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散りかけた桜の下で佇む祠のような廃駅、旧谷汲線更地駅へ【廃なるものを求めて】

さんたつ

いまから数年前のこと。岐阜県の樽見鉄道を訪れた帰りに車を走らせていると、「そういえば名鉄谷汲(たにぐみ)線の廃線跡が近くにあるね」と友人が思い出し、もう暗くなりつつあった県道を走って、旧谷汲線更地駅へ行きました。読み方は「さらぢ」です。 谷汲線は2001年に廃止となり、この駅も運命を共にしました。谷汲線前身の谷汲鉄道によって、大正15年(1926)に開業した駅で、当初は列車交換機能が備わっていたそうです。

闇に包まれていくなかで見つけた駅の遺構

空は夕焼けからブルーモーメントへ。そうなると廃線跡は目を凝らさなければ判別できません。この辺が駅だよなと、広場らしいところへ足を向けると、ホームが残っていました。

夜の更地駅へ到着したが、辛うじてホームが残っているのが判別できるくらいだった。2020年7月20日撮影。

「残っている!」

遺構を見つけた我々は、いささか興奮気味になりました。よかった、更地駅は廃駅となって更地にならなかったのかと、うっかりダジャレを言いそうになりましたが、ブルーモーメントから闇夜へとなりつつある広場で、うきうきしているのでした。

薄暮を過ぎて漆黒の闇へとなる間に撮った駅。ディティールはほぼ見えず、背後の雑木林のシルエットに同化されていった。2020年7月20日撮影。

ただ、もう真っ暗になりつつあるため、ほぼ手探りでの撮影と観察となりました。ホームとその脇に木が立ち、背後の雑木林の黒いシルエットと同化しそうです。このままではディティールの観察などできないし、駅の周囲は集落があって、夜の帳が下りた廃駅でゴソゴソと動きながら撮影する姿は、側から見ると怪しい人たちです。

うっすらと立入禁止の柵が浮かんで見えた。その先に樹木とホームがあるのだが……。2020年7月20日撮影。
南側の雑木林の方向を見る。左手があぜ道で、敷地境界線に鉄道柵があるのだが、もう闇の中で分からない。2020年7月20日撮影。

懐中電灯などもってのほか。これ以上迷惑がかからないよう、後ろ髪引かれる思いでしたが、いずれ再訪しようと決め、帰路につきました。

昼に再訪すると集落外れに駅があったのが分かる

谷汲線が現役のころ、更地駅のホーム脇には桜の木があって、春になると桜の名所として撮影ファンには有名でした。闇夜で浮かび上がった木が桜だったのです。谷汲線の廃止は大学生の時であったから、訪れようと思えば撮影できたはずなのに、当時はほとんど鉄道から遠ざかっていたため、谷汲線の存在も忘却の彼方だったのです。

2021年4月。ちょうど近隣の桜撮影を兼ねて更地駅へ再訪しました。しかし、更地駅の桜は既に終わりかけでした。更地駅の桜を基準にすると、他の場所が満開になっておらず、岐阜県内で長期間滞在するわけではないため、じっくりとチャンスを窺うこともできず、結果的にその他の場所を優先させました。更地駅は桜が咲いていたらいいなぁ程度の気持ちだったので、致し方ありませんね。ちょっと残念ですが……。

昼間に再訪すると、しっかりと敷地境界の柵が残っていて、背後にホームが2面と立派な桜が望めた。2021年4月3日撮影。

今回は昼間の再訪です。前回と違って谷汲線の跡もしっかりと分かり、更地駅へ近づくと旧道らしい道に集落が形成されているのが分かりました。駅のあった場所は集落の外れに位置しています。なるほど、町の中心からちょっと外れた位置に駅があったのか。東側は根尾川に挟まれて田畑が広がり、前回闇夜に浮かんだ雑木林が南側にあります。谷汲線の線路は、雑木林を避けながら黒野駅から北上してきて、更地駅へ至ったのです。

更地駅とは直接関係ないと思われるが、田畑に謎のコンクリートの塊から若木が生えていた。この空間だけ炭鉱跡のような雰囲気が漂って気になって仕方ない。2021年4月3日撮影。

では、更地駅をじっくりと見ていきましょう。線路はとっくに剥がされていますが、敷地境界の柵が残されたままで、線路の敷地がしっかりと判別できます。廃止後20年以上も経過すると、柵なども撤去されて敷地があやふやになるケースが見受けられますが、ここはくっきりと残っていて良いですね。現役の頃がイメージつきやすくて助かります。

