紳士服の大手4社軒並み赤字。オーダースーツ不況に襲われた理由 - Yahoo! JAPAN

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紳士服の大手4社軒並み赤字。オーダースーツ不況に襲われた理由

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かつては高嶺の花だったオーダースーツですが、各社の企業努力が実を結び、既製服とそう変わらない金額で手にすることが可能になりました。しかし、それがかえって紳士服業界を苦境に陥らせているようです。なぜこのような状況となっているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんが、各社の業績や動向を分析しつつその原因を探っています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

オーダースーツが売れているはずなのに、なぜ紳士服業界は不振なのか

オーダースーツというヒット商品がありながら、紳士服業界の売上が悪化している。大手4社、青山商事、AOKIホールディングス、コナカ、はるやまホールディングスの直近の決算は、4社とも売上こそ微減にとどまっているが、揃って赤字と惨憺たるものだ。

近年は、堅苦しいオーダースーツのイメージを変える、予め決まったサイズ、生地、デザイン、ボタンや裏地などのディテールを組み合わせる、簡素化されたパターンオーダーが急速に普及している。ところが、競争激化で逆に“オーダースーツ不況”ともいうべき陥穽にはまっている。AOKIのようにオーダースーツの専門店から撤退する動きも出てきた。

CAD(コンピュータ支援による設計)、CAM(コンピュータ支援による製造)のようなITを使って、顧客の情報を工場にフィードバックして製造するシステムを構築。オーダースーツのコストダウンを実現したのは画期的なのだが、1着の値段が既製服と変わらない、2万円台から買えるようになった。そのため、既成服の売上に影響が出ている。しかも、通販や婦人服の業者などアウトサイダーも参入してきた。

元々、テーラーの手縫いによる仕立服であるオーダースーツは、1着数十万円になるほどの高額品であった。だが近年の技術革新により、自分のサイズにぴったりで着心地の良いオーダースーツが、パターンオーダー形式で、安価に提供可能になってきた。

近年はテーラーが減少しており、機械化せざるを得ない業界の事情もある。そこを逆手に取ってのパターンオーダーなのであるが、期待したほどの着心地を得られない。かといって、もう既製服にも戻れないといった消費者の不満も聞かれる。

手縫いのフルオーダーと、機械縫いのパターンオーダーは、例えて言えば職人が握る市井の寿司屋と、寿司ロボットが握るチェーンの回転寿司くらいの明確な違いがある。その中間のイージーオーダーは、職人が居るタイプの回転寿司のようなものか。パターンオーダーへの消費者の期待が高過ぎるのかもしれない。

スーツの市場はビジネスシーンの服装のカジュアル化、消費増税の影響もあって落ち込み、顧客の財布の紐は堅く閉じられたままである。軒並み売上不振に陥ってしまった紳士服業界に、光明はあるのだろうか。

具体的に紳士服大手各社の状況を見てみよう。最大手、青山商事の2020年3月期第2四半期決算(連結)は、売上高1018億8200万円(前年同期比3.1%減)、営業損失15億5700万円、経常損失11億5800万円の赤字。最終的な当期純損失も64億6900万円の赤字となった。

青山商事は、16年2月にオーダースーツ専門店「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」1号店を渋谷にオープン。11店にまで増えている。それに加え、19年9月に都市部の「洋服の青山」、「ザ・スーツカンパニー」の計76店に、よりシステムを簡素化して、1着2万円台にまで値段を下げた「クオリティオーダー・シタテ」を投入。オーダースーツが2ブランド体制になった。

青山商事の「ザ・スーツカンパニー」

青山商事の「ザ・スーツカンパニー」

同社の特徴は、「バーチャルフィッティング アバターシステム」にある。オーダースーツは既成服のようなフィッティングがないので、着た感じがイメージできにくいが、同システムでは顧客を3D撮影して作成したアバター上に、好みの色、柄、デザインのスーツを選んで、着用後のイメージを膨らませられる。ドレスシャツと合わせると1000種類以上のパターンが選択できる。

「ザ・スーツカンパニー」店内

「ザ・スーツカンパニー」でもオーダースーツを扱っている

「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」は19年3月期には、売上が前年より50%増えるほど好調だったそうだ。新ブランドを出すほどオーダースーツが売れる流れが続いているが、全体では赤字だ。

