「狭い家に子どもスペースを作りたい!」 部屋割・模様替えのNG “やってはいけない”を〔一級建築士が伝授〕
ファミリー層の「家が狭い!」問題を解決するには? 第2回は部屋作りの前に見直すべきことについて。一級建築士で模様替えアドバイザー・しかまのりこ氏インタビュー。全3回
【写真➡】最新ランドセルの推し色はイエロー!? 個性的な“黄色界隈“に注目!分譲・賃貸住宅ともに高騰の一方で、子どもがいても狭い家に家族で住まざるをえないのが都心部の現実です。狭い家に、子どもはもちろん親も安心して一人になれる「パーソナルスペース」を作るにはどうしたらよいか。第2回の見直し編では、一級建築士・しかまのりこさんに、予算を抑えながらパーソナルスペースを作るためのポイントを教わりました。
リフォーム&仮住まいは100万円から
一級建築士で模様替えアドバイザーのしかまのりこさんは、これまで約500家庭の部屋作りの悩み相談を受け、解決してきました。
「本当は住まいに対する願望はあれこれ持っていたものの、それが叶わず、あきらめてきたのでしょう。私のもとへ部屋作りの相談に来るママパパの多くは、相談当初は『子ども部屋を作ってあげたい』『リビング学習ができるようにリビングを整えたい』といった要望を1つか2つ挙げます。
ところが、相談を進めていく中で1つ希望を見つけると、徐々に気持ちの奥底に眠っていた理想の住まい像が呼び起こされ『本当はおしゃれな部屋にしたい』『いつも片付いた空間でいたい』『私も一人になれる空間がほしい』などなど、住まい全体を変えたくなるほどの大がかりなリクエストに変わっていく人が多いですね」(しかまさん・以下同)
住まい全体を変えるとなると、リフォームやリノベーションなど大がかりな工事が必要になります。同時に高額な費用もかかることは素人でも察しがつきます。
参考までに、しかまさんが教えてくれた費用目安は、間取りの変更や床・壁・天井の内装工事、水回り設備の交換、収納スペース増設、耐熱性能向上、耐震補強などなど全面リフォームで300万円~1000万円前後。収納改善や仕切りの変更、壁紙や床材の張り替え、水回りの部分的な交換など部分リフォームの目安は100万円~300万円です。
さらに、リフォームの間、別の賃貸物件に仮住まいする費用も入れればもっとかかります。工事不可能な賃貸物件に住んでいる場合も、部屋数を増やすために引っ越すとなると、同額の家賃で抑えても、敷金・礼金・仲介手数料・引っ越し代そのほかで100万円は見積もっておく必要があります。
はたしてこれだけお金をかけて、どれほど生活が改善されるのか? 将来的にもメリットがあるのか? 冷静に検討してほしいと、しかまさんは話します。
「子どものパーソナルスペースが必要なのは、おもに思春期以降です。それは長い人生においてほんの一時期。大学生や社会人になったら巣立っていく可能性もありますし、必ずしも無理して一部屋を与える必要はないかと思います。
それよりもまだまだ教育費がかかる子育て世代は、予算を抑えながら、なるべく間仕切りや配置、収納の工夫でパーソナルスペースを作ることをおすすめします。
模様替えであれば、家具の買い替えをしなければ10万円以内で済みますし、家具の買い替えをしたとしても、50万円以内、高くても100万円以内では収まるでしょう」
家具や配置の固定観念にしばられない
実際、狭い家でも意外とパーソナルスペースは作れることが多いといいます。そのときに必要なのが、柔軟な発想です。
たとえば、「子ども部屋は1人1室」「リビングにはソファとテーブルとテレビを置く」「ダイニングにはダイニングテーブルと椅子を置く」といった固定観念を捨てることが、その一歩になります。
「狭い家の場合、ソファとダイニングの椅子の用途を兼ねた『ダイニングソファ』を置くことで、大きなソファを置かずに済みます。また、いっそダイニングテーブルを置かず、折り畳み式のちゃぶ台を置くのも一案です。
さらに、プロジェクターを使って壁に映像を投写すれば、テレビとテレビ台を置かずに済み、スペースができます」
リビングにテレビとテレビ台を置かずプロジェクターにすることで、壁際の圧迫感も下がる。 ※画像提供:COLLINO一級建築士事務所(以下同)
上下のデッドスペースを収納に有効活用
もし家具の買い替えを検討しているなら、+αの機能がある家具を選ぶのもポイントです。
「場所を取りがちなダイニングテーブルは、テーブル下に書類や小物を入れるスペースを設けたものがおすすめ。リビング学習で散らかりがちなテーブルも、食卓として使うときはスッキリさせられます。
リビングをワークスペースにするなら、椅子はダイニングと兼用すると、椅子1脚分、スペースが生まれます」
天板の下にカラーボックス2個分の収納機能を備えたダイニングテーブル。 ※写真提供:COLLINO一級建築士事務所
