「DC&マーベルとは喧嘩仲間」「VSシリーズ誕生の理由は?」『プレデター:バッドランド』公開記念シリーズ総まくり
『プレデター:バッドランド』は変化球?
11月7日(金)より日米同時公開の『プレデター:バッドランド』はプレデターの登場する映画としては、エイリアンとのコラボ映画やディズニープラスでの配信映画、配信アニメ映画を加えると9作目となります。
『プレデター』(1987年)、『プレデター2』(1990年)、『エイリアンVS.プレデター』(2004年)、『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(2007年)、『プレデターズ』(2010年)、『ザ・プレデター』(2018年)、『プレデター:ザ・プレイ』(2022年/配信)、『プレデター:最凶頂上決戦』(2025年/配信・アニメ)、そして『プレデター:バッドランド』となり、1作目の公開が1987年ですから38年続いている人気シリーズでもあります。
まず今回の『プレデター:バッドランド』は、非常に面白くて楽しい宇宙系冒険映画です。その一方、今までのプレデター映画とは一線を画す作品です。というのも過去8作では、プレデターはモンスターでありヴィランなのです。ホラーキャラといってもいいでしょう。
しかし、今回のプレデターは“ヒーロー”です。したがって一部プレデターファンには、SFアクションとしては面白いがプレデター映画としては変化球に感じるかもしれません。
『プレデター』シリーズを振り返る
ここでまず、プレデター・シリーズをざっとふりかえってみましょう。
プレデターとは劇中に登場するエイリアン種族の名前ですが、“プレデター星人”というわけではありません。プレデターは“捕食者”という意味で、他の生命を奪う強者のことです。
恐竜でいえば、T-REXは最強のプレデターです。しかし、この映画のプレデターは人間を食べるわけではありません。このエイリアン種族は高度なテクノロジーを持ちながらも狩り・戦いを文化の基礎とする武闘派であり、宇宙にいる強い者や猛獣たちに戦いを挑み、狩猟することを生きがいにしています。1作目『プレデター』では地球に現れたプレデターが南米ジャングルで任務中の特殊部隊を狩りの獲物とみなし、戦いを挑みます。
このときプレデターと戦ったのが、アーノルド・シュワルツェネッガー演じるダッチ少佐です。続く『プレデター2』では犯罪が激化するロサンゼルスの街に現れ、ギャングや警察たちを獲物とみなし狩りを始めます。プレデターと対面するのはダニー・グローヴァー演じるマリガン警部補でした。
ここで注目したいのは、シュワルツェネッガーはミリタリーアクション『コマンドー』(1985年)に出演しており、グローヴァーは刑事アクション映画『リーサル・ウェポン』シリーズ(1987年ほか)の主人公の一人です。そして『コマンドー』と『リーサル・ウェポン』のプロデューサーであるジョエル・シルバー(80年代のアクション映画を支えたプロデューサー)が、『プレデター』の製作者の一人です。
こういう視点で見ると、『プレデター』は『コマンドー』の続編、『プレデター2』は『リーサル・ウェポン』のスピンオフ的な面白さがあります。だから『プレデター』シリーズはSFホラー映画を作ろうというよりは、既存のアクション映画の中にSF的な要素を入れてみたのかもしれません(もともとスタローンの『ロッキー』が“今度は宇宙人のボクサーと戦ったら?”という業界内のジョークから企画がスタートした、という話もあるので)。
そして、このプレデターはキャラとして立っていたのか、『マスク』や『ヘルボーイ』で有名な<ダークホースコミックス>でアメコミ化されます。このコミック出版社は映画『エイリアン』のコミック化の権利を持っており、また『エイリアン』も『プレデター』も同じ<20世紀フォックス>(※現・20世紀スタジオ)の映画だったので、「エイリアンVSプレデター」なるコミックも作られます。
これが話題を呼び、映画の方でも『エイリアンVS.プレデター』と『AVP2』が作られました。映画版はコミック版の忠実な映画化ではありませんが、プレデター族があのエイリアンたちを、彼らの狩りの対象となる猛獣として扱っているという点が共通しています。
新プレデター始動! 王道2作から新たなチャレンジへ
その後、映画の方でもいくつかの続編が作られますが、新たなステージを迎えるのが2022年、日本ではディズニープラスで配信されている『プレデター:ザ・プレイ』です。
同作は、20世紀フォックスがディズニー傘下になって初のプレデターもの。1作目に立ち戻り、地球人の強者たちを狩りの対象としてプレデターが狙ってきます。しかし、物語の舞台設定は18世紀のアメリカ大陸。ネイティブ・アメリカンの若き女性戦士がプレデターの挑戦を受けます。