青山商事のオーダースーツ専門店「ユニバーサル・ランゲージ・メジャーズ」

2番手、AOKIホールディングスの2020年3月期第2四半期決算(連結)は、売上高827億9500万円(同2.0%減)、営業利益3億7700万円(同75.8%減)、経常損失4億9600万円と、アオキも経常ベースで赤字となった。当期純損失も、9億8800万円が出た。

「Aoki Tokyo」外観

そうした結果を受けて、アオキはオーダースーツ専門店「Aoki Tokyo」3店を順次閉店。昨年12月に池袋東口店、1月に新宿東口店が営業終了。残った銀座6丁目店も2月24日に閉店し、ブランドが消滅する。「Aoki Tokyo」は1着2万円台からの低価格を訴求し、昨年3月に立ち上ったが1年持たなかった。「Aoki Tokyo」では、カウンセリングを強化。フルオーダーに近い丁寧なサービスを訴求し、半年を経過して計画を上回っていたはずなのに、消費税の影響もあって変調をきたしたか。

閉店するアオキのオーダースーツ専門店「Aoki Tokyo」

今後は、18年10月より「パーソナルオーダー」という、簡素なパターンオーダーを既存の「AOKI」、「オリヒカ」で全国展開しており、オーダースーツはこの販売に集中する。

3番手、コナカの2019年9月期決算(連結)は、売上高606億9800万円(前年同期比6.8%減)、営業利益7300万円(同91.9%減)、経常利益4億5400万円(同66.8%減)と大幅な減収減益。当期純損失は53億4400万円の赤字であった。

コナカは特に、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏のプロデュースで、オーダースーツの新ブランド「ディファレンス」の店舗を立ち上げるほど、気合が入っていた。佐藤氏は、セブン-イレブン・ジャパンの100円セルフ式コーヒー「セブンカフェ」をはじめ、ヒットメーカーとして知られている。

コナカのオーダースーツ専門店「ディファレンス」。佐藤可士和プロデュース

「ディファレンス」1号店は、16年10月、東京・青山に誕生している。

「ディファレンス」外観

「ディファレンス」の特徴は、ユーザーが自由にアプリでスーツをパーソナライズできることだ。パーソナライズとは、ユーザーがサイズ、生地、スタイル、ディテールをカスタマイズできる仕組みを指す。パーソナライズしたデータをアプリで管理でき、2着目以降の注文は、店舗に行かなくてもネットで済ませられる。

「ディファレンス」では2着目からは、スマートホンのアプリで注文できる

価格は1着で3万8000円だが、2着で4万8000円に下がることもある。

「ディファレンス」は好評で53店まで増えているが、それ以上に既製服の売上が減ってしまった。

4番手、はるやまホールディングスの2020年3月期第2四半期決算(連結)は、売上高211億6000万円(前年同期比4.4%減)、営業損失9億9400万円、経常損失8億4900万円、当期純損失7億3400万円と、はるやまも赤字の決算であった。

はるやま商事は、12年5月に初の都市型ショップとして、東京・赤坂に「ハルスーツ」をオープン。専属のコーディネータが顧客のカウンセリング、採寸、コーディネートなどを提案する対話型サービスを開始。パターンオーダースーツの販売を始めた。

はるやまの都心店「HAL SUIT」。オーダースーツに力を入れている

「HAL SUIT」外観

「P.S.FA(パーフェクト・スーツ・ファクトリー)」と、「スーツのはるやま」の都心部店でもパターンオーダーを扱っているが、季節の変わり目ということもあり、品薄になっている商品も多い。それほどオーダースーツが売れていながら、やはり全体の売上が落ちている。

では、4社を追う中堅どころで上場会社のタカキュー、オンリー、銀座山形屋はどうだろうか。

タカキューの2020年2月期第3四半期決算(非連結)は、売上高165億400万円(前年同期比10.2%減)に対して、営業損失3億4600万円、経常損失1億7400万円、当期純損失4億4900万円の赤字であった。タカキューもスタイルオーダーというパターンオーダーを展開している。また、17年10月には新宿サブナードに、「スーティスト」というオーダースーツ専門店を出店した。

タカキューのオーダースーツ専門店「スーティスト」

オンリーの2020年8月期第1四半期決算(連結)は、売上高18億700万円(前年同期比7.4%減)、営業利益2億6400万円(同24.9%減)、経常利益3億1400万円(同18.8%減)、当期純利益2億100万円(19.4%減)と減収減益ながら、わずかでも利益が出ている。

