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【佐橋佳幸の40曲】藤井フミヤ「TRUE LOVE」最初に交わした言葉は “何、この変拍子?”

Re:minder

1993年11月10日 藤井フミヤのシングル「TRUE LOVE」発売日

連載【佐橋佳幸の40曲】vol.18
TRUE LOVE / 藤井フミヤ
作詞:藤井フミヤ
作曲:藤井フミヤ
編曲:佐橋佳幸

日本のポップシーンにおける同級生、佐橋佳幸と藤井フミヤ


佐橋佳幸と藤井フミヤ。このふたり、実は “同級生” だということをご存知だろうか。もちろん、藤井フミヤも佐橋と同じ都立松原高校出身… というわけではない。日本のポップシーンにおける同級生。そう。佐橋がUGUISSのメンバーとしてデビューした1983年9月21日、藤井もまたチェッカーズのリードボーカリストとしてシングル「ギザギザハートの子守唄」でデビューを飾ったのだった。

「たぶん40年前にもきっとどこかで会ってるんだと思うんですよ。当時の新人は必ずNHKの新人オーディションというのを受けないと番組に出られなかったんだけど。藤井尚之くんはそのオーディションにUGUISSがいたのをなんとなく覚えてます… って言ってるし。絶対どこかですれ違っていたとは思う。ただ、こっちは売れないロックバンドで、向こうはデビューするなり社会現象にもなった大スター。まったく交流はなかったです。でも、同じ日にデビューした彼らの大活躍はずっと見ていたし、解散するという話を聞いた時には、“あ、とうとう解散かぁ…” と感慨深かったですよ」

「そしたら、ある時、僕の事務所のマネージャーのところに “チェッカーズを解散した藤井フミヤがソロ活動を始めることになったので、その第1弾シングルのアレンジを佐橋くんにやってもらえないか” というオファーが来たの。びっくりした。だって、面識もないし。なんでオレにこの仕事が来たんだろうと思いながら最初の打ち合わせに行ったら、当時ポニーキャニオンのディレクターで、今もフミヤくんの事務所でプロデューサーとして活躍している倉中(保)さんという人がいて。“佐橋くん、僕のこと覚えてます?” と」

UGUISSを解散してフリーの立場になったばかりのころ、佐橋は曲を書いてはデモテープを携えてレコード会社や音楽出版社を巡る日々を送っていた。そんな中、ポニーキャニオンでアイドル歌手が歌う曲を募っているという情報を耳にし、さっそくデモテープを届けにポニーキャニオンへ。そのとき相手をしてくれたのが若手ディレクター時代の倉中だった。

「面白いことに、そこで同じようにデモテープを持ってやってきたネギ坊(根岸旨孝)と知り合ったり。いろいろ印象的な出来事があって。当然、ぼくも倉中さんのことはよく覚えていた。その後お仕事でご一緒する機会はなかったけれど、フミヤくんがソロになるタイミングでようやく再会できたの。その倉中さんをはじめとする、フミヤくんのソロプロジェクトを手がけることになったスタッフの人たちが相談して、で、これは佐橋くんに頼むのがいいんじゃないかって話になったらしいんです」

何かの間違いかと思った「TRUE LOVE」のカセット


藤井フミヤのソロ活動第1弾シングルは、フジテレビ系で放映されるドラマの主題歌に起用されることがほぼ決まっていた。が、決まっているとはいえ、プリプロダクションはまだいっさい行われていなかった。フミヤが自ら曲を作って吹き込んだという簡易的なカセットテープがあるだけ。フジテレビ側に聴かせて最終的なゴーサインをもらうためには、何はともあれプレゼンのための正式なデモ音源を作らなければならない。

そこで、まずはそのカセットをもとに、プログラマーの松武秀樹に協力をあおぎ、佐橋がスタジオで正式デモ用のバックトラックを制作。それができあがったところでフミヤが仮歌を入れてプレゼンする、というスケジュールが決まった。こうして佐橋に手渡されたのが「TRUE LOVE」のカセットだった。

「このテープを元になんとか期日までに料理してもらいたい、と。で、家に帰ってさっそく聴いたの。そしたら一瞬、何か間違ったテープを渡されたかなって思った。なぜなら、ものすごくちっちゃい声でそーっとワンコーラス弾き語っているだけだったから。もうホント、蚊の鳴くような声でね(笑)。“なんだこれ!?” と思って、すぐ倉中さんに電話。“何かの間違いじゃないんですか?” って聞いたら、“間違いじゃないよ” と。フミヤくんはお子さんが生まれたばかりで、自宅で大きな音を出せないんだよと(笑)。それでも、まぁ、メロディはわかるし。しょうがないからそのカセットを大きな音で聴きながらアレンジを考え始めたんです」

ところがここでさらに、ふたつめの疑問が…!

