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理不尽なカスハラにより精神疾患になることも。従業員の心を守る「メンタルヘルスケア」の重要性

毎日が発見ネット

理不尽なカスハラにより精神疾患になることも。従業員の心を守る「メンタルヘルスケア」の重要性

従業員を高圧的に攻撃し苦しめる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍を経てますます増加したカスハラから従業員を守るため、企業は早急な対策を求められています。犯罪心理学者の桐生正幸氏は、著書『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)で、豊富な調査実績をもとにカスハラが起こる理由とその対策を提案。いまや社会問題化しているカスハラの事例を通し、従業員や自身の心を守る方法、そして「客」としての自分自身を見つめなおしてみませんか。


※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。


企業も消費者も成長する取り組み


※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

接客応対者のメンタルダメージ


ここまで、カスハラ加害者の心理構造と、カスハラを容認する社会構造を概観してきた。本稿では、カスハラへの具体的な対策にフォーカスしてみよう。


2019年時点で、厚生労働省がカスハラによる精神障害を労災認定した人の数は、過去10年間で78人だった、そのうちの24人は自殺してしまっている。カスハラによるストレスは深刻な問題だ[毎日新聞デジタル 2019年10月23日]。


UAゼンセンが2017年におこなった調査データでは、カスハラ被害の経験から受けた影響を尋ねる質問をしたところ、カスハラ被害を受けた人のうち約9割にあたる3万9132人が、心理的ストレスなどを感じたと答えている[桐生 2020]。


そのうち「軽いストレスを感じた」のは35.5%(1万3883人)、「強いストレスを感じた」のは52.9%(2万689人)だった。一部の人にいたっては「精神疾患になったことがある」(375人)と回答している。調査を受けた半分以上が強いストレスに晒されていたことがわかる数字だ。


また、UAゼンセンが2020年におこなった調査を私が分析した際には、コロナの影響が「ある」と回答した人の方が、「ない」と回答した人よりも心身の変化を経験していることがわかった。コロナ禍の影響を体感している人ほど、カスハラ被害で「繰り返しの恐怖」「睡眠不足」や「心療内科などへの通院」といった心身の変化を経験している。コロナ禍でカスハラの理不尽さが増し、より多くの人々が心身の不調をきたしてしまった。


「従業員を守ったり、ケアしたりすることを義務づける法律が欲しい」


企業で担当者たちが、しばしば私にかける言葉の1つだ。社内では表立って言うとリスクがあるから黙っている人たちもいるだろう。けれど、本心では多くの人たちが「悪質クレーマーをどうにかしたい」「対応した従業員たちをケアしたい」と切実に思っている。

企業によるメンタルヘルスケア


疲弊した従業員のハラスメントケアは、組織の資産を守り育てることにもなる。


従業員の目線から見たとき、カスハラは彼ら・彼女らが仕事を通して職場で体験する「従業員体験(Employee Experience)」の1つだ。「従業員体験」とは、従業員がその企業で働くうえで得られる体験のことを指す。職場での体験は、従業員の仕事に対する意欲に直結し、生産性や顧客満足度を大きく左右する。


カスハラ被害に遭い、問題を抱えた状態のまま働かねばならない場合、精神的なストレスによって仕事の生産性が下がれば、顧客満足度も下がってしまう。しかし、同じくカスハラ被害に遭った場合でも、職場のサポートを得られる状況だったらどうだろうか。


カスハラの加害と被害を認め、ケアしてくれて、今後のための対策も講じてくれる。そんな職場のサポートがあれば、被害に遭った従業員も安心できるし、職場に対する信頼も深まる。そうした人材は企業にとってなによりの資産になるはずだ。


「ワーク・エンゲージメント」という言葉を聞いたことのある読者もいるだろう。仕事にやりがいを感じ、仕事に熱心に取り組んでいる人は、イキイキとしている。仕事はもちろん、顧客もそうした従業員の接客や仕事ぶりに満足を得られる。従業員のメンタルヘルスケアは、従業員の意欲を向上させるだけでなく、顧客体験も向上できるのだ[島田、桐生 2022]。


ここで注意が必要なのは、あくまでもメンタルヘルスケアの施策や対策は従業員目線で捉え、実施すべきだという点だ。


たとえば、売り場の従業員がカスハラ被害を受けたという報告に対して、企業側がお客様窓口を設置することで施策を講じたとする。これに被害を受けた従業員や同じ売り場で働く人たちは安堵(あんど)するだろうか? 「現場に対応できる人を寄越(よこ)してほしい」「クレームとカスハラの線引きを明確にして、すぐに対応を切り替えられるようにしてほしい」といった現場の要望に応えられていなければ、上滑りな対策を立てただけで、意味はないだろう。

ポジティブ・メンタルヘルス・アプローチ


働いている人にとって、仕事は単なる生産活動ではなく、自分自身が成長したり、経験や学びを得られたりするきっかけでもある。仕事の意義や責任感、あるいは職場の人間関係やチームワーク、そして自分が所属する組織そのもののあり方などに関して、人は働きがいを感じたりする。


カスハラ被害は大きなストレスになるが、それに対して企業・組織側がきっちりと従業員をサポートできる体制があれば、従業員のメンタルヘルスを守るだけでなく、ワーク・エンゲージメントすら向上させることができる。従業員個人にとっての成長や成功は、組織にとっての資産の増加とつながっているのだ。


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