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遊び心のある帽子は、職人の手から生まれる CA4LA西宮アトリエ

encore

JR神戸線の車窓から見える「カシラ西宮アトリエ」は、デザイン性の高いカシラの帽子や店舗のイメージにふさわしいシンプルでスタイリッシュな外観が印象的だ。
2011年に、老舗帽子工場の職人と設備を受け継ぎ、ものづくりの拠点としてスタート。
帽子文化を後世に継承することをコンセプトに掲げ、新たなクリエーションの場としても成長してきた。

ここでは約17人の従業員が帽子づくりに携わり、1年間で約2万4000個を生産。福井の自社工場や全国の提携工場では作れない、デザインや縫製にこだわった帽子を作っている。

「カシラのDNAを体現する場であり、大量生産の工場とは違い、特殊なものを作ることに特化しています。最近では、東京・表参道のアトリエで対応してきたオールハンドメイドライン"CA4LA Atelier Made(カシラアトリエメイド)"をメインで手がけることになり、デザイナーとの連携でよりおもしろい帽子がたくさん創り出されています」と、カシラのディレクター、秋元信宏さんは話す。

水蒸気を当て、型入れする工程
金型で型入れするベレー帽
洗い・染め場

遊び心と温もりにあふれ、ラグジュアリーな雰囲気のあるカシラのハンドメイドの帽子やオリジナルの帽子は、アトリエデザイナーや社内デザイナーが企画デザインし、何人もの職人たちの手によって丁寧に形づくられていく。
アトリエの1階は、木型の型入れと金型への型入れ、洗いと染めの、大きく3つのゾーンで構成。

例えば、フェルト帽は糊入れして干した後、木型に入れたまま専用の木箱のなかで十数秒、水蒸気をあてて生地を柔らかくする。
箱から出した後は、柔らかくなったフェルト地を手で伸ばしながら木型にしっかり沿わせて乾燥させる。
その作業を何度か繰り返して形を整えていくが、「しっかり蒸らして、しっかり乾燥させるのがコツ」と、型入れ担当の木村純一郎さんは説明する。

絞り染め

この日は、染め場でバケットハットの絞り染めも行われていた。
来夏用にパイル生地を使ったもので、職人の絞り方によって柄が変わるので、ひとつとして同じものはない。
大量生産の工場ではできないものづくりにチャレンジできるのも、西宮アトリエの特徴だ。

神奈川県出身、39歳。アルバイトでCA4LAに入社。その後帽子づくりに興味を持ち、販売の仕事をつづけながら帽子学校へ通う。CA4LA FACTORY(西宮アトリエ)設立時に西宮へ異動。現在に至る。

木村純一郎

型入れする木村さん

フェルト帽とブレード帽の型入れを担当する型物リーダーの木村さんは、カシラ入社後、5年間の販売員経験を経て10年前に西宮アトリエの配属となった。
デザイナーの絶大な信頼を得ている木村さんの信条は「メイド・イン・ジャパンのものづくりで、より良いものをお客様に届けること」。

型入れの作業は、帽子のデザインが複雑になるほど難しくなるが、デザイナーの要望に対して納得のいくものを出せるよう日々、技術を磨いているという。

「型入れはコツコツやる仕事なのでやればやるほど腕は上がります。常に失敗はつきものですが、経験を重ねることで、いい意味でごまかす技術も身につけてきました。今は後進の指導も自分の役割なのかと。販売の仕事も好きでしたが、職人に転身して良かったとつくづく思う」と振り返る。

島精機のホールガーメント編み機

西宮アトリエ内の別棟には、ニット帽製作用に島精機製作所のホールガーメント横編み機が2台並ぶ。
カシラアトリエメイドのニット帽は、ホールガーメント編み機か、ベレー帽を製造するための丸編み機を使っていて、編地を縮絨(しゅくじゅう)することで一見ニットには見えないこだわりのものも多い。

ホールガーメント編み機は、1本の糸がつながったまま、ひとつの製品に成形していくニット機で、形も柄も自由な反面、高い技術力が求められる。
アトリエ2階に設置されたCADを駆使し、編みのデザインを設計してから、ホールガーメント機で編んでいく。縮絨も見込んで金型に合うように計算するのがポイントだ。

