子どもに親は「戦争」をどう伝える? 小泉悠が明かす「AI・ドローン」と「現代の戦争」の真実
「どうしてゲームと同じドローンで人を攻撃するの?」ニュースを見た子どもの純粋な疑問に、言葉を詰まらせた経験はありませんか?親としてこの現実をどう整理し、子どもに伝えればよいのか。
東京大学先端科学技術研究センター国際安全保障構想分野・准教授の小泉悠先生に、現代の技術の進歩と戦争、そして私たちの生活とのつながりを伺いました。
画像▶ 親子で読みたい「戦争と平和」を考える本【4選】小泉 悠(こいずみ ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター(国際安全保障構想分野)准教授。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現職。専門はロシアの軍事・安全保障。
戦争で起きる被害や頻度を減らすことはできる
──ドローンやAIが戦争で使われていることをニュースで耳にします。とはいえ、AIもドローンも私たちの生活に欠かせないものであるのも事実です。人類の発展や経済の発展と戦争が切り離せないのだとしたら、この矛盾を私たちはどう考えていけばいいのでしょうか?
小泉悠先生(以下、小泉先生):「道具は使いよう」という言葉がありますよね。包丁は美味しい料理も作れるけれど、人を殺めることもできる。つまり意思を持たない道具は、使う側の意思次第です。技術自体は、常に価値中立なものなんです。
実際、いま僕らが当たり前のように使っているテクノロジーは、たいてい軍事技術から生まれています。たとえば冷蔵庫。冷媒でものを冷やす技術が最初に使われたのは、戦艦の弾薬庫です。弾薬が暴発しないように、温度管理のために真っ先に導入されました。
ホッチキスも、機関銃をつくっていた会社の技術がもとになっています。人類の発展と戦争は、もともと表裏一体のものだったと僕は考えています。今になって急に人類が堕落して、技術との関係が悪くなったわけではありません。
ケネス・ウォルツの『人間・国家・戦争』という国際政治学の古典本では、なぜ戦争が起きるのかを「政治家個人の資質」「政府のあり方(民主主義か独裁か)」「国際システムのあり方」の3点で説明しています。
小泉先生:一方僕は、身も蓋もないですが「人間はタンパク質でできた生命体なので、死んだら生き返れない」。だから「殺すぞ」という脅しが、究極の強制力になってしまうと考えています。
暴力が一定の価値を持ってしまう以上、戦争をなくすのは残念ながら簡単ではありません。ただ、戦争で起きる被害や頻度を減らすことはできるはずです。
“戦争をなくすこと”を終点に置きつつ、その終点までの長い過程の中で、暴力をもって暴力を抑制する「抑止」という考え方も必要になってくるでしょう。
もちろん「抑止」そのものが緊張を高めるという意見もありますが、じゃあ「代わりに何をするのか」ということは、やっぱり問われなければいけないし、私たち自身も考えなくてはいけないと思います。
ドローンが戦地の空を埋め尽くす時代
──いまはその抑止のひとつとして、ドローンやAIが使われるようになっていますが、これらの利用によって、ウクライナやロシアの兵士や市民の生存率は上がったのでしょうか?
小泉先生:いまの戦場にはドローンだけじゃなく、地上を無人で走る車両や水上を走る無人艇など、さまざまな「UXV」(Unmanned X Vehicle)が戦地で戦っています。空中ならUAV(Unmanned Aerial Vehicle/無人航空機)、地上ならUGV(Unmanned Ground Vehicle/無人地上車両)といった具合です。人間がいない(Unmanned)という意味では手のかからない戦争みたいに見えますけど、実際はそうではありません。
無人兵器は依然として人間がラジコンのように遠隔操縦しています。そうなるとオペレーターは現場の近くにいなくてはならないことが多く、整備や修理をする人員も必要です。結局、人が乗る戦車や戦闘機を運用するのと、かかる人手の数自体はあまり変わってないのが事実です。
さらに、いまのウクライナの戦場では、前線から10~30キロくらいの範囲に、ハエみたいにドローンがうわーっと飛び交っているんです。ウクライナは年間400万機のドローンを作っていると言われていて、単純計算すれば一日あたり1万機消耗してもいい計算になります。
戦闘接触線(敵と味方の最前線部隊が直接接触しているライン)の特に重要な正面100キロほどにドローンを集中させれば、そこら中にドローンがいる状態がつくれてしまう。人間がその範囲に入っていくと、もうイナゴの群れのようにドローンが群がってくるんです。
小泉先生:また、戦車1台を潰すのに10機ほどのドローンを使うとも言われていますが、20万円のドローンを10機使っても200万円。日本の10式戦車が1台10億円近くすることを考えると、なんとも効率的──と言ってはいけないのですが、そういう理屈になってしまいます。
これは兵士の命についても同じです。ロシアの貧しい地方の人などは、兵士になれば年収の1~1.5倍にあたる月給に惹かれて入隊するわけですが、突撃要員として前線に投入されると、何十分かで、つまり軍隊に入ってから命を落とすまでが数ヵ月、良くて半年という状態になっています。
結局その月給を何回も受け取れる人は少ないんです。つまり、ドローンという無人兵器が登場したことで、むしろ人間は簡単に死ぬようになってしまっている。これはサイバーやAIについても、同じことが言えると思います。
AIは戦争を終わらせない
──スマホや家電、そしてチャット形式のサービスまで、私たちは生活を一層便利にするためにAIを利用していますが、AIは戦場で具体的にどのようにつかわれているのでしょうか?
