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リーグ終盤戦へ!ジュビロ磐田の新システム4−3−3導入が意味するもの

アットエス


【サッカージャーナリスト・河治良幸】ジュビロ磐田はブレイク明けのJリーグでアルビレックス新潟にアウェーで2点差を追い付いて引き分け、上位を争う鹿島アントラーズに2−1の逆転勝利を飾った。新潟戦の終盤、そして鹿島戦にスタートから使われたのが4−3−3だ。

これまで横内昭展監督が、固定的に使用してきたのが4−2−3−1というシステム。中盤が2ボランチで、いわゆる“10番ポジション”と呼ばれるトップ下に選手を配置する。もっとも磐田の場合はブラジル人FWマテウス・ペイショットと今シーズン15得点のジャーメイン良が縦に並ぶ形がファーストチョイスで、4−4−2と表現しても間違いではない。

新潟戦終盤に見せた4−3−3

新潟戦は終盤に1点を追いかける時間帯で、ペイショットの後ろにジャーメインと新加入のFW渡邉りょうを“2シャドー”として並べ、1ボランチに松本昌也を配置した4−3−3。左右のウイングには古川陽介とブルーノ・ジョゼという超攻撃的な勝負の布陣だった。

しかし、渡邉を投入して、その形にした矢先にペイショットが退場してしまい、磐田は10人に。結局ジャーメインと渡邉を2トップに、ウイングを中盤に下げる4−3−2になった。

劇的な同点ゴールが生まれたのは、その直後だった。右サイドバックの西久保駿介がヘッドでクリアしたボールを古川が拾い、中央スペースで受けた渡邉がジャーメインにスルーパスを通してネットを揺らした。

鹿島戦で見せた4−3−3

その新潟戦で横内監督が打ち出した、ある種スクランブルの4−3−3と鹿島戦でスタートから使われた4−3−3は形こそ同じだが、戦術的な狙いは違っている。

鹿島戦に関しては、横内監督は「鹿島のストロングを消しながら、自分たちのストロングをどう出せるか」を練って決断したという。

4−2−3−1の鹿島に対して、守備の時には4−3−3から4−1−4−1の形に変えて中盤を噛み合わることで、自由にボールを持たせない。その上で、幅広く動くFW鈴木優磨や右サイドバックから自由度の高い攻め上がりをしてくる濃野公人を全体で受け渡しながらチェックするというのが基本だった。

1ボランチのレオ・ゴメスは2列目の中央で起点となるMF名古新太郎をチェックしながら、危険なところにプレッシャーをかける。もしレオ・ゴメスが中盤の底を開ければ、インサイドハーフの松本昌也か平川怜が柔軟にカバーリングで埋める。

日本代表の森保一監督は守備の形を基準に4−1−4−1と表現しているが、カタールW杯まで代表コーチとして支えた横内監督のコンセプトも、それに通じるものがある。

横内監督の狙い

攻撃面のメリットはインサイドハーフの選手が、より高い位置で絡めるということ。横内監督も鹿島戦後の会見で「(平川)怜と(松本)昌也に、少しボランチより前でプレーしてもらった。その方が彼らが生きてくる」と意図を説明している。それによりウイング、インサイドハーフ、サイドバックによるコンビネーションも発揮しやすい。

象徴的だったのが、鹿島戦の前半25分にあった攻撃のシーン。FW渡邉りょうが落としたボールを松本が前向きに受けて、その間にブルーノ・ジョゼが内側から追い越す。鹿島の守備陣が引きつけられて生じた手前のスペースに平川が侵入し、松本、ブルーノとの見事なコンビネーションで右サイドを破った。金子翔太がニアに走りこんで合わせようとしたところを植田直通にクリアされてしまったが、横内監督の狙いがよく表れたシーンだった。

柔軟なシステム選択が可能に

鹿島戦の終盤には松本に代わり、中盤に入った山田大記がジョルディ・クルークスのクロスから見事な左足のボレーシュートで同点ゴールを決めた。この時点で磐田は通常の4−2−3−1で、トップ下に山田が入り、平川はレオ・ゴメスと2ボランチを形成したように見える。

ただ、山田に聞くと守備はスタートと同じく4−1−4−1を継続して鹿島の攻撃を封じながら、攻撃の時に可変して、山田の方が平川より高い位置に上がるイメージになっていたようだ。

これまで固定的に構築してきた4−2−3−1のベースがあるところに4−3−3(4−1−4−1)を導入したことで、スタートポジションがどちらにしても、試合の状況や選手の組み合わせに応じて柔軟に選択できるようになっているのはポジティブな注目点だ。

現実を直視しつつ、柔軟に

8月17日のアウェー町田戦はジャーメインが復帰、8月25日に行われるホームの札幌戦には2試合の出場停止だったマテウス・ペイショットが帰ってくる。新潟戦、鹿島戦で見事な働きを見せた渡邉を二つのシステムの中で、どう組み合わせていくのか興味深い。

現在の磐田はどこが相手でも全くやり方を変えず、試合の主導権を握れるチームではない。それは世界を相手に戦ってきた指揮官が、誰よりも理解しているはず。鹿島戦の決断にはある種、その現実を受け入れた上で、相手のストロングを消しながら、自分たちの良さも出していきたいという思いがシステム、選手の起用法に表れていた。

そうしたリアルに向き合いながら、どう組織的に戦い、選手たちのストロングを発揮させていくか。新システムの4−3−3がどう使われていくのか。ここからの戦いの注目ポイントの1つだろう。

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