新規事業成功のカギ ~筋の良いアイデアを生み出すための4つの条件~
新規事業開発において企業が最も頭を悩ませるのが、事業アイデアの創出(アイディエーション)だ。ただ単にアイデアを出すだけならば、社内からたくさんのアイデアが出る可能性がある。しかし、新規事業として実現可能な「筋の良いアイデア」をいかに生み出すかが重要だ。本稿では、筆者の経験を基に、筋の良いアイデアが満たすべき条件について解説する。
新規事業の最大のイシューは「アイディエーション」にあり
筆者は長年、数多くの企業の新規事業開発を支援してきたが、新規事業開発は、極めて難易度が高い業務だ。一筋縄ではいかず、10年以上にわたり新規事業の支援を行ってきた筆者でも、依然として新規事業開発の難しさを感じている。新規事業の成功確率が7%という数字が、その難しさを物語っている。
事業開発プロセスを分解した際、新規事業の難しさや課題はどこにあるのか? 当社が約280社を対象に実施したアンケート調査では、課題のトップ3が(1)ビジネスモデリング(2)アイディエーション(3)人材の確保・育成で、新規事業開発プロセスの上流工程に課題が集中していることが明らかになった。
特に、新規事業開発の出発点のアイディエーションについては、筆者が様々な企業と接する中でも多くの悩みの声を聞く。筋の良い事業アイデアを再現性を持って生み出すことは、新規事業を成功に導く上で最も重要な課題だと言えるだろう。本稿では、筋の良い事業アイデアを生み出すために押さえるべき重要なポイントについて紹介する。
「サイエンスとアートの融合」ゆえに新規事業のアイディエーションは難しい
新規事業のアイディエーションが難しい理由について考えてみる。経営は「サイエンスとアート」の融合だとよく言われるが、新規事業はその象徴的な領域だ。
サイエンスの側面として、市場分析、業界分析、顧客課題分析、競合分析などが挙げられる。これらの手堅い分析は、成功する新規事業を生み出すために必須だ。一方、アートの側面としては、近未来の社会の想像、新規事業で実現したいビジョンの設定、担当者の意思入れがある。これらは新規事業の大義名分に必要なもので、新規事業の根幹を成す要素だ。
サイエンスとアートの両輪がかみ合ってはじめて新規事業は成功する。アイディエーションの段階においても、サイエンスとアートの両方の視点が求められるため、アイディエーションは難しいのだ。
一般にサイエンスは言語化できるが、アートは言語化が難しい。筋の良いアイデアの“必要十分条件”を言語化することは困難だ。一方、筋の良いアイデアが満たすべき“必要条件”は記述できると筆者は考える。必要条件ゆえ、新規事業の成功を保証するものではないが、それを満たして成功確率を高めることは可能だ。本稿ではその具体的な条件を紹介する。
筋の良い新規事業アイデアが満たすべき4つの条件
筋の良い新規事業アイデアが満たすべき4つの条件について、以下に詳しく解説する。
条件1:顧客課題の質
事業が成功するためには、顧客の問題やニーズに対する深い理解が必要だ。顧客が抱える課題が明確で、その課題の質が高いことが第一条件だ。
ポイント① 顧客課題の認知度の低さ:顧客課題がどれだけ認識されているかが重要だ。多くの人が認識している課題には、すでに解決策が存在するか、競合が多い可能性が高い。逆に、自分だけが気づいている課題ならば、競争が少なく、新規事業の成功率が高まる。
ポイント② 課題のマネタイズ可能性:顧客が課題解決に対して支払う意欲があるかを検討する。顧客が課題解決に対して支払う意思があり、十分な資金があることが求められる。ビジネスでは、顧客がその課題に対してお金を支払う動機を持っているかが成功のカギとなる。
条件2:自社の強みの反映
新規事業の成功には、自社の強みを生かすことが不可欠だ。自社の強みを事業アイデアにどう組み込むかが重要だ。
ポイント① 強みの把握:自社の強みを深掘りし、明確にする必要がある。多くの企業は、意外と自社の強みを言語化できていない。新規事業では、自社の強み、特にコア・コンピタンス(中核能力)を言語化し、全関係者が共通認識を持つことが必要だ。これにより、アイデアの信頼性が高まる。
ポイント② コア・コンピタンスの活用:自社のコア・コンピタンスを生かすことで競争優位性を確立する。例えば、自社が持つ技術やノウハウを新規事業に組み込めば、他社にはない独自性を生み出せる。既存事業の成功要因を分析し、それを新規事業に応用することが求められる。
条件3:社会課題の独自の切り取り
SDGsの時代においては、社会課題に取り組むことは新規事業の必須条件だ。事業が解決しようとする社会課題の設定が重要で、その切り取り方(切り口)が独自のものであることが望ましい。
ポイント① 社会課題の解像度:社会課題の設定には適度な解像度が必要だ。例えば、「高齢化社会」という広範な課題ではなく、「60歳以上のシニア層の孤独対策」といった具体的な課題設定が望ましい。具体的に分解することで、課題解決のアプローチが明確になり、関係者からの理解や共感を得やすくなる。
ポイント② 共感の獲得:特にZ世代など、社会的価値を重視する顧客層には、社会課題への取り組みが重要だ。社会課題に対する具体的なアプローチを示すことで、共感を得られやすくなり、事業の推進においても有利に働く。
条件4:ビジネスモデルの成立可能性を示唆する材料
アイデアを具体的なビジネスモデルとして具現化するためには、その成立可能性を示唆する材料が必要だ。ビジネスモデルの仮説を立てることは初期段階では必須ではないが、成立の可能性を示す根拠があるのが望ましい。
ポイント① 先行プレーヤーの存在:ターゲットとする顧客層や市場にすでに成功している先行プレーヤーが存在する場合、その成功の要因やビジネスモデルを研究することは、アイデアの成立可能性を示唆する材料となる。先行プレーヤーの成功事例を参考にすれば、新規事業の方向性が明確になるだろう。
ポイント② アナロジー:先行プレーヤーが存在しない場合はアナロジーが有効だ。「x業界においてはyというビジネスモデルが成立している。これをz業界に適用すればビジネスモデルが成立するはずだ」という発想によりビジネスモデルの成立可能性を裏付けるのだ。
まとめ
新規事業の成功には、筋の良いアイデアの創出が不可欠で、そのアイデアが満たすべき4つの条件(顧客課題の質、自社の強みの反映、社会課題の独自の切り取り、ビジネスモデルの成立可能性を示唆する材料)を理解し、それを実践することが求められる。これらの条件を押さえることで、新規事業の成功確率を高め、実現可能なアイデアを生み出すための指針にできるだろう。新規事業開発に挑戦する会社は、ぜひ参考にしてほしい。
執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 岩本 真行