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何でも「人のせい」? "他責思考"の飼い慣らし方をカウンセラー・小日向るり子さんに聞く

MEETS

仕事で壁にぶつかった時、つい他人や環境のせいにしてしまった経験はありませんか? 「うまくいかないのは会社のせい」「あの上司さえいなければ」というように。

近年、SNSを中心に「他責思考」という言葉が流行し、ビジネスシーンでも「何事も他責はダメ、自責であるべき」という風潮が強まっています。たしかに自責の姿勢は、自己成長の原動力になるでしょう。その一方で、「全部自分が悪い」とあらゆる責任を抱え込むことは、心をすり減らしてしまう原因にもなりかねません。

大切なのは「他責」と「自責」の境界線を知り、しなやかに使い分けること。そのために必要な視点やノウハウとは?

累計6500件超の相談実績を持つ産業カウンセラー・小日向るり子さんに、他責思考が広まる背景から、その乗り越え方までを伺いました。

小日向るり子さん。日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラー。1971年静岡県出身。同志社女子大学短期大学部卒業後、「増進会出版社(現:Z会ホールディングス)」に入社。その後、社団法人での自殺予防電話ボランティア相談員として4年間活動し、カウンセラーを志す。2012年「フィールマインド」を設立し、対面・電話・メールでのカウンセリングや心理・恋愛関連の執筆活動を行う。著書に『何でもまわりのせいにする人たち ~他責思考という病~』。

「他責」という概念が広まったワケ

──取材にあたってGoogleトレンド(検索ワードのトレンドや年ごとのボリュームを調べるツール)で「他責」というワードを調べてみました。すると、コロナ禍が始まった2020年から、検索ボリュームがグッと増えていることが分かりました。コロナ禍では、外部環境に人生やキャリアを左右された人も多かったと思いますが、これは他責という概念の浸透に関係していると思いますか?

《画像:「他責」の検索ボリューム推移(Googleトレンドより)》

小日向:面白いデータですね。たしかにコロナ禍に理不尽さを覚えた人も少なくなかったのは間違いないでしょう。ただ私は、それとは少し違う原因を想定しています。それは、手に入る情報の量やバリエーションが増えたことです。おうち時間で、SNSなどを使った情報発信、情報取得の時間が増え、他人の考えや価値観に気軽に触れられるようになった。結果として、うまくいかないことを環境のせいにしてもいいんだ、と感じる人が増えたという因果関係です。

──なるほど。コロナ禍よりも情報環境の変化の影響が大きいと。ということは、コロナ禍以前から「他責」という概念はある程度社会に浸透していたのでしょうか?

小日向:私がフリーランスのカウンセラーとして活動を始めた2012年頃、「毒親」という言葉が広まり始めました。きっかけとして大きいと考えているのは同年に刊行されて話題を呼んだエッセイ漫画『母がしんどい』(田房永子著)です。親との関係性に悩む子どもの存在がクローズアップされ、若者世代を中心に共感を集めました(※)。

※……『毒になる親 一生苦しむ子供』(スーザン・フォワード著)など、2000年前後から同様のテーマに関する書籍が刊行され始めていた。

毒親という概念は、親子関係に葛藤を抱える人々にとって救いになったと思います。ただその一方、「自分の人生がうまくいかないのは親のせいだ」という考え方が広まるきっかけにもなったように感じています。

そこから派生して、自分に不利なことが起こった時、まずは上司や先生など自分よりも大きな存在の「責任」に目が向くようになったのではないかと。

──「自分よりも大きな存在の責任に目が向く」というのは責任の所在を明らかにする上では大切なアクションで、実際にそれで社会が良い方向に動くケースもあったとは思うのですが、自分を顧みづらくなるというデメリットもありますね。

小日向:そうですね。「自責の念に駆られる」という表現があるように、「自責」は古くから使われている言葉です。それに、当然ながら何でも人のせいにする人は昔からいました。ただ、それと対になるような概念があるんだ、と多くの人が認識し始めたのは、やはりSNSが発達して以降のことなのではないでしょうか。

