声優・関智一がキャリア停滞期で得た学び 初心に立ち返って見つけた「答え」とは|後編
「乗り越えたと思っても、またダメで。もう螺旋階段みたいな日々でした」
声優の関智一さんに「キャリア停滞期の乗り越え方」を伺うインタビュー。前編で関さんが語ったのは、仕事が減ったわけでも、収入が落ちたわけでもないけれど、自分の役割が後輩へ移っていく気配を感じて心のバランスを崩した、という出来事です。
では、関さんはその螺旋からどうやって抜け出したのでしょうか。
後編で語られたのは、特別な才能や大逆転劇ではありません。後輩との向き合い方を変え、自ら新しい環境へ飛び込み、そして初心を思い出すまでの地道な試行錯誤でした。
キャリアが停滞したとき、何をすればいいのか。関さんの試行錯誤には、職種や業種を問わず応用できるヒントが詰まっていました。
関智一さん:1972年、東京都生まれ。劇団ヘロヘロQカムパニー座長。『機動武闘伝Gガンダム』ドモン・カッシュ、『ドラえもん』骨川スネ夫、『鬼滅の刃』不死川実弥、『呪術廻戦』パンダなど、デビュー30年で数多くの人気キャラクターを演じる。昨今は落語、映画・ドラマ出演など活動領域を広げ続けている。
後輩との接し方が分からなかったから、積極的に話してみた
──前編( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20260828-seki )でお話しいただいた停滞期から脱するために、まず最初に取り組まれたことはなんだったのでしょうか?
まず、「今休まされてるんじゃなく、自分で望んで休んでいるんだ」って、自己暗示をかけるようにしました。
──状況を変えるための第一歩として、「自分には選択権がある」と考えるようにしたということでしょうか?
そうですね。仕事に限らず、何もかものやる気が失われていくと、何かをやっていない自分に幻滅してしまって。
だから「やりたいんだけど、あえてやってないんだ」と思い込む。要は、自分で自分をコントロールしているという意識を持とうと思ったんです。
──状況の捉え方を変えたことで、効果はありましたか?
しばらくはメンタルも安定していたんですけど、今度は「休みすぎじゃないか?」と、だんだん焦るようになって。
だから次に苦手を克服しようと思って、後輩と積極的にコミュニケーションを取るようにしました。比較的話しかけやすそうな子に、自分から雑談を振ってみたり。
実は僕自身、昔から後輩気質なこともあり、後輩と触れ合うのが苦手だったんです。変に気を遣って、敬語でしか話せなかった。先輩扱いされると戸惑っちゃうわけですよ。
先輩にくっついていろいろ教えてもらったり、飲んで話を聞いたりするのは得意なんですけどね……。思えば、若い頃から「失うものなんてない」の精神で、先輩に対してバイタリティを持って接していましたから、「先輩としての振る舞い」を学んでこなかったのかもしれません。
──後輩への接し方を変えてみて、いかがでしたか?
積極的にコミュニケーションを取り、相手を理解しようとしたことで、後輩の良いところを見つけられるようになりました。優しいなとか、面白い表現するなとか、こういうことに悩んで頑張ってるんだなとか。
あとは「後輩に嫉妬している」といった自分の感情もクリアに把握できるようになりましたね。
──「先輩としてどう振る舞うか」というのは、職種や業種を問わず多くの人が悩むところだと思います。
僕は悩んでいた頃、「二期会」というオペラや声楽をやっておられる方々のお芝居に出していただくことがあって。公演後の食事会で、自分よりキャリアを積まれた役者さんに「どうやったら先輩として振る舞えるようになるんですか?」と聞いたんです。
そうしたら「いつまでも(後輩に対して)へりくだった気持ちのままいなさい。いつか後輩が自分を先輩にしてくれるから」とアドバイスいただいて。
──いい言葉ですね。
とは言うものの、それがうまく実践できている実感がなくて。最近ようやく、偉ぶるのでもなく、へりくだり過ぎるのでもなく、後輩にちょうどいい接し方ができるようになったと感じます。
──声優界の先輩に、後輩との接し方を学ぶ機会はなかったのでしょうか?
直接学んだことはありません。ただ、後輩と接するのが上手な方は何人かいて、いつも「すごいなぁ」と憧れていました。
今頭に浮かんだのは、養成所時代の先輩だった高木渉さんですね。何かあると僕のことを褒めてくれるし、周りからもとても慕われていて。
きっと、渉さんも人並みに嫉妬もされてきたと思うんですよ、人間らしく。だけど、その素振りは周囲に見せなかった。
──高木さんの姿勢は、停滞期の関さんにとっても支えになりましたか?