青森県出身、34歳。祖母が服を作る仕事をしていた影響もあり、宮城文化服装専門学校で服飾を学ぶ。好きな音楽が好きなブランドCA4LAと関係が深いと知ったことが入社したいきっかけとなり卒業後入社。現在に至る。

小泉桂子

東京で販売員を経験し、アトリエに異動して8年目を迎えるニットリーダーの小泉桂子さん。
ニットは未経験の分野だったが、基礎から学びながら技術を身につけ、いまでは特殊なデザインのニット帽を生み出す職人として社内外の評価も高い。

ものづくりで大切にしていることは、サンプル製作の段階で、デザイナーが求めるものよりも、やや期待値を上回ったものを作ること。
「素材もこちらから提案することが多い。実験好きなので失敗を重ねながら完成させていくのが楽しいですね。ニットの醍醐味は自由度が高いこと。なんでも作れるのは自分の性分にも合っています。これからも作ったことのないものにどんどんチャレンジしていきたい」と笑顔で話す。

最近製作したなかで苦労したのは、つば先にスカラップ柄を入れたホールガーメントのフェルト帽。
裏地にアンゴラ、表地にポリエステルと縮率の異なる素材を組み合わせてホールガーメント機で編んだニット帽も、地味に画期的な商品だ。

飾りの縫製
縫製場

メイド・イン・ジャパンの確かな技術に裏打ちされたカシラの帽子は、アトリエ2階の縫製場でつば先の始末や装飾などが施される。
大量生産の工場のような効率優先のものづくりとは一線を画し、一つひとつ繊細なデザインに合わせて手間と時間をかけ、ていねいに仕上げていく。
他の工場で断られたデザインものを依頼されることも多く、帽子の縫製でキャリアを重ねてきたベテラン職人たちの技は、カシラが誇る無形資産のひとつだ。

兵庫県出身、38歳。元々帽子を被らない日はない程の帽子好き。違う帽子会社で未経験から帽子の縫製、パターンを学ぶ。8年前に転職し、憧れのCA4LAに入社。現在に至る。

中橋景子

つば先の処理
トリミング工程

縫製部門のリーダー、中橋景子さんは、帽子を縫って13年のキャリアを持つ。以前働いていた工場では型物の帽子がなく、機械的に作業をこなしていたが、カシラに携わるようになってから独学で型物の技を習得し、縫い方のレパートリーが増えた。

「面倒だけど職人が退屈しないほどおもしろいのがカシラの帽子。デザイナーが描いたデザインを再現することに力を入れています。そのためには、デザイナーの意図を汲み取れるセンスも必要。デザイナーとのやりとりが無駄に多くなってしまうので、意図がわからなかったらとことん聞くようにしています」と中橋さん。

どんなに複雑で繊細なデザインでも、これまでに培った熟練の技術と専門知識で完成させる自信があるという。

帽子が大好きな中橋さんは「これまで帽子を被らなかった人もファッションのひとつとして被りたくなるような帽子づくりにこれからも関わっていきたい」と明るく笑う。

糊入れして干しているフェルト
フランキング機と、染色の道具
約1200個の木型が並ぶ木型置き場
金型置き場

カシラ西宮アトリエでは、お客様にものづくりの良さを伝え、帽子に興味を持ってもらうために工場見学の要望にも対応している。
さらに最近では、自分だけの帽子づくりを体験できるカスタムオーダー会を全国5都市で開催。
その狙いについて秋元さんは「アトリエの存在を知ってもらうとともに、帽子の楽しさを伝え、もっと日常に浸透させていきたいから」と、帽子文化の再興にも思いをはせる。

写真/山田哲也
取材/久保雅裕
取材・文/橋長初代

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

久保雅裕(くぼ まさひろ)

関西を拠点に商業施設、百貨店、専門店、アパレル、ホテルなどの動向をビジネス系メディアに寄稿。取材では現場での直感と消費者目線を大事にしている。趣味は家庭菜園と奈良の魅力発信。

橋長初代(はしなが・はつよ)

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