シングルマザーと発達障がいのある息子。賃貸でも楽しく暮らすためのDIY生活
頼れる人がいないからこそ、親子で「安心できる空間」を
現在、日本における母子世帯の数は119万5,000と推定されている。一人親世帯となる理由として、離婚が79.5%、死別が5.35%と圧倒的に離婚の割合が高い。(令和三年度全国ひとり親世帯等調査より)
離婚後、同居家族がいれば、安定した衣食住を得て再出発できる可能性はある。だが、親族に頼れずたった一人で子どもを養わなければならない母親もいる。その場合、一人親世帯の住まいを探すにはどうしたらいいのか。
不動産会社からの条件として、賃貸借契約には安定した収入や収入証明が必要であったり、保証人を求められるなど、さまざまなハードルがある。さらに、子どもがいれば、通学や安全性も考慮した地域を探さなくてならない。
今回は埼玉県所沢市の小高祐美さん(40)の自宅を訪問した。8年前に夫と離婚し、現在は息子の隆祐くん(小学生・発達障がいあり)と二人暮らしだ。
取材のきっかけは彼女が頻繁に更新するSNS。毎日、息子さんの様子や自分の心境を吐き出すようにつづっている。
だが、ここで注目するのは、小高さんが得意とする模様替えや本格的なDIY、庭で育てる植物などのインテリアだ。「今日はモンステラを植え替えしました。新芽が出ています」と部屋に飾る観葉植物や、手作りの棚やテーブルなどが度々投稿されている。
賃貸でも可能なDIYや模様替えを通して、隆祐くんとの毎日を少しでも楽しく暮らせるよう工夫していた。
福祉と自立の狭間で
小高さんが現在の住まいに越してきたのは約1年半前。家賃5万3,300円、2DKで1階の角部屋。
畑ができる広さのある庭と駐車場が付いている。周りは閑静な住宅街で、小学校やドラッグストアなどがある。駅からはやや離れているが、車を所有しているため生活に不便はなかった。
地域の相場を見ても、好条件な物件だ。そもそも賃貸で庭付きのアパートやマンションを借りることは珍しく、簡単に借りられるものではない。
運よく入居できたのは、「ママ友が大家だったから」と小高さんは話す。
入居前、一戸建ての賃貸に暮らしていた小高さんは、母親の介護をしていた。母親を看取った後、今度は息子が学校を休みがちになり、転校を視野に入れて次の住まいを考えるようになったという。
そんな折、美容院も経営している大家のママ友にカットをしてもらっている最中、「空いている部屋はないか」とふと尋ねた。すると、「ちょうど角部屋が空いた」と言われ、その日のうちに内見。すっかり気に入り、そのまま契約へと進んだ。
小高さんは「私たちの事情を知っている方なので、家賃も少し下げてくれたのかもしれない。本当に感謝したいです」と微笑んだ。
小高さんの出身は茨城県。結婚を機に埼玉県に越してきた。両親はすでに他界し、関西で暮らす兄がいるが、お互いの生活に余裕がなく滅多に会えない。
そんな小高さんは、音楽療法士として重度の障害を抱える子どもを支援している。さまざまな楽器を使い、音楽を通して一人ひとりに合った発達を促す。だが、小高さん自身に精神疾患があり、フルタイムに働くことが難しい状況だ。
隆祐くんは発達障害で自閉症スペクトラムと診断を受け、これまでに学校を3回転校した。現在は週2日は学校へ登校し、1日はフリースクールへ。最近では習い事のプールに通い始めた。
現在の収入源を尋ねると、以下のような支援が中心だった。
・元夫からの 養育費(約5万円/月)
・障害者年金(約6万5,075円/月)
・児童扶養手当(約2万6,750円/月)
・特別児童扶養手当2級(約3万7,830円/月)
・児童手当(月1万円/月)
・音楽療法士としての収入(資格手当あり 約4万5,000円)
・その他(周囲の手伝い、医療費助成など)(約1万円)
※2025年現在の制度に基づく参考値。実際の支給額は所得や自治体で変動。
月収のおおよその目安は約24万5,000円前後になる。これは支援の重なりによるもので、すべての母子家庭に当てはまらない。
月の金額を聞けば「贅沢では?」と感じる人もいるかもしれない。
だが、その内訳は、病気や障がいを抱える中でどうにか立ち上がるための命綱だ。
そこから家賃や光熱費、食費、療育・自動車保険、学校関連費などをまかなっている。
幸い、元夫から養育費をもらいながら、息子のフリースクールと習い事の月謝を支払っていると話していた。
音楽療法士の仕事は、小高さん自身や息子さんの体調がすぐれない日も多く、月に3回のときもあれば9回ほど入れることもあるという。
最近では、「息子が学校に行かない日や、体調不良の際も在宅でできる仕事を」と株式トレードを信頼できる知人に教わって勉強を始めていた。
両親の残した実家の土地はあるが、相続手続きはまだ完了しておらず、すぐに自分のものになる状況ではない。
今の暮らしは、公的支援に支えられてようやく成り立っている。
だが、話を聞く中で、小高さんは時折突発的な買い物行動をしてしまう悩みがあることがわかった。「本当ならもう少し貯められるはず」と小高さんは正直に話す。