なりましたね。というのも、スタンスだけでなくキャリアの積み方に関しても参考になる部分が多くて。
自分が「(自分の)武器はだいたい知れたし、ここから発展はないのかも」と思っていた時期に、渉さんは今までやっていなかったジャンルの仕事を始める。そんな姿を見ると、「自分もまだ頑張れるかもしれない」と思えました。
いい先輩に恵まれたのかもしれないですね、僕は。
やりたいことを周囲に伝え、新しい世界に飛び込んでみた
──今お仕事の幅を広げるという話も出ましたが、停滞期を脱するために、関さんご自身はお仕事の方向性も変えることを意識されていたのでしょうか?
そうですね。これまでは熱血の主人公キャラを演じることが多かったのですが、『ドラえもん』のスネ夫のような、ちょっと面白い、チャーミングな役柄を同年代に先駆けて演じてやろうと。
ただ、声優は制作側にキャスティングされるかされないかで仕事の内容が変わってくるので、実は自分でコントロールできる部分は案外少ないんです。
──新しい仕事を得るために、意識的にされていたことはありますか。
そのときに限らず、やってみたいことをとにかく口に出す。「こういう仕事がやりたい」「こういう人に会いたい」と周囲に伝えることを意識していたかもしれません。
これにはちょっとした成功体験があって。売れてなかった頃、ある飲み会で先輩方に「『ドラゴンクエスト』のドラマCDに出て、主人公の役をいつかやりたい」って生意気にも話したことがあるんです。声優の勉強をしていた頃から憧れの作品でしたからね。
で、そこから5年くらい経って、ある程度仕事も増えてきた頃、なんとその通りのオファーをいただいて(編注:『CDシアター ドラゴンクエストVI』主人公・ウィル役)。プロデューサーの方に「(主人公役が)やりたいと聞いていたからオファーした」と言われたんです。
──素敵なエピソードですね。
そう、だから、必ず叶うとは限らないけど、言わなきゃ叶わないのかもなと。そこから、だんだんと口に出すことを意識するようになりました。
──近年は落語の世界にも進出されていますが、あのお仕事も常日頃から「やりたい」と周囲に伝えていたんですか?
落語は思っていたんですけど、伝えてはなかったんですよね。だけど、あるタイミングで落語家の立川志ら乃さんと対談させていただく機会に恵まれて、「僕は落語を学びたいという人がいたら、落語家じゃなくても弟子にしてるんだ」とおっしゃるから、その場で「じゃあ、僕を弟子にしてください」と。そこから志ら乃さんの弟子として、10年近く落語の仕事を続けられています。
だから、周囲にやりたいことを伝えるだけでなく、チャンスがあれば躊躇せずに飛び込むこともまた意識しているのかもしれませんね。
養成所に通ってた頃も、どうしても野沢雅子さんの授業が受けたくて、授業料は払えなかったのに「クラスの端っこでいいから(授業を)見せていただけませんか」と頼み込んだこともあります。
──「相手に嫌われるかも」と怖くはならないんですか?
そのときは、断られても現状と変わらないし、マイナスになることは何もないなと思ったから一歩踏み出せたんですよね。こちらにデメリットがないなら、言わない手はないよなと。
実はやたらめったら飛び込んでいるわけではなく、デメリットがないか、うまくいきそうな気配を感じるかもちゃんと計算して行動しているんですよね。もちろんダメだったこともあるんですけど。
──ということは、新たに挑戦するジャンルを選ばれるときも、ここは自分のキャリアにとって飛び込む価値があるのかどうかを考えて判断されているのでしょうか?
そこはあんまり考えてなくて、ただやりたいことをやっているだけですね。とりあえず全部やってみて、後から「自分のキャリアにこんなメリットがあった」と振り返る。
──考えすぎて動けないという人も少なくないように思いますが、関さんはとりあえず動いて、後から考えればいいと。
はい。今考えると、年齢を重ねてからのほうが新しい挑戦に前向きになった気がしますね。もういい歳ですし、あと何年元気で仕事ができるのか分からないから、やらないで後悔したくないなと。
何かを始めるのに「適切な年齢」なんてないと思うんです。それこそ家電の「買いたいときが、買い替えどき」みたいなコピーじゃないですけど(編注:お笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実さんがテレビ番組出演時に話した一言)。
誰かが「この人が適任」と思ってオファーしているわけですから、「自分に力がないから」と辞退するのはナンセンスだと思うんです。素直に乗っかればいい。
実は若い頃、「Vシネマの監督をやってみませんか?」というオファーをいただいたのに、「自信がない」とお断りしたことがあって。そのことをいまだに後悔しているんです。
「1円の自分」を取り戻すために、あえてバイトをした
──とはいえ、新しい世界に飛び込めば、ベテランではなく新人という立場になります。そういう扱われ方に対して、抵抗を感じなかったのでしょうか?
