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山口百恵「ディスコ&ソウル」歌謡曲の枠を超え、日本の音楽シーンを牽引した伝説の歌姫

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2023年11月08日 山口百恵のアルバム「GOLDEN☆BEST MOMOE DISCO&SOUL」発売日

阿久悠 痛恨の極みは、山口百恵の楽曲に関われなかったこと


2024年は正月早々、山口百恵のことを思い出してしまった。しかも2度もだ。

最初は1月2日にNHK BSで放送されたドラマ『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』を観たときだ。作詞家・阿久悠を主人公に、CBSソニーの名プロデューサー・酒井政利とのライバル関係を描いた実話ベースのこのドラマ。ご存じのとおり百恵は、阿久が企画し審査員も務めた日本テレビのオーディション番組『スター誕生!』が生んだスターだ。

ところが、同じ “花の中3トリオ” の森昌子・桜田淳子はデビューから阿久が作詞を手掛けたにもかかわらず、阿久は結局、百恵には1曲も詞を提供しないまま終わった。劇中で「なぜ俺じゃないんだ?」とうめく阿久。百恵は酒井のプロデュースによって独自のアイドル像を創り上げ、時代のアイコンとなっていった。百恵の楽曲に関われなかったことは阿久にとって痛恨の極みであり、実際自著にそんな意味のことを記している。

そうなった理由については諸説あるけれど、百恵をプロデュースしていた酒井がライバルの阿久に書かせなかったというよりも(実際の2人は良き友人だった)、百恵本人が阿久の、ともすればオーバープロデュース気味な作詞スタイルを嫌ったのだと私は思う。映画に喩えると「あなたの書くシナリオは演じられません!」ということだ。

アイドル歌手から大人の女性歌手へと脱皮

1976年6月発売の「横須賀ストーリー」以降、百恵のシングル曲は大半が阿木燿子・宇崎竜童夫妻の楽曲となり、百恵はアイドル歌手から “大人の女性歌手” へと脱皮していった。実は2人に曲を書いて欲しいと依頼したのは、百恵自身の意向だったことが後に明らかになっている。当時、百恵は17歳。しかもその頃はアイドルが自ら作家を指定するなんてあり得なかった時代だ。阿久に負けず劣らずクセの強い酒井にも、自分の意思を認めさせる “雰囲気” が百恵にはあったということだ。そして、それを認めさせる実力も。

ドラマ放送から3日後、今度は1月5日に写真家・篠山紀信の訃報が伝わった(4日没、享年83)。篠山も百恵とは何かと縁のある人で、雑誌『GORO』の「激写」シリーズでも百恵を撮っているし、レコードジャケットも何枚も撮影している。

特に印象的な1枚が、1978年12月発売のアルバム『曼珠沙華(マンジューシャカ)』のジャケットだ。胸から上しか写っていないが、当時「これ、脱いでるんじゃないか?」と話題になった。たまたま撮影現場を覗いた酒井の証言によると、百恵は上半身に何もまとわず、「もっと挑んで!」と挑発する篠山のカメラと1対1で対峙していたという。ホントに脱いでたんだ……。当時百恵は19歳。20歳の誕生日を迎える直前だった。これも事務所が許す、許さない以前に “自分の意思” で、百恵は裸身を晒したのだ。

何が言いたいかというと、山口百恵という人は10代半ばにして、自分が関わる作品に対しては一切妥協をせず、“ガチ” で向き合っていたということだ。仕事で関わる相手がいくら大物だろうと、決して言いなりにはならない。つねに時代を読み取り “山口百恵は今、何をすべきか?” を自問自答。最適解を出し続け、ディケイドが70年代から80年代に変わった1980年、絶頂期でその歴史に自ら幕を引いた。完璧である。「横須賀ストーリー」以降引退まで、山口百恵をプロデュースしたのは百恵自身だったのだ。

ディスコ&ソウルに特化した百恵のベスト盤


前置きが長くなったが、2023年11月、その山口百恵の楽曲を独自の視点で選んだ興味深いアルバムが、ソニーミュージックからリリースされた。『GOLDEN☆BEST MOMOE DISCO & SOUL』である。全19曲収録で、タイトルどおり “ディスコ&ソウル” サウンドに特化した百恵のベスト盤だ。シングルA面曲は「赤い衝撃」(1976)1曲のみ。あとはすべてアルバム曲かシングルB面曲である。これ、先に感想を言うと、メチャクチャいい! 監修と選曲は、ディスコ研究家としても名高いT-GROOVE氏。さすがの仕事ぶりだ。

