60代で物忘れがひどい…“正常な老化”と“認知症の始まり”の見分け方とは?
60代のひどい物忘れは「年相応」?それとも「認知症の前兆」?
60代になって物忘れが増えると、多くの方が「認知症の始まりかもしれない」と不安になるでしょう。しかし、すべての物忘れが病気のサインではありません。年齢とともに起こる自然な変化と、注意が必要な症状には明確な違いがあります。
ここでは、正常な物忘れと認知症による物忘れの見分け方、そして判断に迷ったときの相談窓口について詳しく解説します。
年齢とともに起こる「正常な物忘れ」の特徴
年齢相応の正常な物忘れには特徴があります。「うっかり時間を忘れる」「鍵や印鑑をどこに置いたか思い出せない」といった経験は、誰にでも起こり得る自然な現象です。
このような物忘れは主に「思い出す力」の低下によって起こるもので、記憶自体は保持されているため、時間が経てばふっと思い出せることが多いのも特徴といえるでしょう。
重要なポイントは、本人に「忘れていた」という自覚があることです。ヒントがあれば思い出せるのであれば、正常な物忘れといえます。体験した出来事の細部のみを一時的に忘れるだけで、約束や出来事そのものは覚えており、判断力の低下もみられません。
加齢による物忘れは、日常生活に著しく支障をきたすこともありません。「認知症かもしれない」と過度に心配しすぎず、年齢相応の変化として受け入れることも大切です。ただし、物忘れの様子に変化を感じたら、専門家に相談することをおすすめします。
認知症の初期サインとしての物忘れの特徴
一方で、物忘れの様子が年齢相応の範囲を超えている場合、認知症の初期サインかもしれません。正常な物忘れとの最も大きな違いは、最近の出来事自体をすっかり忘れてしまい、どんな手がかりがあっても思い出せない点です。
具体的には、約束した事実を覚えていない、しまった印鑑の存在自体を忘れて探し回るなど、体験そのものが記憶から抜け落ちてしまいます。
そのため本人には物忘れの自覚がなく、「そんな約束はしていない」と否定したり、「大事な物がない、誰かに盗られた」と怒ったりするケースもみられる可能性があります。
また、ごく最近の会話や出来事を何度も繰り返し尋ねる、手順が分からなくなり家事に時間がかかる、といった変化も初期に現れがちな症状です。昔の出来事は覚えている一方で、新しいことほど記憶できなくなる傾向もあり、日常生活にも徐々に支障が出始めます。
認知症による物忘れでは、判断力の低下や時間・場所の感覚の混乱など、物忘れ以外の症状も伴うようになります。記憶の問題だけでなく、これまで当たり前にできていたことが困難になったり、周囲の状況を正しく把握できなくなったりする変化が現れるのです。
このような兆候が見られたら、早めに医療機関や専門機関に相談することが大切になります。早期発見・早期対応により、進行を遅らせる可能性があるためです。
判断が難しいときに頼れる窓口
物忘れが「年相応」なのか「認知症によるものか」判断に迷うときは、一人で悩まず専門家に相談しましょう。まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じて神経内科や物忘れ外来など専門診療科を紹介してもらうのが一つの方法です。
併せて地域の相談窓口も積極的に活用することをお勧めします。各市町村それぞれに地域包括支援センターが設置されており、高齢者に関するあらゆる相談を無料で受け付けています。
専門の職員(保健師や社会福祉士など)が在籍し、「物忘れがひどくなってきたがどうしたら良いか」といった悩みに対し、状況に応じた適切な対応策をアドバイスしてくれるでしょう。
必要と判断されれば認知症に詳しい医療機関や介護サービスにつなぐ役割も担っています。地域に根ざした相談窓口として、個々の状況に合わせたきめ細やかな支援が期待できます。
さらに、地方自治体では認知症のための相談窓口を設けているところもあり、専門スタッフに相談できることもあります。ほかにも、同じような悩みを抱える介護家族の集まりや相談窓口などもあるため、悩みの内容に応じて窓口を活用していきましょう。
こうした窓口を利用することで、早い段階から適切なサポートや情報を得ることができ、本人や家族の不安軽減につながります。相談することで問題が明確になり、今後の対応方針も立てやすくなるでしょう。
60代の物忘れは予防できる?脳の健康を保つ3つの習慣
