まさかの初登板初先発の末吉良丞が安定の剛腕ぶり。6回87球、被安打2、奪三振8、MAX144、7対0コールドで沖縄尚学決勝進出
強いから勝つのか、勝つから強いのか。 高校野球に限ってはそのどちらも当てはまる。 ただ甲子園に出るチームに関しては勝ったほうが強い論理でいいのかもしれないが、甲子園で優勝するためには勝つべくして勝つチームでないと頂点は絶対に取れない。 いくら超高校級の選手を4、5人集めたからといってそう簡単に甲子園に行けないのが高校野球。 学校、野球部、父母会が高次元で三位一体となってこそ、甲子園へのロードがやっと開かれるかどうか。そこには日程、天候といった運、タイミングも重なり、終わってみれば野球の神様のイタズラ心ゆえの結果になることだってただある。だから高校野球は面白いのだ。
復帰登板で140キロ以上のボールが87球中42球
スコアボードのPに末吉の名が刻まれたとき、「ウオォォォ」スタンドが揺れた。 18日の沖縄県大会準決勝沖縄尚学対名護戦にて末吉が今大会初登板初先発として、午前9時セルラースタジアムのマウンドに降臨したのだ。粋な演出というよりも故障明けの末吉の状態だけが気がかりだった。 注目の初球は少し力が入ったせいかワンバウンドになったものの球速は144キロを計測。 そこからはさして緊張した様子も見せず、勝手知ったる庭のごとく、140キロ台の真っ直ぐと110キロ台のカーブ、そして殿下の宝刀のスライダーを駆使して、6回87球、被安打2、四球1、奪三振8で無失点に抑え、沖尚打線が爆発し7対0の7回コールドで快勝し決勝に駒を進めた。 復帰戦にもかかわらず140キロ以上が42球あり、4回あたりから抜けたボールが目立ちだしたが、3回は三者三振に切って落とすなど、故障明けとは思えない剛腕ぶりを発揮する。 「久しぶりの公式戦ということで楽しんで投げることができたのかなと思います。 マウンドに上がったときから、この景色っていうのはピッチャーしか見られないのでマウンドに上がること自体が楽しいなと思いました。 調子は良くはなかったですけど、悪くもなかった感じですね。 5回予定だったんですけど、監督から『もう1回いけるか』と言われ『行かせてください』と志願しました。 怪我する前の課題でもあった緩いこのカーブでカウントを取ることができたっていうのは、この先のピッチングにつながると思います。 6回にランナーが溜まったのは気持ちが前のめりになってしまったからで肘痛や疲労といったことではないです。 課題としては、後半における真っ直ぐの精度と、今日はカットボールがずっと抜けてしまう場面が多かったので、明日にでも修正して決勝に備えていきます」 決勝を迎えるピッチャーの顔として末吉は淀みなく答えてくれた。
七番DHで2打数2安打、高校で初めての三塁打を放つ
末吉はこのチームを「一人ひとりの個性が強い」と評する。 個が強いのはいい。むしろ個が強くないと頂点など狙えない。 ただ個と同様に組織力、バランス力も要するのが野球であり、サッカーと違ってワンプレーによって大量点に繋がるケースがただあり、運を呼び込む競技性が強いのが野球である。 そして忘れてはならないのが、サッカーと決定的に違うのは、野球はミスするスポーツであること。 ヒットにしても失投や配球ミスがほとんどだ。また面白いことに、ひとつのファインプレーや絶体絶命のピンチの場面を抑えたりすると目に見えて流れが大きく変わったりするため、“野球の神様”という単語がよく思い浮かべられる。 ●●の神様と頻繁に出てくるスポーツは野球以外見当たらない。それほど運に左右されるスポーツでもある。 昨年であれば、その“野球の神様”に愛されたのが、末吉良丞だったのではないだろうか。 今大会の末吉は初戦からバッターとしてスタメンに名を連ね、三回戦と準々決勝では四番DHに座った。準決勝では七番DHピッチャーとして入り、初打席をセンター前、そして4回表の一死一、三塁で右中間を深々と破る大三塁打を放ち、一挙ランナーが生還。この時点で試合は決まった。 準決勝4試合で14打数7安打3打点、二塁打2、三塁打1の打率5割と、沖尚打線になくてはならない中心打者となった。 末吉がスタメンに入っているだけで相手チームへの警戒心も変わり、一本打てば球場の空気さえも支配できる。 プロでもそうだが、全国で勝つ術を知る男の強みは計り知れない。「こいつがいれば!」と皆に思わせるだけで未知の期待感が膨らみ、チーム内に一本筋が通る。 もはや言葉では説明がつかないほど末吉はチームにとって勝利を左右するほどの存在感なのだ。 野球の神様は気まぐれすぎるが、ホンモノにしか力を与えない。 それが末吉良丞である。
6回二死一、二塁で沖尚ナインがマウンドに集まる
チームが勢いを持って勝ち進むときには、何らかな吉兆が起こるものだ。 今まで末吉が投げられなかったため、投手陣に新たなスター候補が現れた。 173センチ、65キロの小柄なサウスポー久髙大瑚。力感ないゆったりしたモーションからのスライダー、カーブ、130キロ前後の真っ直ぐを駆使した軟投派だったのが、準々決勝糸満戦の最終回にマウンドに上がってから生まれ変わった。 MAX149キロを出すなど、快速球を武器に本格派に変貌。 もともと変化球、真っ直ぐのコントロールが良かっただけに、それに140キロ台の真っ直ぐが加われば鬼に金棒。もはや沖尚のエースと呼んでも過言ではないほどの輝きを放っている。
決勝の先発久髙がどこまで引っ張れるか、末吉の登板は…
準決勝までの4試合 久髙 13回3分の1 被安打4 奪三振19 防御率0.00 新垣 14回3分の1 被安打9 奪三振14 自責点1 防御率0.63 末吉 6回 被安打2 奪三振8 防御率0.00 𩜙平名 3分の1 被安打1 防御率0.00 右の新垣有絃、左の久髙大瑚の二本柱に、DHの末吉良丞。そして投手末吉がギリギリ間に合った。 投打の柱が明確にできた沖尚に四角はない。 おそらく決勝は、久髙が先発であろう。どう継投していくのかが鍵となる。 末吉は自信を持って言う。 「エナジックさんは特に個々の能力がとても高いんで、そういう部分を注意しながらどうコースを突いていけるか、打たせるところは打たせる、攻めるところは攻めるっていうことをやっていきながら、登板することがあれば抑えていきたいです」 春の九州大会決勝で負けているエナジックが決勝の相手であろうと、望むところだ。 九州大会は夏の大会に向けてローテーション候補のピッチャーの適性を見るため、控えピッチャーを優先的に投げさせた。 いわば試したのだ。だからこそ沖尚にとってこの負けは痛くも痒くもなく、何のダメージもない。だたエナジック側としては沖尚に勝ったという自信が芽生えたのは確かだ。 泣いても笑っても甲子園まであとひとつ。 ここまできたら勝利への執着こそが勝敗を分ける。