たしかにある現場で、「よく頑張りましたね」と労っていただきつつ「でも、認めてはいないですよ」と直接言われたこともありました。
──それはすごくヒリヒリするエピソードですね。
でも、簡単に認められないことなんて、面と向かって言われなくても分かるわけですよ。むしろ自分にとっては、認められていない状況こそが心地いい。
声優としてはベテランにちょっと足がかかってきたのかもしれないけど、他の世界では認められるために頑張らなきゃいけないという環境に身を置くのが、バランスがいいと思ったんです。
だから、アルバイトもやってみたんですよ。
──それは意外でした。何のお仕事でしょうか?
いくつかやりましたが、一番楽しく、印象に残ったのはヒーローショーの仕事でしたね。知人に「人員が足りないから劇団員を出演させられないか」と頼まれたのですが、たまたま予定が空いていたので、自分で行っちゃおうと。
他のスタッフさんと一緒に、舞台の設営からやりました。会場の監督さんから「早くやれよ!」とストレートな指示を浴びながら(笑)。
まぁ、最後はスタッフさんにバレちゃって、その監督さんから「部下がサインを欲しがっているのですが、あなた誰なんですか?」と言われたのですが……。
でも、その経験を経て、「自分を知らない人の中だとこういう扱いをされるのは当然だよな」って改めて思ったんですよね。だから、戒められたというか。
──環境を変えると「レベル1」になってしまうと。
そうそう、まさにレベル1。そういえば、養成所の先生だった増岡弘さんには「1円の自分を忘れちゃいけないよ」と事あるごとに言われていました。「うまくいけば、この後100円・1000円・1万円の価値が出るかもしれないけど、元は1円玉なんだ」と。
当時は「正論としては分かるけど腑には落ちない」と思っていたのですが、それがどれほど大事で、どれほど難しいことなのかは、キャリアを重ねてようやく理解できました。
──実績があればあるほど「自分はこういう人間だ」という決めつけもまた、自分の中に生まれてしまう気もしますしね。
そうですね。仕事を大きく変えづらい会社勤めの方だと難しい部分もあるのかもしれませんが、思い切って違う世界、違うコミュニティに飛び込んで、そこで自分がどう見られるのかを確認してもいいのかなとは思います。
大事だったのは「初心に立ち返る」こと
──伺ったエピソードの数々から、関さんのフットワークの軽さや柔軟な姿勢が伝わってきたのですが、逆にずっと変えずにきたものもあるのでしょうか。積極的に変えてきたものと変えずにきたものの両方を挙げるとすれば?
諸説ありますが、勝海舟を斬りに行った坂本龍馬が、勝海舟の言葉や世界観にその場で感化され、弟子入りを志願する、というエピソードがあると言われていたじゃないですか。そういう感じで生きていこうと若い頃に思ったんですよね。
つまり、意固地にならず、相手のほうが正しい、利があると思えば、折れるという選択肢も常に持っていようと。
だから、今のご質問にお答えするならば、「変わることを変えないできた」と言えるのかもしれません。
──なるほど。では、関さんのキャリアに一時停滞期が訪れたのは「変われていなかったから」なのでしょうか。
今振り返ると、そうなのかもしれませんね。当時は過去に築いたポジションや実績にとらわれ、素直になれていなかったのかもしれません。状況に合わせて柔軟に変化できず、本来の自分を見失っていたというか。
周囲にやりたいことやリスペクトを積極的に伝える、といったもともとできていたこともできなくなっていた。
でも年齢を経てそういうことがなくなった。なんというか、一回迷い込んで元のところへ戻れた感覚ですね。
停滞期を抜けて新しい自分になったのではなく、むしろ初心に立ち返れた。それが今につながっているのかもしれません。
関さんに学ぶ、キャリア停滞期の抜け出し方
•苦手な人と、積極的にコミュニケーションをとってみる
•やりたいこと、会いたい人を周囲に伝える
•新しい世界に飛び込み、自分の見られ方を確認する
•悩んだときは、初心に立ち返る
停滞期を抜けるために関さんがやったことは、どれも劇的な決断ではありませんでした。そしてその先で関さんがたどり着いたのは、まったく新しい自分ではなく、かつての自分。
実績や年齢を重ねるほど、「ありのままの自分でいる」ということは難しくなっていくものです。だとすれば、キャリアの停滞とは、失うことではなく、初心を思い出すきっかけなのかもしれません。
停滞期を抜け出した先に、あなたはどんなキャリアを築きたいですか? 初心に立ち返り、新たなキャリアを描くために、まず“自分を知る”ことから始めてみませんか。
ジョブリシャス診断であなたの働き方の傾向を「見える化」! 「基本的なシゴト性格」「シゴトでの強み・弱み」「ストレスを感じる一言」「本領発揮できる職種」など、自分の強みを探すことにぜひ役立ててください。
▼無料で診断
( https://tenshoku.mynavi.jp/opt/joblicious/?src=mtc_in )
取材・編集:はてな編集部
撮影:曽我美芽
制作:マイナビ転職
//