物忘れが気になり始めたら、「予防はできないのか」と考える方も多いはずです。実は、日常生活の工夫によって脳の健康を維持し、認知機能の低下を遅らせることは可能と考えられています。
特に重要な、食事・運動・人とのコミュニケーションの3つの要素について、今日から取り組める具体的な方法を紹介します。
脳を元気に保つ食習慣
毎日の食事は脳の健康維持に直結します。脳の健康に効果的とされる食材として、サバやイワシなどの青魚、ほうれん草やニンジンなどの緑黄色野菜、果物、緑茶、大豆製品、オリーブオイルなどが挙げられます。
青魚に豊富に含まれるDHA・EPAは、脳の神経細胞を保護する働きがあります。緑黄色野菜のビタミン類や緑茶のカテキン、大豆製品のレシチンなども、脳機能の維持に重要な役割を果たすのです。
これらの食品に含まれる不飽和脂肪酸やポリフェノール、ビタミン類は脳神経を守り、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβの蓄積を抑える効果が期待されています。
一方で、脂肪分の多い肉やマーガリンに含まれるトランス脂肪酸、過度の飲酒などは認知症発症リスクを高める可能性があるため控えめにすることが望ましいでしょう。
また、適正カロリーが保たれたバランスの良い食事は、脳の健康を守るだけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の予防につながります。
生活習慣病を防ぐことは脳卒中や脳梗塞のリスク低減にもなり、結果的に長期的な健康を保つことにつながるのです。毎日の食事で栄養バランスを意識し、脳に良い食材を積極的に取り入れることが大切になります。
健康的な生活を維持するための運動習慣
運動習慣は脳の健康維持に欠かせない要素です。適度な有酸素運動を日常に取り入れることで脳への血流が増え、神経細胞が活性化して認知機能が高まることが分かっています。
運動には心身のストレスを軽減する効果があります。ストレスは脳に悪影響を及ぼすため、定期的な運動でストレスを解消することが認知症予防につながるでしょう。
具体的には、1日30分程度のウォーキングや軽いジョギング、体操などを日々行うだけでも効果が期待できます。激しすぎる運動は怪我のリスクがありますが、無理のない範囲で体を動かす習慣を身につけることが大切です。
継続的な運動は血圧や血糖のコントロールにも寄与し、脳卒中などのリスク低減を通じて結果的に認知症予防にも役立ちます。運動によって脳の神経ネットワークの維持・再構築が促され、記憶力や思考力の低下を緩やかにする可能性も報告されているのです。
散歩から始めて徐々に運動量を増やしたり、家事や庭仕事を意識的に体を動かす機会として活用したりするのも良いでしょう。自分に合った運動を楽しく続けることが、脳の健康維持に繋がります。
人とのコミュニケーションによって脳を活性化
家族や友人、地域の人々との交流は、脳への刺激となり認知機能の維持に役立ちます。人と会話することは「相手の話を理解する」「感情を汲み取る」「適切な言葉を選んで返答する」といった複雑な脳の働きを伴い、脳全体に刺激を与えてくれます。
新しい話題に触れたり予定を立てたりする過程で知的好奇心も刺激され、記憶力や思考力のトレーニングにもつながります。
高齢になると退職や子どもが家を出ていくなどのライフイベントの影響によって、社会との関わりが減ってしまう場合が多いです。こうした人とのつながりが希薄になることによって、認知症のリスクを高める可能性があると指摘されています。
積極的に地域のサークル活動や趣味の集まりに参加したり、ボランティアや友人とのおしゃべりを楽しんだりすることで、日常にメリハリが生まれ、脳に適度な刺激が継続的に与えられます。
さらに、人との良好なコミュニケーションはストレスの軽減や気分の落ち込みの改善につながり、社会参加によって体を動かす機会も増えるため生活習慣病予防にも役立ちます。
こうした相乗効果で結果的に認知症の発症リスクを下げることが期待できます。楽しみながら人とかかわる時間を意識的に作り、脳をいきいきと保つことが大切です。
物忘れが気になってきたときのチェック方法・対処法
まずは自分の状態を客観的に把握し、必要に応じて適切な支援を受けることで、不安の軽減と今後の対策につながります。
また、家族のサポートも重要な要素の一つです。ここでは、セルフチェックの方法、地域の相談窓口の活用法、そして家族ができる寄り添い方について具体的に解説します。
