認知症の人が慣れ親しんだ物でも全く知らない物に思えてしまう未知の物体が目の前に存在する世界とは?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】
9:これが何か、使い方がわからない未知の物体が目の前に存在する世界
○エピソード
先日のお風呂上り、父はいつもパジャマにしている長袖Tシャツに脚を通そうと苦労していました。いつものようにズボンを穿いているつもりのようで、戸惑っていました。
【あるある行動】洋服を着られなくなった
認知症になると、これまでの生活でよく見て使っていたはずの物も、記憶の貯蔵庫からその名前を探し出せなかったり、使い方がわからなくなったりすることがあります。例えば、「慣れ親しんだ物が何だかわからない」「名前や用途は説明できるのに実際に使えない」「日常のいい連の動作を順序正しく行えない」など、行動の方法の認識が失われることを「失行」といいます。
また、「鏡に映る顔を自分と認識できない」「電話・呼び鈴などの音が何の音かわからない」「方角がわからない」「目的地にたどり着けない」といったものや概念の認識が失われることを「失認」といいます。視界の右側もしくは左側のどちらかが認識できない「半側空間無視」などもあります。
このケースでは、慣れ親しんできた長袖Tシャツをズボンか股引きと間違い、がんばって穿こうとしています。しかし、実際はズボンではなくTシャツなので、脚を通すところが3つあるように感じて混乱しているのでしょう。
最近の家電は高機能で便利になりましたが、慣れるまで時間がかかり、戸惑う人も少なくないはずです。認知症のある人は、昔から使い慣れた物でさえ、その使い方がわからなくなります。ましてや、新しい機器について「これは何か」「どうやって使うか」に慣れるのはとても難しいのです。
○もしあなたがこの世界にいたら?
もしもあなたが持っている上着の袖が5つあるように見えたり、逆に袖や首の出口が全くなかったりしたとしたら……どこに手を通していいのか?どこに出るのか?と戸惑いませんか?
【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子