リム・カーワイ監督、幻のデビュー作が15年の時を経て蘇る『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』デジタル・リマスター版
大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(映画流れ者)”を自称する映画監督リム・カーワイ。その原点となる『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』が、デジタル・リマスター版として、15年の時を経てスクリーンに蘇る。
幻のデビュー作が15年の時を経て蘇る
近年は「東京国際映画祭」コンペティション部門に『カム・アンド・ゴー』(2020)がノミネートされ、バルカン半島三部作『どこでもない、ここしかない』(2018)、『いつか、どこかで』(2019)、『すべて、至るところにある』(2023)、初のドキュメンタリー映画『ディス・マジック・モーメント』(2023)が公開され、映画監督として精力的に活動するも、2024年に突然の休業宣言したリム・カーワイ監督。
休業期間中も「台湾文化センター台湾映画上映会」キュレーター、週刊文春CINEMAにて「香港からの手紙」の連載など、大阪を拠点に国際的な活動を展開し、その存在感を示していた。2025年、優良な中華圏の映画の企画とグローバルな投資企業をつなぎ合わせることを目的とする台湾の企画マーケット「金馬創投会議」に、新作企画『遠雷的午後』がノミネートされ、プロデューサーに映画監督のトム・リン(『九月に降る風』『夕霧花園』)が名を連ねたことも話題となった。
映画監督だけではなく、多角的な視点で、グローバルに活躍するマレーシア出身の映画監督リム・カーワイ。大阪大学卒業後、サラリーマン生活に別れを告げ、北京電影学院に飛び込んだリムが、2009年北京郊外で初メガホンをとったのが『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』だ。
自分の存在が消失する恐怖、日常からの逃避を2部構成で、虚構と現実を行き来するふたつの世界が、映画的構造美の中でゆらめき、観客を白昼夢に突き落とす。中国、日本、アメリカ、香港、ボリビア等、多国籍なキャストスタッフ編成で自主制作映画された、“シネマドリフター”の原点となる作品。
10年ぶりに故郷に帰ってきたア・ジェ。しかし、家族でさえ彼の存在を知る者はいない—。唯一ア・ジェを覚えているのは、レストランの店主ラオ・ファンだけだ。ラオ・ファンに連れられ、秘密の鍵を握る男に会いに行くが、ア・ジェは殺人の濡れ衣をきせられ処刑されてしまう…。死んだはずのア・ジェが、再び街に戻ってきた。空虚な日常を生きるラオ・フアンは、過ぎし日々に思いを寄せる。町に起こる奇怪な事件をきっかけに、彼らは新しい人生を手に入れられるのか—。第一部で自己の存在についての恐怖と疑いを、第二部で退屈な日常生活からの逃避を、空想と幻想を通して描かれていく。二つの異なった視点で世界を覗いたとき、観客は自然と白昼夢に引き込まれていく—。
長編デビューから気づけば15年が経ち、この間に11本の長編映画を制作してきました。作品ごとにテーマやスタイルはそれぞれ異なりますが、無国籍/多国籍で根無し草のような原点は、やはりこの『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』にあると思います。これまで劇場公開の機会がなかなか得られませんでしたが、今回こうして初めて劇場で上映できることを本当に嬉しく思います。これを機に、当時ビデオで撮影した本作の色と音を改めて調整し、デジタル・リマスター版として仕上げました。この映画が、まだ出会ったことのない多くの方々に届くことを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
(リム・カーワイ/監督)
『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』は11月29日(土)よりイメージフォーラムほか全国公開