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【インタビュー】程嶋日奈子|MBAホルダーの偉才ベーシストが創ったスタンダード・アルバム【Women In JAZZ/#39】

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程嶋日奈子(ほどしまひなこ)はジャズ界では珍しい女性アコースティック・ベース・プレイヤー。その小柄な身体から弾き出されるクリアなベース・ラインで、多くのアーティストのサウンドを支えてきた。そんな彼女がピアノ・トリオでスタンダード・ナンバーを演奏するニュー・アルバムをリリースした。

コントラバスとの出合い

──そもそもベースを始めたきっかけは?

子供の頃からピアノを習っていて、ピアニストになろうと思っていたんです。ところが高校の室内楽部で、弦楽器に興味を持つようになりました。

──ピアノも弦を鳴らす楽器ですよね。

そうですね。ピアノは弦をハンマーで叩くんですけど、弦楽器はより直接的に自分の指や腕を使って弾く。これは面白いかも、と思ってコントラバス奏者の道に進んでいきました。

──他の弦楽器ではダメだった?

最初はチェロをやりたかったんですけど、部活で楽器を選ぶ時に、チェロの希望者がたくさんいて。チェロ経験者の同級生が「ジャズをやりたいんだろ? だったらベースのほうがいいよ」って。

──ジャズに興味を持ったのはいつ頃からですか?

父が大学生だった時、ビッグ・バンドでトロンボーンを吹いていたらしく。その名残で家でずっとジャズがかかっていたんです。父はクリフォード・ブラウンが好きで、私はフレディ・ハバードが好きで。どっちがいいかってケンカして、1週間くらい口をきかなかったり(笑)。

──コントラバス(ベース)という楽器は、クラシックでは弓を使いますけど、ジャズだとおもに指で弾きますね。あと、弦を押さえる指もかなり酷使すると思いますが。

そうですね。最初は弦を弾く指が痛くて、消毒液と絆創膏と針をいつも持ち歩いていました。

──針?

血豆ができるので、針で血を抜くんです。これを繰り返すうちに皮が厚くなっていくという力業ですね。一方で力を抜いて弾く方法もわかってきて。無駄な力が抜ければ抜けるほど指先への負担は減っていく気がしました。

昼間はコンサルタント、夜はミュージシャン

──プロとしての活動を始めたのは、大学を卒業してからですか?

じつは大学を卒業するタイミングで、会社員を経験してみようと思って就職したんです。すると仕事が面白くなってきて、その期間は音楽活動を休んでいました。

──どんな仕事だったのですか?

コンサルタントです。3年半働いたタイミングで、今回アルバムでもピアノを担当してくださっている堀秀彰さんに「いい加減に戻っておいでよ」って言われて(笑)。そのあとベンチャー企業に移って、そこで “兼業させてください” ってお願いしてまたベースを弾き始めました。

──昼はコンサルタント、夜はミュージシャン、みたいな生活に?

そうですね。夜にライブをやりながら “明日は経営会議だな…” って考えてたり(笑)。昼の仕事は変わらず面白かったです。2009年までその会社で仕事をしていたんですけど、リーマン・ショックを機に退社して、大学院にいってMBA(注1)を取りました。音楽の仕事も増やしていって、今に至ります。

注1:Master of Business Administration。日本では経営学修士と呼ばれ、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される学位。

──MBAを取得しているミュージシャンって、なかなかいませんよ。

MBA以外にも、海外のアート・マネージメントの勉強もしました。今回のコロナ禍ではここまでの経験が役に立ちました。ミュージシャンたちの諸々の申請手続きや配信へのチャレンジのサポートを出来たことはとても嬉しく思っています。

ベーシストはキャッチャーのような存在

──ジャズ・ベースの面白さって、どんなところにあると思いますか?

音楽におけるベースの影響力ってかなり大きいと思います。いろいろ考えないといけないし、曲の中でやらなきゃいけないこともけっこう多い。私としてはそこがすごく面白い部分で。たとえば自分が弾くベース・ラインでバンド全体のグルーブはもちろん、フロントのプレイヤーたちの演奏も変わってくるわけじゃないですか。そういうところはすごく面白いですね。

その一方で、個々のプレイヤーの演奏をアンサンブルとしてカバーしていくことも大事な仕事です。“ベーシストはキャッチャーだ” と言っていた人がいるんですけど、野球のキャッチャーは “女房役”なんて言われたりもしますよね。だから女性はベーシストに向いているかも知れませんよね。

──逆に、アコースティック・ベースをやっていて大変だな…と感じることは?

楽器を運ぶのがいちばん大変ですね。でもそれはベーシストの宿命だと思って諦めました。カートに乗せて、ゴロゴロと電車で運んでます。おかげで筋力も付くし、駅構内の構造などにもすごく詳しくなりましたよ(笑)。どこにエレベーターがあるか、とか。

──小柄な女性が、あの大きな楽器をコントロールするのも大変だと思います。

大切なのは “体の使い方”だと思います。ほんとうに上手い人って、無駄な力が入っていないんです。運指もすごくきれいで、体の動きに無理がないんですね。男性でも腱鞘炎になったり腰を痛める人もいっぱいいますしね。今は無理なく楽器を弾けるように、クラシックの奏者にレッスンを受けています。

──具体的にはどんな勉強を?