──「毒親」のお話を伺って思い出したのですが、若い世代を中心に流行し『「現代用語の基礎知識」選 2021ユーキャン新語・流行語大賞』にもノミネートされた「親ガチャ」も他責のニュアンスを感じます。

小日向:個人的に、親ガチャは他責というよりも"諦め"のニュアンスが強い言葉だと思っていて。「ガチャが外れたからしょうがない」という感覚ですね。「ガチャ」というのも、期待をしていないことがにじむ表現です。「上司ガチャ」のような応用表現も存在しますが、これもまた誰かの責任を追及して怒るエネルギーすらないというか。

──「誰かのせい」にしているところは他責とも共通していますが、それに対する感情が「怒り」か「諦め」かで違うと。

小日向:そうですね。これは世代間の感覚差もあるかもしれません。私がカウンセリングしている範囲では、他責に関する悩みを多くいただくのは40代以上の世代です。一方で、20代の方からは「他人や環境のせいで人生がうまくいかなくて苦しい」というツラさをあまり感じません。あくまで体感ですけどね。

──近年の就職活動は、少子高齢化などを理由とした「売り手市場」が続いていますが、そうした背景もあるのでしょうか?

小日向:それもあると思います。今はむしろ上司世代のほうが「辞められたら困る」と若い世代に気を使っていると聞きますから……。

ただ、「親ガチャ」のところでもお話ししましたが、若い世代は若い世代で状況を冷めた目で見ているんですよね。もしかすると、上の世代は誰かのせいにして怒り、若い世代は怒るより先にしらけている、というのが現状なのかもしれません。

なぜ人は他責思考を「こじらせる」のか

──他責をめぐる社会状況を概観したところで、他責のメカニズムについて掘り下げていきたいのですが、そもそもなぜ人は起きたことを「周りのせい」にしたくなるのでしょうか?

小日向:自分に都合の悪いことが起きた時に、人や環境のせいにしたいという感覚は人間にとって普遍的なものです。他責思考は、心に備わった防衛機制(※)の一種なんですよね。「私が悪い」を突き詰めていったら心が壊れてしまいますから、他責は自分を守るために必要な側面もある。だからこそ、私は「他責=悪」と単純に決めつけてしまうことには注意が必要だと考えています。

※……不安や怒りなどの感情が湧き上がってきた時、それらを回避したり弱めたりすることで精神の安定を保つという心の調整機能。精神医学者のフロイトが提唱した概念。防衛機制のバランスは、生まれ持った身体的・精神的な特徴、これまでに受けた教育や文化的環境(居住地、交流関係など)で決まる。

問題なのは防衛機制のバランスが崩れて、他責と自責の間に境界線を引けなくなることなんですよね。これが「他責思考をこじらせる」という状態だと思います。

──「これは他責にしていい」「これは自分で受け止めるべき」という境界線は、どこにあるのでしょうか?

小日向:明確な線を引くなら、法律に抵触するかどうかだと思います。親に殴られた、食事を満足に与えてもらえなかったというのは虐待ですし、上司が殴ってきたら暴行罪です。そうした場合に「自分も悪かった」と思う必要はありません。

逆に言えば、法律に抵触しない範囲のことであれば、自分にも相手にもそれぞれ非がある可能性がある。当然、法律に触れていなくても、不当さや理不尽さが存在するケースはありますが、そのバランスの中で物事が存在している、という認識を持てるかどうかが大切だと思います。

私もカウンセリングの中では、構造的な問題を指摘する相談内容は「具体的な解決策のアドバイス(弁護士やクリニック、行政福祉などの専門機関を紹介するなど)」、感情の吐き出しや愚痴に近い相談内容は「共感的態度を重視した傾聴」と対応の使い分けを意識しています。

──そうした整理ができない段階で「こじらせている」のかもしれませんね。とはいえ、小日向さんの著書に「他責思考の人はその癖に無自覚である」と書かれています。自分が他責思考に陥っていると気づくためのサインはあるのでしょうか?