また、壁上部のデッドスペースを生かし、天井までの壁面収納を作ることも、狭い部屋では一つの方法です。
リビングの壁面収納棚は、ホームセンターや通販サイトで材料を購入し、手軽にDIYできる。 ※写真提供:COLLINO一級建築士事務所
壁面収納棚は、玄関収納や家族収納にもおすすめ。 ※写真提供:COLLINO一級建築士事務所
人気の収納家具は学用品のサイズに合わせる
子育て世代が注意したいのが、間仕切りとしても使える収納家具の選び方。しかまさんは、「横にも縦にも置き足しができるカラーボックスは一見便利ですが、意外とモノが入らないので要注意」と指摘します。
「算数セットや書道セットなどは、幅が35~40cm前後ありますよね。ところが、人気メーカーのカラーボックスの奥行は30cm未満であることが多い。そうすると、学用品が横向きにしか入らず、前面のスペースに物を入れれば取り出しにくくなりますし、縦向きに入れると棚から5~10cm以上はみだして、通路を妨げてしまいます」
実は記者もカラーボックス(スタッキングシェルフ)を買いましたが、学用品やおもちゃなどの大きめの箱は入らず、収納不可能に。もっぱら本棚として機能しています。
記者自宅のスタッキングシェルフ(写真左側の茶色い棚)は、おもちゃ箱が入りきらず、やむなく床に直置き。棚の前をおもちゃ箱が占拠し、ふさがれた棚の中身は迷宮入りに。 ※写真提供:記者
「その点、IKEAの『KALLAX カラックス シェルフユニット』は奥行が39cm。学用品もおもちゃ箱も見ごとに入ります。たった10cmの差ですが、それによって収納量が大きく変わるんです。
わが家では、子どもが小学生のころは学用品を入れた間仕切りとして使い、今はクローゼット内の収納としても活用しています」
動線の確保や採光・風通しを意識
家具を見直したら、その配置を考えましょう。このとき念頭に置きたいのが、動線の確保。動線の幅は最低60cm必要だといいます。
「意外と、部屋の中の動きやすさって大事なんです。移動がしにくいと、動かなくなり、片づけもしにくくなってますます家が散らかってしまう。ドアや引き出しを全開できるかどうかも、確認を。
とくに狭小空間では、通路や扉の開閉スペースを確保しないと日々の生活がストレスになりますし、地震で大型家具が入り口をふさぎ避難の妨げになる恐れもあります」
狭いリビングでは、家具は壁に寄せて動線の数を減らすと動きやすくなり部屋も広く感じられる。
また、家具や間仕切りを置く際には、光や風の通り道も妨げないよう注意したい。
「たとえばベランダと平行に2段ベッドや間仕切りを置くと、光がさえぎられ、風通しも悪くなります。照明がないと真っ暗になってしまう空間は、子どもの成長にも精神衛生上も良くない。
窓や照明の位置を考慮して、できるだけ太陽光が入ってくる、明るく風通しの良いレイアウトを目指しましょう」
押し入れや廊下に「子どもスペース」はNG
では、どうがんばっても子どもの勉強机をリビングや居室に置けない場合は? ここでやりがちな失敗が、広めの廊下に子どもの勉強机を置くこと。同様に、押し入れやサービスルーム(納戸)の一部を子どもの寝室にしようとする人もいるかもしれません。
「これは絶対ダメ。なぜかというと、押し入れやサービスルーム、ウォークインクローゼットは、物を収納する場所として設計されているため、換気も採光も全く考慮されていないんです。窓がない廊下も同じです。
換気とは、外気を取り入れ、汚れた空気を新鮮な空気に入れ替えること。換気をしていないと空気の流れがとどこおり、空気だまりができ、二酸化炭素濃度も上がります。すると脳の活性も落ち、作業効率や睡眠の質が低下するといわれています。だからこそ、居室では換気をしなければならないと、建築基準法で定められているんです。
もし納戸やサービスルームを子どもの空間にするなら、換気機能がついたエアコンを設置して、空調とともに必ず外部の空気を取り入れてください。なお、『空気清浄機を置けばいい』と考えている人もいますが、空気清浄機は、花粉やハウスダストを吸い取ることはできても、二酸化炭素を酸素に変えることは不可能ですよね」
こうした注意点をもとに、次回はいよいよ、部屋割の実例を紹介してもらいます。
●しかまのりこPROFILE
COLLINO一級建築士事務所主宰。一級建築士、模様替えアドバイザー、建築基準適合判定資格者、耐震診断士。ゼネコン建築設計部等で設計・検査・審査など携わった住戸数はのべ5000件以上。独自のメソッドで、500件の問題を解決してきた。
取材・文/桜田容子
しかまさんがさまざまな家族構成と間取りの実例を紹介し役立つヒント満載の『狭い家でも子どもと快適に暮らすための 部屋作りのルール』(彩図社)