「フミヤくんがアコギで ♪じゃーん、じゃーん、じゃーん… って弾いているイントロがどう数えても変拍子なの。弾いているコードも微妙で。Cに音を1個足した、ま、C(add9)というね、最終的にはキーが半音上になったからD♭(add9)なんですけど、それはフミヤくんがあえてこの響きにこだわっているんだろうから、ここのイントロ部分はそのまま活かしてあげないとな… と思った。それにしても、♪じゃーん、じゃーん… のほうは何回数えても4拍子じゃないの。なんか、3が入るのよ。変な感じだった」

「でも、聴いてるうちに、これはこれでありかなと思えてきた。フミヤくんって面白いこと考える人だなぁと思ってさ。ただ、曲中のコード進行がものすごく王道でシンプル。それもいいっちゃいいんだけど、ずっとこれを繰り返すと単調かなと思って、間奏明けの2番だけちょっとオシャレなコード進行に変えたり…。そうやってフミヤくんのカセットをもとに松武さんとバックトラックを作っていったんです」

佐橋がフミヤと最初に交わした会話とは


そして、いよいよ仮歌入れの日。藤井フミヤがスタジオへやってきた。フジテレビの関係者も勢揃い。倉中ディレクターがセッションの開始を告げる。

「さあ、それじゃ佐橋くんがオケを作ってくれたから、さっそく仮歌を入れよう!」

すると、そこでフミヤがひとこと。

「あ、その前にちょっと。何、この変拍子? もう一度オケ聴かせてくれる? どっから入っていいかわかんないんだけど、オレの耳が変なのかな?」

首をかしげるフミヤ。佐橋の脳内は、一瞬にしてクエスチョンマークの洪水になった。

「ええーっ!? それはこっちのセリフだよ、とびっくりして。“これさ、何度聴いてもイントロが変拍子みたいで、勘定が合わないんだよ” と言うフミヤくんに、“あのー、それはフミヤくんがカセットでそういうふうに弾いてたから…” って言ったら、今度はフミヤくんがびっくり。“え、それ、オレが弾き間違えただけだよ!” って(笑)。苦労してなんとか形にした変拍子のイントロ、実はフミヤくんが弾き損じていただけだったの」

「でも、すでにみんな僕が作ったオケがもう耳に馴染んじゃってるし。全員がむしろそっちの、変拍子のままのほうが面白いんじゃないかって雰囲気になっちゃっててさ。いちおう ♪じゃーん、じゃーん、じゃーん… の間に ♪たららー… っていうのも入れてポップな感じに仕上げてあったしね。で、フミヤくん本人も “うん、逆にこっちのほうがいいね” ってことになり。結局、僕が勘違いした変拍子のまま仮歌も無事に録音完了。これぞまさにヒョウタンから駒ってやつでね。その後、フミヤくんとは長いお付き合いになるわけですが、この日が初対面。しかも、最初に交わした会話が “何、この変拍子?” だったという(笑)。忘れられない思い出です」

なぜか劇中にデモヴァージョンが流れるという謎の現象が…


松武秀樹とデモ制作している途上、ドラマのプロデューサーとの間でもいくつかアイディアのやりとりもあったようだ。

「僕的には、まずエヴァリー・ブラザーズみたいなイメージのアレンジから出発しているんです。もっと言うと、J.D.サウザーの「ユー・アー・オンリー・ロンリー」とか。ちょっとカントリー寄りのロックンロールの系譜ね。フミヤくんならそっち系のアプローチがいいんじゃないかと。だったら、やっぱりナッシュヴィルっぽいストリングスも入れたいなとか。そう思って実はストリングス・アレンジも考えてたんですよ」

が、ストリングスを入れるかどうかは独断で決められない。主題歌としての尺とのバランスもある。そこで、とりあえずドラム、ベース、キーボードのシミュレーションが入った打ち込みのデモに佐橋がギターをダビングした段階で、フジテレビの亀山千広プロデューサーと相談することになった。

