとなりました。


「正倉院 THE SHOW-感じる。いま、ここにある奇跡-」展示風景/上野の森美術館


奥で紹介されるのが、原寸大で再現された「国家珍宝帳」です。これは聖武天皇が生前に用いた品々を、光明皇后が東大寺大仏に奉献した際の目録で、660点を超える宝物が記されています。

巻物の全面には「天皇御璽」の朱印が押され、冒頭と末尾には皇后が亡き天皇を偲び、冥福を祈る文言が添えられています。


国家珍宝帳を原寸大で再現


展覧会の大きな見どころのひとつが、大スクリーンによる映像展示です。宝物を360度からスキャンした高精細な3Dデータに演出を加え、肉眼ではとらえにくい細部や質感を映し出します。

来場者はスクリーンの間近まで進んで鑑賞でき、圧倒的な迫力を楽しめます。さらに本展では、この映像コーナーを含め、会場のすべてで写真・動画撮影が可能です。


映像紹介 正倉院宝物への誘い ― 1300年の時を超えて

映像紹介 正倉院宝物への誘い ― 1300年の時を超えて


正倉院の宝物は展覧会などで目にする機会がありますが、「勅封」についてはあまり知られていないかもしれません。勅封とは天皇の命により倉を封じることで、開封には必ず天皇の許可が必要とされました。

奈良時代から北倉で行われ、室町時代には天皇自ら署名した封が掛けられるようになりました。明治以降は三倉すべてが勅封の対象となり、宝物は厳重に守られてきました。会場ではこの勅封を再現展示。1833年に新調され、昭和35年まで実際に使われた錠前を用い、厳格な制度の重みが感じられます。


勅封の再現展示


正倉院宝物の中でも名高いのが「蘭奢待」です。天下第一の名香とされ、足利義政や織田信長、明治天皇が一部を切り取らせたと伝わる貴重な香木ですが、通常は取り出されることはありません。

本展では、その香りを最新技術で再現。高砂香料工業の協力により常温下で香りを採取し、過去に脱落した小片を加熱して本来の香りを抽出。調香師の確認や成分分析の結果をもとに香料が調合され、蘭奢待の香りが現代に蘇りました。


レプリカ 蘭奢待


展覧会では、現代アーティストが正倉院宝物に着想を得た新作も披露されています。千年を経ても色褪せない美が、アーティストの感性と交わり、新たな魅力を放っています。

参加作家は、デザイナー・篠原ともえさん、音楽プロデューサー・亀田誠治さん、写真家・映像作家の瀧本幹也さん、陶芸家の亀江道子さん。篠原さんは漆胡瓶をモチーフにしたドレスを制作し、古代と現代が響き合う造形を生み出しました。


内覧会には篠原ともえさんも登壇


1300年の時を超え、守られ続けてきた宝物の数々。その背景にある祈りや想いをデジタル技術と創造的な展示によって現代に伝える、新しい試みの展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年9月19日 ]

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