自閉症息子を激しく叱り自己嫌悪…障害児育児は孤独?特別支援学校の先生の言葉にあふれた涙
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
息子の困った行動と、ある日の夕方の出来事
ある日の夕方のことです。その日は子どもたちが持ち帰った汚れ物が大量で、私は大量の汚れ物の予洗いをしていました。すると、居間から娘が私を呼ぶ声がしたので急いで見に行くと、居間は大惨事となっていたのです。
息子には感覚刺激を求めて遊ぶくせがあり、私が居間に駆けつけた時も、ちょうど夢中になって遊んでいるところでした。この行動自体は息子の自己刺激の一種で、日頃からよくあることではありました。しかし、その日は帰ってから息子がなかなか玄関から動かないなど、いろいろと続いており、さらに、疲労に加え体調不良もあって頭が全く回らない状態だった私。思わずカッとなって、息子にひどい叱り方をしてしまったのです。
自分の育児に自信がなくなって……あふれる涙
息子を激しく叱って泣かせてしまうと、過去のいろんな出来事や今の自分の状況が頭を巡り、私も涙がとめどなくこぼれました。自分がこれまでしてきたことは正しかったのか……何も現状が変わっていないように思えて、虚しく思えたのです。
そして同時に、自分があまりにいっぱいいっぱいであることにも気がつきました。夫の帰りはいつも深夜が当たり前で、私の実家は遠方です。ワンオペ育児の疲労からか、頻繁に吐き気や頭痛に襲われる状態で、さらに自分自身の持病の不安も加わり、精神的にも不安定でした。相談しようと思えばできる人がいたと思うのですが、自分の弱さをさらけ出す勇気が出ず、誰にも言えない悩みやつらさだらけで、 追い詰められていました。
次の日の朝、息子の反応は
次の日の朝、ひどい頭痛で起きられずにいると、夫が息子の支度をすべて完了してくれていました。私は昨夜のことが気まずくて、息子にどう接していいか分からずにいました。すると息子は、家を出る時に私にぺこっと頭を下げ、手を挙げて「いってきます」のポーズをしてくれたのです。
その姿に、激しい罪悪感に苛まれていた私は、勝手ながら少し救われた気がしました。息子は話すことができず、本心を知ることはできませんが、いつも通りの一日を始めることができました。
ただ、また夕方が近づいてくると、息子にどう接していいのか不安になると共に、また昨日のようなことが起きないかと不安がどんどんふくれあがっていきました。
息子の担任の先生に電話、先生の言葉に救われて
夕方、私は散々迷ったあげく、昨日の出来事を誰かに話さなくてはならないような気がして、息子の学校の担任の先生に電話をしました。その日の息子の様子が気になって、このまま息子と顔を合わせるのが怖かったからというのもあります。
電話口に先生が出ると、何から話していいか分からなくなりましたが、最近あったことをポツポツと話し始めました。先生はその話に一緒に驚き、共感してくれました。孤独感を強く抱いていた私でしたが、先生とは一番近い感覚で、息子の現状を共有し合えている気がしました。先生こそが、息子に対して私と一番近い認識を持ってくれている相手だと確信したのです。
そして、話の流れから昨日の出来事を話しました。先生は私の話を聞いて、まず、「話してくれてうれしい」と言ってくれました。「お母さんが話してくれたから、助けようとすることができる、だから話してくれる存在になれたことがうれしいんです」と。続けて「親だってそうなってしまうことはある」と、気持ちに寄り添ってくれました。私のことを一切責めず、否定せず、共感し、労わってくれたのです。
「すでにお母さんはこの電話をするまで、いっぱい反省したと思う。この電話をかけることもすごく勇気がいったと思う。だから、もう昨日起きてしまったことは、難しいかもしれないけど一旦考えないようにしましょう。もう自分を責めないで。」
先生の言葉に、私は涙が止まらなくなりました。
特別支援学校は、特別な支援を必要とする子どもだけを支援する場ではない
先生は、息子の気持ちについても言及してくれました。今朝の出かける時の反応がすべてだと思うと。「気にしてないよ、大丈夫だよ」ということだと思うと。