オンリーは17年6月より、採寸と生地選びだけでオーダースーツがつくれる、「ミニマルオーダー」という顧客が決める項目を最低限に抑えた、オーダースーツ入門者向けのブランドを立ち上げた。店舗に行かなくても自分で採寸できる、Web通販用の特製採寸メジャーも開発している。

オンリーの旗艦店「オンリープレミオTOKYO」有楽町店。オーダースーツの注文も受ける

オンリーの「ミニマルオーダー」の流れ。専用メジャーで顧客が採寸して、通販での注文も可能

オンリーではサイズ対応のバリエーションを考慮した、改良型パターンオーダーの「テーラーメイド」を02年から展開しており、オーダースーツでは2ブランド体制である。

銀座山形屋の2020年8月期第2四半期決算(連結)は、売上高24億100万円(前年同期比4.2%減)、営業損失1億4900万円、経常損失1億700万円、当期損失1億2500万円となっており、やはり赤字となっている。

「銀座山形屋」外観

銀座山形屋の場合、サイズが補正できるだけでなく、なで肩・いかり肩、猫背、O脚などの体形補正も可能なイージーオーダーのスーツを扱っており、1着が5万円ほどからと価格も高めになる。

「銀座山形屋」はイージーオーダーに注力

つまり、紳士服主要7社のうち、利益が出ているのはオンリー1社のみということになる。そのオンリーとて減収減益、ひとり勝ちと言えるほどの内容でない寂しさである。

新規参入者にはどのようなプレーヤーが名を連ねているのか。

ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するゾゾは、スーツ「2Bスーツ」をはじめ、ドレスシャツ、デニムなどの衣料品を、オーダーメイドによるPB(プライベートブランド)で製造販売する、アパレルに突如参入してきた。結果的に失敗し、創業者の前澤友作氏が昨年9月に社長を辞任。ソフトバンクグループの傘下に入ったものの、そのインパクトは大きかった。

18年1月に販売を開始したオーダーメイドによるPBの展開を、第2の創業と位置付けていたのだ。「2Bスーツ」は同年7月に発売されている。

ゾゾは、専用アプリによりユーザー自身でサイズを測り、その測定値に基づいてぴったりのサイズの衣料品を提供。世界に70億人の人口があるなら70億通りの衣料がなければならないとし、ファッション革命を起こすと意気込んでいた。「2Bスーツ」は、発売時の特別価格で1着2万円台の安さも魅力だった。

17年11月に、ゾゾは「ゾゾスーツ」というサイズ測定のためのボディスーツを発表。希望者には無料でアプリと共に配布した。顧客の詳細なサイズデータを蓄積して、その情報を基にあらゆる衣服を供給して、オンラインSPA(製造小売業)の頂点を目指すとしていた。

ゾゾの採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」

ところが、「2Bスーツ」の実情は、生産体制の甘い見通しによる到着の遅れに加え、実際に届いた商品のサイズがまるで合っていないという不満が続出。1着ずつ型紙をつくるので、デジタル化によるAIを駆使した新しいフルオーダーとも言うべき野心的な試みであったが、技術力が及ばなかった。

ゾゾは商品が到着してから1年間であれば、何度でも無料でお直しをすると誠実に対処したが、オーダースーツに期待する消費者のマインドを冷やしてしまった感は拭えない。

ゾゾのPB事業の売上高は、19年3月期に27億4600万円に上った。一転して、20年3月期は第3四半期までに9億1800万円(前年同期比59.4%減)の売り上げと激減している。

アパレル大手のオンワードホールディングスが、わざわざ子会社のオンワードパーソナルスタイルという会社をつくって「カシヤマ ザ・スマートテーラー」というオーダースーツを始めたインパクトも大きい。上質な着心地を、低価格・短納期で、オーダーメイドの民主化を進めるという趣旨のブランドで、17年10月に立ち上った。19年2月期には、売上高36億円を達成している。

オンワードの「カシヤマ ザ・スマートテーラー」

オンワードはこれまで、主に百貨店で「23区」、「組曲」などの婦人服を中心に売ってきたが、「カシヤマ ザ・スマートテーラー」では紳士服中心で路面にも店舗を出すと、新しい方針で臨んできた。瞬く間に店舗数は42店まで増えている。人気の秘密は3万円からの低価格と、最短1週間の短納期。それを可能にするために、中国に専門の工場を有している。

