【親子は顔だけじゃなく脳も似ている!】最新の脳科学で判明した 父・母・子どもの脳の「かたち」
親子は顔だけじゃなく脳も似ている!? 親子の脳はどの程度似ているのか、子どもの性別や異性親子・同性親子では何が違うのか。父親・母親・子どもの脳に関する新事実を、東北大学・松平泉先生が脳科学から解き明かします。
【画像】脳科学の第一人者に聞く『生きる能力を上げるのはリズム感!』親子は容姿だけでなく、性格や行動など何かと共通点が多いものです。これまで、こういった親から子へ受け継がれる現象は、主に遺伝的要因と環境的要因が関係すると考えられてきましたが、2025年6月、この課題に脳科学から切り込んだ最新の研究が東北大学から発表されました。
松平泉(まつだいらいずみ)先生が主体となって進めたプロジェクトで算出された、親子の脳の「かたち」とは。親子の「似ている」を解き明かす、脳の新事実に迫ります(全2回の1回目)。
これまでの研究は父親不在 やっているようでやっていなかった「親子トリオ」の研究
──2025年6月、松平先生のグループが発表した親子の脳の「かたち」に関する研究は、今までにないアプローチと研究成果で注目されました。世界初ともいわれている研究は、一体何が新しかったのでしょうか。
松平泉先生(以下、松平先生):私たちのプロジェクトは、父親と母親と子どもの「親子トリオ」を対象に研究を進めたのですが、まずはそこが新しい部分です。
実は脳科学だけでなく、心理学の分野でも、「親子」というと母親と子どもの2者で研究が進められることが多く、父親不在の研究がほとんどでした。
でも、実際の子どもは、お父さんとお母さん両方の遺伝子を受け継ぎ、どちらの要素も持ち合わせています。
また、父親の存在は子どもだけでなく、母親の行動などにも影響を与えますから、3者のデータを収集・分析することが、親子の脳を深く理解するには非常に重要で、研究の前提としても不可欠な条件だと考えました。
松平先生のグループが行った親子の脳に関する研究の主な前提
① 父親、母親、子どもの3人1組の「親子トリオ」を対象にする
② 親は65歳以下、子どもは15歳以上
③ 子どもの性別は男女どちらでもOK
子どもも大人も同じ検査を体験 これで親子間の分析が深化
──子どもといっても、前提の子どもの年齢は子どもとしては少し高い印象です。15歳以上にしたのはなぜでしょうか。
松平先生:人の脳というのは、生まれてから中学生ぐらいまでかなりダイナミックに形も大きさも変化して、成熟していきます。そのため今回は、あえてその変化がある程度落ち着いて、大人(親)に近づいた状態で親子間の脳の関係性を分析することにしました。
加えて、お子さんにも家族関係についてのアンケートやIQテスト、自分の性格検査を行うことにしていたので、これも子どもの年齢を15歳以上に設定した理由です。
たとえば「社交的ですか?」という質問でも、幼い子どもなら「お友だちと遊ぶのは好きですか?」といった言葉になってしまいます。これでは質問の意図が変わってしまうので、親御さんと同じ質問(文面も一緒)をして、同じ条件下でデータを集めました。
──そこから、親子の脳が「似ている」という世界初の成果につながったのですね。
松平先生:実は、親子の脳が「似ている」ことそのものは、これまでにも報告されてきたことです。しかし今回の研究では、親子トリオに注目したことで、子どもの脳には「父親にのみ似る領域」「母親にのみ似る領域」「両親に似る領域」「どちらにも似ない領域」が存在することを新たに発見できました。
データを集めるにあたっては、宮城県にお住まいの152組の親子にご協力いただきました。
MRIで父親、母親、子ども、それぞれの脳画像を撮影。画像撮影だけでもひとり30分程度はかかるので、データの収集には約2年半もかかりました。 画像提供:東北大学 松平泉
脳の4種類の部分から親子の脳「かたち」を算出
──今回の研究では脳の「かたち」に注目されたとのことですが、脳の「かたち」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?