たぶん、何を言ってもやってもヘラヘラしているように見えるのは、息子本人もなんで怒られているのか分かっていないからで、まだ理解が難しいんだと思うとも話してくれました。そしてその上で、学校でどんな対策をしているかなども教えてくれました。
先生は、こうも言ってくれました。「特別支援学校は、特別な支援を必要とする子どものためだけに支援をする場ではないと思っています。そうしたお子さんのご家族の支援もしていきたいから、これからも、何かあったらどんどん電話してほしいし、連絡帳にも書いてほしい。夜も寝られず悩むことがあったら、長文の手紙にして連絡帳に挟んでくれてもいい。学校に話しに来てくれてもいい。だから、いっぱい話しましょう。」
そして、「お母さんって本当にすごいと思います、だって朝から夜寝るまで、ずっとですもんね」と言ってくれました。先生は、家で障害児をみる親の大変さを理解してくれていたのです。その上で、息子だけでなく、私や家族も支援したいと言ってくれました。
学校は子どものためのもの、担任の先生は息子の担任であって、あまりご迷惑をかけてはいけないと思っていましたが、このときの先生の言葉に、私は心底救われたのです。
私が欲しかった言葉をくれた先生、息子だけでなく、私にとっても頼れる存在
娘のお迎えの時間がせまっていて、さらに泣きすぎてうまく受け答えができずにグズグズな情けない姿をさらしてしまいましたが、先生と話したことで、私の気持ちは落ち着きました。先生は、私が欲しい言葉を全てくれた気がしました。こうして私は、先生と話したおかげで、ずっと落ち込んでいた気持ちがすっきりし、「いつもの自分」で子どもたちのお迎えに出発することができたのです。
次の日、なんとまた先生が電話をくれました。私の様子を心配しての電話でした。「何かあったら積み重なる前に、どんどん相談してください」と、また心強い言葉を言ってくれたのです。先生との電話を終えて連絡帳を見ると、そこにも心遣いのメッセージがありました。
「迷うこと、不安になること、ママにしか分からないことがあっても、絶対に一緒に戦います。味方はいっぱいいます、頼ってください。」
先生からの一つひとつの言葉に支えられて、今の私がいます。息子だけでなく、親である私のケアまでしてくれて、明日への力をくれる、そんな特別支援学校って最強だなと感じた思い出です。
執筆/べっこうあめアマミ
(監修:初川先生より)
担任の先生の言葉に救われたエピソードのシェアをありがとうございます。特別支援学校だからこそ障害についての理解や障害のあるお子さんを育てる大変さをよくご存知で、少人数で支援が行き届きやすいといった側面はありますが、おそらく読者の方の中には、特別支援学級や通級指導教室、通常学級であっても担任の先生の言葉に救われたことに思い当たる節のある方もいらっしゃるかもしれませんね。
家庭と学校はお子さんが長く過ごす場です。お子さんの難しさやずっと一緒にいることでそばにいる大人にかかる負担など、先生方と保護者の方とでは共有できるものがたくさんあります。アマミさんはずっとこれまで親だから自分で頑張らなければ、担任の先生は子にとっての先生であって自分が頼る相手ではないとかなりご自身を律してこられたのだな、とこのエピソードを読んで思いました。ただ、どんな人にも気持ちやコンディションはあって、いつもいつも頑張れるわけではないです。そして、お子さんに障害などの難しさがあったらなおのこと、負荷がかかっている面があるのも当然だろうと感じます。保護者の方がいっぱいいっぱいになられた際に、弱音を吐いたり、つらいと言えたりする相手や場があるといいなと心から思います。
アマミさんのように担任の先生がそのお相手となることもありますし、場合によっては養護の先生や特別支援コーディネーターの先生であることもあるかもしれません。スクールカウンセラーや地域の子育て相談窓口がそこを担うこともあると思います。「何かあったら積み重なる前に」「相談してほしい」と思っている支援者は探してみると近くにいるのではと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。