19曲すべて「横須賀ストーリー」以降の楽曲で、1976年〜1980年までの5年間、歌手・山口百恵およびスタッフが、いかにクオリティの高い作品を創っていたかがよくわかる。70年代後半といえばディスコブーム全盛期。百恵の楽曲にも自ずとそれが反映されていたわけで、聴いていて “こんなにディスコ系の曲があったんだ” と驚いたけれど、当時の百恵は先端の音楽を吸収して自分のものにする術を持っていたわけだ。

船山基紀、作曲家としてのデビュー作「嘆きのサブウェイ」


オープニング曲「いま目覚めた子供のように」(1976)はアルバム『横須賀ストーリー』収録曲。恋人が去った街で、いま目覚めた子供のように、私は独り生きていく…… という決意を歌った曲で、フィリー・ソウル風の名曲だ。ホントに17歳? というくらい自立した女性がそこにいる。作曲は、当時「およげ!たいやきくん」(1975)が空前のメガヒットとなり注目を浴びていた佐瀬寿一。そして編曲は、まだプロのアレンジャーになったばかりの船山基紀である。

船山は「横須賀ストーリー」の次のシングル「パールカラーにゆれて」(1976)の編曲を担当。これも作曲は佐瀬で、オリコン1位を獲得している。ほかにも船山がアレンジを手掛けた曲が、このアルバムには5曲収録されている。うち、来生えつこと組んだ「嘆きのサブウェイ」「涼やかなひと」(いずれも1976・アルバム『パールカラーにゆれて』収録曲)では作曲も担当した。

「嘆きのサブウェイ」は船山によると、プロの作曲家としてのデビュー作だそうだ。いきなりコンガ乱れ打ち〜シンセベースで幕を開ける意欲的なディスコナンバーで、淡々とクールに歌っていく百恵のボーカルとの対比がいい。来生も当時はまだ駆け出しの新人作詞家だった。つまり才気溢れる新しい才能が百恵のもとに集っていたわけで、百恵もまた新たなマッチングを望んでいたのである。繰り返すが彼女、その頃まだ17歳だ。

阿木燿子・宇崎竜童コンビの横須賀3部作


船山のライバル・萩田光雄がアレンジした曲も5曲収録。阿木燿子とのコンビによる「ダンシング・スターシャイン」(1980)では作曲も手掛け、アース・ウインド&ファイアー風のゴージャスなサウンドが楽しい。こういったアレンジャーによるアプローチの違いと、どんなアレンジだろうと単純に乗っからず、いったん自分の中に落とし込んでから曲に対峙する百恵の姿勢、そのせめぎ合いは聴いていてゾクゾクする。

阿木・宇崎コンビの楽曲は5曲収録。「横須賀ストーリー」と合わせて “横須賀3部作” と呼ばれる「I Came From 横須賀」(1977)と「横須賀サンセット・サンライズ」(1978)の2曲が収録されているのも嬉しい。「I Came〜」は萩田、「横須賀サンセット〜」は川口真のアレンジで、どちらもファンの人気が高い曲。ぜひ聴き比べてほしい。

あと忘れちゃいけない、ロスでレコーディングされた和製AORの名盤『L.A. BLUE』(1979)からも4曲収録。彼氏が突然亡くなって喪服を探す(どういう設定だよ)阿木・宇崎コンビの作品「喪服さがし」は、内容とは対照的に軽快なナンバーだし、「BACK TO BACK(背中あわせ)」は作詞・篠塚満由美(ものまねタレントとしても有名)、作曲・浜田省吾という異色のコンビだし、バラエティに富んでいて飽きない。

ちなみに、アルバム『L.A. BLUE』はウエストコーストのミュージシャンを起用しているが、リードギターだけは統一感を出すためほとんど青山徹が弾いていて、彼は浜田省吾が在籍したバンド・愛奴の元ギタリストである。「美・サイレント」のアコギによる印象的なリードギターも青山で、その確かな仕事ぶりを見て「ギターは青山さんでお願いします」と指名したのは百恵自身だそうだ。百恵は優れたボーカリストであると同時に、目端の利くプロデューサーでもあった。

リリース以来何度も繰り返しリピートしていたりするけれど、この『GOLDEN☆BEST MOMOE DISCO & SOUL』、ホントに選曲が素晴らしい。あらためて70年代後半、山口百恵は歌謡曲の枠を超え、日本の音楽シーンを牽引する存在だった。そのことを実感させてくれる1枚だ。

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