監督のダン・トラクテンバーグは、本作に続き2025年に長編アニメ映画という形で『プレデター:最凶頂上決戦』(※日本ではディズニープラス配信)を発表。オムニバス形式でバイキング、忍者と侍、第二次世界大戦のパイロットとプレデターが戦います。このトラクテンバーグ監督は『プレデター:バッドランド』の監督でもあり、つまり3作連続でプレデターの映画を手がけているわけですね。
さて、冒頭で<『プレデター:バッドランド』は“変化球”>と書いたのは、やはりプレデターというのはヴィランであり、地球人側の戦士・兵士と血しぶきを飛び散らせながら戦うのが、このシリーズの面白さであったわけです。しかし、今回の『プレデター:バッドランド』は若きプレデターの《デク》がさまざまな冒険の末に成長するという、ヒロイック・ファンタジー調の物語。完全にプレデターを共感できるキャラとして描いているのです。
この路線変更に戸惑う人もいるかもしれません。しかし、監督のトラクテンバーグは『プレデター:ザ・プレイ』『プレデター:最凶頂上決戦』において“王道”のプレデター映画路線を形にしてきたわけで、その上でプレデターというキャラの使い方の新たな可能性を本作でさぐったのでしょう。
確かにプレデターは過去の映画でも、武器を持たない人間は襲わない(ただし戦闘に巻き込まれ命を落とす者はいますが)、女戦士といえど妊娠している者は殺さない、勇ましく戦った相手に対してはリスペクトする、といった“人間味(?)”があります。他の生命体に対し容赦がない、コミュニケーションをとらない『エイリアン』たちとはそこが違うのです。
『プレデター:バッドランド』をさらに魅力的にしているのは、デクのパートナーとなる女性アンドロイド、ティアの存在でしょう。トラクテンバーグ監督いわく「『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』で下半身を失ったC-3POをチューバッカが背負って戦うシーンから影響を受けた」と言っていましたが(※筆者が参加したサンディエゴ・コミコンのパネルにて)、このデクとティアの掛け合いがユニークです。
また、『プレデター:ザ・プレイ』はクマやピューマといった捕食動物がいる世界にプレデターが現れましたが、『プレデター:バッドランド』では、その宇宙版ともいうべき様々な危険生物がいる世界での冒険譚となります。ティアが<ウェイランド・ユタニ社>製のアンドロイドという点もポイントで、この会社は『エイリアン』シリーズに出てくる、キーとなる企業です。
したがって、『プレデター:バッドランド』の延長に『エイリアンVSプレデター』の新作が来るかもしれません。ウェイランド・ユタニ社は昨年の映画『エイリアン:ロムルス』、今年配信のドラマ『エイリアン:アース』でも重要な役割を果たしていたので。
プレデターはアメコミ・ヒーロー映画でもある
本作でプレデターたちが“ヤウージャ族”と呼称されます。この名称はコミック版のエイリアンVSプレデターのノベライズ版から使われた設定で、多分映画の中でそう呼ばれるのは今回が初めてかと思います。
プレデターはアメコミ・ヒーローものとしても人気で、ダークホースコミックス時代にはDCとのクロスオーバーで「バットマンVSプレデター」、「スーパーマンVSプレデター」、「JLA(ジャスティス・リーグ)VSプレデター」なる作品があるし、マーベル、20世紀フォックスともディズニー傘下(同じグループ内)になってからは、「プレデターVSウルヴァリン」、「プレデターVSブラックパンサー」、「プレデターVSスパイダーマン」、「プレデター・キルズ ザ・マーベル・ユニバース」がリリースされています。マーベルになってからは「プレデターVS◯◯◯」と、プレデターの名が先になっていますね。
ちなみに筆者は今回の『プレデター:バッドランド』に、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のノリも感じました。
考えてみれば、1987年の1作目『プレデター』から数えて38年です。ゴジラも恐怖の対象だったりヒーローだったりと描き方は様々で、いまヴィランとして描く『ゴジラ-1.0』と、ヒーロー的に描くハリウッド版=モンスターバース版ゴジラが“共存”しています。
プレデターもまた原点のヴィラン路線と、今回のヒーロー路線の二刀流でいくのかもしれません。ぜひデクとティアのバディをまた観たいですね。
文:杉山すぴ豊
『プレデター:バッドランド』は11月7日(金)より日米同時公開