小日向:あくまで目安ではありますが、いくつかあります。

まず、何となく「うまくいかない」という感覚はあるのだけれど、その原因が自分で分かっていないこと。 状況を客観視できないために解決策にたどり着けず、思い込みや先入観を募らせていくパターンです。他責思考をこじらせると周囲から人が離れていくことも多いのですが、なぜそうなるのか本人が分かっていない場合もあります。

次に、話の前提が常に「〇〇が悪い」から始まることです。状況をフラットに見ることができず、「上司が悪い」「会社が悪い」と思い込みや先入観を前提に話が進んでしまう。他責思考をこじらせた人は、相談の内容を問わず、常に誰かを悪者にするところは共通しています。これに関連して、簡単に相手を「敵」と見なしてしまう思考様式にも注意が必要ですね。

外側から分かるサインとしては、何かしらの病気である場合を除き、意図せず日常生活のルーティンが乱れることです。 規則正しい生活が送れない状態ですね。ルーティンを守るには、ある程度自分を律する必要があり、そのために「ここまでは自分の責任だけどここからはそうじゃない」という境界線を適切に引かなければなりません。ルーティンの乱れはそのバランスが崩れているサインにもなり得ます。

上記に関連して、恋愛や仕事が続かないというのもサインの一つです。 一つのことを続ける上では思い通りにいかないこともありますが、それをすべて他責にしていては心が持ちません。さまざまなことと折り合いをつける力が弱いと、何をやっても長続きしなくなります。

とはいえ、一時的に他責に傾いてしまうこと自体は誰にでもあることなので、今お話ししたサインは、他責思考が一時的でなく、固定化してしまった場合の傾向です。

他責思考をこじらせているサイン(目安)


•「うまくいかない」原因を自分で把握できていない
•話の前提が常に「〇〇が悪い」から始まる
•意図せず日常生活のルーティンが乱れている
•恋愛や仕事が長続きしない

他責思考を乗り越えるための「自分軸」

──話の始め方や日常生活のルーティンなど無意識の行動・言動が多く、自分で気づくのが難しそうですね。そんな中でも他責思考を克服するには、どうすれば良いのでしょうか?

小日向:大前提として「他責思考をこじらせているかもしれない」と思えた時点で、ほぼゴールだと思ってもらっていいかもしれません。他責思考は本当に気づきにくいので。

そのうえで克服したいのであれば、「物事を自分軸(※)で捉える訓練」をすることをおすすめします。これは単に「何でも自分ごと化する」ということではなく、自分と他人の境界をハッキリさせるということです。

※……他人に左右されることなく、自分の価値観や考え方に基づいて生きる姿勢のこと。

──「自分軸」という言葉、最近よく聞きますね。Googleトレンドで調べても、直近10年で検索ボリュームが大きく増えていました。判断軸が多すぎる時代だからこそ、自分のものさしを持って生きたい、という欲求が強まっているのかもしれませんね。

《画像:「自分軸」の検索ボリューム推移(Googleトレンドより)》

小日向:そうかもしれません。他責か自責かは問わず、近年は自分らしく判断したい、考えたいという感覚が重視されるようになってきている印象ですから。

──話を戻すと、他責思考を抜け出す「自分軸」の持ち方とは一体どのようなものでしょう。何か具体例はありますか?

小日向:カウンセリングをする中で出会った、印象的なエピソードが2つあります。

1つ目は、上司同士の喧嘩を目の当たりにして嫌な気持ちになり、会社に行きづらくなった方のお話です。自席近くに座る男女の上司2人の折り合いが悪く、日常的に舌打ちが聞こえたり情報共有が滞ったりしてストレスを抱えていたようです。それを友人に相談したところ、「またやってるな」くらいの感覚で捉えたらいいんだよ、とアドバイスをされ、その心持ちで向き合うと「両親の夫婦喧嘩と同じじゃないか」と気付いた。喧嘩しながらも関係を続けている両親と同じだと捉えたら気持ちが軽くなり、会社にも行きやすくなったといいます。

《画像:他人の問題を自分の問題として引き受けすぎない姿勢も大切》

この方は状況を俯瞰し、上司同士の喧嘩を「自分ごととして捉えない≒解決に動かない」ことで気持ちを楽にできました。他人の問題を自分の問題として引き受けすぎないことも、自分軸を持つうえでは大切です