「そしたら亀山さんがね、“これ、はじめのところに何か欲しいよね” と言い出したの。こないだの小田(和正)さんの ♪チャカチャチャーンじゃないけど、そういうインパクトが欲しいと。えっ、これ、バラードなのになぁ… と思ったんだけどさ(笑)。亀山さんもすっごく音楽好きな方だから、“フォークっぽい曲だし、イメージとしてはサイモン&ガーファンクルの「ボクサー」の、♪ライラライー… の後に出てくるパーン!みたいな音はどう?” とか。それで松武さんと相談して “パーン!” って音を入れてみたんだけど、結局オチがつかないなーというのでボツ」

「で、次に僕が “だったら、この曲、ストリングス入れようと思ってるので、そのトップのメロディを仮にギターで入れてみますね” って、♪たららーん… って弾いてみたの。そしたら亀山さん、ピンと来たみたいで。“それじゃん!” と(笑)。自分のアイディアから生まれたそのバージョン、すごく気に入ってくれたみたいで。結局、ドラマの中でそっちのバージョンがずっと使われていたの。もちろんオープニングにはその後レコーディングされた正式バージョンが使われていたんだけど、なぜか劇中にデモバージョンが流れるという謎の現象が…(笑)このバージョン違い問題、マニアの間では当時も話題になっていたらしいけどね。これが真相です。オレもびっくりしたよ、テレビで見てたらいきなりデモバージョンが流れてきて」

その後、佐橋と松武が打ち込み主体で作ったそのデモを、ミュージシャンが生楽器で再現する本番レコーディングがスタート。ドラムが小田原豊、ベースが渡辺等、キーボードが西本明、ギターが佐橋&小倉博和の山弦コンビという腕きき揃いの布陣でベーシックなオケがほぼ一発録りされた。が、結局、完成ヴァージョンに当初佐橋がイメージしていたストリングスは導入されずじまいだった。

「リズム録りでバーンって1回録り終えて、西本センパイのオルガンを入れたところで、フミヤくんが言い出したの。“佐橋くん、この後どういう音を入れようと思ってる?” って。で、“実はストリングスのスコアを書いたんだけど…” と話したら、“いやいや、これでいいよ。このバンドっぽい感じがいい。ストリングスはやめよう。すごくいいものが録音できたから、これ以上は豪華にしたくない” と。そのフミヤくんのジャッジ、やっぱりすごいよね。僕としては、せっかくスコアも書いたのに… という気持ちも少しはあったけど。結果的には入れなくてよかった。あれで大正解だった」

「TRUE LOVE」は音楽教科書に掲載されるほどのスタンダードに


こうして完成した「TRUE LOVE」は1993年11月10日にリリースされ、ヒットチャート初登場1位を記録。200万枚以上のメガセールスをあげた。佐橋にとっても自身が作・編曲、あるいはプロデュースをつとめたシングルとして初のナンバーワンヒットとなった。アコースティックギターを中心に据えたエバーグリーンな音作りも当時やけに新鮮だった。これにも逸話がある。

「ギブソンJ-50っていう、ジェイムズ・テイラーで有名なアコースティックギターがありまして。僕はジェイムズ・テイラーのファンだから、このギターが大好きで。なんとそれを2本持ってたんです。フツーは2本もいらないよねって話なんだけどさ(笑)。でも、僕がJ-50を2本持っていたからこそ、この曲、山弦ふたりで同じJ-50を弾きながら録音できたんです。同じ種類のギターで弾きたかったから、オグちゃんに “オレのギターで弾いてくれる?” って」

「その後この曲が大ヒットして、イントロも有名になって。僕もこの曲についていろいろ音楽誌のインタビューを受けることになってね。ギターのこともいっぱい話したの。そしたら、その影響で当時J-50がけっこう売れたらしいよ。ホントに。あの音のギター、ってことで。今ではけっこう弾いてる人いるけど。あの頃、J-50を弾いてる人なんて日本ではめったにいなかったんだよ。生ギターといえばマーチンという時代だったからさ。自慢じゃないけど、そんな時代に堂々とギブソンを使ってたの、オレくらいですから(笑)」

デビューから数えればともに40年という同級生同士。“何、この変拍子?” で始まったフミヤと佐橋の奇妙な初対面劇からも昨年で30年だ。そして、その出会いのきっかけとなった「TRUE LOVE」は、今や高校の音楽教科書に掲載されるほどのスタンダードとして日本のシーンに浸透している。

「いいスタートだったよね。僕にとっても、その後のフミヤくんとの付き合いを考えると、本当にいい出会いでした」

次回【佐橋佳幸の40曲】につづく(3/23掲載予定)

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