公的支援はあくまで安定した生活を持続するために必要とする。
本人にとっては健康維持や気分転換の一環だが、予算の中でやりくりするには、改善の余地が見られそうだ。
賃貸物件でもできるDIYや模様替えの工夫
男の子を育てるシングルマザーの家と聞けば、つい「散らかってそう」と想像しがちだ。だが、小高さんの家は程よい生活感と、整った空間が共存し、居心地の良さを感じられた。
賃貸物件のため、壁や天井に穴を開けられないことから、どう傷を付けずにDIYができるかが重要なポイントだ。ツーバイフォー材で室内に柱を立て、ホワイトボードや植物などを吊るしていた。結婚当初に使っていたテレビボードは解体して、脚を取り付けてテーブル兼本棚として活用している。
下の画像は息子さんのために設けられたスペース。手作りの棚に綺麗に並べられたおもちゃ、大好きな工作がすぐにできるよう必要な道具類やカラフルなブロック玩具なども手の届く場所に置いてあり、子どもの目線に合わせて配置した小高さんのやさしい親心が見える。
食事で使う丸テーブルは、元夫と暮らしていたころにちゃぶ台として使っていた物だ。離婚後に脚を取り替えて高さを出し、ダイニングテーブルにリメイク。さらに今ではその丸テーブルを半円丸にカットし、元のちゃぶ台の脚を付けた半円テーブルとして活用している。
生活スタイルが変わるごとに、サイズや型を変え再利用し、どれも小高さんのセンスが光るが、ちゃぶ台の脚を捨てずに取っておいたことには驚かされた。
一度使ったからといってすぐには捨てない。「でもいらないと思えば、手放していますよ」とあっさりしている。何度も引越し経験を重ねて、物の要不要の判断は的確だった。
廃材を使ったリメイク術
この住宅の魅力は室内だけでなく、庭付きで畑もある点も大きい。ベランダへ出ると、小高さんがDIYで仕上げた白いテラスが目に入る。「最初は黒く塗ったら、夏は火傷しそうになるくらいに熱くなっちゃって。白に塗り替えたんです」と話す。
テラスは庭に積まれていた廃材を見つけ、大家の許可を得てリメイクすることができた。
テラス横の室外機も廃材を活用してカバー。テーブルのように仕立て、植物を飾れば、涼しげな空気が生まれた。
畑には季節の野菜や花を植え、丁寧に手をかけている。何よりも「育てる楽しみ」を感じていた。
アパート内にある桑の木を大家が切った際には、切り落とした枝を譲り受けて、畑の柵に活用するなど、どこまでも資源を無駄にしない姿勢が印象的だった。
近隣からのクレームがないとは言えない
ここまで、工夫を凝らしたDIYを見てきたが、小高さんは仕事柄ピアノを弾いたり、歌を歌うことも多い。また隆祐くんは、普段から突然癇癪を起こして大声を上げたりすることもある。寝返りを打って壁に足が当たって音が響くなど、子どもならではの騒音もある。
最近は、小高さんが手作りで防音効果のある壁を設置した。その際、作業音が「うるさい」と隣人から不満の声が上がった。
配慮のつもりが、かえって騒音になり誤解や気まずさが生まれてしまった。
障がいのある子どもと暮らす家族にとっての問題も聞いてみた。
「うちの息子は夜はよく寝てくれます。でも、障がいの特性で睡眠障がいがあるお子さんもいて、夜中に元気に活動してしまうと、近所から苦情が出て困っているご家庭も多いと聞きます」
賃貸物件では、壁の薄さによる「音」の問題が大きなストレスになりがちで、住みづらくなってしまうケースはよくあること。自分の体調や気分が悪い日に大きな音を出されたら不快になる、それは相手も同じだ。お互いの姿が見えない分、賃貸物件に暮らす際は普段から慎重にならざる得ない。
DIYは暮らしの工夫、住みやすさ、そして心の拠りどころ
すぐに助けを求められる家族はいないが、小高さんは人に恵まれている。「孤独を感じる」と話すも、ママ友、職場の同僚、音楽活動の仲間がいる。
心あるやさしい人たちに囲まれて、いざという時は「助けて」と素直に言えるのは、彼女が誠実でオープンな人柄だからだろう。
寂しさや不安、ふと湧いてくる物欲を埋めるために、今は得意なDIYに没頭できる時間が精神的な支えになっている。「新しい物を買ってはいないのに、まるで買ったような気持ちに。なんだか働いて稼いだような気分になれます」と生活の便利さを超えて“自分を元気にする手段”になっている。
最後に、引越しを重ねた経験から感じたことを訪ねると「一人親世帯でも、住まいに関しては妥協しすぎないようにしている」と話していた。
家賃が安ければ暮らしは助かるが、建物や周辺環境によっては、治安面が気になる。
「家を探すときは、外観や雰囲気を大事にしているんです。安心できる暮らしをしたいから」と落ち着ける場所を選んでいる。
希望する条件をすべて叶えるのは簡単ではない。それでも、生きていくために自分にとって大切なものは誰にでもある。小高さんにとって、それは音楽・植物・それとDIY。息子さんと前を向いて生きていくために必要な糧となっている。