2つ目は、入った職場がすぐに嫌になって転職を繰り返していた方のお話です。その方は「上司の指示が悪い」「部下が動かない」「職場が遠い」と、職場が嫌になる原因を他責する傾向がありました。そんなある日、何気なく行ったモデルルームの展示会で「自分の家がほしい」と強く思った。そして「家を買うにはお金と信用が必要だから、ちゃんと働こう」と腹を括れたことがきっかけで、仕事に主体性を持って取り組めるようになり、その結果、達成感を感じるようになったそうです。

自分の欲求と向き合うことで仕事を自分ごと化できた、これも自分軸が機能している状態ですよね。「自分は何がしたいのか」という内側の声に耳を傾けることが、結果的に他責思考をこじらせない抑止力にもなり得ます。

──自分軸を持つうえで日常的にできるアクション、というものはあるのでしょうか?

小日向:自分の感じたこと、不快に思った出来事を他責軸、自責軸で捉え直し、紙に書き出してみるといいかもしれません。特に、他人に対して何かしらの不安や不満、苛立ちを感じたタイミングで行うのがおすすめです。

例えば、このように。

【他責】上司が自分に冷たく当たる。これではやる気がなくなって当然だ。
【自責】上司が苦手だから挨拶を避けてきた。だから口頭で伝えた方が早いこともメールで送っていた。これでは自分が上司にとって扱いづらい人間になるのも当然だ。

こうすると、自分の思考を俯瞰できます。スマホに入力するのではなく、手を動かして書き出し、目で眺めるという一連の動作もポイントですね。

他責思考の人とうまく付き合うコツ

──他責思考をこじらせないために、日頃から何事も自分軸で判断できるようになるといいのかもしれませんね。一方で、自分自身は何とかなっても、他責思考をこじらせた他人とどう向き合うかという問題もあるように思います。何か解決策はありますか?

小日向:テクニックとして、「謝罪」を意識的に使うことをおすすめします。他責思考は自分で気づくことすら難しいので、当然ながら他人が指摘し、変えるのは至難の業です。だからこそ、コミュニケーションを重ねながら、地道に信頼関係をつくることが大切。謝罪はそのためのテクニックとして有効です。

特に若いうちはつい正論で相手とぶつかりたくなるものですが、ぶつからずに割り切って「自分も悪かったね」「そういう考えもアリだね」と相手を許容すると、信頼関係が生まれやすくなります

これは私がかつてコールセンターで働いた経験から学んだことです。コールセンターのクレーム対応マニュアルでは、「聞く」ことがもっとも重視されていました。相手の話をじっくり聞いたうえで「不快にさせてしまい申し訳ございません」と謝る。製品の機能や性能について非を認めるわけではなく、あくまで相手の気持ちに寄り添う目的で謝るんです。すると、「分かってもらえた」と感じたのか、怒りがおさまってくるケースが少なくありませんでした。

──謝罪を使いこなせれば、どんな相手とでも良い関係を築ける。今日から実践できそうなテクニックですね。ここまでお話を伺ってなんとなく理解できましたが、改めて他責思考を飼い慣らすことができた時、仕事やキャリアはどう変わっていくでしょうか?

小日向:マズローの欲求5段階説(※)で言うと、最上位の「自己実現の欲求」が満たせるようになるはずです。自律的に行動して、周囲と良好な関係を築けるようになり、自己実現が達成されるということですね。

《画像:マズローの欲求5段階説を図にしたもの》

※……アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが提唱した学説。人間の欲求を、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、自己実現の欲求という5段階で捉える。低次から高次へと順次満たされていくとされる。

SNS全盛時代、仕事もキャリアもつい他人と比較してしまいがちですが、自分のものさしで満足を実感できたとき、初めて他責思考を「飼い慣らす」ことに成功したと言えるのではないでしょうか。


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( https://tenshoku.mynavi.jp/ft/salary/?src=mtc )

取材・編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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