水族館飼育員がよく受ける質問3選 「この魚食べられる?」は不謹慎ではない
皆さんは水族館で生き物を見ていて、何か疑問を持ったりすることはありませんか?展示パネル等にも説明が書かれておらず、なお気になる疑問を一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。今回は水族館に勤めていた経験のある筆者が、実際にお客様からよく聞かれた質問とその答えを3つご紹介します。
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このサカナって食べられる?
「この魚が食べられるかどうか」「おいしいのか」は非常によく聞かれます。
タイやアジなどよく食されているサカナではこの質問はありません。あまり市場に出回らないサカナや、本当は食卓に出ているけどみんな気づいていないサカナなどでよく聞かれます。
ウツボ
時々お客様の中に「水族館人(水族館飼育員)はどんなサカナでも食べたことがあるグルメハンター」と思い込んでいる方がおり、知名度の低いサカナはもちろん、巨大淡水熱帯魚やシーラカンスについても「食べたことはありますか?」と聞かれたことがあります。
この「食べられるのか?」という質問、実は水族館人からするとかなり嬉しい質問なのです。上述したように、この手の質問は多くの場合で知名度の低いサカナに対して聞かれます。
水族館飼育員からすれば、これはその知名度の低いサカナについてたくさん語れるチャンスなのです。味の話から派生して「市場に出回らない」→「個体数減少で規制がされている」「〇〇条約で取引できない」など、その裏に潜む情報も解説できます。
マグロの解体
また、よく水族館で魚をおいしそうと言うのは「不謹慎ではないか」「禁句ではないか」と指摘されることが多々あります。しかし実際には「大歓迎!」「むしろ言ってほしい!」と思っている水族館が多いです。
それは“おいしそう”と思えるくらいに魚を上手く飼育管理できているという自信になりますし、何より自然離れ・魚離れが叫ばれる昨今において、お客様が「サカナから命を頂いている」という認識をしている証拠になるのです。
「そんなことで?」と思うかもしれませんが、その小さな認識が積み重なって魚や魚がすむ環境について深く知ったり、食卓に並ぶ魚や魚に関する人々に感謝をするきっかけになります。元気に泳ぐ魚を見て「おいしそう……(=魚は生きている)」と思うことは、魚や環境を深く知る上で大切な感情なのです。
サカナたちはどうやって来るの?
「このおサカナたち、どこかで獲ってきたんですか?」「釣ってきたんですか?」これもよく聞かれる質問です。
簡潔に言うと、色んな方法で来ます。お客様がいうように、スタッフが自ら採集してくることもあれば、業者から購入することもありますし、漁師さんからいただいたり、他の水族館と魚をトレードしたりすることもあります。これは園館によって異なります。
漁船
定期的に漁師さんのもとへ訪れる園館は、定置網に珍しい魚がかかっているといただけることが多いので、定期的に珍しい魚が入ることが多いです。冬には希少な深海魚がかかることが多いんですよ。
また海外の園館とつながりの深い水族館はよく生き物のトレードを行います。特に海外産の魚はトレードで入手することが多いです。
その際、海外の水族館が日本から欲しい生き物として候補に挙げることが多いのが「タカアシガニ」です。
タカアシガニ
タカアシガニは日本や台湾周辺にしか生息しておらず、その大きさのインパクトも相まって海外のお客様のウケが非常にいいそうです。
日本は駿河湾をはじめ世界有数の深海をもつ国でタカアシガニもよく獲れることから、海外との生き物トレードの候補に挙がることが多いようです。
飼育が難しい生き物は何?
飼育や維持が難しい生き物もよく聞かれます。
これも園館や飼育員によって異なりますが、私の答えは「クラゲ全般」です。理由はとにかくデリケートな生き物だからです。
ミズクラゲ
まず、クラゲの飼育には水流が必須です。クラゲは遊泳能力がないため、水流がないと底に沈んで死んでしまいます。そして、水流が必要であるのにも関わらず、気泡が傘の内側に入ると傘に穴が開いてしまうのです。よって、クラゲの傘に気泡が入らないように水流を調整する必要があるのです。
そして、身体のほとんどが水でできているクラゲは、水質にももちろん敏感です。例えば、水温がそのクラゲにとっての適温から少し外れてしまうだけで傘の形が崩れます。また、塩分量にも気を使わなければなりません。適切な塩分量でないと、クラゲの形が悪くなってしまいます。
ブラインシュリンプ
エサの準備も大変です。毎日ブラインシュリンプという生きたプランクトンを卵から孵化させ、それをクラゲに与えています。生き餌なので、水が汚れやすく、それに伴い水質も悪化してしまいす。スポイトを用いてクラゲの口に直接給餌することもありますが、この際も傘に気泡が入らないように注意しなければいけません。
クラゲの機嫌を伺い続ける
このように、注意しなければならない点が多すぎるのです。しかも、これだけ注意しても死んだり、形が悪くなったりしてしまいます。さらに、その原因がわからないこともしばしば……。このようにクラゲの飼育はとっても大変ですが、クラゲをみにくる皆様のため、クラゲ飼育員たちは今日もクラゲの機嫌を伺い続けるのです。
筆者自身がクラゲ担当だったこともあり、少し自画自賛にはなりますが、日本の水族館のクラゲ飼育技術はすごいです。こんなに飼育が難しいクラゲを恒常的に好きな時に見られることは、飼育員たちの日々の努力あってこそなのです。
これから水族館でクラゲを見た際には、裏で努力を続けている飼育員さんたちがいることを少しでも思い出してみてくださいね。
水族館飼育員に質問してみよう
今回紹介した3つ以外にも、水族館飼育員には日々たくさんの質問が飛んできます。
長らく水族館界隈に身を置いていましたが、飼育員さんが質問を受けて嫌な顔をしている場面は一度も見たことがありません。むしろ、自分たちの好きなことや生き物たちについてたくさん語れるチャンスなのです。
水族館を訪れた際は、展示を見るだけでなく、そこで気になった疑問などがあればぜひ飼育員へ聞いてみてください。きっと、あなたの知りたいという気持ちに喜んで応えてくれますよ。
<みのり/サカナトライター>