「カシヤマ ザ・スマートテーラー」外観

オンワードは構造改革として、世界約3000店のうち約2割の600店を閉店する方針という。その一方で、ネット通販と共に、広い店舗を持つ必要がないオーダースーツ店を増やしている。オーダースーツならば採寸のスペースがあればよく、不要な在庫も要らず、その分価格も下げられるというわけだ。

2009年にオーダースーツ専門店「グローバルスタイル」1号店を大阪の本町に出店したタンゴヤは、1928年に大阪で創業した毛織物卸商「丹後屋羅紗店」をルーツに持つ、老舗企業である。

「グローバルスタイル」店舗

19年7月期の「グローバルスタイル」の年商は88億円で、全社の売上高97億円の約9割を占める。店舗は東京、大阪、名古屋、京都、福岡に計19店を出店しており、2月14日には新しく横浜にもオープンする。全ての人にオーダースーツを楽しんでいただく「ENJOY ORDER!」がモットーだ。

「グローバルスタイル」外観

「グローバルスタイル」は過剰なほどの積極的なネット広告で、ブランドとしての認知度が進んでいる。そこが急成長できた理由だ。値段も2着4万7000円から購入が可能で、1着2万円台と安価である。

内容的にも、業界最多の5000種類もの英国やイタリアからのインポートを含む生地、10種類以上のスーツモデルが選べ、1年中好きな季節の商品が買えるのが他社にはない特徴。船場の生地問屋のノウハウが十全に生かされている。

グローバルスタイルの店内の例

オーダースーツSADAは、2002年に「工場直販オーダースーツSADA」1号店を神田に出店。東日本大震災後の11年より本格的な拡大を企図し、全国で当時10店ほどだったのが53店にまで店舗数が増えている。売上高は18年7月期で33億9000万円。6年前の18億円から、2倍近くになった。

SADAは1923年創業の服飾雑貨卸商にルーツがあり、大正時代から続く老舗だ。戦後は紳士服地卸商、縫製業に進出。さらには、縫製工場自らが小売りを行う、オーダースーツ店の本格展開に進んだ。生地の調達から製造、そして販売までをワンストップで行うSPA(製造小売業)を構築している。

SADAの特徴は、1人1人CADでパターンを作成する、「マシーンメイドのフルオーダースーツ」を標榜しており、全身の採寸によりサイズを合わせ、体形補正はもちろん、個々の体の癖を見てツキシワなども除去。テーラーが手縫いする工程を、機械化により再現することを目指している。

オーダースーツSADAの考える「スーツの分類」。従来のイージーオーダーの進化形

しかも、初回お試し料金が1万9800円からと業界でも最安値に近い料金が魅力。SADAの店は家賃の安いビルの空中階に多く、他社のように街の繁華街の路面にはないのだ。内装も顧客に高い商品を売っていると思われないように、おしゃれにつくらない。余計な経費を抑えているから、安く提供できるのだ。

「オーダースーツSADA」の店舗。雑居ビルの空中階にある

「今のオーダースーツのほとんどはパターンオーダー。マシーンメイドのフルオーダーも数社あるが、弊社はずっと安価に提供できている」と、佐田展隆社長はSADAの強みを語る。

このように、オンワード、ゾゾ、タンゴヤ、SADAは、いずれも衣料品に関連する事業を行ってきた会社が、事業再構築でオーダースーツに進出した例で、新規展開の主流となっている。その中で成功をつかみつつあるケースもあれば、ゾゾのように急ぎ過ぎてうまく立ち上がらなかったものも存在する。

オーダースーツの難しさは、顧客1人1人、個別に対応しなければならないので、大資本で一気に展開しても技術が伴わず、なかなかうまく行かないことだ。既製服が、販売員の手八丁口八丁で売れるのは、フィッティングがその場でできて似合うかどうか確かめられるからで、オーダーメイドの場合、売れても顧客に届いた服が体に合ってないとなると、クレームの嵐となってしまう。

「お客様によって違う微妙なフィット感までを考慮してつくるのは難しく、アフターフォローが大切です。オーダースーツはクレームビジネスだと考えています」(前出・佐田氏)。

オーダースーツは今までの紳士服の大量生産・大量販売の考え方では、対処できないビジネスだ。そこに、トップから末端まで身にしみて気づかなければ、紳士服大手の再興は難しいだろう。

加えて新しく、中国で流行する新型コロナウイルスの問題が浮上してきた。アパレル大手・中堅各社は中国に主力工場を持っている。大幅な納期遅れや販売の一時休止に追い込まれる企業も出てくる見通しだ。

image by: 長浜淳之介

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