松平先生:脳の「かたち」をとらえる方法はいろいろありますが、今回の研究では、次の4種類の「かたち」の情報に注目しました。
画像提供:東北大学 松平泉
親子の脳の類似性に関する研究で注目した、4種類の「かたち」の特徴
① 脳のシワを示す「脳回指数」
② 大脳皮質の広がりを表す「表面積」
③ 大脳皮質のぶ厚さを表す「皮質厚」
④ 脳の奥あたりに位置し、海馬などを含む「皮質下構造」の体積
4つとも脳の働きに関わる重要な特徴を持っている。ただし、これらの特徴の値が「大きい」=「頭がいい」というわけではなく、大きさが持つ意味は個人によって異なる。
4種類を採用した理由はいくつかありますが、①脳回指数と②表面積は、生まれる前などかなり早い段階で作られて変化が起こりにくい特徴があります。
一方、③皮質厚と④皮質下体積は、生まれてからの経験や環境の影響によって変化しやすい特徴を持っています。
変化が起こりにくいという特徴と、変化が起こりやすいという特徴を分析対象にすることで、脳をより多面的に理解することができるのです。
4種類の指標を使って分析した結果、誰に似るのか、脳の領域を色分けで示した図。 画像提供:東北大学 松平泉
親子の脳を「シャッフル分析」 女の子のほうが両親に似ている場所が多い!
──父親、母親、子どもの3人1組の親子トリオ内でそれらを比較して、親子の脳が似ている・似ていないことがわかったのでしょうか。
松平先生:それだけで、わかったわけではないですね。たとえば、海馬の体積でお話しすると、お父さんの海馬の体積とお子さんの海馬の体積の2者の相関関係(ふたつのデータの間の関係の強さ)を見るだけでは、本当に「お父さんとお子さんだから似ている」のかどうか判断できません。
親子の脳が似ている・似ていないことを判断するには、少し複雑な分析が必要です。まず、実の親子(Aとaなど)のペアがたくさんいる状態で、「実の親子の相関係数」を算出します。相関係数とは、ふたつのデータ同士の関係の強さを表す数値のことです。
次に、親のデータをランダムにシャッフルして、他人の父親(Z)と子ども(a)といった他人同士のペアをたくさん作ります。そうして「他人同士の相関係数」を算出します。
「実の親子の相関係数」と「他人同士の相関係数」を比べて、前者が後者よりも充分に大きければ、「実のお父さんの海馬の体積が大きいと、その子どもの海馬の体積も大きい」という関係性、つまり「似ている」という解釈が得られるのです。
松平先生の研究グループでは、「子どもと他人の親」のペアのセットを1000通り作成。相関関係を数値化(絶対値が1に近いほど関係が強い)して、類似性の評価をしました。 画像提供:東北大学 松平泉
──親子といっても、性別は無視できないような……。異性親子と同性親子の組み合わせは何か関係したのでしょうか。
松平先生:はい、関係しました。父親×息子、父親×娘、母親×息子、母親×娘という4パターンそれぞれを分析すると、また別の傾向が見えてきました。
分析すると、子どもの性別で似ている・似ていないに男女差があったり、女の子のほうが両親に似ている場所が多いということもわかったんです。
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異性親子と同性親子で脳の類似性に差が出たことがわかったのは、今までやっていそうでやっていなかった父・母・子の「親子トリオ」を研究対象にしたからにほかなりません。データを収集・分析するのは大変だったと松平先生はいいますが、苦労した分だけ得られたことは大きかったといえるでしょう。
次回は、親子の脳の類似性をさらに深掘り。なぜ男女で脳が似ている・似ていないに差が出るのか、脳が似ているということは行動や思考、性格が親と似ていることにつながるのか、などについて迫ります。
取材・文/梶原知恵
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◆松平 泉(まつだいら いずみ)
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教
専門は発達認知神経科学。『家族の脳科学』のプロジェクトにおいて、父・母・子の3人1組=親子トリオの脳や遺伝子からその関係性を分析し、人間の個性の成り立ちを解き明かす研究をしている。親子の脳の「かたち」が似ていることに関する成果は、世界初の研究として注目されている。