ゲイリー・カー(注2)のメソッドを練習しています。世界一のコントラバス奏者がどんな奏法をしているか、という。すごく簡単にいうと “肩甲骨で弾く”みたいな感覚で、無駄な力を減らして、いい音を出すというものです。

女の子のプレイヤーが男性よりフィジカルに強くなるのは難しいと思います。結果的に大きな音を出すのに変な力が入ってしまったりすると楽器の響きが良くなくなるんですよね。なので女の子こそ体の使い方をちゃんと研究するといいと思いますね。

注2:Gary Karr。アメリカ出身、カナダ在住のコントラバス奏者。ソロ楽器としてのコントラバスの魅力と可能性を確立したレジェンド・ベーシストであり、2001年6月に公式の演奏会から引退し、その後は後進の指導にあたっている。

スタンダードを“普通”に演奏する難しさ

──最新アルバム『Our Standars』は、スタンダード曲を中心としたトリオ作品ですね。

40歳という一つの節目の年を目の前にして自分の課題を考えたときに、スタンダードに苦手意識があったんです。序盤に育ってきた環境のお話をしましたが、ジャズ・スタンダードって、子供の頃から聴いてきた名演がすでに頭の中にあるんです。それを自分の作品として残すのは、ものすごく勇気が要ることだなって感じていて。スタンダードを普通にやるというのが、いちばん難しいんですね。

そこで “スタンダードができない”から始まって、だからこそスタンダード・アルバムを作ろうと。せっかくだから自分がいちばん思い入れがあるピアノという楽器とコントラバスを前面に出して、ピアノ・トリオでスタンダードをやろうということにしました。弓もたくさん弾いていますし、とてもチャレンジング、かつ今までの自分の音楽経験を総括するような内容になっています。

程嶋トリオ『Our Standars 』(Autumn Leaves Record)

──ひと口にスタンダードと言っても、いろんなタイプの楽曲がありますよね。

今回はいわゆる歌モノのスタンダードではなくて、器楽奏者が作ったジャズ・スタンダードを集めたアルバムになっています。たとえばウェス・モンゴメリーが好きだから「S.O.S.」をやろうとか。オリジナルを作る時もそうなんですけど、やっぱりキャッチーで覚えやすいメロディのものが好きですね。

──スタンダード曲をどう演奏するか、そこも重要なポイントです。

今回は、自分の色を出したものと、原曲を忠実にやっているのが半々くらいになっています。思いっ切りアレンジしたのが「Caravan」と「Nica’s Dream」ですね。「Caravan」は9拍子にして、「Nica’s Dream」は元の姿が浮かばないくらいになっています。自分の色やオリジナリティを活かして、程嶋サウンドを知っている人たちにも面白いと思っていただけるようになっています。

ストレートにやっている曲もあるんですけど、それがいちばん勇気がいるんですよ。「Shiny Stockings」(注3)はほとんどカウント・ベイシーのアレンジに寄せているんですけど、やっぱりプレッシャーがありますよね。ベイシーを超えるものはできないし、つまんないものになってしまうんじゃないかって。

注3:カウント・ベイシー・オーケストラのテナー・サックス奏者であり、アレンジャーだったフランク・フォスターの楽曲。同オーケストラの代表曲として多くのファンに愛されてきた。

──オリジナル曲も2曲収録されています。

ピアノの堀(秀彰)さんが、スタンダードに敬意を表してブルース曲を書こうと言って「Blues for Hinako」という曲を作ってくれたんですけど、ライブで曲名を紹介するのが恥ずかしくて(笑)。“堀秀彰が私のために書いてくれた「Blues for Hinako」です” って、どれだけ愛されてるんだよって(笑)。

──このトリオでのライブはよくやっているのですか?

堀さんは今回の企画を考えるアイディア出しの段階から協力していただいています。この業界に私を引き戻してくれたことはお話しましたが、私のファースト・アルバム『August Sixteen』(2009年)のディレクターもやってくださってます。お互いによく知っているので、今回このアルバムを一緒に作れて良かったですね。堀さんあってのアルバムです。

ドラムの秋葉正樹くんはその1枚目のアルバムで叩いてもらっていて、久々にお願いしました。じつはこの3人で演奏したのは今回のレコーディングが初めてだったんですけど、部活みたいに3人で集まってアレンジしていったのは楽しかったですね。

──このトリオに限らず、ステージに立つときに気を遣っていることはありますか? たとえばファッションとか。

衣装を含めて、様々なSNSやメディアに出るビジュアルは今アーティストのセルフ・ブランディングに直結しますよね。すごく大事です。

ただベースを弾く上で、肩が自由に動かせないのは論外です。個人的にはドルマンスリーブとかは絶対NGです。それとヒールがダメですね。基本的に後傾姿勢の方がいい音が出るので、女の子のベーシストはできるだけヒールを履かないほうがいいと思います。私はいつも革のスニーカーを履いてて、ほぼスポーツ感覚です(笑)。

インタビュー/島田奈央子
構成/熊谷美広

程嶋日奈子/ほどしまひなこ(写真右)
1982年12月31日 神奈川県藤沢市出身。父親の影響で子供の頃からジャズに親しみ、高校入学を機にクラシック・コントラバスを学ぶ。その後、早稲田大学モダンジャズ研究会に加入し、ジャズ・ベーシストとして活動を始める。2009年に初リーダー作『August Sixteen』を制作これまでにリーダー作品としては5枚のCDと1枚のDVDをリリース。作曲やアレンジも高い評価を受けている。

島田奈央子/しまだ なおこ(インタビュアー/写真左)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

【程嶋日奈子 ライブ情報】

程嶋トリオCD発売記念&程嶋日奈子Birthday Live
日時:2021年12月6日(月)19:00〜
会場:六本木Satin Doll
出演:程嶋日奈子(b) 堀秀彰(p) 秋葉正樹(ds)
Music Charge ¥3500
Streaming Ticket ¥2000

satin-doll.jp/schedule/211206-hinako-h

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