なぜ近親相姦は“禁忌”なのか?「いとこ婚」の先天異常リスクと世界的ヒットの「兄妹ロマンス」映画から考察
イギリスで揺れる「近親婚」問題
近年イギリスでは、特定の地域やコミュニティで近親婚、とくに「いとこ婚」をめぐる議論が熱を帯びている。健康リスクや文化的背景、法規制の是非などが複雑に絡み合い、医療現場から議会、メディアまで波紋が広がっている。
医療現場からの懸念~出生異常、国民保険への負担
NHS(国民保健サービス)では、いとこ婚に関連する遺伝性疾患や出生異常の増加が報告されている。たとえばブラッドフォードなど一部地域では、出生異常率が全国平均の2倍以上とも言われ、医療リソースへの圧力が強まっているようだ。
2024年には、保守党のリチャード・ホールデン議員が「いとこ婚の禁止」を求める法案を提出。これをきっかけに、議会内外で激しい議論が巻き起こった。
規制か教育か? 分かれる政治スタンス
いとこ婚の禁止に否定的な立場を示しているのが、労働党党首キア・スターマー。「文化的背景や個人の自由を尊重すべき」とし、法的規制よりも教育や医療支援の充実を優先すべきという主張だ。
また、英国医師会誌(BMJ)でも「禁止は誤った方向性」とする意見が掲載され、医療倫理や文化的多様性の観点から、より慎重な対応が求められている。
地域・文化的背景、世論とネット炎上
前述のブラッドフォードでは、パキスタン系女性の約46%が近親婚関係にあるという2024年の調査結果が報じられている。これは家族間の結びつきが強い文化的慣習によるもので、単純な「禁止」では解決できない根深い問題と言えるだろう。
2025年には、NHSのゲノム教育プログラムが「いとこ婚の潜在的利点(経済的安定や家族支援)」を紹介するブログ記事を掲載したところ批判が殺到し、記事が即座に削除される事態に。この一件は、近親婚に対する英国社会の根深いタブー意識と、文化的寛容との間の緊張を浮き彫りにした。
なぜ? “兄妹”ロマンス三部作が大ヒット
近親婚をめぐる現実の緊張は、家族の境界線や「禁忌」の再定義というテーマにもつながってくる。そんな問いをフィクションとして描き、世界中の若者たちの心をつかんでいるのが、スペイン発の三部作映画『俺の過ち』『君の過ち』『私たちの過ち』だ。
血縁関係のない義兄妹の恋愛という刺激的な設定を軸にしたこのシリーズは、保守的な社会でも予想を超える視聴数を記録し、家族、愛、制度のあり方をめぐる議論を世界規模で巻き起こしている。英国ではパキスタン系住民の多い地域で近親婚の議論が特に活発だが、そのパキスタン国内でもこの“兄妹ロマンス”が若者を中心に話題を集めているという。
禁断の恋が世界を席巻! 見どころは?
スペインの作家メルセデス・ロンによる三部作小説を原作としたこの映画シリーズは、ノアとニックという義兄妹の関係を軸に、禁断の恋と成長の物語が展開される。とはいえ“ノアの母とニックの父”の再婚によって同じ家に住むことになる2人に血縁関係はなく、法的に問題のある近親婚を描くわけではないが、それでも「家族」という枠組みが、2人の関係に複雑な影を落としていく。
第1作『俺の過ち』では、反抗的なニックと転居してきたノアが衝突しながらも惹かれ合う様子が描かれる。続く第2作『君の過ち』では、大学進学や遠距離、元恋人の登場などが2人の絆を試す展開に。そして第3作『私たちの過ち』では、再会した2人がそれぞれの人生と向き合いながら、愛の赦しと未来への選択を迫られる。
この三部作は、Prime Videoの国際オリジナル作品として記録的な視聴数を達成。特に『俺の過ち』は配信当時、「Prime Video史上最大の国際オリジナルローンチ」と報じられた。最終章『私たちの過ち』は2025年10月に日本を含む世界配信が始まり、シリーズ全体が「世界で最も視聴されたスペイン語青春映画」として位置づけられている。
“禁断の恋”というテーマは、文化的・倫理的な議論を呼び起こしながらも、「血縁がないからこそ成立する葛藤とロマンス」として多くの視聴者に受け入れられている。特に若年層の視聴者は、SNS上で「ノアとニックの関係性に共感した」「家族の定義を考えさせられた」といった声を寄せており、単なる恋愛映画を超えた社会的反響も生まれている。