小泉先生:今は戦闘指揮システムに使われています。アメリカのイラン攻撃で使われたとされるパランティア社の「メイヴン」や、ウクライナの「デルタ」システムは、いかに効率よく戦うかを実現する軍事指揮AIです。この活用で自軍の損害は減らせても、AIと戦わなければならない生身の兵士はどんどん死んでいく。
サイバー戦も同じで、地上部隊がぶつかり合っている間に、敵の指揮システムにサイバー攻撃を仕掛ける、ということが行われています。つまりAIもサイバーも、生身の人間が命のやり取りをするフィジカルな戦場と、切り離せないかたちで結びついているんです。
サイバーやAIは、それだけで戦争に勝つ「主役」ではありません。軍事では、「イネーブラー(戦いを可能にするもの)」や「フォース・マルチプライヤー(戦力を何倍にも高めるもの)」と考えられています。
例えば、1000人の兵士がいるとします。同じ1000人でも、昔ながらの方法で戦う場合と、AIが戦況を分析して最適な作戦を示したり、サイバー部隊が相手の通信を妨害したりする場合では、発揮できる力はまったく違います。兵士の数は変わらなくても、AIやサイバー技術が加わることで、同じ部隊が何倍もの力を発揮できるようになるのです。これが「フォース・マルチプライヤー」という考え方です。
最新なのに古典的な現代の戦争
──私たちの生活を潤すAIが、戦地ではいかに効果的に敵を痛めつけるかを考えていると思うと、先ほどの「道具は使いよう」という言葉の持つ意味が、重く響きます。
小泉先生:でも実はこれ、非常に古典的な戦争の構造なんですよね。あくまで「鉄砲を持った兵士が主」で、「AIやサイバーは従」にすぎない。マルチプライヤーの道具立てが、時代によって変わるだけなんです。三国志で言えば、「偽情報を撒いてこい」と命じられた兵が走っていく場面がありますが、あれと同じこと。諸葛孔明の代わりにAIがいて、偽情報を撒く兵の代わりに、SNSで偽情報を流す人がいる、というだけの話です。
一方で、「戦うこと」そのものではなく、情報戦を主役にする戦い方も考えられてきました。例えば、AIで作った偽情報をSNSで一気に拡散し、人々を混乱させたり世論を動かしたりする。そして、その効果をさらに高めるために巡航ミサイルを撃ち込む──。つまり、軍事攻撃が主役ではなく、「情報で相手を揺さぶること」が主役で、軍事力はその効果を高めるための手段になる、という発想です。
こうした戦い方はロシア軍の中で長く議論されてきました。しかし、実際に始まったウクライナ戦争を見てみると、戦争の中心は結局、兵士が前線で戦い、砲兵や戦車で攻撃し、陣地を奪い合うという、非常に古典的なものでした。
南北戦争のさなかには機関銃が発明され、鉄条網もほぼ同じ時期に実用化されました。鉄条網で兵士の動きを止め、機関銃で攻撃する──。
その戦い方は、日露戦争や第一次世界大戦へと受け継がれ、近代の消耗戦の原型になっています。当時の人々も、「新しい兵器が戦争をどう変えるのか」という関心を抱いていたはずです。しかし、その先にあったのは、より効率的に人命が失われる現実でした。
だからこそ私は、今の子どもたちには、ドローンやAIといった最新技術だけを見て戦争を捉えてほしくないと思っています。最新技術に目を奪われるのではなく、その先で何が起き、人がどのような犠牲を払っているのかまで含めて考えてほしいのです。
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次回2回目では今年(2026年)の4月、開戦後初めてウクライナの首都・キーウを訪れ、そこで見た現地の日常について、引き続き小泉先生にお話しいただきます。
撮影/葛西亜理沙
取材・文/知野美紀子
『現代戦争論 ──ロシア・ウクライナから考える世界の行方』著:小泉悠(筑摩書房)