「ぱたぱた」「ぽこぽこ」「ぴん」…P音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「P音」で始まるオノマトペのイメージとは?
秋田喜美さんの解説を紹介!
2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
オノマトペは「ふんわり」「ひらひら」など擬態語や擬音語の総称です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2024年5月号から、硬い響きを持つ「P音」で始まるオノマトペのイメージについての解説を一部公開します。
阻害音 P音で始まるオノマトペ
本連載は、硬い響きを持つ子音である「阻害音」(P、T、K、S、H、B、D、G、Z)から入り、柔らかい響きを持つ子音である「共鳴音」(M、N、R、Y、W)、そして母音(A、I、U、E、O)へと進む予定です。今回はP音(パ行)で始まるオノマトペを解剖します。
P音はオノマトペを象徴する音で、「ぱたぱた」「ぽこぽこ」「ぴん」など全体の六分の一ものオノマトペがこの音で始まります。反対に、オノマトペ以外の和語の語頭にはP音が立ちません。P音で始まることばを挙げようとすると、「ピーナッツ」「ペット」「パン」など外来語ばかりが思い浮かぶはずです。
P音はどんなイメージを持つでしょう? 三点にまとめてみます。まずは、「ぴん」に代表される緩みのなさ。このイメージは、「ぱたぱた」と跳ねる山みみずや、「ぺかぺか」と鳴る水団扇のしなり具合にも当てはまります。「っぱ」と言ってみてください。P音の発音時には、口を閉じることによって溜まる呼気が口の内壁を圧迫します。この感覚が緩みのなさにつながるのです。
このように、オノマトペを象徴する語頭P音には、緩みのない程よい活発さや可愛らしさといったプラスのイメージがしばしば伴います。その日本語らしくない響きからか、「ぽんぽこぽん」のように滑稽さを帯びる場合もあるので、この効果を俳句に活用するのも面白いかもしれません。
『NHK俳句』テキストでは、同じように口を閉じる「B音」とのイメージ比較や、「P音」の可愛らしさの理由についての解説などもお読みいただけます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2024年5月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ:音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)