自宅でできる認知機能セルフチェック
「物忘れ」が気になるとき、自宅で簡単に認知機能のセルフチェックを行うことができます。具体的には、次のような症状がないか振り返ってみましょう。
最近、同じ質問や話を繰り返すことが増えた
以前にはなかった物の置き忘れが目立つようになった
日付や場所を取り違えるミスが増えてきた
会話の途中で言葉が咄嗟に出てこなくなる場面が増えた
これらの変化が複数当てはまる場合、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の可能性も考えられます。MCIとは、認知機能低下があるものの日常生活は概ね自立できている段階を指します。
日常生活を振り返る際は、家族や身近な人の意見も参考にしてみてください。本人では気づきにくい変化を、周囲の人が感じ取っている場合があります。
また、定期的に同じチェックを行うことで、認知機能の変化を把握しやすくなるでしょう。セルフチェックの結果「やはり物忘れがひどくなっている」と感じたら、早めに医療機関への受診を検討しましょう。
地域包括支援センターの活用法
物忘れへの不安や介護に関する悩みがあるときは、地域包括支援センターを積極的に活用しましょう。
地域包括支援センターは各市区町村に必ず設置されており、65歳以上の高齢者本人やその家族であれば誰でも無料で利用できます。要支援・要介護認定を受けていなくても相談可能です。
センターには保健師・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネージャー)等の専門スタッフがチームで常駐している場合が多く、医療・介護・福祉・保健など様々な角度から総合的に相談に乗ってくれます。
例えば「最近親の物忘れがひどくて心配」「介護サービスを利用したいがどう手続きすればよいか」といった相談から、介護保険の申請代行、今後のケアプラン作成、介護予防のアドバイスまで幅広い支援を受けることができるでしょう。
専門機関への橋渡しも担っており、必要に応じて認知症に詳しい「もの忘れ外来」や介護サービス事業者を紹介してもらえるのも大きなメリットです。地域包括支援センターの名称は自治体によって異なる場合もありますが、お住まいの役所に問い合わせれば案内してもらえることが多いです。
困ったときは一人で抱え込まず、お近くの専門機関を活用して適切な支援と情報を得ることが大切です。
家族が知っておきたい不安に寄り添う接し方
物忘れが増えた高齢の家族に対しては、その不安な気持ちに寄り添ったコミュニケーションが何より大切です。本人の言動に戸惑うことがあっても、頭ごなしに否定したり叱責したりするのは逆効果になります。
まずは話をよく聞き、共感と思いやりの態度で安心感を与えましょう。声かけは常に穏やかな口調を心がけ、ゆっくり明瞭に伝えることで本人の混乱や不安を和らげることができます。決して恫喝したり急かしたりせず、ミスをしても責めないよう注意が必要です。
また、できることは本人のペースでやってもらい、自尊心を尊重することも重要でしょう。たとえ記憶違いや思い込みがあっても、頭から否定せず話を合わせたり別の話題にそっと転換したりする工夫も有効です。
例えば「大事な物が盗まれた」と興奮している場合には、「一緒に探してみようか」と寄り添いながら探すことで、不安を和らげることができます。家族のサポートによって本人の安心感が高まれば、日々の不安感によるストレスが減り、認知症の進行を緩やかにする効果も期待できます。
大切なのは、本人の気持ちに寄り添いながら見守る姿勢を家族全員で共有することです。
まとめ
60代の物忘れは、多くの場合年齢相応の自然な変化です。しかし、認知症の初期症状との見分けは重要であり、判断に迷ったときは専門家や地域の相談窓口を積極的に活用しましょう。同時に、バランスの良い食事、適度な運動、コミュニケーションなどを心がけることで、脳の健康維持に努めることができます。
物忘れへの不安を抱え込まず、セルフチェックで自分の状態を把握し、必要に応じて地域包括支援センターなどの専門窓口に相談することが大切です。
家族のあたたかいサポートも、本人の安心につながります。過度に心配しすぎることなく、適切な知識と対策を持って前向きに取り組んでいけば、本人らしい充実した日々を送ることができるでしょう。