夜に訪れたときは辛うじて柵が見えていた程度だったが、踏切跡には懐かしい自動車通行禁止の標識が錆びていて、ホームのスロープもしっかりと残っているのが確認できた。2021年4月3日撮影。

線路の道床はすっかりと緑の絨毯となり、それを目で追っていくと、2面のホームと、傍らに桜の木が視界に入りました。立派に枝を広げた桜は散りかけ。そこに相対式のホームちょこんと佇んでいて、何か儚さが伝わってきました。それに訪れた日は曇天の空で、きらきらとした晴天にはない、しっとりする気持ちにさせてくれます。儚く、しっとりとした春の日、廃駅に佇むには最高な環境です。

桜と菜の花に囲まれたホームが祠のようだ

更地駅は開業時に交換設備がありましたが、しばらくして交換設備が撤去されました。早々に線路が撤去された側のホームは、どうやら解体されずにずっと残されていたのですね。駅の機能としては、1面1線構造の駅でした。

左手のホームは開業後しばらくして使用されなくなったと思われる。廃止時までは右側のホーム1面1線を使用していた。ホーム脇の桜がシンボリックな存在だった。2021年4月3日撮影。

ホーム脇の桜は、現役時代の写真を見ると中くらいの大きさでした。廃止後二度と電車が来なくなると四方に枝を伸ばし、こんもりと大きく立派な桜へと成長したのです。ホームは階段部分が草に覆われて、もう何十年も人が昇り降りしていないことを示しています。緑に覆われつつあるホームか……。

ふと、ホームが古い祠に見えてきてしまいました。祠を護るように桜の大樹が枝葉を広げ、春になると咲き誇り、何年も何年も変わりなく祠を見守っている……。うう、傍らのホームが愛おしくなってきます。散りかけた桜に廃ホーム、最高です。(二度目)

桜は散り際にも美しさがあると思う。菜の花の黄色が春色の彩りを与え、線路のあった場所は若々しい緑の絨毯に覆われていた。おや、右端の棒は…。2021年4月3日撮影。

ホームと構内は立ち入り禁止となっています。おそらく、名鉄の管理なのでしょう。でも、柵の外からでも十分に観察できます。駅の北側へ移動すると、線路端であった場所に菜の花の群生があって、ちょうどピークを迎えていました。散り際の桜と曇天の空模様、鮮やかな黄色い菜の花が彩りを与えてくれます。

本の棒はキロポスト。数字は削れて判明できないが、起点の黒野駅からの距離が刻まれていた。2021年4月3日撮影。

もしこのシチュエーションに、名鉄スカーレットカラーの古豪電車がやってきたら…… まぁ、電車は桜の枝に当たってしまうのですが、さぞかし絵になったことでしょうね。菜の花を手前に入れて、遠景で更地駅を眺め、桜の傍に赤い電車を置いて想像してみました。

更地駅の駅舎は、現役時代に解体されて存在しません。かつての踏切から駅全体を眺めます。谷汲線が廃止されず、まだ現役の駅であったのならば、大変のどかで桜の美しい環境から、きっと秘境駅や〇〇の駅と冠をあてがわれて人気になったと思います。周囲は古い町並みで騒音もほとんどなく、背後の雑木林、元気に花を咲かせる桜、そこに佇むホーム。のんびりと時を刻む空気が流れていました。

菜の花越しにホームを見る。ここにスカーレット色の赤い電車がやってきたら、それだけで眼福だ。

帰り際、菜の花の脇道を一匹の猫がゆっさゆっさと歩いてきます。廃駅なんて我関せず。堂々と歩いてきて、線路のあった敷地へと消えていきました。猫にはここが廃駅だろうと現役だろうと関係なく、自分の庭みたいなもの。そんなことを思っていると、どこかへ行っちゃいました。次は満開のときに来るのもいいですね。廃駅に咲き誇る桜と菜の花。それも絵になりそう。

取材・文・撮影=吉永陽一

吉永陽一
写真家・フォトグラファー
鉄道の空撮「空鉄(そらてつ)」を日々発表しているが、実は学生時代から廃墟や廃線跡などの「廃もの」を愛し、廃墟が最大級の人生の癒やしである。廃鉱の大判写真を寝床の傍らに飾り、廃墟で寝起きする疑似体験を20数年間行なっている。部屋に荷物が多すぎ、だんだんと部屋が廃墟になりつつあり、居心地が良い。

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